翼を失くした少年   作:ラグーン

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4月に投下するつもりがもう五月…時が経つのは早いですねぇ!!
最近Switch、またはプレステ5買うか悩んでいる作者です!スパロボY発売されるからね…両方持ってない身として、どちらを買おうか悩んであります……っ!


第48話 作戦会議

 

 

 

「……あさ、か」

 

 視界の先には知らない格子状になっている天井。

 カーテン越しから微かに見える日差しが、朝を迎えている証拠。

 布団から上体を起こして頭を抱える。初めから期待していなかったけど満足には眠れなかった。体調は崩していないけど身体がただただ重い。

 

「今日からだっけ……」

 

 昨日は自由時間だったが、本日から臨海学校の本題の校外実習が始まる。

 昨晩山田さんの厚意を断ったが、本音を打ち明けるなら校外実習へ参加する体力と気力は残っていない。

 それでも実習を受けることを選んだのは、いつ襲撃が行われるかも分からないのと、みんなに余計な心配をかけたくない。思い詰めているのがバレているとしても、表面上普通に振る舞っていれば大丈夫なはず。

 

「……明日まで乗り切れば、なんとかなる」

 

 明日まで民間の旅館で何事もなければ。警備態勢が整っているIS学園へと戻れる。

 それまで耐えればいいと、胸を抑えながら必死に言い聞かせる。

 

「——兄さん。起きているか?」

 

 呼吸を整えていたら、誰かが控えめに扉を三回ノックした。扉越しから聞こえた声はラウラだった。

 朝から珍しい。なにか用があるのだろうか? ……ああ、昨日の夕方に様子を見に来た時以降顔を合わせてなかった。

 断る理由もないので、返事を返すと、浴衣ではなく制服に着替えた彼女が入室する。

 

「起きていたか。……睡眠時間は確保できただろうか?」

 

「……なんとか」

 

「嘘だな。充分に確保してないんだろ? 教官か、山田副担任に静養したいと伝えるべきだ」

 

「……昨日の夜、山田先生には参加するって、そう伝えたから」

 

「今日の実習を参加しなくとも、ストライクの各種兵装は熟知しているではないか」

 

 ストライクの各種武装は頭の中に全て入っている。それはストライカーパックも含めて。

 ラクスに託されたフリーダムに授けられるまで死に物狂いで搭乗して、環境に地形、敵によってバックパックを替えていたのだから。覚えていなければとっくの前に戦死をしていただろう。

 

「それでもだよ。……休むほうが悪目立ちするし。それに数日間ISを碌に触れていないから異常がないか確かめておきたい」

 

「……わかった。私がフォローに回る。そして体調が悪くなったらすぐに休むのが条件だ。これが呑み込まないのなら、縛り付けてでも休ませるぞ」

 

「うん。それでいいよ。……他に用があるんだよね?」

 

「ああ。情報整理と共有をな」

 

 情報整理と共有。ここ暫くで僕に関することが起きたのだと暗に伝えられる。

 慣れた手つきで操作して、ラウラは部屋に置いてあるテーブルの上に連絡端末を置く。どうやらビデオ通話のようで、画面には更織さんが映っていた。

 

『おはようキラ君。サプライズのつもりだったんだけど……その様子だと驚いてないのね?』

 

「消去法で貴女しかいないですし……」

 

 僕に関することを知ってる人、貴女以外一緒に臨海学校に来ていますから。

 端末を触っていた時点でラウラが連絡を入れていた相手が誰なのかをなんとなく察していた。

 

「ラウラと更織さんが連絡を交換したタイミングの方が気になるんだけど……」

 

『ちょっと前にラウラちゃんを一度生徒会室に呼んだのよ』

 

「いつものメンバーに織斑一夏に関する相談を受けた日を覚えているか? あの日会う約束をしていたのが更織楯無だったんだ。その日に交換をした」

 

「ああ……たしか言ってたね」

 

 あれはてっきり友達の更織さんの専用機の開発を手伝いに行ったと思ってたや。

 その話を聞いてとあることを思い出す。シャルと外出した時に手渡された水色のリストバンドのこと。

 

「ラウラがこの前渡してくれたリストバンドもその日に?」

 

「アレか。その通りで、あのリストバンドは更織楯無からの贈り物だ」

 

『保険をかけて用意してたら、それが偶然役に立ったってとこねー。当日も私を入れて、ラウラちゃんと虚ちゃんの3人で遠くから見守っていたのよ』

 

 更織さんはそれを出し抜かれたんだけど、っと1人ボヤきながら悔しそうに眉を顰める

 あの、それって見守っていたじゃなくて、尾行していたが正しくないですか……? 

