翼を失くした少年   作:ラグーン

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更新が遅くなっちゃいましたっ!ちょっとスランプ気味&当初考えていなかった展開でめちゃくちゃ遅れました!…だいぶ前から当初の予定と展開変わってたりするんですけどね!!楯無さんのサイドの女子会つっこんだので許してください…()


第47話 持つものと、持たざるもの

 

「虚ちゃんが入れる緑茶は最高ね〜。体にこの一杯が体に染み渡るわー」

 

「まるでお年寄りのようなことを言わないでください。でも最近は働き詰めですよ?あまりご無理はなさらないでください」

 

「心配ありがとうね。んんっ、生活習慣もズレてるから戻しとかないと」

 

 2人は寮の自室でYシャツ姿の更識楯無と制服姿の布仏虚の2人が休息を取っていた。

 目が覚めて間もない楯無は虚が淹れた緑茶を火傷しないように気をつけながらお茶を飲む。

 

「数日は彼のお世話をすると聞いた時は耳を疑いましたよ」

 

「そう?」

 

「お嬢様が彼を個人的に気に入っているのは承知していましたが率先してお世話するとは思っていなかったので」

 

「彼が取り乱した責任も取らないといけなかったしねー。それに今回は学園内で私以外にあの子を支えてあげられる人いないもの」

 

「それは自意識過剰では?」

 

「自意識過剰で片付けられるならよかったけど。織斑先生と山田先生でも今回ばかりは役不足なの」

 

 織斑千冬はもはや語るまでもないが、山田真耶もお淑やかとその愛嬌で生徒に弄られることは多々あるがいざとなれば大人として頼れる女性だ。

 普段は猫のように気紛れで、やる気がないとボヤいている楯無ではあるが、幼い時から鍛えられた洞察力と観察眼を虚は信頼している。しかし、今回ばかりは彼女の意見に疑問を抱いてしまう。

 

「私としてはあの2人が役不足と聞いても、疑問を持ってしまうのが正直なところですよ」

 

「内容次第では相談する人はころころ変わるでしょ?人間関係の相談ぐらいならその2人ならあっさり解決するし、それこそ仲の良い鈴音さんやシャルロットちゃんで充分よ。だけど今回はそうじゃなかった。それだけの話ね」

 

「……私にも話せないと?」

 

「まあねぇ。こればっかりは彼の過去に関わるし、無断で話したら信頼を裏切っちゃうから」

 

「随分と彼のことを気に入っているんですね。執着してると、言い換えた方が良さそうですか?」

 

「執着って……否定はできませんけどぉ」

 

 痛いところを幼馴染に突かれて苦虫を潰したような顔を浮かべる。その顔を見て仕返しが成功したで虚は頬を緩める。

 それが合図だったように更織家当主、その付き人としてではなくただの幼馴染としての話が始まる。

 

「やっぱキラ君を林間学校に行くように背中押しちゃったの失敗だったかも……」

 

「一日は自由時間だから友達と思い出作りや、それで気分転換になるからいいんじゃないかな?」

 

「あの子がどれだけ追い詰められてるのを分かってるから心配が勝るの。あと私も一緒に行きたかった!!」

 

「……今から向かうとか駄目だからね?」

 

「わかってますぅー!でも一緒に行けるあの子達羨ましいじゃない。あの子揶揄うの楽しいし、イジっても嫌々ながら付き合ってくれるし……なにより色んなことを忘れるぐらいに連れ回してあげたかった」

 

 これは楯無の嘘偽りのない本音。彼が様々な感情に蓋をして、多くの出来事を背負い、心身を削りながら歩いているのを楯無は見抜いている。

 心を蝕まれ、満足に日常生活もすることもままならない。そんな少年に一日ぐらい、過去、罪を、繋がれている鎖から忘れてさせて自由に楽しませてあげたい。

 

「今頃1人で泣いてないといいけど……」

 

 現状のキラの精神は快調から程遠いものの合宿へと向かい、人前でも喋れるぐらいに回復しているのは楯無の手腕である。

 数日間の間に楯無は甲斐甲斐しく世話を焼いた。授業は休み一緒に居るのを心掛け、虚な目で窓から空を見る彼へ語りかけ、食事は食べるように呼びかけ、魘されていれば、眠れなければ一緒に起き寝息を立てるまで寄り添った。

