翼を失くした少年   作:ラグーン

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  来月にはグリッドマンユニバースが公開されるのに今は今かと待っている作者です。両作品見直した私に死角はないっ!!!


第34話 くすぐられる心

 

「──まさか更識さんとのほほんさんに怒られるなんて」

 

 胃の重たさにお腹をさすりながら食堂の出来事を思い出す。更識さん、のほほんさん、ラウラの3人に食堂へと連行された後は一緒に食事を摂りながら2人にたっぷりとお説教された。

 普段の食生活を問われて答えれば栄養が足りないとか、偏った食事だと食堂利用時間までみっちりと叱られてしまった。当初に比べればこれでも食べてるんだと口を滑らせなかったのを我ながら褒めたいよ。

 ちなみに事情を知っているラウラは2人を必死に宥めてくれたけど、僕の顔を見て何度も大きなため息を吐かれたのはちょっと納得がいかない。

 

(今さら味覚がないってカミングアウトしても、ね……)

 

 数ヶ月も経っていれば実は味を感じてないと打ち明かせば、みんなが気を使い始めるのは目に見えてわかる。初めから言っていればよかったかなーと後悔はあるけど余分な気を使わせるぐらいなら話さない方がいい。

 それに鈴のおかげで辛い料理は味を感じると判明したのだから、完全に後先が真っ暗というわけじゃないしさ。

 

「とりあえず横になりたいかな……」

 

 考えごとをしていれば寮の自室まで辿り着く。お説教で疲弊した精神を養う為にベットで横になりたいと切実に思いながら鍵穴に鍵を差し込んで回せばどうも軽い。開錠されておらずどうやら鍵は閉まっておらず開いているらしい。

 

(……あれ? 鍵は閉めていたような……気のせいだったかな?)

 

 端末を置く為に一度自室に寄り鍵を閉めた記憶があったけど閉め忘れてたっけ? 僅かな違和感を感じながらも勘違いと結論を受けて扉を開ける。寝床を目指して歩けばそこには目開く光景があり思わず変な声が出た。

 

「──あっ、戻ってきたのね。部屋には上がらせてもらってるからー」

 

「……なんでいるんですか?」

 

「なんでって、それはキラ君と情報共有するために決まってるじゃない」

 

 さも当然のような顔を浮かべながら人のベットの上でうつ伏せでパソコンをいじりながら更識さんが寛いでいた。

 やっぱりドアノブに手を出した時に感じた違和感は勘違いではなかったようで、どうやったかは知らないけどこの人が鍵を開けたのは間違いない。

 

「……鍵かけてましたよね?」

 

「それはお姉さんの特技の一つということで、ね? 君が帰ってくるのを恋焦がれた女の子のように、ずっと今か今かと待ってたの」

 

「そのわりには呑気に寛いでるようでしたけど……パソコンをいじりながら」

 

 済ました顔で口笛を吹くのはシラを切っているつもりだろう。ベットの上で寛ぐにしてもシャルが一度使った以降使われてないもう一つのベットの上でやればいいのに。どうして僕が普段使ってる方を使ってるのか……それはそうと無断で部屋に上がってるのには頭が痛くなるけど。

 情報共有と言っていたのは冗談ではないようでパソコンを閉じて、更識さんは体勢を変えてベットに座る。

 

「情報共有とは言いますけど、とりわけするような出来事は起きてないのでする必要ないんじゃないですか?」

 

「つい最近まで険悪だったドイツ代表候補生と今では仲睦まじく"兄妹"ごっこしてるのは、立派な情報共有を求める理由になると思うけど?」

 

「うっ……」

 

 扇子を広げ兄妹と扇面に書かれてれば声が詰まる。クラス内でも噂されるのは明日からだろうと見据えてたのにこの人の早耳には舌を巻いてしまう。どうするかと悩むが、更識さんを相手に誤魔化せる自信はないから素直に白状した方が良さそうだ……。

 

「VTシステムとの戦闘していた際にISの相互意識干渉(クロッシング・アクセス)が原因で、彼女に僕の記憶が流れ込んだそうなんです」

 

