翼を失くした少年   作:ラグーン

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最近再上映でFateのHFルートを見た後に桜を見る事ができてめちゃくちゃ満足した作者です!うん、本当にやばいね、ウマ娘にハマって遅くなりましたっ!!脳内の某テイオーちゃんがハイライト消えた目で世界救う旅と執筆を止められるから仕方がない((強めの幻覚

……そして今回はもう、アレだ……クオリティは期待しないでください。赤バーとか目を疑いました…カードゲームもギャルゲーもできる3に失踪します……ブルーレイ攻略したいので探さないでください((血反吐

てか、今更言うものなんですけどグラブルでボーボボコラボが凄かったです……あの作品の前だとぐらぶるっ!や漫画でわかるfgoがまだ常識があるんだなって……ボーボボはやはりヤバい((語彙力


第20話 生まれる疑惑

「……すみません……また、余分な時間を取らせてしまって……」

 

「私の前ぐらいは気を使う必要はない。アリーナで鈴音が言っていた通りお前が一番重症なのは間違いなかったからな」

 

「……僕よりも、鈴とセシリアさんの方が――――」

 

「……鈴音とセシリアは確かに怪我をしているが、それを踏まえても一番重症なのはお前だ。私とお前は確かにまだ短い付き合いではあるが、それでもお前が無理をしていることぐらいは一眼でわかる。私の前では無理をしなくていい」

 

保健室のベットに腰を掛けて項垂れる僕を織斑さんは優しく語りかけてくれる。鈴とセシリアさんは保健室の先生に治療してもらっており、僕はこうやって織斑さんにポツポツと話すぐらいには回復している。けど、織斑さんには無理をしているのを誤魔化すことはできなかった。

 

「……織斑さん……僕は2人を守れたんでしょうか……?鈴とセシリアさんの2人を……実感が湧かないんです……大切な人をいつも取りこぼしてばかりだったから……」

 

「……ああ、2人は無事だ。多少の怪我をしているが命に関わるほどじゃない。だから安心していいんだ、キラ。お前のその手で2人をちゃんと守れたんだよ」

 

震える両手を織斑さんは優しく握ってくれる。保健室に来てから、アリーナで感じた鈴の温もりは夢で本当は2人は危険な状態じゃないのかと不安で仕方がなかった。織斑さんの言葉で2人を守ることができたのだと実感が少しづつ湧いてくる。だけど、次に襲ってくるのは安堵ではなくある一つの不安だった。

 

「……織斑さんは、怖くないんですか……?」

 

「……それはお前が本気で戦った姿を見たことについてか?それとも、錯乱していたとはいえラウラに本気の殺気を向けていことか?」

 

「……両方、です……だって、僕はISを特別訓練したわけでもなくて戦えて……そして、ラウラ・ボーデヴィッヒさんを殺そうとしていたんです……その両方が、特に彼女を錯乱していても、殺そうとしていたのが異常だってのは織斑さんならわかるはずです……」

 

ISの操縦訓練は授業でしかやっていない。無人機による襲撃以降も放課後自主的に訓練をしていたわけでもないのに、専用機持ち相手に戦闘することができたのが異質で、錯乱していたといっても無力化ではなく殺そうとしていた。身体に染み付いた戦闘技術は衰えておらず、異なる世界でも遺憾無く発揮していき、この世界で必要な技術をさも当たり前のように習得していく。この世界で僕の力の異質さは浮き彫りになりやすい。訓練をすれば殆どのことはきっと出来るようになってしまうのだろう……最高のコーディネイターとして造られたのだから。

 

「……今から私が口にするのはこの場凌ぎの嘘でも誤魔化しでもない。二度も言わないから、一言も聞き逃すなよ?」

 

「……はい……」

 

「――――馬鹿者、私がお前を拒絶することなどあるものか。確かに私はお前の、キラの抱えているものを深くは知っているわけではない。けれど、今のお前が悩み、苦しんでいることはわかる。その力は確かに異常なのかも知れない、それでも私はキラ・ヤマトという少年を恐れる理由にはならない」

 

