翼を失くした少年   作:ラグーン

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……投稿が遅くなったのはfgoをやっている人だと分かってくれるはずなんです……BOXイベはfgoの中でとっても大切なイベントなんだ……だから許してください……だってその後に新章の後半だって配信されたんだよっ。仕方なかったんだ……余談ですが9月まで失踪しようかと思ってた矢先に妖精騎士ランスロットを引き、絵師を知って執筆から逃げられないと悟った作者です((


第27話 振り払う迷い

「――――ごめんっ、遅くなったかな……っ?」

 

「いや、まだ時間は余ってるからセーフだ。生徒会の仕事の方が少し長引いたんだろ?気にするなって」

 

「うん、時間的には全然間に合ってるから気にしなくて大丈夫だよ、キラ」

 

「ええ、時間的には本当にギリギリでしたが……まだトーナメント表は発表されていませんので焦る必要はありませんわ」

 

「セ、セシリアさんにシャルロット……っ?」

 

「あら、わたくしがこの場にいるのに何か問題でも?どうせ後で鈴さんも押しかけてくるはずですわ。……あと、早くシャルロットさんをどうにかしてくださいまし」

 

「あはは、まるで私が怒ってるようにいうのやめてよ。私は少しだけキラに話があるだけだよ?それが終わったらあっちの方の更衣室に戻るから」

 

更衣室に急いで向かえば既に待機していた一夏が出迎えてくれる。そして何故かセシリアさんとシャルがいるんだけど……食堂で会場準備が終わった後に話があると言っていたのを思い出して、ニコニコと笑っているシャルの姿にどっと汗が流れてくる。

 

「一夏、ちょっとキラのことを借りるね?」

 

「お、おう……」

 

一夏からの助力は求められない現実を叩きつけられてしまい、彼女になすすべもなく腕を引かれて一緒に更衣室から出る。本当に話し合いで終わるんだよね?っと内心不安に駆られてしまっているのは許してほしい。

 

「シャ、シャル……?」

 

「別に怒ってないからそんな風に不安そうにしないでよ。夜に整備室で2人きりなのは本当だとは思うけどそれ以上は全部嘘ぐらいなのは分かるよ?……どうして夜に2人きりに整備室に行ったのはすっごく知りたいけど」

 

「……そうする必要があったからとしか今は言えない」

 

「そっか……キラと更識生徒会長がそうする必要があったんだよね?それなら私はそれを深くは聞かないよ」

 

彼女の疑問は僕ではなく更識会長だったら上手く誤魔化しながらも納得のいく答えを言うのだろう。僕はあの人ほど口が達者じゃないのを分かっているから、今言えないのだと誤魔化すのが精々だ。

 

「……この後のことを考えるとね、やっぱり不安なんだ。更識生徒会長やキラが手を貸してくれるのに、それでも怖い……もし失敗したら私はどうなるんだろうって……その時私は――――」

 

「そんな事はさせないよ。どんな時があっても君を守るよ……絶対に」

 

震える体と、不安げに揺らぐ瞳を見せる彼女を落ち着かせるように手を握る。目の前で大切な友達である彼とそして大切な人である彼女を守ることができなかった……もう二度と誰も失いたくないんだ。シャルのことを利用するだけじゃなく、彼女を狙うのだというのなら僕ができる事をするだけだ。……例え僕が力だけだと証明する結果になってしまっても。

 

「私ね、やっぱりキラの事を諦められないよ。私、シャルロット・デュノアは君のことが好き――――大好きです。キラに好きな人がいるのも知ってる……その人がとっても大切な人だってことも……この告白だって困らせてるだけだって……でも、この気持ちだけは偽りたくなかったの」

 

「……僕が言うのもおかしな話だけど、その想いを誤魔化す必要はないと思うよ。僕だってそうだから……どれだけ時間が経っても彼女への想いは忘れる事はない……ううん、忘れたくないんだ」

 

この世界でフレイ・アルスターというありふれた1人の少女を知っているのは僕だけだ。彼女が残してくれたのは思い出しかない……だからそれを忘れたくないんだ。どんな思い出でも何一つ取りこぼしたくない、だってそれが彼女が生きていたのだという唯一の痕跡なのだから。