 

『あっ! 昨日ラウラちゃんの水着は見たかしら?』

 

「えっ? えっと、はい……見ましたけど?」

 

『可愛かったでしょー? ふふんっ! お姉さんプロデュースなの。ラウラちゃん可愛いから水着選びたかったのよねー! 自分に似合うかってずっと悩んでたの健気でお姉さんついつい興奮しちゃった⭐︎』

 

「よ、余計なことを言う!! ええい!! 黙れ!」

 

 健気と書かれた扇子を広げて、顔を真っ赤にして抗議するラウラを愉快そうに揶揄う。

 本日2度目の納得。布の面積が少ない気がしていたし、ちょっと攻めすぎている水着じゃないか? って疑問に思ってたんだ。偏見だけど更織さんがあの水着を選んだと考えれば納得しちゃうな。

 

「水着を選んでくれたのは嬉しいんですけど、次はもう少し布の面積広いのでお願いしますね」

 

『まさかの真面目トーン。女性耐性は高そうだし、水着ならある程度は大丈夫だと思ってたけど……』

 

「僕ではなく、その、一夏だからいいですけど、他の同性にはちょっと……」

 

『お兄ちゃんの心境としては複雑ってことねぇ』

 

 昨日は僕の元に来て水着を披露してくれたラウラに落ち込んでほしくなかったから言わなかったけど。

 やっぱり昨日の水着はちょっと際どいと思う。弾や数馬が一緒に来てたら上着をラウラに着せていたよ。

 

「わ、私の水着の話はどうでもいいじゃないか! そんなことよりも情報共有と整理についてだ!」

 

 恥ずかしさでほんのり顔を赤くしたラウラが話題を逸らすため、強引に本題へと入っていく。

 

「情報共有は、僕が寮で引き篭もってた時になにかあったの?」

 

「いや違う。鈴音が貴方の安否を探ったり、織斑一夏の修正を更織楯無が行なったりはあったがな。その2つは適当なタイミングで言うつもりだったが……情報共有をすべき出来事は昨日起こった」

 

『私は昨日送られたメールで知ったけど、どうやら織斑先生と女子会を開いて、その際にキラ君の状態をうっすら話したらしいのよ」

 

「兄さんが精神的に疲弊している点だけをな。それ以外は教官は一言も口を割っていない。私が保証する」

 

「……みんなは、どうだった?」

 

「全員大なり小なり疑念は抱いている。何者なのか、天才と片付けるには辻褄が合わない強さのことも」

 

 ラウラは顔色を窺いながらも誤魔化すことはなく、昨日話したであろうことをハッキリと言葉にする。

 それを聞いても自分でも驚くぐらいに冷静に受け入れることが出来た。

 

『全部時間の問題では合った。心の不調も、ISを難なく動かして戦える強さのことも』

 

「近しい者に、ここまで曖昧に誤魔化していたのが奇跡のようなものだ」

 

 2人の言っている通り、心身の不調と強さのワケに疑問を持たれるのは時間の問題だったんだ。

 心身の方はとっくの前からバレていたけど、そうなっている理由について黙秘を貫いていただけ。

 力についてはみんながいつから疑惑を向けていたのか分からないけど、無人機が襲来した時に戦う道を選んだ以上避けられない道。

 タッグトーナメントの時に箒さんが決闘を申し込んだ訳もそれらが関係してると睨んでる。

 

「……兄さんはどうしたい?」

 

「このまま距離を置くのもいいかも知れない。スコールがこのまま諦めると思えない。僕を狙って、みんなが巻き込まれて傷つくぐらいなら離れるのが正解じゃないかな……」

 

 前回は織斑先生が駆けつけてくれたから、全員生き残ることができた。

 だけど次は? またスコールが襲撃してきて、みんなが無事な保証がどこにあるの? 

 

『それは最後の手段としては視野に入れるべきでしょうね』

 

「正気か!? 兄さんが独りでいる道を選ぶのは反対だぞ!」

 

「……トールのように失いたくない」

 

「それは……っ」

 

 アスランとの戦闘の最中に劣勢だった僕を助けるためスカイグラスパーで援護に入ったトールのような悲劇を繰り返したくない。アスランが投擲したシールドが、鋭利な刃物のように戦闘機を切り裂いて彼の首と胴体を切断した光景を思い出す。

 トールの最後を知っているラウラは言葉を失くして悔しそうに顔を伏せる。

 

亡国機業(ファントム・タスク)としての狙いはともかく、スコール個人として狙っているのは僕だ。組織に引き込もうと勧誘されたから殺されるようなことはないはずだよ」

 

『熱い視線を向けているようだったしねぇ。あの時のスコールは組織ではなく個人として動いた可能性高い。極端に言えばスコールとオータムさえどうにかしちゃえば解決する範囲ではあるのよ』

