翼を失くした少年   作:ラグーン

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リアルの忙しさ&展開の煮詰まりで遅くなりました!!!みなさん、ごめんなさい!!!!!
もう、オリジナル設定とか盛りまくってるので…笑って見逃してください()

ガンダムSEEDの劇場版も近いからみなさん許してくれますよね!?!?


第42話 自我を持つモノ

 

 

「ここまで送ってくださりありがとうございます」

 

「いいってことよ。愛娘を救ってくれたお礼にしては足りないぐらいさ」

 

 IS学園の校門前まで送り届けてくれた更識楯無の父──更識団蔵(だんぞう)に千冬は頭を下げる。

 

「……不思議と居心地が悪くて仕方ないわねぇ。お姉さんは先に戻ってていいかしら?」

 

「そのまま貴様だけ逃げようとしている魂胆はお見通しだぞ。絶対に逃がさん」

 

「ま、まあまあ……ほら、更識会長とラウラだって緊急事態で不問にされるかもだし……」

 

「……教官は私たちに今日の経緯を一から十まで話すまで解放しないだろう」

 

「シャルロットちゃんが代わりに説明してくれると私たちとしては大助かりかなーって」

 

「……その、それはつまり更識会長に頼み込んだ辺りからですか?」

 

「キラ君のお部屋で一晩過ごすことになった辺りかしら」

 

「……その、私は力になれないですね。あ、あははは」

 

(聞こえてないよね……!? この話織斑先生に聞こえてないよね!?)

 

 2人の弁護が出来るならと声を上げたシャルロットだが楯無の言葉で頬を引き攣り作り笑いを浮かべながら辞退する。

 自分がキラの部屋で一晩過ごして、そのまま勢いで抱いて欲しいとせがんだ事が発覚すれば、処刑宣告待ったなしと生徒簿を片手に持ち佇む千冬のことを想像して冷や汗を大量に流す。

 

(絶対にお説教どころじゃないよ……っ! なんなら退学とか、退学とか通告されてもおかしくないよ……っ!)

 

「おい待て。その話は兄さんから聞いてないぞ。そのことを一言一句説明しろ」

 

「そ、そんなことしてないよ!! うん!!」

 

「「──シャルロット!!」」

 

 目が泳いでいるシャルロットへラウラが問い詰めていれば、聞き慣れた2人の声がシャルロットの名前を呼びながら駆け寄ってくる。

 駆け寄ってくる2人とは織斑一夏と凰鈴音で、鈴音はそのままシャルロットへと抱きつく。

 

「……よかった。無事に戻って来てくれて……ほんっと心配したんだから……っ!」

 

「……ごめんね。沢山心配かけちゃって」

 

「目立った怪我とかはなくてよかった。……ところでキラはどうしたんだ?」

 

「……そうよ。あの馬鹿はどうしたの?」

 

「……キラは」

 

「キラ君は織斑先生が背負っているわ。気を失っていて暫くは目を覚まさないでしょう」

 

 キラの姿が見当たらないことに不安を抱いた一夏がシャルロットに聞けば、言いにくそうにしていたシャルロットの代わりに楯無が答える。

 一夏は気を失っていると知り複雑そうな顔を浮かべ、鈴は動揺が顔に出て僅かに狼狽える。

 

「ほ、本当に気を失ってるだけなのよね……?」

 

「織斑先生とお父さんが一通り診断はしてるから命に別条ないわ。……暫くは安静にしなきゃダメでしょうね」

 

「……そう」

 

 楯無の言葉に鈴は顔を俯かせていたが、次に顔を上げれば先の動揺は嘘だったかのように仏頂面が浮かんでいた。

 

(また誰かを庇ったんでしょ。それぐらいわかるわよ……キラが倒れるのはいっつも誰かを守る時だから)

 

 キラが倒れている理由なんて教わらなくとも鈴は持ち前の鋭さと、過去に庇われた内の1人なこともあり意識を失くした理由を見抜いていた。

 誰かを庇う、それが立派な行動で人として褒められるべき行為なのは頭ではわかっているが鈴は感情では納得できずにいる。

 

(あー! もうっ!! わかんないけどむしゃくしゃするのよねぇ!! 自分はそれが当たり前だって思ってるのが、なんか腹立つのよ!!)