 楯無がやったことは献身的に彼を支えただけ。戦後、心の傷が癒えていない少年に、本来与えなければならない環境を一時的に彼女は用意した。

 

 

「まだ未定だけど……夏休み期間は彼とルームメイトになるかも知れないから」

 

「また突然ですね。夏休み期間となると……二ヶ月ぐらい?」

 

「林間学校から戻ってきたあの子の様子次第ではあるけどね」

 

 幼馴染の突拍子のない発言に本音は深くは追求はしない。そういう時大体は楯無の中で最優先事項なのを知っているからだ。

 この提案は楯無も冗談ではなく本気で考えていること。合宿前のメンタルの酷さを目の当たりにしていて、戻ってきても改善されてなかったら一直線に心が壊れる可能性はゼロじゃない。

 第一に戦後の傷を当人が隠しているだけで癒えていない。悟られないよう生活している分、むしろ悪化していっているのではないかと楯無は考えている。

 

「一度決めたら実行するのが貴女だから止めはしないけど……織斑先生や山田先生はどう説得するの?」

 

「織斑先生は私に“貸し“があるから。いつ使うか悩んでいたけど、これで見逃してくれるなら安いものよねー。山田先生はしっかり説明すれば頷いてくれるでしょ」

 

 織斑千冬は楯無に作っている貸しとは、この世界でキラが生きていくために作り上げた戸籍のこと。理由を明かさず、戸籍を作るのを頼まれたことは今となれば納得するがそれはそれ。

 山田真耶は少年の精神を癒すためと誠心誠意話し、彼女の良心に訴えれば最後には了承する姿が目に浮かぶ。

 この若さで更織家当主を引き継いでいるのだ。人たらし本領発揮すれば織斑千冬以外は陥落するのも容易いこと。

 

「二ヶ月間は療養に専念させてあげなきゃ。できるなら自然豊かで人の目が少ないところのコテージとか借りてゆっくりさせてあげたいけど……」

 

「この前の誘拐があるからできないわけだね。シャルロットさんも本国への帰国、不要な外出は控えるように言うべきかも」

 

「それは彼女が戻ってきたら伝える。出掛けるにしてもラウラちゃんか、山田先生に同伴するように頼んでおくわ」

 

「ちなみにだけど学園祭の準備とか、計画とかもある忘れないでね」

 

「それは片手間で終わらせるから大丈夫。今年は男性操縦者2人を上手に使えば上手くいくでしょう」

 

「……それで思い出した。部活動から生徒会室へ抗議がきてたよ。生徒会だけ男性操縦者の1人を占領するのは不公平だって」

 

 とっくの前に終息したと思っていた抗議を、幼馴染の口から聞かされて長い長いため息を吐いた。

 生徒会長の権限を使い、文句があるのならば私を倒せと突き返すことは簡単なのだが……各部活の部長一人一人相手をするほど暇ではない。

「……織斑君を日替わり制で部活動へ入部させたらいいんじゃないー?どうせ適当な理由を付けて彼らと話したいだけでしょ。近いうちに彼も生徒会に入れる予定だし、名目上肩書き与えたら周りも黙るでしょう」

 

 数秒の思考の末に楯無は織斑一夏を人柱に立てることにした。

 

「……それはいい案ではあるけど。織斑一夏君はそれを納得できる?」

 

「上手いこと丸め込む。そ・れ・に鍛えて上げるとは言ったけど、私は一言もタダとは言ってないし?キラ君のお願いの内容も対価を要求しないとまでは言ってないから問題ないわよねー」

 

 一夏を鍛えるよう頼んだキラがこの場にいれば、詐欺では?と制止しただろうが林間合宿で生憎の不在。

 目の前の幼馴染も生徒会に抗議が入るのを流石にわずわらしいと思っているのでその案を止めることはない。一夏を人柱にする案を止める人物がこの場にいないのである。

 

「キラ君はどうするの?部長たちはあの子にも入部すべきと考えているようだけど」

 

「えっ?生徒会一本だけど。交渉して、本人の意思で生徒会に入るのを選んだ、それなら本人の意思を尊重しなきゃ」

 

「楯無、凄く悪い顔してるよ」

 

「さあー。なんのことかお姉さんわからないかなー」

 

 言葉にしていないが、要するにキラは生徒会、楯無のモノだから手を出すなと暗に示している。

 嫌いになれば辞めてもいいとは初めに伝えている。それなのに顔を出して真面目に仕事をこなしている。それが少年の答えだと楯無は知っている。

 それなら楯無が取る行動は単純明快。生徒会長として可愛い庶務見習いの意思を守るだけ。

 