 

「それが原因で組織に狙われる可能性も高くなるだろうがな」

 

「なんにしてもスコールをどうにかしないといけない。次に攻めてきた時はあの人の相手は僕がする」

 

『……本気?』

 

 正気を疑う視線を更識さんから向けられるが、それが最も一番安全で勝率が高い方法だ。

 オータムとの戦闘の最中だったから的確に実力を計れていないけど、それは戦いながら見極めればいい。

 

『自慢じゃないけど、私とラウラちゃんの2人がかりでも遊ばれるぐらいには実力差があった相手よ?』

 

「……ストライカーパックが完成すれば少なくとも足止めは」

 

『……ラウラちゃんの意見はどう? キラくんの実力知っているんでしょう?』

 

「……話しても大丈夫か?」

 

「いいよ。更識さんは安心できる人だから」

 

 ラウラが訪ねてきたのはあの世界で積み重ねてきた実力について。いずれ更識さんには正直に打ち明けようとは考えていた。これからスコールたちと戦闘が続く以上一戦力としてきちんと共有しておかないと。

 

「兄さんがスコール・ミューゼルと交戦しても支障ない。あの女が実力や切り札を隠してはいようが足止めは必ず成立する」

 

『1人でもスコールとは互角に戦える……そう捉えていいのね?』

 

「……黙っていてすいません」

 

『責めてるわけじゃないから気にしないで。只者じゃない片鱗は前々から出てたしね。嬉しい誤算ではあるの』

 

 どれぐらい戦えるのか追求されるのかと思いきや、それ以上踏み込んでくることはなかった。

 精神(メンタル)がすり減っているのを配慮しているのもあるだろうけど本当に気にしていないのかな? 造られた存在はともかく、これまで戦場でどのように戦ってきたことは洗いざらい話す覚悟はあった。

 自然体に受け止めてくれて、大して気にしていないと言ってくれて安心する。

 

『自由に扱える戦力はこれで2人っと。こっちから手を出すつもりはなくあくまで正当防衛。これは共通認識でOK?』

 

「あっちが攻めてこないのなら僕らが撃つ理由はないですから」

 

 というか此方から攻勢に出たところで、数の暴力で押し潰されるのがオチだ。

 僕らにとってIS学園以上の砦は存在しない。学園を拠点にし、攻められたら防衛に徹して死闘に決着を付けるが理想かな……。

 ISの姿に変わってストライクが本来のサイズまで戻ってくれれば、投降を促せることは出来るだろうけど、そう都合のいいことは起きないのが現実で、起きたら起きたらで後々面倒そうなのが……。

 

「満足に使える戦力は更識楯無、兄さん、そして私と考えていいんだな?」

 

「……ラウラをこの戦いから外してもらうことはできますか?」

 

「兄さん!?」

 

『んー……理由を聞いても?』

 

「ラウラに人を殺す罪を背負わせたくない。"1人の人間"として歩く道を見つけた後、人を殺した過去はいずれ心を苦しめます」

 

『うん。正論。これぐうの音も出ません』

 

「貴様はもっと肩を持つやら、言いくるめるなど、屁理屈で誤魔化すなどするべきだろう!? 教官や山田副担任に戦力が多いと助かると言っていたのはどの口だ!?」

 

『人でなしって自覚ありますのでぇ? 道徳に反した発言して彼に嫌われたくないんだもーん⭐︎』

 

 なにやらラウラにとって理不尽というか、身の返しが早すぎる手のひら返しが行われたらしい。

 凄く真面目に語っていたので、ちょっとどんな顔をすればいいのかわからないねこれ……? 

 

『他人を虫けらのように見下していた時期なら大したダメージにならないでしょうけど、平穏という道を歩むことを選んだ貴女には毒になるってわけ』

 

「いずれ罪悪感に襲われるから、兄さんが危険な目に遭っていようと指を咥えて見ていろと?」

 

「……君には、僕と同じ道を歩んでほしくない」

 

 同じ道を歩んでほしくない、この言葉の意味をラウラなら察することができるはずだ。

 人の理想として造られた最高傑作は人を殺した。戦争の最中だったとしてもこの事実は揺るがない。もう引き返すことは出来ない。

 だが君は違う。軍人として戦う訓練はしていようと、実戦で人に向けて引き金を引いていない。兵器としてではなくラウラ・ボーデヴィッヒとして新たな人生を歩んでいる彼女は背負うべきじゃない。

 手段は強引で間違っていたけど、彼女の幸せを望んでいたVTシステムに顔向けが出来ないよ。

 

『まぁこの話はおいおい詰めていきましょ。私はともかく君たちは旅館にいて会話が漏れちゃうし』

 