 

「目の前でそんなこと言われちゃうとその人が羨ましくて嫉妬しちゃうなぁ。……だから君が私に振り向くまでずっとアタックするから覚悟してね?」

 

「……うん、分かったよ」

 

宣戦布告をした彼女は時間だという事もあって反対側の方の更衣室へと戻っていく。彼女の想いは正直に言えば嬉しいけれど彼女の想いは一度答えは出しているものの……受け止め考える余裕はまだない。でも、一つだけ確かなのは……シャルが僕自身の中で大切な人であることには変わらないだろう。

 

「…………ふーん、宣戦布告されてよかったじゃない」

 

「……なにか怒ってない?」

 

「……別に怒ってないわよ。アンタが整備室で女狐としっぽりやろうと、シャルロットにもう一度告白されたのもアタシには関係ない話だし?まっ、弾たちに面白い土産話は最近できたから楽しみにしておけば?カガリちゃんのこともあるしねぇ?」

 

「……お願いだからその土産話だけはやめてもらえないかな。今度会った時にそれで弄られるのは間違いないと思うから……その、僕ができる範囲でなら何でもやるから……」

 

「……言ったわね?言質はとったから後でなかった事にするなんてなしよ?」

 

「……う、うん……約束するよ」

 

「ふふんっ、それなら寛大なアタシは許してあげる。心の奥底から感謝しなさいよねー」

 

弾たちに報告でもされたら何が起きるだなんて容易に想像がつくからこそ鈴を止めれて事にホッと安堵する。僅かながら不機嫌になっていた理由はイマイチ分からないけど……多分、会場準備前の更識会長の件が引きずっていたのだろうか?

 

「ほらほら、キラもサッサっと更衣室に入る。そろそろトーナメント表が発表するんだから。相手が誰かぐらいは流石に把握しておきなさい」

 

「わ、わかったから押さなくてもいいんじゃないかなっ?」

 

「――――さ、流石に少し近くないか?」

 

「――――これぐらいは普通ですわよ。一夏さんの方からも、もっとそばに寄ってくださいな」

 

更衣室に押される形で視界に入ったのは一夏に隣に座りピッタリと密着しているセシリアさんの姿だった。鈴の視界は僕が遮っている形になってるから、彼女がこれを見たらまずいんじゃないか……?そう思うけど時すでに遅しで、結局鈴も2人のやり取りを目撃する。

 

「……へー、一夏もそんな事をする余裕があるって事は優勝なんて当然ってことよね?」

 

(……あっ、これって多分僕も巻き込まれるやつだ……)

 

「……都合の悪いタイミングで入ってきましたわね。こほんっ、鈴さんはなにか勘違いをなさっているのではありませんか?わたくしはただレクチャーをしていただけですわ」

 

「いや、鈴、そのだな――――」

 

「ふんっ、そのままセシリアからレクチャーしてもらえればいいじゃない。アタシはキラの方をレクチャーするからっ!ほら、そこの無関係を装ってはアンタはアタシの隣に座るっ!!」

 

「……いや、ほら、僕は立ってる方が楽だから遠慮するよ」

 

「……なんか勘違いしてるけどこれ命令だから。これの意味分かるわよね?」

 

目に見えて分かる不機嫌な鈴から遠回しに脅されて、恐る恐る隣に彼女の隣に座る事にする。巻き込まれてしまう事については予想はしていたけど……レクチャーするのなら一夏にしてあげるべきだよ……僕は別に必要ないんだから。

 

「……ちなみにアンタ大丈夫なんでしょうね?」

 

「えっ……?」

 

「……ほら、アリーナの時にドイツの女と戦ってる途中で様子がおかしかったからさ。もし、アイツとトーナメントで当たった時は大丈夫なんでしょうね……?」

 

「……どうだろうね。それについては大丈夫だとは言えないかな……」

 

今度はセシリアさんの持つビットがないにしても状況次第では彼女の事を再度あの人だと錯覚し、怒りと憎しみのまま戦う可能性は否定できなかった。今でもあの人がフレイが乗る脱出艇を堕とすのを思い出そうとするだけで自身の中にある黒い感情、彼女を守ることのできなかった後悔や喪失感、自身への怒りと感情が複雑に入り混じる。