織斑さんの言葉を理解するのに数秒の時間が必要だった。織斑さんが嘘を言うような人じゃないのは知っている。だからこそ向けられている視線が恐怖や拒絶ではなく、親愛である事に戸惑ってしまう。

 

「……で、でも、僕はラウラ・ボーデヴィッヒさんを殺そうとしたんですよ……?」

 

「それは確かに事実ではあるが、それは意図的ではなく不幸な偶然が重なってしまった結果であるのだろう?あの時のお前はラウラではなく、他の誰かと錯覚していた。違うか?」

 

「……それ、は……そうです、けど……でも、それでも到底許されないことをしようとしたんです……っ」

 

「ラウラへと殺気を向けたことに罪悪感があるのなら私から言うことは何もない。……それ以上は自分のことを責め続けるな、心が本当に壊れてしまうぞ」

 

手のかかる弟をゆっくりと諭すように、少し雑な感じではあるものの優しく頭を撫でてくれる。いつものように大丈夫だと誤魔化せばいいのにそれができなかった。織斑さんが本当に僕のことを気にかけていてくれるから……それに今だけは甘えていたい、そう思ってしまうのは自分には許されないことのはずなのに。織斑さんはこんな僕を受け入れてくれている、それで心が幾分か落ち着いてくる。

 

「その様子だと、だいぶ落ち着いたようだな。もう、大丈夫か?」

 

「……はい、もう大丈夫です。……織斑さんはこの後はラウラ・ボーデヴィッヒさんと話すんですよね?」

 

「ああ、そのつもりではあるが……ラウラと会ってどうするつもりだ?」

 

「……さっきの戦闘のことでも謝りたくて……どうして鈴とセシリアさんを狙ったのかも知りたい……だから、彼女と会って話をしたいんです。僕はラウラ・ボーデヴィッヒさんのことをなに一つ知りませんから」

 

彼女が鈴とセシリアさんにした行為には確かにまだ怒りはあるものの、それだけでは駄目だ。怒りと憎しみだけでは悲しみが広がるだけ。僕はラウラ・ボーデヴィッヒさんのことをなに一つとして知らない。一夏に固執していること、そして彼女が一夏を平手打ちした時と、戦闘の際に感じた感情には怒り以外にも入り混じっていたことが気になる。

 

「……わかった。話し合いの場は私が用意しよう」

 

「すみません、これも僕の我儘なのに……」

 

「いいや、これぐらいは我儘には入らないさ。……ラウラとは真正面からぶつかってあげてくれ。私から言えるのはこれぐらいしかない」

 

織斑さんは複雑な表情を浮かべていた。それはきっとラウラ・ボーデヴィッヒさんがどんな人なのかを知っているからなのだろう。……彼女と僕はもしかしたら真逆の考えを持っているのかも知れない。けど、それで彼女の事をなに一つ知らず否定をするのは違う、それこそあの人の言葉を肯定することになってしまう。

 

「……さて、そろそろ2人からアリーナで何故あのような事態になったのかを聞かなくてはな。それはもちろんお前も含まれているため誤魔化す事なく話せよ?……それとだが、先程から織斑さんと呼んでいるから、鈴音たちの前できちんと先生と呼ぶように。2人だけの時なら別に構わんがな」

 

「あっ、えっと、すみません……」

 

織斑先生の指摘で自分が無意識で織斑さんと呼んでいた事に気づく。2人だけの時なら別に大丈夫だと言われたけど、それはそれで誰かに聞かれてしまえばマズい気がする……特にこのIS学園内はちょっとした事で噂になり大惨事になりかねないのが……それは本当に勘弁したい。僕が精神的に落ち着いた事もあり、織斑先生はカーテンを開ける。

 

「どうですか、2人の容態の方は?」

 

「凰鈴音さんとセシリア・オルコットさんは2人とも軽めの打撲ですね。ただ当分は――――」

 

織斑先生と保健室の先生が2人のことで話し始める。僕の方は精神的な面の方が大きかった事もあって肉体的には怪我をしていたわけではない。……治療が終わった後であろう2人に声を掛けるか僅かな躊躇いがあった。

 