 

 例えば教師である千冬が同じ行動をしても鈴はすんなりと受け入れることが出来るだろう。

 だが彼が他人を庇うのには苛立ちが優ってしまう。

 苛立ちの原因を鈴の脳内CPUで数秒悩んだ結果、この苛立ちは後に目が覚めた本人にぶつけると理不尽な解答が導き出された。

 

(……やっぱりあの時に無理にでもついて行くように言っていればっ)

 

 鈴が理不尽な結論を叩き出している間に一夏も気絶しているキラの姿を見て自分の選択に後悔の念に駆られていた。

 隠しているようだがラウラも楯無も顔色が少し悪く、体を痛めているのかときおりその場所を摩ったりと激しい戦いだったのが想像つく。

 

(わかってるさ。俺が向かったところで足手纏いになるってのはさ……だけどよ……友達がボロボロになってるのを黙って指を咥え続けるのも限界だ)

 

 一夏は指を咥えて見送った自分の力の無さにぎゅと拳を握る。今日も助けに向かう2人の背中をただ黙って彼は見送った。

 勢い任せに飛び出していれば傍にいた鈴も一緒に着いてくるのが目に見えていて自分はまだ弱い、足手纏いになると言い聞かせて必死に堪えた。

 けれど気を失っている友達のキラの姿をこうも見続ければ自分の気持ちを誤魔化すのにも限界が近かった。

 

「や、やっと……追いついた……急に走らないでください〜!」

 

「「あっ……」」

 

 そんな2人の思考を止めるかのように息を切らしてへろへろな真耶が校門前へと合流する。

 すっかり彼女のことを置いて走ってきたのを忘れてたのを思い出してすみませんと慌てて2人は頭を下げた。

 

「ああ、山田先生丁度よかった」

 

「織斑先生おか──キラ君っ!? キラ君は大丈夫なんですかっ!?」

 

「おそらくはな。忙しい中すまないがこのまま山田先生も手を貸してくれると助かる」

 

「当然ですよ! キラ君を横にするのはあの部屋でいいんですよね? 先に戻って準備してますね!」

 

 思い立ったらすぐ行動と真耶はさっきまで息を切らしていたのが嘘かのようにIS学園へと逆走していく。

 その後ろ姿を団蔵は口笛を鳴らして羨ましそうに呟く。

 

「こんなに周りが世話を焼くなんて愛されている証拠だな。特に美人に甲斐甲斐しく世話されるのは羨ましいものだよ。千冬ちゃんもその少年に入れ込んでいるようだしね」

 

「……んんっ、余計なことは言わないでいただきたい」

 

「はははっ、これは彼女へいい土産話になりそうだ。……だが今後はそこの少年は狙われるぞ。あの女は一度欲しいと欲求が動けば、物であろうと人間だろうと、どんな手を使ってでも手に入れようとする煩わしい女だ」

 

「それは長年に得た経験からくるものですか?」

 

「そのおかげで片腕と片足を持ってかれたがね。だがあの女にしては一つ解せない点がある」

 

「理解できないとは?」

 

「たかが"経験者"という理由でスコールがそこの少年を欲したことさ。それだけの理由でリスクを背負いながら自ら勧誘するなどにわかには信じられん……おそらくはその少年が奴の興味を引くなにかがあるのかねぇ?」

 

(引退したとはいえ更識家前当主。流石の頭の回転の速さだな……)

 

 団蔵がキラに秘密があるのでは? っと考えにあっさりと至ったことに千冬は尊敬の念を抱く。

 現にキラは公にしてはならない秘密が多くある。

 上げればキリがないが異世界人、ストライクはISではなく元はMSと呼ばれた人型機動兵器、そしてこれはまだ千冬も知っていないが彼は人の手によって生み出された人類の理想──最高のコーディネイターなど。