「VTシステムと戦闘の最中に……なるほど。それなら君もあの子の記憶を見たってことね」

 

「僕はあくまでも一部でしたけどね」

 

「君とドイツ代表候補生が仲良くなった要因はわかったわ。それで? 君のことを"兄さん"と親しみを込めて読んでる理由はなんなのかしら」

 

「え、えっと、日本では尊敬している人を兄と呼ぶ文化があると言われたので……」

 

「日本の文化、ねぇ?」

 

 意味深に笑いながら腰を上げゆっくりとした足取りで更識さんは近づいてくる。彼女が一歩歩みを進め、僕が一歩下がるを繰り返してたら壁際まで追い詰められてしまう。逃げ道を塞ぐように更識さんは壁に手を置き、真っ直ぐと赤い瞳で見つめてくる。

 

「それで、ラウラ・ボーデヴィッヒさんはキラ君の記憶をどこまで覗いたのかしら。本人から相互意識干渉(クロッシング・アクセス)で覗いた範囲は聞いてるんでしょ?」

 

「そ、それを更識さんに話す理由は……」

 

「誰にも話さないって約束するわ。それに私と君の仲じゃない。ね?」

 

 妖艶に微笑み顔を近づけ耳元で囁く。鏡があれば自分が今どんな顔をしてれば分かるだろうけど、とても酷い顔をしてるのは間違いない。

 

「……前にも言いましたけど、誘惑するようなやり方はやめてください」

 

「簡単につれないのもお姉さん好きよ。誠実、というよりも君の場合は訳ありそうだけど。不愉快にさせてごめんなさいね」

 

「……謝るのなら初めからやらないでくださいよ」

 

「あらら。怒らせちゃった」

 

 苦言を漏らせば、とても反省したとは思えないこの人はチラリと舌を出して身を引く。色仕掛けする相手は選んでるような気がするから頭を抱えたくなってきた。此方としては冗談ではなく勘弁してほしい。

 重いため息を吐いて、どっと疲労を感じて経っているのも億劫になったので重くなった足取りで椅子へと向かい腰掛ける。ベットに置いてあったパソコンを手に取り、更識さんも僕と向かい合う形で椅子へと座る。

 

「そう言えばパソコンを持ってきて、なにをしていたんですか?」

 

「んー。この前の学年別トーナメントの録画された監視カメラに怪しい人がいないかどうかの確認中」

 

「……そんな重要なことをなぜ僕の部屋で?」

 

「生徒会室の次ぐらいに安全だもの。あっちで作業してたら虚ちゃんにバレて怒られちゃうし」

 

「それは分かりましたけど……生徒会長としての実務ってわけではないですよね、ソレ」

 

「流石にバレちゃう? 学年別トーナメントの終わった後にオータムから、シャルロットちゃんに連絡が入るんじゃないかと考えてたの。保険も入れて、観客席には信頼できる人間を数人ほど配置したんだけど……」

 

「……シャルロットには連絡はこず、観客席にも不審者はいなかったわけですか」

 

「そういうこと。……亡国機業(ファントム・タスク)の実働部隊のオータムはいなくて、外部の人間が学園の敷地内に入り込めるんだから工作員の1人や2人を送り込んでると睨んでたけど……考えすぎた?」

 

 眉を顰めて難しい顔をしながら更識さんは考え込む。シャルの今日1日の様子は怯えている様子はなく、再度オータムから連絡がくれば更識さんへと報告するようと念押しされている。

 

(……それにしてもこの人はいつも秘密裏に作業してるのか)

 

 集中して画面を凝視している彼女の姿。目の前の人に助けを求め巻き込んだのは確かに僕らだ。それなのにこの人はなにも言わず、それが当たり前かのように密かに全部1人で抱え込もうとする姿には納得がいかない。

 

「……録画してるデータを僕の端末と共有してください」

 

「えっ?」

 

「だから録画してるデータを共有してください。貴女を巻き込む選択をしたのは僕です。……手伝わなくていいなんて言わせませんから」

 

「ふふふっ、それならお言葉に甘えようかしら」

 

 驚いてた顔も一瞬で嬉しそうに笑みを浮かべる。普段よりも上機嫌そうなのは気のせいだろうか? 