「そこで突っ立てるぐらいならコッチに来る。セシリアも別に大丈夫よね?」

 

「え、ええ、そうですわね」

 

僕のことに気がついた鈴から手招きされて悩み、結局はおずおずと近づいていく。近くにあった椅子を借りて座り、次に2人からどんな言葉を投げられるのかと内心で怯える。セシリアさんからは戸惑いを感じるし、鈴はジッと僕の顔を見て無言で見つめてくる。

 

「……うんっ、いつも通りってわけじゃないけど少しはマシな顔になってるわね。織斑先生と何を話してたのか気になるけど……まっ、それはそれよ。アンタが元気になったのならそれでいいわ」

 

「……なんとか今は大丈夫だよ」

 

「キラの大丈夫ほど信用ならないけど……まっ、今はそれを信用してあげる。光栄に思いなさいよ?」

 

鈴は冗談めかして笑うものの、治療して包帯を巻いている姿が痛々しかった。自分がもっとしっかりしていれば2人が怪我をすることがなかったはずだと後悔に襲われる。

 

「……ごめん……僕がもっとしっかりしていれば怪我なんてしなかったのに……約束も守る事もできなくて……ごめん……」

 

「まーた、辛気臭い顔をしてる。そんなアンタにはこうよっ!」

 

「は、はいをすうの……!?」

 

「何をするのですってー?そりゃ、いつまでも辛気臭い顔してるアンタにお仕置きよ、お仕置き。ほら、セシリアも手伝いなさい」

 

「そ、そんな事は淑女としてできるわけありませんのっ!!まずキラさんも困惑しているようですからおやめなさい」

 

両頬を鈴に引っ張られ上手く喋ることができない。……そして地味に引っ張られるのが痛かったりするんだけど。セシリアさんは呆れた様子でため息を吐きながら鈴を止めてくれた。まだ満足したりなさそうなのか渋々と解放してくれる。

 

「しょうがないわね。ここはセシリアの言う通り大人しく解放してあげる……キラは約束を破ったとか思ってるつもりだけどその逆だから。……はい、これでアンタもウジウジしない、いいわね?」

 

「……うん」

 

「……はぁ、照れ隠しの為にキラさんの両頬を引っ張っていたとしか思えませんわね。そもそもアリーナでキラさんを――――」

 

「セシリア、それ以上言ったら今すぐ張り倒すわよ」

 

「笑えない冗談を言うのは――――イエ、ナンデモアリマセンワ」

 

それ以上言ったら張り倒すのを有言実行すると察したセシリアさんは片言になり目を背ける。あの時は冷静じゃなかったけど……今そのことを考えれば酷く申し訳ない気持ちでいっぱいになる。鈴が抱きしめて落ち着かせてくれなかったら人と話すことができるまでに回復するのはもっと時間がかかっていたはずだ。

 

「……キラもアリーナの事については忘れる、いいわねっ!約束できないのなら物理的に忘れさせてあげるけど」

 

「……その物理的に忘れさせられる方法は何となく察したから遠慮させてもらうよ」

 

「……それは約束ではなく脅迫と言うのですのよ?」

 

「とりあえずセシリアは確定で物理的に忘れさせてあげるわ。キラはともかくアンタの場合はぽろっと口を滑らせるってアタシの勘が告げているから」

 

「どうしてわたくしだけがっ!?さっきからわたくしへ八つ当たりしているのは間違いありませんわよねっ!?キラさん、鈴さんをどうにかしてくださいましっ!!」

 

「と、とりあえず一度落ち着こうよ、鈴。元は悪いのは僕だから、物理的に忘れさせるのを実行するとしたら僕だけでいいからさ」

 

明らかに何処かブレーキが壊れている鈴を必死に宥める。さっきからセシリアさんだけ標的にしている理由がサッパリわからないけど……心当たりがあるとすればやっぱりアリーナのことだよね。これって下手したら目撃者全員が標的になるんじゃ……。

 

「そ、そうね。確かに冷静じゃなかったかも……ほ、ほら抱きしめたのはあの時キラを落ち着かせる為に仕方なかったってやつだし……誰かの体温を感じたら落ち着きやすいってどっかで聞いたことあるし……」