 

(……今は彼女の事を考えたら駄目だ……目の前にある問題をどうにかしないと……)

 

箒さんの果たし合いの件、シャルの問題、そしてラウラ・ボーデヴィッヒさんのこともあるんだ。自身の中でいまだ折り合いがついていないのは確かだけど目の前の問題を優先するんだ。思考のリセットと感情を落ち着かせるためにも外に出ようかと思えばISスーツを引っ張られる感覚が襲う。何事かと思って引っ張っているだろう鈴の方を見ればモニターを指をさしていた。

 

「……前に保健室で先に謝るってこのことね。アイツとペアを選ぶとかいったい何を考えてるんだか……」

 

「……彼女と箒さんが相手なのかっ……」

 

一試合目は僕と一夏、相手は箒さんと彼女だった。箒さんが彼女とペアを組んだのはやはり果たし合いの件が理由なのか……っ?冷静に考えれば今回もトーナメント制だから果たし合いの事を考えれば、同学年で一番強いはずのラウラ・ボーデヴィッヒさんと組むのは当たり前じゃないか……っ。

 

「……どうして箒がアイツとペアを組んでるんだ……?」

 

箒さんがラウラ・ボーデヴィッヒさんと組んでいることに驚いているのは一夏も同じだった。彼からしても彼女が今までやってきた事を考えれば、箒さんがペアとして組んでいる事には驚くのには当然の反応だ。

 

「……3人は箒がアイツと組んだ理由は知ってるか?」

 

「……残念ですが一夏さんの疑問に答えることはわたくしにはできませんわ。保健室に先に謝罪した事がこの事であったと気づきましたので……」

 

「悪いけどアタシも同じよ。……キラはどうなのよ?」

 

「……前に箒さんから果たし合いを申し込まれたから……僕と戦うまで勝ち上がる為に彼女と組む事にしたんだと思う……だから僕が原因なんじゃないかな……」

 

「なんでキラに箒が果たし合いを申し込む必要があるんだよ?別にそんな事をする必要なんてどこにもないだろ」

 

「どうでしょうか?箒さんの真意は分かりませんが、彼女がキラさんに決闘を申し込むだけの理由があったのなら不思議だとは思いませんわ。……彼女からなぜ決闘を申し込まれたのかは貴方にも心当たりがあるのではありませんの?」

 

「それ、は……」

 

「――――これ以上コイツから聞き出す必要ないでしょ。箒が果たし合いを申し込んだ理由とか、部外者であるアタシらが知る必要なんてないわよ。わざわざ果たし合いと言ってまでキラに宣戦布告してるわけだから、箒の方も部外者であるアタシらに一々口出しとかしてほしくないんじゃないの?」

 

心当たりがあるのかと問いに答えるか躊躇った時に鈴がつまらなさそうに呟く。鈴の言い分にセシリアさんは怪訝な表情を彼女へと向けていたけど、これ以上は口論になると判断したのか小さくため息を吐きそれ以上は聞いてくる事はなかった。

 

「ほら、アンタらさっさっと準備してくる。それと前にも言ったけど一夏は馬鹿な事を考えるんじゃないわよ。少しでもそんな事考えてるんなら試合の途中でもアンタを蹴り飛ばしにいくからね」

 

「……わかってる。鈴が納得してるんなら仕返しとかするのは筋違いになるってのは。だから、俺はアイツに勝つ為に戦うだけだ。そろそろ、行こうぜキラ」

 

「うん……行こう、一夏」

 

箒さんが何を思い果たし合いを申し込んできたのかは分からない……更識会長は想いをぶつければ納得するはずだと言っていたけどそれが正しいのか不安に駆られてしまう。2人に見送られながら僕らは更衣室を後にした――――

 

◇◇◇

 

「――――ふんっ、臆病者である貴様が逃げずにこの場にいることだけは褒めてやる」

 

「お前それ以上は――――」

 

「――――それ以上私の友を侮辱するというのなら先に貴様へと剣先を向けるぞ」

 

