(……やめろ、やめてくれ……っ!!)
フリーダムのコックピットから脱出艇の窓に彼女の姿が映る。この後に何が起きてしまうのか分かっているからこそ必死に体を動かそうとしても動かない。そしてそのまま何もできず――――あの武装が脱出艇を撃ち抜き爆発する。
「――――フレェェェイィィ!」
「……キラ……っ!?」
「……僕が、僕が守らないといけなかったのにっ!!なのに、僕は彼女を守ることができなくて……っ!!フレイ……っ!!フレイ……っ!!」
「っ……大丈夫だよ、私がそばにいるよ?だから大丈夫だよ、キラ」
呼吸がうまくできず苦しくて胸を押さえていると、優しく諭して何度も背中を誰かがさすってくれる。霞んでいる視界で誰かと見ればそこにはシャルロットさん――――シャルが心配そうに顔を覗く彼女がいた。
「嫌な夢を見たんだよね?顔色も悪いし……なにより泣いてるから」
「……守れ、なかったんだ……僕は、彼女を……ちくしょう……っ」
「……うん……キラはその人のことを守りたかったんだよね……きっと、誰よりも。私がそばにいるから泣いていいんだよ……我慢しなくていいから」
溜め込んできたものが呆気なく壊れ、込み上げてくる感情は溢れ出て泣き崩れる。一度吐き出したものは止まらなくてそれでも彼女は何も言わず優しく抱き止めてくれて、そしてそれが堪らなくつらくて苦しく感じる。結局落ち着くまで彼女はずっと抱きしめてくれていた。
「……大丈夫?少しは落ち着いたかな?」
「……ごめ、ん……本当は駄目だってわかってるのに……」
「ううん、気にしないでよ。私がやりたかったからやっただけだから」
まるでこれが当たり前だと言うように彼女は微笑む。今の彼女との関係は頭では傷の舐め合いであって……歪んだ関係なのは分かっているんだ。だけど、夕べに頼まれた彼女からの願いを拒絶する力は残っていなかった。
「……今日は一日休んだ方がいいんじゃないかな?今だって少し落ち着いただけでつらいんでしょう?それなら無理をしない方がいいと思うよ」
「……ううん、今日も出席はしないと……」
「……でもっ、昨日のアリーナでのことだってあるから休んでも怒られないはずだよ。もし、1人で居たくないなら私だって休むから、ね?」
「……昨日の事もあるから僕はいつも通りに過ごさないといけないんだ……残り少なくても、力を振るったのなら、僕はそれから目を背けたら駄目なんだ……」
残り少ない時間でも、守るために振るった力の結果から逃げる事から許されない。引き金を引き続け、僕という成功作が生まれるまで犠牲になった人たちへの……そして自らを失敗作だと悲痛に叫んだ彼女への贖罪なんだ。
「……それに、ストライクの整備もやらないと……昨日はできなかったから……」
「……そっか。つらくなったらいつでも私に声をかけてね?その時は一緒に私も休むから」
「……うん……」
不安そうに聞いてきた彼女に頷く事しかできなかった。彼女の想いを断ったはずなのにそれを僕は利用してこの関係を昨日築いてしまった。今すぐにでも止めようと言葉にすればいいのにそれが言えないのはどうしてなのだろう?……駄目だ……これがとても重大な事のはずなのに考えるのも疲れてくる。
「私は一度部屋に戻るね。キラを1人にするのは心配だけど……シャワーも浴びたいし、一度着替えもしたいから。それにこれって誰かに見られたら大変なことになっちゃうと思うから……また後でね、キラ」
「……あっ、わかったよ……」
名残惜しそうにしながらシャルは部屋から出ていく。朝日は登っているけど、時間を確認すればまだ他の生徒は寝ている時間帯だった。そういえばあの人がアリーナでの事は最大限どうにかすると言っていたのを思い出す。
(……それもどうせこの部屋から出れば全部分かるんだ。それに僕は、もう一つ終わらせないと……)
――――前から奇妙に続いてしまっている関係を終わらせよう。本来ならずっと前に終わっていたはずなのに、彼女はそれでもこんな僕に世話を焼いてくれた。だけど、これ以上彼女の時間を奪うわけにはいかないんだ。