「私情には私情で返すのが礼儀でしょう?」

 

 一夏には、いつか背中を刺されないよう一言忠告するぐらいの愛着を抱いているが、彼が女性に囲まれようと楯無は大して興味はない。なので織斑一夏と親密になりたいと相談を受ければお膳立てはする。

 片想いをしている彼女たちが、勝手に牽制して失敗に終わって丸く収まるのを簡単に想像できるからだ。 

 

(——共有なんて馬鹿げた提案呑むわけないでしょ)

 

 ——だがその対象に彼が含まれるなら話は大きく変わる。

 

 少年と話している時の彼女は自然に振るまえ、立場も忘れ1人の女の子“更織刀奈"として過ごせる。それがどれだけ重大な意味を込められているか。そんな人を誰にも渡したくない独占欲。彼と一緒に居たい。少女の小さな小さな我儘。

 

「彼にも話は通しておくべきだよ。楯無が行動するのはそのあと」

 

「わかってますぅー。勝手に行動した挙句に嫌われちゃったら元も子もないし」

 

 秘密裏に事を終わらせかねない幼馴染へ虚はしっかりと釘を刺す。

 幼馴染兼付き人の彼女としては、楯無がそこまで彼に拘る謎を明かしたいがそれが原因で2人の信頼関係を崩したくもない。生徒会で会って話すぐらいの仲だが彼女は彼に悪感情は抱いていない。物静かで落ち着いていており、与えられた仕事も真面目に取り込むのを見て好印象を抱いている。

 

「止めはしないけどほどほどにね」

 

「きちんと手加減はするわよ。ただ、私からキラ君を奪えるとか甘い考えを徹底的に打ち砕くだけじゃない」

 

「はいはい。楯無がキラ君に夢中なのはよく分かりましたから」

 

 幼馴染に反抗しようかとするが、あながち間違いではないので愛想笑いで誤魔化した。

 

(明日連絡を入れようかしら。気分転換になっていればいいけど……)

 

 キラが学園から出る際に楯無は心配するなと背中を押しているが、彼の性格を考えるとそれで前向きにはなれないと想像に難くはない。

 この考えが杞憂で終わってくれればいいと、楯無は願うのだった。

 

 

◇◇◇

 

「……力か」

 

 姉である千冬に勧められて1人の温泉を楽しんだ後の織斑一夏は旅館の自室で横になり天井を見上げながら自問自答を繰り返していた。

 思い出すのは最近起きた出来事。休日に地元のショッピングモールで偶然遭遇した2人の友人。キラとシャルロットの誘拐事件。

 誘拐された2人は生徒会長の更織楯無、クラスメイトのラウラ・ボーデヴィッヒ、姉である織斑千冬によって救出された。

 しかし、キラは意識不明の重体。楯無とラウラも平然を装っていたが負傷。シャルロットも無理をして笑っていて全員無傷の生還とはいかなかった。

 それを思い出して、もっと強くならない焦りに襲われるが数日前の出来事を思い出して、頭を左右に振って振り払う。

 

「……わかんねえなぁ」

 

 力とは何か、その意味を探るように数日前の更織楯無との特訓を思い出す——

 

 

◇◇◇◇

 

「どうしたのー?さっきまでの勢いはなくなって。疲れちゃったのかしら?」

 

「……はぁ……はぁ……」

 

(……俺と更織さんが模擬戦はこれで3回目。それなのにこの人は息一つ乱してない……っ!!)

 

 度重なる特訓でコッチは立っているのもやっとなのに、目の前の人は肩で息をせず涼しげな顔。

 放課後、何度か特訓を付き合ったもらったことがある。数回手合わせをして、彼女と技量が大きく差があるのは肌で感じていた。

 

『——更織さんはロシア代表候補生なんだよ。私たち一年の専用機持ちが2人で挑んでも勝てないぐらい強い』

 

『——IS学園の生徒会長をみなさん口を揃えてこう言いますの、学園最強と。……悔しいですが、わたくしもあの人に勝てるビジョンが思い浮かびません』

 

(生徒会長は学園最強は……伊達じゃないってことか……っ!)