黒いISを見に纏い佇む彼女は見下し蔑む視線で僕を見つめる。冷たい眼光で他者を見下すその姿に一夏は我慢が出来ず口を開こうとするが、その前に彼女の隣にいる箒さんが苛立ちを表に出し彼女を力強く睨む。

 

「……ほう?お前のような素人が私に勝てるとでも?それにお前の親しいものを襲った相手だと分かっていながらパートナーとして組むことを頼み込んできたのは貴様からだろう」

 

「……私はお前がやったことを許しているつもりはない。組む理由もキラと戦うまで勝ち進む必要があったからにすぎん。そうでなければ好き好んで組むものか」

 

「私とて好き好んで素人である貴様と組むものか。所詮は利害が一致したからこそ組んでやっただけにすぎん」

 

「……これは最後の確認だ。私の用事が終わるまであの2人には手を出すな、分かっているだろうな?」

 

「ふんっ、半端者と臆病者など私1人で充分だ。貴様の用事など興味も微塵もない好きにしろ」

 

こっちまで聞こえてくる2人の話の内容はペアとして壊滅的であった。箒さんは彼女の言葉を信用していないのかわざわざ彼女の射線上を遮るように前へと立つ。2人のそんな姿を見たからこそだろうか我慢していた一夏が箒さんへと疑問をぶつける。

 

「箒……どうして、お前がソイツと組んでるんだよ……保健室で組む相手に心当たりがあるってのはソイツのことだったのか……?」

 

「……すまない、一夏……お前の疑問は最もだ。でも、私にはどうしても確認しないといけない事がある……その為にどうしても必要な事だったんだ……だから、今からやることにお前も手を出さないでくれ」

 

一夏への疑問を気まずそうに表情を険しくしながらもハッキリと答える。彼女の視線は僕へと向けられていて、果たし合いを申し込む時点で分かっていたけどそれほど重要な事なんだ。彼女は量産型IS『打鉄』の武装一つ、接近用ブレード『葵』を展開してその剣先を真っ直ぐと向ける。

 

「私が求めるのはただ一つ……本気で戦え、キラ・ヤマト。手加減など必要ない。お前の抱くその力、そして隠している感情を確かめさせてもらうぞ……っ!」

 

「っ……!!」

 

試合開始の合図と共に彼女は愚直に真っ直ぐに向かってくる。彼女から感じるその気迫に僅かにたじろぎ息をつまらせるが即座に『アーマーシュナイダー』を展開して身構える。リーチ差と火力を考えれば『ビームサーベル』が正しいのだと頭では理解していても、友達である彼女に武器を向ける事を考えればどうしても躊躇いがある。『アーマシュナイダー』を2本を頭上に重ね、彼女が振り下ろす接近ブレードを受け止める。本来ならこのまま反撃(カウンター)できるタイミングなのに絶対防御があるとはいえど、人の姿がハッキリと見えてしまえば腕が鉛のように重たくなる。

 

「くっ……!!」

 

「どうしたっ!!きっとお前の強さはこれぐらいではないはずだっ!!お前の本気を見せろと私は言ったはずだっ!!」

 

避けれない速さではないが箒さんの気迫に押され受け止め、受け流すかのどちらかしか出来なかった。それが手を抜かれているのだと判断した彼女の攻撃のペースは更に上がっていく。自身の覚悟はその程度なのかと言われているかのような気がして一撃一撃が実際よりも重く感じる。

 

「お前は何のためにその力を振るうっ!!姉さんと同じ目を、怒りと憎しみを抱いているお前はその感情のままにこれから戦うのかっ!」

 

「……わかってるっ!!怒りと憎しみのままで戦ったらいけないことはよくわかってるよっ!!それじゃあ、苦しくて虚しくて何も生まれないのも変わらないこともっ……!!」

 

「それを知りながらもお前はこれから何のために戦うつもりだっ!!お前のその力はいったい何のために使うのだ!!」

 

「……戦わなくていいのなら戦いたくないっ!でも、戦わないと守れないものがあるのはわかっているからっ!!だから僕は、大切な人を、友達を守るために戦う……っ!!もう嫌なんだ……っ!!目の前の手を掴むことができないのはっ!!