 

「……うん、本当にごめん」

 

「あー、もうっ!だからなんでアンタは直ぐそうやって落ち込むし謝るのよっ!少しぐらい役得とか思ってなさいっ!」

 

「……鈴さん、お言葉ですが事故とはいえどキラさんは山田先生を押し倒していることをお忘れですの?それにあの体勢は押し倒したですんだかどうか……」

 

「…………あったわね。そんなのすっかり忘れてたっての……てか、セシリアは遠回しに喧嘩売ってるってことよね?なに?今から第二ラウンド始める?」

 

「オホホホ、なんのことかサッパリわかりませんわ。鈴さんが深く考えすぎなだけではありませんの?」

 

鈴さんとセシリアさんってここまで犬猿の仲だったけ……?2人とも一夏の事が好きなのはわかっているし……鈴とこの場にいない箒さんはハッキリと一夏が好きなんだってのは聞いているか。……よくよく思い出したら鈴と箒さんもこんな感じではあったような気がする。

 

「まったく……貴様らは怪我をしていても元気なものだな。怪我人ならもう少し静かにしていろ」

 

話が終わったのかお互いに睨み合う2人を見て織斑先生が呆れていた。これ以上は流石に2人を止められる自信がなかった事もあって織斑先生が止めてくれたことにホッとする。

 

「口喧嘩する元気があるのなら、ラウラ・ボーデヴィッヒと度を越した戦闘をすることになった事も話してくれるんだろうな?」

 

「……も、もちろんお話いたします。ね、ねぇ?鈴さん」

 

「……も、もちろん話しますよ。ねぇ?セシリア」

 

「……はぁ、調子のいい奴らめ。大方はラウラに挑発されてそれで頭にきてその挑発に乗ったところだろ。それで戦闘の最中にキラが介入をした……違うか?」

 

「「……大体合っています」」

 

「挑発に乗らなければこんな事にはならなかったろうに……ラウラと戦闘したことについてはともかく、見え透いた挑発になぜ乗った?」

 

「……わたくし自身ならともかく、一夏さんを侮辱されれば引く事は許せませんでした」

 

「今を一生懸命に頑張って過ごしてるアイツ(・・・)を馬鹿にされて引くことなんてアタシには無理でした……」

 

「……まったくお前らが一夏を想ってくれているのは姉としては喜ばしいんだがなぁ。それが原因で怪我をしたのは複雑でしかない。一夏が友達を怪我させた相手を黙って見過ごせるタイプではないのはわかっているだろう?私はこれからラウラと話せばならないから、一夏についてはお前たちが止めておけ。いいな?」

 

「「……はい」」

 

複雑そうにため息を吐く織斑先生の姿を見て2人は項垂れる。実際一夏が友達を傷つけた人を黙って見過ごすのかと聞かれればそれは絶対にありえない。それがラウラ・ボーデヴィッヒさんと知れば間違いなく彼女の元に向かうだろう。……それが怒りと憎しみに染まってしまうのなら僕が止めないと。

 

「キラ、お前は途中で戦闘へと介入した。それで間違いはないんだな?」

 

「……はい、それで間違いありません」

 

「これでお前たちへの聴取は終わる。次はラウラから聞かなくてはな……それに外ではお前たちのことを心配してずっと待機しているのがいるからな。……それと鈴、お前のその気持ちはわからなくはないが、アイツ(・・・)にとっては怪我をする方が応えているのを忘れるな。それはセシリアもだ、忘れるなよ」

 

「……わかりましたわ」

 

「……わかりました」

 

「それならいい。キラ、行くぞ」

 

「は、はいっ」

 

「あっ、えっと、キラ!!」

 

僕が織斑先生と一緒に職員室から出る前に鈴が焦った様子で呼び止める。どうしたのかと振り返れば、気まずそうに視線をずらしながらそれでもハッキリと伝えてくれる。

 

「……ありがと。約束を守ってくれて、アタシをまた守ってくれて本当にありがと。……つ、伝え忘れてたからそれだけっ!」

 

「……ううん、僕の方こそありがとう」

 