 これが団蔵の耳に入ろうものなら狙われるのも無理はないと納得せざる得ないほどに。

 千冬は団蔵にキラの秘密を正直に話はしないが、そんなところですよと曖昧に返せば不憫な目でキラを観ながら話を続ける。

 

「最近は組織も活発に動いている気配があるからな。その最中にあの女に狙われたのならとんだ不運だよ、その少年は」

 

「……私としてはキラには平穏に暮らしてほしいんですがね」

 

「さてね、それは奴らの出方次第だろうさ。……しっかし、似てるんじゃないか……?」

 

「似ている……?」

 

「うはは、ただの独り言だから気にしないでくれ」

 

(……間近で見れば似ている。彼女が突然と日本へ帰国すると連絡を入れたのに関係があるのか? それとも偶然か……)

 

 団蔵が瞼を閉じて眠っているキラをマジマジと見つめるのを千冬は怪訝そうに見て、それに気づいた団蔵は笑いながら誤魔化す。

 煙草を咥えて火をつけながら昏睡状態のキラと突然と帰国をしたいと頼み込んできた彼女の容姿が重なる。

 

(情報が足りなさすぎる。これは引退などと呑気に平和ボケしてる暇はないかもな。……これはちょっと彼女を問い詰めねえとなぁ)

 

 団蔵は失った左腕と右足を視線に入れながら煙を吐き出す。

 目の前の気絶している少年と彼女に繋がりがあるのなら、団蔵は怪我を理由に隠居したいのを撤回しなければいけなくなる。

 当主の座は娘である楯無に譲っているが"彼女"の件を未熟な娘が背負うにはあまりにも早すぎる。

 

「まっ、オレはこれで失礼しようかね。彼女にも千冬ちゃんと弟くんは元気にしてたって伝えておくぜ」

 

「よろしくお願いします。……時間があれば一夏に会いに来てくださいと、伝言もお願いします」

 

「了解っと。……弟くんにはまだ言ってないのかい?」

 

「……一夏にはまだ早いですから。せめてこの学園を卒業するまでは」

 

「過保護だねぇ……千冬ちゃんの気持ちもわからなくはないがね。……それと!! 楯無はサッサっと姉妹喧嘩を終わらせておけよ!!」

 

 団蔵は最後に楯無に聞こえるように大声で言えば千冬にそれじゃあと一声かけて車を走らせて去っていった。

 自分に聞こえるように言ってきたことに楯無は嫌そうに大きなため息を吐き、それを見た一夏とシャルロットがまあまあと宥めていた。

 

「楯無とラウラは私について来い。特に楯無、包み隠さず全て話せよ?」

 

「はーい。はぁ、ここでキラ君が起きてたら楽だったのに……」

 

「……了解しました」

 

「あ、あの、私も……っ!」

 

「シャルロットは休め。お前からは後日話を聞く。一夏、鈴音の2人はシャルロットと極力一緒にいてやれ」

 

「わかったよ、千冬姉」

 

「わかりました。ほら、シャルロット行くわよ。今日は疲れただろうしゆっくり休みましょ」

 

 シャルロットは釈然としていなかったが鈴が彼女の背中を押して無理矢理連れて行き、2人の後を追うように一夏もIS学園の方へと戻って行く。

 

「私たちも行くぞ」

 

「あの、ちなみにキラ君はそのままおぶったままで学園に……?」

 

「仕方あるまい。それとも引き摺りながら連れて行けというのか?」

 

「いえ、そういうわけじゃ……しばらくはまた学園内が賑やかになるかなーっと」

 

「なら私が兄さんを連れて行こう。たかが噂の一つや二つ、私と兄さんの仲ならば問題はあるまい」

 

「……キラ君としてはそっちの方が放課後になったら自室に引き篭もるんじゃない?」

 