 

「……っ!?」

 

受け止めるのではなく自らの意思で接近用ブレードを力強く弾く。この試合で初めて反撃(カウンター)を返された事に彼女初めは大きく目を見開いていたが、次にはその一撃に込めた感情を読み取った彼女は納得したのか小さく笑みを浮かべる。

 

「……キラは確かに姉さんと同じ目をしたはずなのにこうも違うのだな。ただ、闇雲に力を振るうのではなく……キラは大切な人を、友を守るために戦う……ああ、お前と姉さんは全く違う……すまなかった、私の我儘に事に付き合わせてしまって……」

 

「……ううん、僕の方こそありがとう。箒さんのおかげで、もう一度覚悟を決める事ができたよ。まだ少しだけ心のどこかで迷っていたところもあったから……でも、もう迷わないよ」

 

「少しでも友であるお前の力になれたのなら嬉しいものだ。……私がこのトーナメントでこれ以上剣を振るう理由はない、降参だ」

 

「えっ……?」

 

「い、いやちょっと待てっ!何を言ってるんだ箒はっ!?」

 

「なんだ?降参だと言ったんだ。今回のトーナメントで私はキラのことを確かめるために参加していたのも等しいからな。なにより納得のいく答えを得た、それならば私の戦いはこれで終わりだ。……目的の為に組んだとは言え己の力に酔い、力が全てだと思っている女と共闘など私にはできん」

 

箒さんが苛立ちを隠すこともなく誰のことを指しているのは言わずとも分かる。彼女とのこれ以上肩を並べ戦う気もなく、箒さんは目的を達成した事もある事もあり展開していた武装を解除しようとすると、それと同時に照準が合わされているとストライクから警告を促される。先に動くよりも一夏が箒さんの庇うように前に出て砲撃されるた実弾を雪片弐型で叩き斬る。

 

「――――お前っ!!俺たちを狙うんだったらともかく今は味方の箒を狙うってどういうことだっ!!」

 

「ちっ、余計な邪魔を……私はその女を一度たりとも味方など思ったことはない。余分な邪魔者を排除しようとして何が悪い?敵が1人減るのには貴様らとてありがたい話だと思うが?」

 

「……哀れだな、お前は」

 

「なに……?」

 

「聞こえなかったらもう一度言ってやる。お前が哀れだと言ったんだ……お前は千冬さんから戦い方や心得を教わっているはずだ。それなのに、どうしてお前は気に入らないものをそんな風に力だけで解決しようとする?……千冬さんが闇雲に力を、暴力を振るうことを教えることなど絶対にあり得ないはずなんだがな……ラウラ・ボーデヴィッヒ、お前は本当に千冬さんから教授されたのか?」

 

「貴様……っ!!私が教官から指導されていないだと……っ!?ふざけるなよっ!!疑っているのならその身体に徹底的に叩き込んでやる……っ!!」

 

触れてはいけない一線を踏まれ逆上した彼女は一心乱心にレールカノンを何度も射出するがその度に一夏は冷静に全てを斬り伏せる。それがさも簡単だと言うかのように佇む一夏の姿は更に彼女の神経を逆撫でする。

 

「……一夏、よくそれら全部を切り伏すことができるな……」

 

「こんなの鈴の見えない弾丸や、セシリアの弾けないレーザーライフルに比べたらずっと簡単だろ」

 

「なにぃ……?私が、あの2人に比べて劣ってるとでも貴様は言うのかっ!!」

 

「ああ、鈴とセシリアに比べればお前の攻撃なんか重くも何ともないんだよっ!!こんな暴力だけで全部解決しようとしてるお前の攻撃なんかなっ!!」

 

「……つっ!!貴様っ、きさまぁぁぁぁ!!」

 

ハッキリと彼女の中にある何かが切れる音が聞こえたような気がした。彼女にとって全てである織斑先生に教えてもらったモノをハッキリと否定されたしまったのだ。激情した彼女を止めるためにもビームサーベルを展開して直進し衝突する。

 