僕は約束を破ってばかりだった。フレイのお父さんを守る事もできなくて、話そうと約束しながらそれも破ってしまって……そして最後は護る事もできなかった。本当はこの約束だって果たす事はできていないのに……それなのに彼女は約束を守ってくれてありがとうっと伝えてくれた。……今度こそ守ることはできたんだ僕は。

 

「なんでアンタが感謝してんのよ。もう、調子狂うんだから。呼び止めたアタシが言うのも変だけど……用事があるんなら夕食までに終わらせて来なさい。いいわね?」

 

「……うん、そうできるように頑張るよ」

 

「ほんと、そこら辺は曖昧なんだから」

 

彼女は呆れた顔でそれでもしょうがないなっと苦笑いへと豊かに表情が変わる。織斑先生とセシリアさんからもため息を吐かれたのは多分私生活が関係しているはず……。

 

「千冬ねえ!鈴とセシリアの2人は大丈夫なのかっ!?」

 

「織斑先生と呼べ馬鹿者。お前の心配はわからなくはないが2人は無事だ。仲良く喧嘩するぐらいにはな」

 

「仲良く喧嘩って……あの2人は何しているんだ、まったく。……キラ、お前は大丈夫なのか?」

 

「えっ?う、うん、僕は大丈夫だよ」

 

「……そうか、それならいい」

 

「ま、まぁ、みんなが無事でよかったよ」

 

やっぱり外では待っていたのは一夏たちで2人のことが心配でずっと待っていたんだろう。箒さんに怪我を心配された事にちょっと驚いたが大丈夫だと伝えれば怪訝そうにしながらも納得してくる。シャルロットさんもチラチラと心配してくれる視線は向けてくれるけど目が合えば逸らされるの仕方がないよね……。

 

「一夏、先に伝えておく。今の気持ちはわからなくはないが我慢しろ、いいな?……お前のその力は何のために振るうのかをよく考えろ。感情に身を任せてソレを見失うことだけはするなよ」

 

「……っ、わかった」

 

納得のいかない表情ではあるけど一夏は渋々と頷く。僕が何か言うよりか家族である織斑先生の言葉の方がすんなりと受け止めやすいだろう。僕は2人のことをお願いねっとみんなに伝え織斑先生と共に後にした――――

 

◇◇◇

 

「2人とも大丈夫かっ!!」

 

真っ先に保健室に入って来たのは織斑一夏で篠ノ之箒とシャルロット・デュノアもその後に続いてくる。セシリアと鈴音の怪我を見て彼は表情を険しくなるのを見て鈴音はやっぱりかと内心でため息を吐く。良くも悪くも織斑一夏は真っ直ぐな人間であり、大切な友達をこうした相手を黙っていられるほどお人好しではない事は幼馴染である彼女は理解している。

 

「一夏がアタシたちが怪我をしてることに怒ってくれるのは嬉しいけど……これって半分は自業自得でもあるから」

 

「……それについてはわたくしも同じ意見です。なので、あまりお気になさらないでくださいな」

 

「……2人の中で納得してるのならそれでいい」

 

本当に渋々と言った形で一夏が納得する姿を見てベットで横になっている2人はホッと安堵する。想い人である彼がそうやって怒りを見せてくれるのは嬉しいものの、この場で怒りを鎮める事が出来なかったら彼の姉から何をされるのかなんて考えるだけで恐ろしくなる。

 

「その様子だと2人は大丈夫のようではあるな。安静にはしておくんだぞ?……キラの方は大丈夫だったのか?」

 

「……千冬さんも傍にいるからなにかあっても大丈夫だとは思う」

 

「酷く曖昧だな……後で直接確認するしかないか。一瞬では流石にわからなかったからな」

 

(ふーん、あとでねぇ?夕食の時にキラの部屋に訪ねる気はなかったんだけど……どうせ、キラのことだから無理矢理連れて行った方がいいでしょ)

 

箒の質問に正直に答えるかどうか悩んだ鈴音は曖昧にして答えれば少し予想外な答えが返ってくる。鈴音からすれば彼女の答えは少し意外だなと思うが、前に彼女の行動が原因で一度キラが怪我をしたことを思い出す。箒としては自身の行動が原因で彼が怪我をしたこともあり、それが僅かながらトラウマになっていることがあるからこその行動だったりするのだが……。