 

 今更だけどセシリアとシャルロットの言葉を思い出す。

 油断もせずに慎重に分析をしてプランを立て倒すシャルロット。

 どんな相手でも自信満々に果敢なセシリアも口を揃えて勝てないと悔しそうにしていた。

 その時に無言だったラウラと鈴も同じ感想だったんだ。

 それだけの、それだけの地力の差が俺と目の前の人にはあった。

 この感覚は……越えられない壁。そう、千冬姉や束さんに抱いている感覚に近い。

 

「——もしかして怖気ついちゃった?そうよねー。だって織斑君では私に触れることすら叶わない」

 

「……っ」

 

「触れれば零落白夜で一撃で倒せるのに、この3回目の模擬戦中でも私に当たることすらもできてない。これが今の君の実力」

 

「まだまだ……!まだ決着はついてない!」

 

「なら予言しといてあげる。この試合も君は私に攻撃を当てることなく負けるって」

 

 そんなことはないと、強気で反論したくとも一度も攻撃を当てられてない事実に声を詰まらせる。

 まだ弱いから気持ちでは誰にも負けないと威勢を誇っていたのに、たった一日で剥がれ落ちていく感覚。

 負けるな!気持ちでは負けるなっ!思い出せ!思い出せ……っ!みんなが、キラが怪我をして戻ってきたのを……っ!

 

「……強くなるんだっ!俺は強くならなきゃいけない!オレはっ!」

 

「強ならなきゃいけない、ね……」

 

「——-おおぉぉぉぉぉぉ!!

 

 目の前の絶対的な壁に負けないように、潰されないように無我夢中に吠えながら突貫した。

 

「——それじゃあこの3試合の反省会を始めましょうか」

 

「この……っ!」

 

「まず一つ目。勢い任せで突撃しないこと。戦いで勢いは大切だけど、無策で突っ込むのは返り討ちに合うだけよ」

 

 どれだけ雪片弐型を振りかざしても、手に持つ槍は使わず、太刀筋を見切っているのか体さばきだけで軽くいなされる。

 

「二つ目。攻撃は最大の防御とは言うけど、攻めるペース配分を見誤ってる。後半にかけて体力が尽きて攻撃が雑になって隙が多すぎ」

 

「……っ!」

 

「三つ目。白式の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)に依存しすぎね。それで仕掛けて技以外が疎かになってる。剣道を習っていたんだから、他の技を応用するように」

 

「な……っ」

 

 手に持っているのは槍なのに、雪片弐型を裏から器用に振り上げられ、手に持っていた刀は宙へと舞い地面へと突き刺さる。

 白式に唯一搭載されている武器は数m先にあるけど、拾いに行かせないように喉元に槍の先端を突きつけられ動けない。

 

「次はこのレクチャーを意識して立ち回るように。今日の訓練はここまでね」

 

「……まだ俺のシールドエネルギーは残っている」

 

「勝敗は決まったも同然。無手の相手を痛ぶる趣味はないもの」

 

 決着はついたと喉元にあった槍は下ろされた。

 まだ戦えると訴えようとしたら、糸が切れたように体から力が抜けて地面へと片膝をついてしまう。

 

「あ、あれ……?」

 

「ISのシールドエネルギーの回復以外に碌な休憩をしてないもの。3回目の模擬戦の途中で倒れなかったのが奇跡よ」

 

「いや、まだ俺はやれます……っ!!これぐらいちょっと休憩すれば!!」

 

「その頑固なところは嫌いじゃないけど、オーバーワークを繰り返したところで一日や二日で強くなることはないわ」

 

「だからってなにもしないよりはずっといい!オレは少しでも早く強くなりたいんだ!友達を助けに行ける力がいるんだ!」

 

 俺に今足りないものはシンプルなもの、それは力だ。友達の危険に駆けつけることができる力がない……っ!

 誰かに守られるだけから卒業して、これからは誰かを守るんだって意気込んでいたのに戦うこともできない!