「また貴様か……っ!!これで貴様が私の前に立ち塞がるのは3度目だっ!!1度目は奴らで織斑一夏を誘い込む時、2度目はあのようなくだらぬ話し合いの時っ、そして今回は私の力を否定した織斑一夏らを叩き伏せるこの瞬間だっ!!貴様の相手などあの2人を叩きのめした後に幾らでもしてやる……っ、だから今すぐそこをどけっ!!」

 

「どくもんか……っ!!僕が君を止める、止めてみせるっ!!僕にはその責任があるっ!!」

 

「貴様の存在は一番不愉快だ……っ!!私を止める責任があるだと、あの話を聞いておきながらまだそのような戯言をっ!!」

 

「あの話を聞いたから、だからこれ以上君に闇雲に力を振るってほしくないんだっ!!」

 

「似たようなことを何度も言うっ!同情かっ、哀れみかっ!?どっちにしろ貴様のその偽善は聞き飽きたっ!!」

 

邪魔者を排除するように攻撃は苛烈さが増していく。彼女の境遇を知ったらかこそ同情しているのかと問われればそれについてはそうかも知れないとっと否定できない。僕らは同じ造られた存在でも、造られた要因、その過程とその後は大きくかけ離れていた。

 

「力があるからこそ意味があるのだっ!!力を振るうことの何が悪い……っ!力があるからこそ他者は初めて関心を持つのだっ!!いくら貴様とてそれぐらいは理解しているだろうっ!!」

 

「力をただ振るうだけじゃ孤独になるだけなのを何故わからないんだっ!!力があるから人は関心を持つというけどそれは違うよっ……力があっても、なくても人は誰かに惹かれるはずなんだっ!!」

 

「それは貴様らが“当たり前”の存在だからだっ!!私は兵器だっ!!出来損ないと見なされていれば、誰も見向きもしない造られた兵器だっ!!兵器に求められるのは圧倒的な力だ……っ!!」

 

「違う……っ!!確かに僕らは“当たり前”とは違う……でも、それでも君は兵器なんかじゃないっ!!1人の人間だっ!!」

 

「……っ!?なぜ、貴様が教官と同じことを……っ!?」

 

彼女の言う当たり前からは僕や彼女は逸脱している存在だ。彼女が何を求められ造られたのかもわかっている……でも、彼女だって1人の人間なんだ。そこに造られた理由や求められている理由なんて関係ない。彼女には意思があるし何より今を生きている。兵器として認められないだなんてそんなの苦しくて悲しいだけだ……戦いの場で一瞬でも動きが止まるのは命取りだ。だけどこれ以上お互いに戦う必要はないのだと声をかける前に後方から近づいてくる気配を感じる。

 

「――――そこをどいてくれ、キラっ!!」

 

雪片弐型(ゆきひらにがた)は変形してエネルギーの刃を形成しているのを見れば単一仕様(ワンオフアビリティー)である零落白夜(れいらくびゃくや)を展開していた。一夏を止めようにも時すでに遅しで一夏の攻撃が彼女へと直撃する。当たりさえすれば相手のシールドエネルギーを確実に0にする一撃が入ったという事はこの戦いは終わる――――そのはずだった。

 

「……負けてたまるか……っ……貴様らなどに負けてなどなるものかぁぁぁ!!」

 

「……なっ!?」

 

「っ……!?一夏っ!!」

 

現実から背けるように悲痛に叫びながら腕を薙ぎ払う直前にかろうじて一夏を後方へと引っ張るが、無防備になってしまいその一撃を防ぐ手段はなくアリーナの壁まで吹き飛ばされる。PS装甲作動していながらも、それすらも紙屑のように斬り伏せられたかのような錯覚に陥る重く鋭い一撃。何が起きたのかと確かめるために彼女へと視線を向ければ目を見開く光景がそこにはあった。

 

「……あれは、いったい……っ?」

 

彼女が纏っていたISを覆い被さるように黒い何かが全身を包んでいく。見たこともない現象に理解が追いつかないが、彼女を呑み込んでいる黒い何かは危険な代物であると本能的に理解する。彼女のISは見る影もなくなりISに酷似したものがその場に誕生する。

 