 

「はい、2人の分の飲み物も買ってきておいたから」

 

「お手を煩わせて申し訳ありませんわ……」

 

「んっ、悪いわね。後でちゃんとお金は返すわ」

 

シャルロットから2人は飲み物を受け取る。こう言った気遣いをしてくれる友人を持つ事ができて本当に良かったと怪我をした2人はシミジミと思う。

 

「怪我の方はどうなの?ずっと面会拒絶だったから怪我が酷いかなって思っていたんだけど……」

 

「それについてはご心配はなさらず。軽めの打撲ですんでいますので」

 

「そうそう、アタシたちの方は軽傷だから。ISの方は今検査中であるけど……まぁ、当分は整備室でお休みになる事は覚悟してるわ」

 

「ブルー・ティアーズは大丈夫だと思いたいのですが……望みは薄いのが正直なところですわ。損傷の方は恐らく鈴さんの方が上だとは思いますが」

 

「なによっ、アタシの方が被弾した方が多いって意味?」

 

「あら?あの場で一番頭に血が上っていたのは鈴さんだと思いますが?」

 

「あー、もうっ!2人とも喧嘩したら駄目だよっ!?」

 

バチバチと火花を散らしながら睨み合う2人を一生懸命にシャルロットが宥める。喧嘩するほど元気がある姿を見れば流石に一夏も冷静になってきてそれを見て苦笑いを浮かべてしまう。

 

「なぜお前たちはそうやってすぐに喧嘩になっていくんだ……」

 

「「それはこっちが悪い(ですわ)!!」」

 

「喧嘩するほど仲がいいって言事が似合ってるよな、本当にさ」

 

「……キラは大丈夫なのかな……」

 

シャルロットとしては何気なく呟いたつもりなのだろう。けれどその一言は鈴音とセシリアにとっては内心では複雑な気持ちになってしまう。面会拒絶になっていた理由は恐らくはキラが関わっているのを2人は察しているが彼らはそうじゃない。

 

「……まっ、今のところは大丈夫よ。そうじゃなかったら用事とか言ってた時に、アタシが無理矢理にでもベットに縛り付けてたから」

 

「……それは流石のキラでも怒るんじゃねえの?」

 

「はぁ?無理してるくせに誤魔化そうとしてるアイツにはこれぐらいが丁度いいのよ」

 

鈴音の発言に保健室にいる全員が割と引いているのだが本人は至って気にしている様子はなかった。前よりも過保護になっていないかと?周りは疑問を浮かべてしまうがそれを指摘してもまだ自覚がない彼女には言うだけ無駄である。

 

「セシリアさん、鈴さん、お二人のISの検査が終わりましたよー」

 

「アタシたちのISはどうでしたか……?」

 

「ダメージレベルはBではありますけど、次の学年別トーナメントに参加すれば間違いなくレベルCになってしまうのでおふたりは参加する許可はできません。当分は修復に専念しないといけません、わかりましたね?」

 

「「はい……」」

 

普段は少し気の抜けているように感じる山田先生ではあるものの、ニッコリと笑っていながら何処か圧を感じた2人は素直に力なく頷く。そんな2人を見て一夏は意外そうにしているがシャルロットからその理由を説明されて納得したようだ。

 

「……キラさんの場合はどうなんですの?キラさんの場合は間違いなくダメージレベルはCにいっていると思うのですが……」

 

「キラ君のISはまだ検査中なので結果は終わり次第としか言えませんね。もちろんダメージレベルがCを超えていたらキラ君も同じく参加は許可しません」

 

(……キラ君のISはまだ検査していないのが本当の所なんだけどね。キラ君本人からこういった時は自身がやるって約束しているから)

 

彼の専用機である『ストライク』については後に本人が検査する事を伝えられていて、今は山田先生が大切に保管している。元はこの世界とは異なる存在であった事や異なる技術を使用されている事もあって『ストライク』の細かい情報は彼本人しか知らない。織斑先生も山田先生もそれについては本人の意思を尊重しているし、なにより彼が唯一自主的に取り組んでいる事だ。理由はなんであれ彼女らにとってはそれがたまらなく嬉しいことである。