◇◇◇
「――――起きてるのなら今すぐ開けなさいっ!!」
(……やっぱり君は来たんだね、鈴)
聞こえるノック音と扉越しから聞き慣れた少女の声が聞こえてくる。ルームメイトが解消しても彼女は世話を焼いてくれて朝わざわざ起こしに来てくれていた。だけど、それももう終わらせないといけないんだ。
「今日は早く扉を開けたって事は起きてたってことよね?うんっ、感心感心……ってそれは後でいいのよっ!!アタシがアンタに聞きたい事はこの噂本当かどうかってことっ!!」
「……噂………?」
「キラが生徒会に入ったって噂よっ!!食堂に行ったらさっきからその事で周りからは聞かれるし……だから、アンタに直接確認した方が早いって思って聞きに来たってこと」
「……そうか、あの人が昨日言っていたのはこういう事だったんだ……」
僕が生徒会に入ったという情報を最初に流したのはきっと更識会長だ。この情報がこの学園内でどれほど重要なのかはイマイチわからないけど……どうにしろあの人は情報を上書きするのを有言実行してみせた。生徒会長は影響力があるとは言ってたけど、どうやってこの情報を拡散したんだろう?とても簡単とは思えないけど……。
「アンタのその反応ってつまりその噂は本当だったこと?」
「うん、僕が生徒会に入ったのは本当のことだよ。そうする必要があったから」
「そりゃ、生徒会に入ったって事はアンタになんか理由があったからだとは思うけど……それにしても唐突すぎない?まっ、それは別に後で適当に聞くからいいとして……ほら、起きてるならこのまま食堂まで行くわよ」
「……もういいから。僕のことは放っておいていいんだ、鈴」
「……はぁ?ちょっと突然となに言ってんのよ……」
訝しげに納得のいかなそうに見てくる鈴に僕は首を横に振る。元からこの関係もルームメイトを解消した時点で終わらせないといけなかったんだ。それ以降も何かと気にかけてくれていた彼女に僕はずっと甘えていた。
「もう僕の世話なんて見なくていいから。初めからルームメイトの期間までで良かったのにそれでも君は僕の事を見てくれていた……だからもういいんだよ、鈴」
「アンタのことを放っておくとか、そんなのできるわけないでしょうっ!!そりゃ、確かに元はルームメイトまでの期間のつもりだったけど……でも今のアンタのことを――――」
「……いいんだ、もう僕は終わらせるだけだから。鈴が本当に支えて傍にいないといけない人は、その優しさを向けるのは僕じゃない、彼だよ」
僕は後は一つ一つこの世界で終わらせるだけだ。だけど一夏はその逆でこれから始まっていく。もしかしたらこの先で彼が挫ける時や、迷う時があるかも知れない……そんな時に隣で支えてくれる人が必要なんだ。その時は彼女が持つその想いと優しさで彼の事を支えてほしいから。
「これからは僕じゃなくて、君が好きな人のことを見てあげなよ。だって君が好きなのは一夏のことなんだから」
「……そう、だけど……だけど、それじゃあアンタは……っ」
「僕はもういいんだ。今からでも一夏の元に行ってきなよ。……あまり恋路には色々と言える立場なんかじゃないけど……僕は君が一夏の隣に立てることを応援してるよ」
「……っ……そう、ね……アタシも、そろそろアンタの世話見るのも終わろうかなって思ってたわけだし……」
「うん……今まで世話を焼いてくれてありがとう、鈴」
「……アンタが授業遅刻して、千冬さんに頭を叩かれてももう面倒なんて見ないんだから……っ」
鈴は何かを訴えようとしていたけど、それを呑み込んで走り去っていく。最後に小さく震えた声で馬鹿っと聞こえたのは気のせいなんかじゃない。……彼女と最後に直接話す事はあの時が最後だった事を思い出してしまう。いつも僕はこんな風にしか関係を終わらせる事ができない。
「朝だから様子を見に来たらちょっとした修羅場を目撃しちゃったかしら?」
「……そうやっていつも遠くから僕のことを今まで観察していたんですか?」
「ふふっ、それは秘密よ。その様子だと昨日と比べたら少しは元気になっているようね。それとも……ただ仮面をつけて誤魔化し続けているだけかしら?」