 

「それなら君に足りないもの教えてあげましょうか?」

 

「俺に足りないもの……教えてくださいっ!」

 

「君に足りないものは時間と経験。強くなることに近道なんてない、地道に毎日訓練を積んでまずは基礎を固めなさい」

 

「……揶揄ってるんですか?」

 

「大真面目に教えてあげてるんじゃない」

 

 生徒会長は呆れた顔を浮かべて、大袈裟にやれやれと肩を竦める。

 この人が言ってることは分かってる。それがきっと正しくて、オーソドックな道だ。だけどに悠長にしていたら、再び誰かが危険な目に合った時に守ることができない。

 

「……はぁ。ちょっと本気にお説教しましょうか?」

 

 そんな俺の心を見透かしていたのか、小さくため息を零し、生徒会長は目尻を吊り上げる。

 

「ISという力を手に入れて舞い上がるのは構わないわ。友達を守りたいって青臭い目標を立てるのもいいでしょう。だけど、特別な力を持っていると勘違いして命を捨てるような無謀は止めなさい」

 

「無謀なんかじゃ——」

 

「無謀でしょ?学園を襲ってきた無人機との戦闘、ドイツ代表候補生の暴走。これらが解決できたのは偶々運がよかっただけ」

 

 運が良かった、言われて違うと否定したくても、背筋が凍るような冷たい視線がそれを許さない。

 無人機の時は初めから鈴が一緒にいた。ラウラが突然と暴走を始めた時も箒も、途中から生徒会長も力を貸してくれた。その2つはキラも関わっている。

 

「大人しくIS学園で過ごしなさい。君が足を踏み入れたい領域は素人である君がでしゃばられても迷惑なのよ」

 

「………っ!」

 

「それに君が強くなりたい理由はなに?」

 

「……えっ?そんなの、みんなを傷つけるやつを……」

 

「みんなを傷つける敵を倒すため、ねぇ?それ当初の目的とかけ離れてるんじゃない?織斑君が欲しい力はみんなを守るための力でしょう?」

 

「だから力がいるんじゃないですか……?」

 

「敵を倒す力と、守るための力は大きく違うの。倒すために強くなりたいって考えているなら、それは捨てなさい」

 

「……その違いが、俺にはイマイチわかりません」

 

「君の信念次第ってことよ。力はただの力でしかない。それを暴力として扱うか、力として扱うか……見誤らないことね」

 

 これ以上は語ることがないのか、背中を向けてひらひらと手を振りながら去っていく。

 生徒会長が去って緊張感が和らいで大きく息を吐き出した。千冬姉とは違った緊迫感が凄くて疲れたな……。

 

「……力、かぁ」

 

 手のひらへと視線を落とす。白状すれば、彼女の言葉の意味を理解しているかは怪しい。

 足手まといだと、邪魔だと、言われてショックは受けたし、苛立ったりもしたけど……焦りを見抜いた上で言ってくれたのは分かる。

 

「……わっかんねえなぁ」

 

 アリーナなら貸切時間はまだ残っている。立っているのも疲れていたからそのまま地面へと倒れ込んだ。

 誰かに聞いてではなくて、自分で解けないといけない難題な課題を置いていかれた気分だ。

 時間が経つまで、アリーナから見える空を眺めながら必死に俺は考え続けた——

 

◇◇◇

 

 

誰もいない夜の海岸で夜空に煌めく星をただ眺めていた。

 夜空を眺めたところで抱えている問題や悩みが解決するわけじゃない。わかっていながら何も考えたくないと現実逃避をしているだけ。

 

(……僕はここに残るべきなのか?)

 

『──キラ君。貴方は此方側にいるべきよ。其方側は息苦しいんじゃない? だけど此方側に来ればその息苦しさから解放されるわ』

 

 誘拐された日。亡国機業ファントム・タスクのスコールに言われた言葉を思い出す。

 亡国機業ファントム・タスクはテロ組織と聞いている。組織の理念や目的は不明だけど、世界中に潜み目的の為なら手段は選ばず平然と人の命を弄び奪うと。

 

「……僕が、ここにいる意味……」

 

 スコールの言葉に惑わされたわけではないはず……テロ組織に、ましては命を奪うことに躊躇いのない人たちの元に向かうつもりはない。

 みんな口を揃えてここに居ていいと優しく諭されているのに、男性操縦者と肩書きを除けば、学園に残るべき理由が見当たらない。

 

(……鈴の手を握り返すのも出来やしない)

 

 昼の砂浜で起き上がる時に鈴は手を差し伸べてくれた。だけどその手を僕は握ることを躊躇った。あの手を握り返す資格がないと。

 撃つ覚悟は決めていたのに……自分は戦争以外でも人を殺せてしまう。その衝撃が大きすぎて、今だに呑み込めていない。

 

「……アスラン」

 

 この世界に居ない親友の名前を口にする。

 抱いているこの悩みを親友へ相談をして、呆れながらも叱責されたら迷いは晴れたが彼は居ない。

 アスランだけじゃない。アークエンジェルのみんな、カガリとラクスがいればと偶に考えてしまう。みんながいればこの悩みを吐き出せたんじゃないかって。

 

「2人がいれば……」

 

 それこそトールとフレイの2人が、同じようにこの世界で、IS学園に居れば……いや、僕ではなく2人が居るべきだった。

 トールならば一夏やみんなとだって仲良くだってなれる。フレイは鈴やラウラと衝突しながらも親しくなって、この平和な世界で戦争に怯えず、憎しみからも解放されて幸せで生きていけた……っ!