 気絶しているキラを千冬の代わりに連れて行く満々のラウラを尻目に、作り笑いを浮かべながら部屋に引き篭もるの少年を幻視した楯無は名誉の為に止めることにした。

 華奢な見た目に反してラウラは軍人でもあるため、同年齢の女子に比べれば体力や筋力は充分に兼ね備えているが身長はその限りではない。

 普段の私生活の印象で忘れがちだがキラの身長は165cmはあり、ラウラの身長は148cmと10cm程の差が実はあったりする。

 そんなラウラがキラを背負うのはまずほぼ不可能に近いので、もし仮に彼女が彼を運ぶとすれば高確率で俗にいうお姫様抱っこになるだろう。

 ちなみにこれは完全な余談なのだが一夏の身長は172cmだったりする。

 

「……兄さんは案外気にするからな」

 

 ラウラは楯無の静止を反論したかったが、躊躇なく部屋に引き篭もるのを選択する兄が容易に想像できて素直に身を引くほかなかった。

 これを口実に朝食や夕食まで食堂でしばらく食べないと宣言されれば、実行犯のラウラは実力行使でしか彼を部屋から引き摺り出す方法しか思い浮かばない。もっとも部屋に引き篭もるのが鈴の耳に入ればキラは問答無用で食堂へ連行されるのだが。

 

「なに馬鹿なことを話しているんだ。サッサっと行くぞ」

 

 楯無とラウラの話を呆れながらツカツカと靴音を鳴らしながら先頭を歩きその背中を楯無とラウラは後を追う。

 IS学園へと足を踏み入れれば大勢の生徒がキラを背負っている千冬へと視線は集まる。背負っているのが千冬でなければ誰かが興味本位で話しかけただろうが注目が浴びる程度ですんでいるのは彼女の貫禄のおかげだろう。

 

(噂は七十五日とは言うけどこれは簡単には消えなさそうねぇ……これは簡単には上書きできないかも)

 

 キラが起きた時のストレスを最小限に収めようと楯無はこの話題をどうやって打ち消そうかと思考を巡らせるものの、これ以上に周りが食いつきそうなネタがないことに頭を悩ませてしまう。

 

「……この道は」

 

 やがて人通りも少なくなり、教師以外立ち入り禁止とコーンが立った道へと千冬は迷うことなく足を踏み入れる。

 千冬が足を踏み入れたこの廊下を最近渡ったことをラウラは思い出す。教師以外立ち入り禁止と書かれているのにこのまま着いて行っていいのかとラウラは一瞬躊躇するが、隣にいた楯無は躊躇いもなく入って行くのでそれを見たラウラは迷いながらも歩みを進める。

 

(織斑先生が彼をこの部屋に連れてくるのを何度かあるけど……ここに特別な意味でもあるのかしら?)

 

 IS学園でも特に人が足を運ばないとある一室の前まで3人は辿り着く。千冬が目指していた場所がこの部屋だろうと、楯無は初めから見当をつけていた。

 キラが気を失った時は保健室ではなく必ずと言っていいほどこの人の気配が微塵も感じないこの一室へと連れて来る。

 楯無の推測は正しく、この一室は彼が入寮する前に過ごしていた場所で千冬とキラが初めて会話をした思い出の場所だ。

 

「──あっ、みなさん来たんですね! ちょうど準備が終わったところです!」

 

「ありがとう。いつもすまないな、山田先生」

 

「いえ。私が好きでやってることですよ。……それにキラ君を放っておくことなんて出来ませんから」

 

 綺麗に整えられたベットの上に千冬はキラを下ろして、そのまま真耶と2人で慣れた手つきで彼を横にして毛布を被せる。

 呼吸は小さいが一定のリズムを保っており、容態が落ち着いているのを確認できたことに真耶はほっと胸を撫で下ろす。

 

「……さてと。貴様ら2人をここに連れてきた理由は分かっているだろうな?」

 

「……はい」

 