鈴と話している途中から誰かから見られている視線を感じていた。……前よりもそういった誰かの視線や気配に敏感になった気がする。更識会長は目を細めて薄く笑っているのは見透かしているからなのだろう。この人の目の前では下手に誤魔化す方が余計に疲労が溜まってしまうだけだ。
「中国代表候補の子とは仲が良かったのに突然どんな風の吹き回しであんな言い方をしたのかしら。今までの様子から見ると、君ってむしろ彼女の事を特別視してたじゃない」
「彼女は元々織斑先生に頼まれていたから僕のことを世話をしてくれていただけですよ。それに鈴とは約束をしていましたから。……けど、その約束を僕はまた守ることもできませんでしたし、次からはそれは一夏がやるべき事だと思っています。だから一夏のことを強くしてあげてください、できれば今日からでも……3回までなら僕からの頼み事は何でも聞いてくれるんですよね?」
「一夏君はもう少し経ったら鍛えてあげるつもりだから別にいいけど……それって本気なの?取引で手に入れたものはたったの3回までしかない上に、それを自分のためじゃなくて人の為に使うのよ?自分で言うのもアレだけど……この3回はかなり貴重のものよ」
「僕が望んでいた事は昨日、更識会長が既に叶えていますよ。……それに僕が本当に叶えてほしい願いは絶対に叶う事が無理なのは知っていますから……だからいいんです」
更識会長がどれだけ凄い人だとしてもこれだけは絶対に叶うことはできない。それはこの人だけじゃなくて誰もできないことなんだ。あの世界にもういない彼女に会わせてほしいだなんて願いは誰にも……。
「……そう、これ以上は何も言わないわ。さて、それなら本題に入らせてもらうわね。今日の昼休み、君は生徒会室に来ること。生徒会のメンバーに自己紹介をしてほしいから」
「……まぁ、それぐらいは……」
「それじゃあ、昼休みはよろしくねー?あっ、ちゃんとある子に頼んでおいたから案内してもらえると思うわよ。そして最後に聞いちゃうんだけど……キラ君なにをやるつもりなのかしら?」
「……終わらせないといけない事を終わらせるだけです。それが今の僕のやるべきことですから」
「終わらせるだけね。……それが決して正しいとは私は思えないんだけどね。終わらせるのではなく、生きていく事も償いになるのを覚えておきなさい、キラ君。……それと、シャルロットちゃんとおいたはほどほどにね?」
すれ違いざまに肩に手を置いてそのまま更識会長は去っていく。なぜシャルのことを……?いや、前にもあの人はどこか彼女の事を警戒しているような気がした。……あの人は生きていく事も償いと言うけれど……だけど、僕は存在しちゃいけない存在なんだ。それなら生きて償うのではなく……もっと他の方法で償うべきなんだ。
「……さっきの話本当なの、キラ?生徒会に入ったの……」
「……あっ、うん……本当のことだよ、シャル」
「キラは……どこにも行かないよね……?置いていかないよね……?」
「……うん、大丈夫だよ。僕はやるべきことがあるから生徒会に入っただけだから」
不安げに聞いてくる彼女を落ち着かせる。生徒会に入ったことについては誤魔化すしかなかった、そうでもないと今の彼女を落ち着かせることができないような気がしたから。……だけど、どこにも行かないという願いは叶えてあげることはできそうにない。
「なら、私が落ち着くまで傍にいさせて……お願い……」
「……うん」
シャルは胸元に飛び込んでくるように縋ってくる。震えている彼女の事を両手で支えてあげないといけないのに、両手は動くことはなかった――――
◇◇◇
(……本当にアリーナでの事は上書きされている。少なくとも僕のクラスは生徒会に入ってきたことについて聞いてきたから……)
昼休みに入るまで主に周りが聞いてきた事については生徒会に入ったことが事実かどうかについてばかりだ。最悪アークエンジェルの頃のように周りと孤立するだろうと達観していたつもりだったんだけど……。更識会長は本当に何者なんだ?