 

「それじゃあ、私はこれで失礼しますね。おふたりとも今日はお大事にですよ?」

 

最後に優しく微笑みながら山田先生は保健室を後にする。怪我をしている2人は学年別トーナメントに参加できなくなった事については仕方がないかと素直に割り切る事にした。実際半分は挑発に乗ってしまった自業自得ということもあるからなのだが。

 

「……そういえばだけどよ、なんで2人は転校生と戦う事になったんだよ?」

 

「おほほほ、1人の女として引けない勝負があったからですわ」

 

「……1人の女として引けない勝負があったからよ」

 

(……このタイミングでキラの事を馬鹿にしたからって話したら完全にシャルロットが勘違いするでしょうがっ!)

 

この場にて明確にシャルロットの想いを知っている鈴音にとって一夏のさっきの質問は完全に爆弾である。キラは好きな人がいると言って振ったらしいが誰のことが好きなのかは伝えていない。このタイミングで馬鹿正直に話せば変に勘違いが起きてしまって、それでなおかつ連鎖的に自身が誰が好きなのかを告白する羽目になると一瞬で察した彼女は誤魔化すしかなかった。

 

「……とりあえず学年別トーナメントでのパートナーについてなんだけど、アンタらの誰かでキラとパートナー組んであげてくれない?アイツのISがダメージレベルCを超えてなかったらの話だけど」

 

(……鈴さん露骨に話を逸らしましたわね。それにさっきの質問は織斑先生の時と全く回答が違っていましたし……)

 

「うん?それなら俺がキラと組もうか?俺もまだパートナーは見つかってなかったし」

 

「まぁ、色んな意味で一夏が安定といえば安定だけど……箒とシャルロットはどうなのよ?」

 

「……そうだな。本来なら私としては反対したかったが……男同士ならば異論はない。それに私はやらなくてはならない事がある」

 

「……えっと、私は――――っ」

 

シャルロットが答える前に電子音がそれを遮る。彼女は私は先に約束した人がいるからっと伝えて急いで保健室を後にする。彼女の想いを知っている鈴としてはそれに違和感を感じるが気まずいのが原因かと結論に至る。

 

「……すまないが私も席を外す。学年個別パートナーを探さないといけない事もあるからな」

 

「あら、パートナーは既に見つけているから先程断ったと思っていたのですが」

 

「いや、パートナーの目星は既につけている。……先に謝っておく、そのパートナーについてはお前たちを怒らせる事になるかも知れない。だが、私のやらなければならない事にその力が必要なのだ」

 

「はぁ?それってどういうことよ?」

 

「……確かめたい事があるとしか今は言えない。姉さんと同じ目を見せたアイツを知るのはこのタイミングしかない。だから、すまない」

 

彼女が口にしたアイツが誰なのかを聞く前に箒は保健室を後にする。一夏のパートナーは私だと抗議するのだと想定していた鈴とセシリアは彼女に違和感を覚えるが、それを問いただそうとも怪我をしている2人は追う事は無理だった。

 

「……変な奴。一夏はなんか心当たりないわけ?」

 

「悪いけど俺は何も知らない。箒にも言えない理由があるのなら無理に聞き出す必要はないと思うぞ」

 

「それは確かにそうなのですが。……少しばかり不安はありますが箒さんのやらなければいけない事を信用するしかないですわね」

 

「どうにしたってアタシたちには何もできないでしょ。流石にちょっと疲れたしアタシは寝るから。1時間後ぐらいに起こしてちょうだい。それまで仲良く2人で話してれば?」

 

欠伸を噛み殺して鈴音は頭まで毛布に被る。眠りを妨げるわけにもいかない為一夏も後でまた来ることを約束して保健室を後にする。扉が閉まる音が聞こえれば寝るのだと言っていた彼女は口を開く。

 

「……悪いわね。こんな悪ふざけに付き合ってもらってさ」

 