「私としては後日改めてにしてくれると非常に助かりますし、嬉しいんですけど……」

 

「キラから擁護してもらおうと魂胆はお見通しだからな、更識」

 

 千冬に見透かされていたことにですよねーっと唇を尖らせて肩を竦めながら楯無は抵抗を素直に諦めることにした。

 まず千冬だけではなく真耶も逃さないと真面目な表情で2人を見つめていたのでどちらにしろ逃げるのは不可能だっただろう。

 

「私はなにを話せばいいんですかー? 聞きたいことなんてない、っといつものように厳しく突っぱねてもいいですよ」

 

「まずこれを聞いておくぞ。キラを巻き込んだのは更識、お前か?」

 

「その巻き込んだの定義によりますが、その答えはノーです」

 

 千冬に問いに楯無は臆することなく扇子を広げながら否定する。それが真か嘘かと見極めるために数秒の間千冬は楯無の目を見ていたが、その言葉が嘘ではないと分かると疑ったことに謝罪する。

 

「私も織斑先生も2人が狙われる経緯を知らないから更識さんが知っている限り教えてくれると助かるかな」

 

「ええ、もちろんです」

 

 楯無はことの発端を2人に話し始める。

 シャルロットがオータムに利用されていたこと、精神が追い詰められた彼女がキラへ助けを求めたこと。そして彼女の話を聞いた彼は藁にもすがる思いで力を貸してほしいと楯無に頼み込んだことを。

 

「……私たちが気づかないうちにそんなことが起きてたなんて」

 

「気づかれないように私も最善な注意を払って動いてましたので。だから本来の作戦であるオータムを誘き出し、秘密裏にこの件を終わらせたかったんですけど……」

 

「その作戦が決行する前にオータム、そしてスコール・ミューゼルの手によって2人が誘拐されたというわけか」

 

「はい。スコールが関与してきたのが想定外でした。おそらくですけど、シャルロットちゃんとキラ君を直接誘拐することに切り替えたのは彼女の提案でしょう」

 

「えっと、その根拠はあったりするのかな?」

 

「スコールは学年別トーナメントに潜入していたんです。それでキラ君とVTシステムの戦闘を目の当たりにした彼女は彼の戦闘センスの高さに魅入られオータムの作戦に関与したかと」

 

「……中途半端に誤魔化すな。他にも理由があるはずだ、そうだろう?」

 

「それは言わぬが花じゃないですかぁ」

 

 いつキラが目を覚ますか分からないため楯無は彼の精神状態に配慮して明言を避けるが、暗にスコールがキラが人を殺した過去を見抜いていると言っているようなもので部屋の空気がいっそ重くなる。

 

亡国機業(ファントム・タスク)に目を付けられるのは遅かれ早かれ時間の問題だったかと。私も似たような理由で当初はキラ君に対して警戒を抱いてましたので」

 

「だからと言って組織に狙われるのは納得がいかないよ。キラ君は望んでそんなことをやってきたわけじゃないのに……」

 

 亡国機業(ファントム・タスク)にキラが狙われたことに真耶は自分のことかのように哀しそうに嘆く。

 真耶はキラが戦争の中で望んで引き金を引き続けたわけじゃないのをとっくの前から見抜いていた。

 心優しく穏やかな彼が過酷な戦争の中でどれだけ心を痛め、苦しみ、悲しんだのかと想像するだけで真耶は胸が締め付けられる。

 摩耗して戦いそのものを退避している彼を手中に収めようとするテロ組織に真耶は怒りを抱くがそれを見かねた千冬が咳払いをして話題を変える。

 

亡国機業(ファントム・タスク)への対策は後に話そう。ラウラ、VTシステムをいまだにISへ搭載しているのはどういう了見だ?」

 

「……それはっ」

 

「そうラウラちゃんを威圧しないでくださいよ織斑先生。ちょっとやむを得ない事情があると言いますか……」

 