「キラ、このまま昼飯を一緒に食べに行こうぜ。それにちょっと話したい事もあるからさ」
「ごめんね、一夏。昼休みはちょっと用事があってさ……話を聞くぐらいなら大丈夫だとは思うけど……」
「用事なら仕方ないか……話についてだけど、学年個別トーナメントで俺と組んでくれないかって思ってさ。もう、パートナーが決まってたらアレだけど……」
「ううん、まだ組む人は決まっていなかったから全然いいよ」
「よしっ、それならよろしくなキラっ!……ふぅ、キラから断られたらどうするかってずっと悩んでたけど、それも杞憂に終わってよかったぜ……」
「……?箒さんからは誘われなかったの?」
「いや、箒も組む相手の見当はついてるらしくてさ。鈴とセシリアはそんな状態じゃないし……シャルロットも相手はいるようだったぞ?」
「……そうなんだ」
「……あー、それとなんだけど鈴が不機嫌な理由は何か知ってるか?急に不機嫌になってるから、キラなら理由を知ってると思ってさ……」
「……どう、だろう?心当たりはあるけど……それが理由かってなると分からないかな……」
箒さんが一夏以外の人と組むとは思っていなかったから少し意外だ。多分、何かしらの理由があるとは思うけど……一夏が知らない以上は他の人に聞いてもわからないだろう。鈴が不機嫌だと一夏の口から教えてもらったけど……それは僕が原因なのだろう。確かに喧嘩のような別れ方をしたけど……でも、それがどうして?
「キラキラ〜、お待たせだよー」
「う、うん……?えっと、更識会長が言っていたのはのほほんさんの事なんだよね?」
「そうなんだよー。実は私は生徒会の1人だったのだー!おりむーとのお話のお邪魔だったかな?」
「いや、さっき終わったばかりだから大丈夫だぞ。それじゃあ、また後でな、キラとのほほんさん」
「また後でね、おりむー。それじゃあ、私たちも行こっかー」
一夏との話も終わった事もあって、そのままのほほんさんに案内される形で教室を後にする。彼女が生徒会の1人である事には驚いたけど……よくよく考えればのほほんさんはあの人とは知り合いなんだっけ。
「それなら、更識さんも生徒会の1人なのかな?」
「……んー、かんちゃんは違うんだー。たっちゃんとちょっと喧嘩している最中だから……」
「そう、なんだ。……えっと、ところでそのたっちゃんって更識会長のこと?」
「うん、そうだよー!更識楯無だからたっちゃんなのだー!」
ふわりと楽しげに笑うのほほんさんは見ているだけで心が少しだけ安らいでいく気がする。更識会長にまずあだ名がある事にも驚きを隠せない……それほど2人が仲が良いって事なんだろうけど。そして更識さんがあの人とは喧嘩をしているから初めて会った時に姉妹なのかを訪ねたら複雑な顔をしたのか。
「はい、到着だよ。ここが今日からキラキラの所属する事になる生徒会室なのだよー」
「ここが生徒会室……」
「うん、それじゃあ入ろっか。お邪魔しまーす」
「お、お邪魔します……」
のほほんさんにつられて言ってしまう。教室や職員室とは違う雰囲気に挙動不審に周囲を見渡してしまう。そんな僕のことを見てなのか真っ先にクスリと可笑しそうに笑う更識会長と、会釈をしてくれたもう1人の女子が出迎えてくれる。
「本音ちゃんおつかいお疲れ様。冷蔵庫にケーキあるから食べて良いわよ」
「わーいっ!!たっちゃん、ありがとうっ!!」
「あまり本音のことを甘やかさないでください、お嬢様」
「ふふっ、少しぐらいはいいじゃない。それにそこの彼を生徒会室に連れてくるのはとても難しかったりしたのよ?」