 彼女のパソコンからデータを共有し、デイズプレイには防犯カメラの録画された映像が。録画されている数の多さにこの量を1人で捌くつもりだったのかと戦慄する。

 

「今ならまだ訂正受け付けるわよー? 映像だけとは言ってもこれも立派な裏社会に関係すること、何も知らないで日常を謳歌し続けるのが幸せよ?」

 

「お気遣いありがとうございます。だけど……何も知らないで、何もしないで後悔はしたくありませんから」

 

「そう。……不器用ね、君は」

 

 ボソリと小さな声で呟いたけど聞き取ることはできなかった。彼女は日常を謳歌するのが幸せだと。なら、裏社会にへと身を投げたこの人の幸せはいったい何処にあるのだろう? 

 それ以降は画面に映る映像を試合の初めからVTシステムの暴走が始まり観客席から人が避難するまでを何回も見直す。カチカチとマウスの音だけが聞こえる中で、まるで思い出したかのように更識さんは声を漏らす。

 

「……何か見つけました?」

 

「残念ながら違うのよ。こっちに集中してて忘れてたけど、ほら、前に取引でキラ君言ったじゃない? 織斑君を鍛えて欲しいって。今日彼と接触したからその報告をね」

 

「たしかに言ってましたね……」

 

 言われるまですっかりと頼んでいたのを忘れていた。忘れてたの? っと更識さんの呆れた眼差しから目を逸らす。あの時期は自暴自棄になっていて全て終わらせる事に頭がいっぱいだったんです。

 自らの行動をいま冷静に振り返れば全て最低じゃないか。大きな穴があったら今すぐにその穴の中に入りたい……というか数日部屋に閉じこもっていたい。

 

「ところで話は戻すんだけど、結局は記憶はどこまで見られたの? このままはぐらかすはお姉さんは許さないぞー?」

 

 両手で顔を隠すぐらい落ち込んでるのに、話題を戻すタイミングは配慮ぐらいはしてくださいよ。少しぐらいはこのまま話題が過ぎていくのを期待してはいましたけど。

 更識さんニコニコと微笑みを崩してないけど、机の下では逃す気はないと軽く足を踏まれていたりする。

 ミズイロノアクマとボヤきをため息で呑み込み素直に白状する。

 

「……彼女(ラウラ)は戦争に巻き込まれた時から、この世界にくる直前の記憶を覗いたそうです」

 

「納得する答えをありがとう。周りに攻撃的だったのに嘘のように棘が抜け落ちるには充分な理由ね。……逆を言えばその期間は人に影響を与える出来事があったわけだけど」

 

「……これって更識さんが把握する必要はあるんですか?」

 

「それは勿論。私は君の記憶を全て把握してないんだから、キラ君の関する事は些細なことでも共有をしておかないといざという時にカバーできなくなるじゃない」

 

「いや、そこまでしなくても……更識さんに関係がないというか」

 

「今更無関係と言われる方が傷ついちゃうぞー? 生徒会に入る際に約束したでしょ? 君を守るって。あの言葉を忘れてたら流石の私も怒るわよ」

 

「お、覚えてます。きちんと覚えてますよ」

 

 慌てて縦に首を張れば、よろしいっと呟き更識さんは満足したのか顔をほころばせる。また上手いように言い包められてしまって我ながら情けないよ……この人に勝てるのかと問われれば多分無理だけどさ。

 

「……珍しい。ちょっと失礼するわね」

 

 突如と甲高い音が部屋に鳴り響く。彼女は音を出した正体である携帯を取り出すとピクリと眉を顰めて席を立つ。

 それにしても録画された映像には怪しい人物は見当たらない。目まぐるしい変化がなく、同じ場面を永遠と見続けるのは存外退屈だ。

 

(……駄目だ。ちょっと、眠くなってきた……)

 

 集中力が途切れれば睡魔とは当然と襲ってくるもの。この日に限って久々に満腹になるまで食べたのが仇となり、抵抗も虚しく瞼は下がっていき意識をゆっくりと手放した──

 

 ◇◇◇

 