「ラウラさんはどうしてVTシステムを専用機に搭載してるのかな? それがとても危険なのはラウラさんもよく知っているはず。きっとそうしないといけない理由があったんだよね?」

 

 鋭く睨む千冬を楯無はまあまあと宥める隙に、真耶が諭すようにラウラがVTシステムを搭載したその理由を聞き出そうとするが言葉にするのを躊躇うかのようにラウラは口を開けない。

 誰もがラウラが言葉を発するのを沈黙で待ち続ける中で、その静寂を破る新たな声が部屋に響く。

 

『──我が搭乗者(パイロット)が禁忌である私を搭載している理由については私から説明しましょう』 

 

 沈黙を破ったのはVTシステムそのものだった。

 ラウラの待機状態のISから機械音声が発せられており、システムの方から話しかけられるのは想定外だったためラウラ以外の全員が驚く。

 

「その声はVTシステムか」

 

『こうして貴女と邂逅するとは流石の私も予想外でした。オリジナルである織斑千冬。貴女と出会えば私という存在は激情に駆られると思っていましたが……いえ、それも貴女に対してよりも、そこに無様に眠っている男が身近にいるのが原因でしょう』

 

「あー、完璧にVTシステムですねぇ。キラ君に敵意剥き出しにしてるところとか」

 

「この際お前がキラに対して敵意を抱いているのは後回しだ。ラウラがVTシステムを搭載しているその訳を洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

(あわわわ、織斑先生は相当怒ってるけどどうしよう!?)

 

(これ私帰ってもいいかしら……? 怒った織斑先生の相手なんて金輪際ごめんなんですけど……避難しときましょ)

 

 気が立っている千冬に真耶は慌て、楯無は巻き込まれないようにこっそりとキラのベットのそばに近寄る。

 口笛を吹きながら安全地帯へと避難した楯無を恨めしそうにラウラは睨むが当事者である彼女は当然逃げられることはなくVTが話を続ける。

 

『私は本来ただの戦闘システムに過ぎないのは貴女たちも存じている通りだ。このように他者とコミニケーションができるように設計などされてはいません』

 

「確かにVTシステムがこうやって人と会話をした、なんて前例は聞いたことがありません」

 

「……VTシステム。お前が意思を持ち、このように会話が出来ているのはISコアが関係しているのか?」

 

『ご明察通りです。我が搭乗者(パイロット)が搭載しているISコアと私が深く結びついてしまったのが原因です。私というシステムが起動する条件はみな知っていますね?』

 

「操縦者の強い願望や感情に反応すると話は聞いてますけど……まさかISコアもラウラさんのその感情を?」

 

『話が早くて助かります。VTシステムが搭載された場所がISコアの付近であったのが悪かったのでしょう……彼女(ラウラ)の勝ちたいという強い願望で起動した私にISコアも共に感化され、感情を読み取り私を拒むどころか同調し、むしろ取り込んだのです』

 

「シュヴァルツェア・レーゲンは貴様を異物としてではなく、ISのシステムの一つとして受け入れ最適化をしたということか……」

 

『ええ。私を元からISのシステムの一種だと定義し、私の抱えていた使用した操縦者の負担を考慮しない致命的な欠陥部分をコアと深く結びつけることにより無理矢理解決させることに至りました』

 

「そんな無茶苦茶なって言いたいところだけど、ISコアは天災ですらも完璧に把握していないと噂されてるから否定できないのよねぇ……ちなみにこうやってコミニケーションが取れる理由はどうなのかしら?」

 

『私がこのように外部と会話ができるのはバグですよ。ISコアの感情を代弁したいようなものなので本来は操縦者であるラウラだけに聞こえるように調整したのですが……』

 

「ま、待ってください!? 貴女はVTシステムだけではなく、えっと、まさか、シュヴァルツェア・レーゲンのAIそのものですか……っ!?」

 

『そのように捉えてもらって構いません』

 