「はぁ……?」
「ほら、そこにぼうっとして立っているキラ君も座りなさいな」
「あっ、はい……」
お嬢様……?もしかして更識会長って名家だったりするのだろうか。無断で人の部屋に侵入していて、それであんな姿でいたこの人が……?いや、カガリの時と同じようなものだと考えたら……いや、状況が違いすぎるから流石に確証が持てないよ。
「今の君からものすごく失礼なことを考えてるのを読み取ったんだけど。うん、怒らないからおねえさんに話しなさい」
「勝手に人の考えてるのを読み取ろうとしないでくださいよ……」
「……お嬢様、彼を生徒会へと勧誘のさいには彼が納得する形で入らせたのですよね?」
「……も、もちろんよぉ?キラ君が納得して生徒会へと入るように普通に勧誘しただけだから。ね、ねぇ、キラ君?」
「…………ええ、それ自体は間違っていませんから」
目配りで必死に頼み込んでくる更識会長を見て複雑な気持ちに襲われる。実際僕が納得する形で生徒会の1人になるのは間違いなかったし……ただ、接触してきた手段に大きな問題があっただけで。
「……どうやらお嬢様とはこの後お話がする必要がありそうですね。その前に私の自己紹介を。私は布仏虚です、今後は同じ生徒会の1人としてよろしくお願いします、キラ・ヤマト君」
「よ、よろしくお願いします……えっと、薄々思っていましたけど、のほほんさんのお姉さんなんですよね……?」
「ええ、本音とは姉妹です。これからも本音や簪さんとは仲良くしてあげてください」
優しく笑う姿は本音さんと似ているなと思い2人は本当に姉妹なのだろう。つまりこの生徒会メンバーは更識さんとは前からの仲なのだろうか?
「キラ君の疑問は正しいわよ?2人は代々から更識に仕えているお手伝いさんで、幼馴染だったりするもの」
「だから僕の考えていることを読み取らないでくださいよ……」
「ちょっとぐらいは許してちょうだいな。これからは同じ生徒会のメンバーとして過ごしていくんだからね?そうそう、君の生徒会での役職だけど……庶務見習いね」
庶務見習い……?久しぶりに僕の世界にはない言葉が出てきて首を傾げてしまう。呆けてしまっている僕の様子を事情を知っている更識会長は文化の違いかしらっとボソリと呟く。
「庶務見習いは簡単に言えば主に雑務になります。初めは私たちのお手伝いをやる事になると思いますが」
「それぐらいならできるとは思います……」
「わからないことがあったら、私やお姉ちゃんに何でも聞いていいからねー」
雑務ぐらいだったら……どうにかなるとは思うかな?ただついさっき久しぶりに自身の世界とは異なるのを再確認されてちょっと不安になってしまう。ここは大人しくのほほんさんの言葉に甘えよう……。
「はい、それではこれで生徒会メンバーの自己紹介は終わりましょ。とりあえず昼休みが終わるまでは君もこのまま生徒会室で過ごしなさいな」
「それでは私はお茶を用意しますね」
「ほらほら、キラキラも一緒にケーキ食べようよー。甘いもの食べて、午後のための英気を養おー!」
ほんわかと微笑むのほほんさんが相手だと断るのが申し訳なくなりこのまま居座る事になってしまう。どうすればいいのか分からず、思わず更識会長の方へと助けを求めるが扇子に『諦念』と書かれて面白そうに笑っていた――――
◇◇◇
(ストライクのダメージレベルはAもいっていない。フェイズシフト装甲自体は正常に機能しているんだ……やっぱり、機能している時はエネルギーを減らしているのか?)