 

(……あり得ない未来を夢見るのはやめなきゃ。トールとフレイを、2人を守れなかったのは僕じゃないか……っ)

 

 もしもの世界、その平和な未来を潰したのは誰だと歯を食いしばって必死に言い聞かせた。

 そうじゃないと膝から崩れて倒れてしまいそうで。その悲しみに溺れて2度と立ち上がれなくなる。まだ折れるわけにいかないんだ。再度シャルロット、そしてみんなに危険が及ぶかわからないから。

 

「……すいません。僕の我儘に振り回してしまって」

 

「これぐらい我儘には入りません!」

 

 しばらくして落ち着いてから、後ろでずっと心配をしてくれていた山田先生へと振り返る。

 本来は生徒に外出は許されない時間。それなのに僕が砂浜にいるのは、織斑先生と山田先生に海辺で星を見上げたいと無理を承知で相談したら、山田先生と一緒に行動するなら問題ないと条件付きで許可が降りたのだ。

 

「体調は大丈夫そう?辛いなら明日も一日旅館で休んでいいんだよ?」

 

「明日も休むのは……単位とか、あるんですよね?」

 

「単位は補習で回避させます!キラ君が優先するべきことは体を労って、心を休ませること。その他は後回しになってもいいんです。まだ傷だって癒えていないんですから!」

 

「……いつ危険が訪れるかわかりませんから」

 

 休んでいいと山田先生は気遣ってくれるけど、この合宿期間中に亡国機業ファントム・タスクの襲撃が行われてもおかしくはない。この前のように更識さんの救援は期待できない。いつ奇襲をかけられても迅速に対処ができるようにみんなから距離を置く行動は避けるべきだ。

 

「……それにみんなには殺し合いをしてほしくないんです」

 

 ISを動かせても彼らはただの学生。平穏に暮らす一夏たちを亡国機業ファントム・タスクと交戦させたくない。

 テロ組織との戦いはこれまでとは違う。無人機から学園を守ったり、暴走したISを止めたりのような綺麗事では終わらない。奪うために撃ち、守るために撃つ、殺し合いになるだろう。血で血を洗う争いに、その手が血で赤く染まる恐怖や痛みを、永遠に背負って生きる辛さを味合わせたくない。

 

「キラ君にも戦ってほしくないよ。大事な生徒の1人で、優しい君にはもう傷ついてほしくない……」

 

「ありがとうございます。気遣ってくれて、心配してくれて……だけど戦える力があります」

 

 言葉と気持ちが矛盾しているのだとつくづく痛感する。戦える力があると言っているのに本心ではもう戦いたくないと訴えくる。

 戦うことに前向きに考えようとするほど、本心がその感情を真っ暗に塗り潰して苦痛へ支配される。

 

(……力しか残っていない僕だから)

 

 沢山失くして、命だけが残った。生きる理由も、残る理由も曖昧だとしても、この世界で僕ができることは……みんなを守るために戦うこと。

 それしか残っていない。力だけじゃないと、否定したはずなのに結局は力でしか解決できない……。

 

「……そろそろ戻りましょう。明日も早いですから」

 

「……そうだね。キラ君。いつでも相談乗るからね?遠慮しなくて大丈夫だからね」

 

「大丈夫です。僕は……大丈夫ですから」

 

 自然に笑えているのか、それとも浮かない顔なのか分からないけど、いつものように誤魔化す。

 山田さんは見抜いている。誤魔化しているだけだって。彼女の顔を見るのが怖くて最後にもう一度空を照らす星へを見上げた。

 

(……僕は……)

 

 力だけが残って、力しかない僕に他になにがあるのだろうか?

 片腕に巻いてあるストライクを指で触れる。一緒に迷い込んだストライクは何も答えてはくれなかった——

 

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