『――――搭乗者の戦闘不能を感知、及び搭乗者の意思によりVTシステム起動。この場にいる敵反応は3機。これまでの戦闘データによる最優先に殲滅すべき対象を選別――――型式番号GAT-X105……STRIKE、そしてそのパイロットを最優先に殲滅する』

 

ラウラ・ボーデヴィッヒさんとISごと呑み込み、生まれた何かは赤いカメラアイを真っ直ぐと僕へと向けられていた――――

 

◇◇◇

 

「アレってなんなのよ……」

 

「……そんなことわたくしに聞かれても困りますわ。あんな現象は初めて見ますもの。ただ、アレはとても危険なものであるのはこのモニター越しでもわかりますわ……」

 

更衣室に設置されているモニターにはいか好かないドイツ代表候補生ごと包み込んだ何かが映っていた。気に食わない相手ではあったけど……流石にこんな状況だと心配はしてしまう。けど、こんな状況下でもさっきまで画面に映っていたアイツのことが気になってしまう。

 

「あー、もうっ!!このモニターじゃ、アイツが無事なのかどうかの確認ができないっ!!アタシ、今から観察室に行ってくるっ!あそこなら絶対分かるだろうしっ!!」

 

「お、お待ちなさいなっ!?あー、もうっ、なぜ鈴さんは即決即断ですのっ!?」

 

(……頼むから馬鹿なことだけはしないでよ、キラっ。あの場に一夏や箒がいるのが理由であんなヤバそうなのと戦うだなんて……っ!!)

 

アイツ(キラ)ならやりかねないってのが断言できる。もしかしたらキラはアタシが想像してるよりも本当は凄いやつなのかも知れないって疑問は残ってる。……でも、だからってアイツが無茶や無理をするのを見て見ぬふりなんてできない。それを止める人が誰もいないなら、それはアタシがきっとやらないといけないことだから……っ!

 

「――――あっ、お知り合いである鈴音さんを見つけました」

 

「……アンタ、確か観客席に案内した子よね?」

 

「はい、鈴音さんに道案内してもらったクロエ・クロニクルです。その件については大変助かりました。そしてもう一度お尋ねしたいのですが……観察室はどこか知っていますでしょうか?私は今すぐそちらに向かわないと行けないのです」

 

「……はぁ?部外者のアンタが入れるわけないでしょ。まずなんで――――」

 

『あー、もうっ、ごちゃごちゃ喋るんじゃないよ。お前は大人しくクーちゃんを道案内すればいいの、わかるっ?そんなことすら瞬時に理解もできないわけぇ?』

 

「……初対面の相手に罵倒されたら『はい、そうですか』って大人しく道案内するほどアタシってできた人間じゃないのよ」

 

『はぁー、別に今すぐこの場で泣かせてもいいけどお前に割く時間は今回ないんだよねぇ。とりあえず事態を理解してないお前にも分かりやすく端的に言ってあげるよ。いっくんと箒ちゃんと、らーちゃんの命を救いたかったら今すぐちーちゃんがいる観察室にくーちゃんを連れて行けよ。……そうじゃないと、あの場にいる全員が死んじゃうよ?』

 

携帯のスピーカー越しから聞こえてくる苛立ちのこもった声が言った言葉に激しく動揺してしまう。あのドイツ代表候補生、一夏や箒……それにキラが死んじゃう……っ?

 

「……っ、それが本当かどうかは知らないけど連れて行けばいいんでしょっ!!とりあえず携帯越しから喋ってるやつは名前ぐらいは教えてくれたっていいんじゃないの……っ!?」

 

『はぁー、答える理由は微塵もないけどそれでスムーズに行くのなら教えてあげるよ。お前らが“兵器“としてしか見ていないISの作り主である――――篠ノ之束だよ』





早くシリアス終わってほのぼのを書きたいです……日常回で軽く3話は使いたいっと思ってたり、思っていなかったり……VTシステムは次できっと終わるはずですヨ、ホントホント……

誤字&脱字いつも報告ありがとうございますっ!!感想も毎度もらえてとても嬉しいですっ!!それでは次回も気長にお待ちくださいっ!!

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