昨日はフェイズシフトダウンまでした事もあったから念入りに調べるけど損傷はそこまで高くなかった。結局フェイズシフト装甲についてはずっと有耶無耶になっているから憶測で仮説を立てることしかできない。
「キラ君、少しだけいいかな……?」
「……どうかしたの、更識さん?」
更識さんに声をかけられて一度作業を中断する。作業中に彼女から声をかけられる事はそんなに珍しいことじゃない。お互いに没頭すればやめることを忘れる事もあるから、時間になれば話しかけ止めてくれることも多かったりする。
「……キラ君が生徒会に入ったのは本当なの?」
「それは本当だよ。生徒会に入ったのは……利害が一致したからになるのかな。そうじゃないと、更識会長からあんな勧誘をされた時点で断ってたわけだし……」
「お姉ちゃんの事が気になったから、とかじゃないの……?」
「……正直苦手ではあるからあまり関わりたくないかな。まず、無断で部屋に侵入してたしはだ――――いや、なんでもないよ……」
裸エプロンをして部屋にいたんだって口が滑りそうになる。2人が喧嘩中でもこの情報は色んな意味でマズイ……火に油を注ぐ程度で終わらず、むしろ更に引火しかねないよ……。
「……お姉ちゃんが迷惑かけたみたいだね。ごめんね……」
「……ううん、悪いのは更識会長であって君は悪くないから。でも、できれば今度あの人に注意してくれると嬉しいかな……」
「……うん、できるかぎりそうするね」
多分疲れた表情を浮かべているだろう僕に申し訳なさそうに更識さんは目を逸らす。なんで名家の人は一癖も二癖も強いんだろうか……生徒会に入るのも上手く誘導させられたような気もするし。やっぱり裸エプロンの件は更識さんか布仏さんに報告した方がいいんじゃないかな……。
「そういえば更識さんはISは間に合ったの……?」
「……ううん、学年個別トーナメントにも間に合わなかった」
彼女は悔しそうに表情を浮かべる。理由は聞いていないけど、更識さんのISは未完成らしくて今彼女はそれを完成させるために1人でずっと調整しているらしい。手伝うべきなのかと悩んでいるけどISについては僕も別段詳しいわけでもない。
「――――やはり、ここにいたかキラ」
「……箒さん?」
整備室に箒さんが来るなんて意外だなっと思ったけど、口振りからして多分僕のことを探していたんだろう。普段放課後は一夏のIS訓練にずっと付き添っているから僕の事を探す事自体が珍しい。
「むっ、人と話している途中だったか。それにISの整備をしているようでもあるから出直した方が良さそうか?」
「ううん、大丈夫だよ。ストライクの方の整備はもう終わったにも等しいしね」
「そうか。……すまないがキラと話をしたいため少しだけ借りさせてもらうが、いいだろうか?」
「……はい、別に大丈夫です……それじゃあ、また後でね、キラ君」
更識さんはISの方の整備に戻っていく。ストライクを待機状態へと移行させて箒さんと整備室を一度出る。話とはいったい何の事をだろうか……?
「話といってもそう時間を取るつもりはない。……次の学年個別トーナメントでお前に果たし合いを申し込む」
「……果たし合い……っ?」
「学年個別トーナメントで私はお前と戦うのだといっているんだ」
目の前にいる彼女の言っている意味を理解するのが一瞬遅れる。戦う……?僕と友達である彼女が……?次の学年個別トーナメントで……っ?僕は、また友達と戦うのか……っ?
「……どう、して?僕らは別にそんな必要は……」
「必要はある。お前があの時、一夏とセシリアの2人が戦っている時に見せた瞳の意味を知る必要があるからだ。……学年個別トーナメントで確かめさせてもらうぞ、姉さんと同じ目をしたお前自身のことを」
伝え終えた箒さんは去っていく。……僕はまた友達と戦わないといけないのか……?あの世界でも、親友のアスランと戦って……それでこの世界でも友達の箒さんと戦うというのか……?