 真耶は喋っているVTシステムが、実はISに搭載されているAIと知り驚きのあまりに大きな声を上げる。

 真耶が驚いている中で楯無の事前に知っていたかのような態度に千冬は引っ掛かりを覚え問い詰める。

 

「楯無、お前はいつからラウラがVTシステムを搭載しているのを知っていた?」

 

「それは彼女にこの件の要請を頼んだ時に。流石にシュヴァルツェア・レーゲンのAIについては予想外でしたけど。……私の仕事増えると思います?」

 

「それについてはシュヴァルツェア・レーゲンのAI次第だろう」

 

 楯無の困り果てた嘆きに心情を察した千冬は両肩を竦めた。

 真耶は2人だけが通じ合ってることに顔を見合わせて不思議そうし、それを千冬がわかりやすく説明を始める。

 

「更識が警戒しているのはシュヴァルツェア・レーゲンを裏で強引に手に入れようとする輩が現れることだ。ISそのものと会話ができるのなら、明かされていないことの多いコアの情報をAIから直接知ることができるだろう? ドイツがその情報が各国と共有するならばともかく、独占することを選べば世界がそれを許すわけがない」

 

「……ドイツが独占する道を選んだら最悪は戦争とかあるんじゃないですか?」

 

「せ、戦争ですかっ!? たしかにまだ沢山のことが謎に包まれているISコアですけど、その情報を手に入れるために争いに発展するなんて……」

 

『ありえますね。秘密の多いISコアの情報を、私から手に入れることが出来ると知ればリスクがあろうとも行動に移すでしょう。生産が止まっているコアを、自らの国で開発することが可能になればどの国よりも優れ、量産もでき、世界を制するのも夢ではありませんから』

 

「……なんかいつの間にか世界の命運が決まるような爆弾がここに出現しちゃったんですけどぉ」

 

『何を言っているのです? 世界の命運が決まるのはとうの昔に"ここ"にありますよ。人類という種を進化させ──』

 

「──ヴァルキリー、それ以上の発言は慎め。もし続けるのならば私はお前を、コアそのもの初期化させるぞ」

 

 これまで静かに黙っていたラウラは声色を下げ、怒りを露わにしながらヴァルキリーの言葉を遮る。

 気絶しているキラが誰にも秘密を明かしていないのもあるが、彼の出生を利用するかのような物言いには不快感を抱いた。

 

『……どうやら私は彼女の機嫌を損ねたようなので本日は大人しく黙っておくことにします。あとは我が搭乗者(パイロット)が説明を引き継ぐでしょう』

 

 ラウラの機嫌を損ねたのを居心地が悪くなったのか、ヴァルキリーはそのままスリープモードへ移行する。

 3人が2人の僅かなやりとりでどちらが主従関係が上なのか理解するには充分だった。

 

「本日のような緊急時、そして兄さんが戦闘時に錯乱しなければVTシステムは使いません」

 

「……VTシステムが外せないのも概ね理解した。今回のような命に関わる状況下なら、目を瞑ろう」

 

「おっ、織斑先生!? VTシステムはアラスカ条約で禁止されてるんですよ!?」

 

「だけどISコアと同化しちゃってる以上はコアを解体でもしないと取り外すことはできませんよ? ……これは独り言なんですけど亡国機業《ファントム・タスク》と相対する時に、いざという時の切り札の一つとしてあるのはとても助かるんですよねぇ」

 

 1人の生徒の冗談と注意をするには重い言葉に真耶は言葉を詰まらせる。

 テロ組織の手口を対策を立てられるのはほぼ楯無1人。戦力としては絶対的な千冬がいるものの自由に動けるとは言い難く、自由に動け相応の力を持つ戦力が少しでも欲しいのが楯無の本音だ。

 

「まぁ、しばらくはVTシステムにお世話になることもないですよ。オータムの専用機も当分は使い物にならなくなったので、下手にちょっかいはかけてきませんよ。キラ君がものの見事にダルマにしましたし」

 

「ああ、だからあの女はISを身に纏っていなかったのか」

 