「まったくですわ。理由が理由でしたから乗って差し上げましたが2度目はありません。ですが、よろしかったのですの?最後のアレは間違いなく織斑先生にはバレていたようですが」

 

「それについては問題ないわよ。織斑先生にバレるのは想定内だったし。むしろ、下手に嘘ついて見破られたら目の前で話すことになってた。……キラの性格上、自分が馬鹿にされたからが理由で怪我をしたって知ったら絶対に気に病むわよ」

 

本来の2人の関係上を考えればセシリアは呆れた様子で自惚れではありませんの?っと否定をしているだろうが、キラ・ヤマトという人間性を知っているセシリアは彼女の言葉に曖昧な返事を返す。事前に鈴音はキラの前ではなるべくいつものように接してくれと彼女に頼み込んでいて、それを戸惑いながらも首を縦に動かした。最初にキラが感じたセシリアの戸惑いについては勘違いではなかったのだ。

 

「……はっきり言って異常でしたわよ。それぐらいはわかっていますわよね?」

 

「……わかってるわよ」

 

毛布で包まっている鈴音の表情はセシリアからは見えなかったものの覇気のない声から彼女もそれを理解しているのだと。アリーナで戦闘の最中に彼はまるで何かに取り憑かれたように人が変わった彼の姿にはあの場にいた2人は恐怖を感じた。悲痛に叫び、怒りと憎しみのままに目の前にいる誰かを討とうとするその姿は異常だった。

 

「彼は一夏さんのように訓練をしているわけでもありません。ましてや専用機持ちとなってからも長くないのですよ?それなのにまるで戦い慣れしたした動き……気づいていたと思いますが彼は高速切替(ラピッド・スイッチ)瞬時加速(イグニッション・ブースト)も使用していましたわ。そして激情に駆られていた時の彼の姿には言葉にするのも躊躇いがありますわね……あの後に声をかけた鈴さんには素直に尊敬しますわ」

 

「……セシリアが感じてる疑問はわかるし、それを否定するつもりもない。アタシもキラのことを詳しく知っているわけでもないからさ……あの時のキラを見てアタシも怖いって思ったから……でも、あんな姿見たら放っておくことなんてできないわよ」

 

ISから解除されて確かめる事ができるようになった彼は酷く痛々しかった。己が何をやろうとしていた事を自覚し、今すぐにでも壊れてしまいそうだった彼に鈴音は無我夢中で声をかけ抱きしめて必死に落ち着かせた。一つの約束のためにこうなるまで戦った彼を拒絶する選択肢は彼女の中にはなかった。

 

「……今度こそアタシは寝るから。アンタもちょっとぐらい寝れば?」

 

「……ええ、そうさせてもらいますわ」

 

2人とも体が疲れているのは事実なためベットへと身を委ねる。これ以上は彼の事を話してもお互いに知らない事が多いのだ。肉体的にも精神的にも疲労が溜まっているため、2人が睡魔に襲われるのはそう時間が掛からなかった。




ラウラ編は実は今月いっぱいで終わらせたかったのにこのペースだと無理だと察したので投稿頻度はちと落ち着かせます。元は息抜き&月一更新が目安だったんです……週投稿してる人本当に凄いですわ((

実はカミングアウトしますがこの作品は私のやる気と勢いだけで書いていますので内容とクオリティの格差はヤバいので気をつけてください、はい((吐血

今回は若干キラ君が千冬さんに心が更に開いた回ですねっ!そして当たり前ですが前回の戦闘能力の高さ等の事でキラ君が異常だって着実に周りにバレてしまっていく……まぁ、まだなんとかなる範囲だよね、ギリギリ((なおその後
……元はキラ君を幸せにしたいからなのにどうしてこうなった?((

次回はキラ君視点ですよ……そしてもう三人称は書きません。私には無理だ……次からは一人称視点で頑張って書いていきます……それなのに投稿したのはぶっちゃけ書き直すのが((以下略

いつも誤字&脱字報告ありがとうございます!!感想もとても励みになっておりますっ!!誤字&脱字報告いつでもお待ちしておりますっ!!次回の更新は未定ですが気長にお待ちくださいっ!

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