『――――アスラァァァァァンッ!!』
『――――キラァァァァァァァッ!!』
(……また、戦う……友達と、僕はまた……)
イージスに搭乗しているアスランを本気で殺そうとしていたあの時のことを思い出す。目の前で友達をお互いに失くし、怒りと復讐心に駆られてかつての親友を敵だと本気で殺そうとした。それを思い出して――――自身の中にある何かにヒビが入ったような気がした。
「……どうして、また友達と戦う事になるんだ……どうして……っ」
「――――キラっ!!」
「……また、友達と戦うぐらいなら……僕は……っ」
「っ、もう少しだけ頑張って。急いで部屋に連れていくからね!」
誰かが優しく諭して手を繋いで何処かへと連れて行かれる。今感じているその手の温もりですら今すぐ放っておいてほしかった……また、僕は友達と戦う事になるんだ……もう嫌なんだ……友達を守るために友達と戦って……じゃあ、次は何の為に戦わないといけないんだ……。
「大丈夫だよ。私がいるから……私がそばにいるから大丈夫だよ」
「……もう、嫌なんだ……どうして、また友達と戦わないといけないんだ……っ……戦わないといけないなら死んだ方がマシじゃないか……っ!」
望んでいない力を勝手に組み込まれて、その力で友達と戦い人を殺し続けて、それなのに僕の守りたいと思った人や、優しくしてくれた人ばかりがみんな消えていく。……何のために僕は生まれたんだ、なんのために僕はまだ生きているんだ……。
『まだ苦しみたいか!いつかは……やがていつかはと……っ!そんな甘い毒に踊らされ、いったいどれほどの時を戦い続けてきたっ!?』
「あの人の言ってる通りじゃないか……まだ、僕は苦しまないといけないのか……苦しくて、つらいだけなら生きている意味なんてないじゃないか……」
「……生きてよっ……私の為に生きてよ……っ……嫌だよ、キラがいなくなるなんて……っ」
「……いき、る……?」
「私の為に生きてよっ……その為なら私はキラのためになんでもするよ……っ?なんでもするから……」
服が擦れる音が聞こえて、虚ろな目に映ったのは潤んだ目で服を脱ぎ下着姿になっているシャルがそこにいた。そこで自分が自室にいること、そして彼女がここまで手を引いて連れてきた事に気づく。
「……キラが生きてくれるなら、私はなんでもするよ……そばに居させてくれるだけでいいの……」
「……あっ……」
「キラの中で大切な人がいるんだよね……でも、その人はもういないんだよね……なら、私のことをその人だと思って抱いて……っ?」
彼女は僕の片手をそのまま自分の胸を触らせる。彼女をフレイだと思って……っ?震えた声で小さく名前を呼んでくれる声がこの場にいない彼女が脳裏に浮かぶ。視界が定まらなくなり、途端に息が詰まり呼吸が苦しくなり、そのまま僕は彼女の手を振り払う。
「……そん、なの……駄目だ……それ、だけは駄目だ……フレイ、はフレイはもういないんだ……それなのに、シャルを、君をフレイの代わりにするなんて、そんなのあの時と変わらないっ……っ!」
「……いいんだよ、私をその人だと思って――――」
「……だめなんだ……っ!今いない人を、誰かの代わりにするなんてそんなのはやったらいけないんだ……そんなの苦しくて、悲しくなるだけだ……それに、君だって泣いているじゃないかっ……」
「あっ……ち、違うよ、これは……」
「……ぼくの、せいで……ごめん、ね……」
プツリと何かが途切れて意識が朦朧としていって力なく倒れる。泣いている彼女が目の前にいるのに、何も言ってあげられない無力さを感じながら意識を失っていった――――
『――――守るから。私の本当の想いが貴方を守るから……だから、今はゆっくりと休んで、キラ……』
はい、今まで耐え抜いた精神はぶっ壊れましたね。24話までかかったと考えれば……RTAから見れば最高のガバでしょう((
Q.どうしてシャルさんはあんな事をいったの?
A. 振られた上に目の前で相手の好きな女を譫言のように何度も言われたらこうもなろう((
シャルさんを男装なしで開幕からいさせたのはこういうことですね()男装だと原作再現を抜きにしても、まずこうなる展開の前にどうやっても一件落着しちゃうのですよ……ちなみに普通のシャルさんとルームメイトなった場合は鈴ちゃん来る前に依存関係を築いて、そして鈴ちゃんの世話焼きルートが怪しくなったり((
……最後は単純にきっと、精神壊れかけてきたキラ君の幻聴だよ((
毎度誤字&脱字報告ありがとうございますっ!!感想もありがとうございます!!次回の更新は未定ですが、気長にお待ちくださると嬉しいです!