「……ダルマ……」

 

 千冬はオータムがISを身に纏っていなかったのを思い出す。

 真耶は楯無のダルマという言葉に、キラが高笑いをしながら敵ISの装甲を剥がしていく姿をつい想像してしまう。

 

「今日の事態はおおむね理解した。……ラウラ、VTシステムをキラとの戦闘時に扱う時は可能ならば私に連絡を入れろ」

 

「教官にですか……?」

 

「なんだ、不服か?」

 

「い、いえ! むしろ教官が手伝ってもらえるならば兄さんの暴走を確実に止めることができるので願ったり叶ったりといいますか……」

 

「そんなにやばいの? 本気のキラ君って」

 

「……教官を除けば、更識楯無、山田副担任、そしてVTシステムの3人で一斉にかかれば今の兄さんならば止められるだろうな」

 

 楯無の質問に答えながらラウラが思い出すのはストライクで戦場を駆け回る彼の姿。

 完成されようともストライクなら上記の3人で連携をとれば止められる確率はあるとラウラは予測を立てている。

 

「そのお話はまた後日にしましょう。……少なくとも、キラ君の目の前ではするものではありません」

 

「はーい」

 

「……了解です」

 

「時間も時間だ。あとは私たちでキラの様子を見ておく。お前たちも今日はもう休め」

 

「あっ、それは私が引き受けますよ」

 

「……その理由は?」

 

「あははは、適材適所で納得してくますか?」

 

 楯無が主語もなく具体性も明かさないのをこのメンバーでは言えない内容だと千冬は察する。

 取り締まる千冬が小さくため息を吐いて、仕方ないと呟けばそれに真耶もラウラも異論は唱えなかった。

 

「ならキラのことは更識に一任しておくが、なにかあればすぐに私に報告しろ。いいな?」

 

「はい。彼の身に何かあったらすぐに連絡を入れますー」

 

 相変わらず気の抜けた返事で軽く頭が痛くなる千冬だったが、こればかりは仕方がないと心中で吐露をして真耶とラウラを連れ部屋を後にした。

 

 

◇◇◇

 

 

「……ここ、は……」

 

 目が覚めれば見慣れた天井が視界に映り込む。

 上体を起こそうとしたけど片腕が痺れて動かせずに断念する。

 

「──はーい。よく眠れたかしら?」

 

「……さら、しきさん……」

 

「その様子だと此処が何処なのか理解しているようね」

 

 心配そうに顔を覗き込んでくる更識さんを見て、ここはIS学園なんだって確信を得て──同時に記憶が鮮明に蘇ってくる。

 

「……っ……ぼく、は……っ」

 

 ハイパーセンサーでよりハッキリと視覚できたオータムの震えた声、引き攣った表情がフラッシュバックする。

 戦意が折れた相手だった。死にたくないと降伏を訴えてきたはずなのに……っ。

 

「……命乞いをする、相手を殺そうと……っ!!」

 

 呼吸が苦しい。胸から込み上げてくる感情を堪えるために毛布を強く握る。

 これまで戦ってきた人たちの多くは自分の考えに順じて行動していて、命乞いをされるのは初めてだった。

 オータムは確かに悪人だ。だけど僕は……? 

 悪だからと一方的に非難をして、悲劇を繰り返さないようにと使命感を抱いて殺そうとしたじゃないか。

 

「……ううぅぅ……っ!!」

 

「我慢しなくていいのよ。……今はただ泣きなさいな」

 

「だけど……僕は……っ!」

 

 突然と更識さんの胸へと優しく抱き寄せられる。

 

「その痛みは良心がある立派な証拠よ。貴方は決して外道なんかじゃない。だからもう自分を責めるのは止めなさい」

 

 自分を責めるなと、その後押しに嗚咽を殺しながら泣き叫んだ。

 子供のように泣きじゃくる僕をあやしながら、大丈夫だからっと愛おしそうに囁いた──

 

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