「ごめんねー。急に──あれ?」

 

 急に数日家を空けると連絡を入れてきた父との話は終え、居間へと戻ればモニターと睨み合っていた彼は机へとうつ伏せになっている。

 目を離した間に何かあったのかと慌てて近づけば、小さな寝息を立てており単なる睡魔にうち負け静かに寝ているだけだった。

 

「悪戯でもしちゃおうかしら」

 

 無防備に寝ている頰を指でツンツンと突いても目覚める気配はない。これを彼の起きている時にやったら、絶対顔を顰めて『──今すぐ止めてください』っと冷たく溜め息を吐くわよねー。

 

「本気で欲しくなってきてるのよね。生徒会だけじゃなく、側近として」

 

 うりうりと頰を突かれて苦しそうに顔を歪め呻き声を上げてる彼を見る。

 初めは正体不明の人物と警戒していたが蓋を開ければ好青年。私へとちょっと辛辣なのに目を瞑っても性格も問題なし。そして──ー

 

(キラ君は知っている。人を殺した後悔を、痛みを苦しみを……)

 

 同じ人を殺したとことがある歪な共通点が彼を欲してしまう。

 何故欲しがるのか? それは織斑千冬、山田真耶、凰鈴音のような保護欲ではない。シャルロット・デュノアのような恋愛感情じゃない。

 同類(人殺し)が陽があたる日常で共に生きているのだと確固たる安心感を得たいという醜いエゴイズム。

 

「……仕方ないじゃない。居心地がいいんだもの」

 

 誰だって怯えず、警戒する必要のない拠り所は欲しいじゃない。

 醜い感情を正当化させるためのただの言い訳。悪戯をすれば顔を顰めてため息を吐くが一度も人殺しの私を拒絶も軽蔑もしない彼が悪いもの。

 今からコソコソと怪しいことをやってくれればスパッと諦められるのにその気配は微塵もないのよね。

 裏切り? 此方が裏切らなければ彼から裏切るなんてことは絶対にない。誰かが人質に取られたり、私が非人道的なことを目の前でやらなければまず問題ないでしょう。

 

「駄目ね。感情を冷まさないと」

 

 これ以上の思考は駄目だと理性に警報が鳴る。1度でも気持ちが昂れば感情に従い間違いなくキラ・ヤマトを引き込んじゃう。それこそ全てを利用しながら。それぐらいに私は彼の身柄を欲してしまう。

 込み上げる感情を落ち着かせるために、今後織斑君の訓練内容へと思考を割いていれば苦しそうに魘されている声が聞こえる。

 

「大丈夫。ここに君を苦しめる今は何もないわ」

 

 魘される彼の頰に手を添えながら無駄だと知りながらも慰める。苦しんでいるのは彼の心が癒えていない何よりの証拠。

 苦しい過去は全て捨て去ればいい。悲しい記憶は全て忘却してしまえばいい。戦いたくないのならば力を捨てればいいのに。

 

「不器用ね……」

 

 だけど私は彼のそんな不器用な生き方が好きだ。心はボロボロなのに、逃げたくないと後悔はしたくないと彼の真っ直ぐで力強い眼差しにすっかり魅入られちゃった。

 昔に彼の瞳には優しさの裏に哀しみが隠れていると評したけど、その2つに隠れるようにまだ不安定だけど今は強い意志がある。

 

「だから私が守るわ。君の守りたい人も、君自身も」

 

 案外人の事を揶揄えない程度には彼に保護欲をくすぐられてるかも。だけどそれも悪くはないかと自然と口角が上がってしまう。

 まずは目の前で魘されているキラ君を目を覚まさせて落ち着かせることから始めましょうか──





今回は楯無さん視点でした。先にダレると言った私は悪くない(迫真)次が35話って投稿しながら気づいたけど……林間学校編いつ入れるんだろうネ!!いや、本当に!!予定では既に林間学校編始まってたんだが??おかしい…おかしい…(吐血)

誤字&脱字報告いつもありがとうございますっ!!感想も毎度してもらえてとても励みになっておりますっ!!次の更新は未定ですが気長にお待ちくださいー!!

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