「そうだな。テロ組織への今後の対策は生徒会室で行おう。この話を聞かれ第三者に騒がれるのも面倒だ」

 

『それじゃあ本題のメンタルケアのお時間ですー!』

 

「……えっ? 他にも纏めるべき話ありますよね?」

 

「優先すべきなのは兄さんのメンタルケアだ。……そこの女はそれを口実に話をしたいだけだろうがな」

 

『うーん辛辣な感想! まぁ否定しませんけどぉ? キラ君は状況を打破すべきことが最優先と考えてるようだけど、どうせ後から世界最強と元代表候補の2人を交えて議論を進めることになるので後回し』

 

「……適当すぎませんか?」

 

『彼方さん専用機一つが達磨にされたもの。量産機なら替えは効くけどアラクネは修理に時間を要する。独断で動いていた以上、アラクネの修理が終わるまで行動を起こすことはないでしょう。シャルロットちゃんが誘拐された日に持ち駒全部使ったんだから』

 

 他にも動かせる人が居たのなら、僕らを追い詰めたあの日に戦力として投下しない方が確かにおかしい。

 楽観的だと、小言を漏らすこと出来るけど口で更識さんに勝てる自信はない。諦めよう……。

 

『素直になってお姉さん嬉しい♪ まぁ、モニター越しに出来ることは、時間まで楽しくお喋りするぐらいだけど』

 

「カウンセラーは患者と対話を重ねていくのが治療方法だろう。……合宿前兄さんとどのように生活していた?」

 

『ふふふっ、それは秘密♡』

 

「学園に戻ったらアリーナに来い更識楯無」

 

 鈴とルームメイトしてた時期と、似たような生活をしていただけだからね? 

 それを説明しないのを見るに、青筋を立ててるラウラの反応を愉しんでるんだろうけどさ。

 

『ラウラちゃんも辛辣で辛いわぁ。よよよっ……キラ君慰めてほしいなぁ⭐︎ 』

 

「火種増やそうとするのやめません?」

 

『最近頑張ってるじゃない? 頑張ってる人には鞭だけではなくて飴も必要だと思うのよ。具体的に言えばご褒美ほしいなぁ』

 

「……出来る範囲なら」

 

 兄さん!? っとラウラから抗議されるけど、更識さんにはこれまで手助けしてもらってばかりだし……。

 無茶振りをしてこないはずだようん。もう一度女装してほしいとか言われたら全力で逃げるから大丈夫。学園に戻ったら部屋に引き篭もるか、学園中を追いかけられようと、2階からだろうと屋上からだろうと飛び降りるから。なんならストライク使います。

 

『次から楯無さんって呼んでほしいなぁ。ほら私たちって色んなこと共有した仲じゃない? いつまでも更識さんは寂しくてぇ……』

 

「それぐらいなら全然いいですけど……? えっと、今から呼んだらいいんですか?」

 

『全然オッケーよ! 前から名前呼びされたかったのよねぇ。名前で呼ばれてる子って心の距離が近いから、お姉さんはその中に含まれてないのかって不安で不安でぇ……』

 

「白々しい嘘泣きだな。貴様、なにか企んでるな?」

 

『彼に関係すること嘘つきませーん。だめよー? すぐに人を疑ったら』

 

「裏工作が得意な女を疑うなと言われる方が不可能だろう……?」

 

 ラウラの気持ちに共感するけど、これまで楯無さんなりに誠心誠意で接してきたのは本当だからね……。

 協力がなかったらストライクが完成する目処もいまだ経っていなかっただろうし。

 

「これだけでいいんですか? ちょっと拍子抜けというか……」

 

『気に入っている異性から名前を呼ばれるの、女の子にとって特別感を味わえる立派なご褒美なのよー? 心当たりあるんじゃなーい?』

 

 誰のことを指しているのか言わなくとも、ニッコリと微笑んでいる顔が物語っている。

 目を逸らしながら、大声でシャルと呼んでいたからなぁとラウラの呟きがトドメになってしまう。

 オータムの言い分にカッとなって、あだ名で呼んだことしっかり覚えてます……。

 

『今のうちに伝えておくけど、生徒会で君を独占せず、他の部活に共有させろって苦情が多くて多くて。お馬鹿さんたちに間接的にアピールしておきたいのもあるのよ。キラ君は生徒会でしか働きませんって』

 

「なるほど。僕としても生徒会以外はちょっと無理ですし……」

 

『んふふふふ♪ 言質ありがと♡あとは私が適当に処理しとくから気にしないで。……これで外野は黙らせることができるっと』

 

「……せめて隠す努力はしてくれないか?」

 

 悪どい顔を浮かべているのを見ないフリをした。

 部活で共有をしていく。それをきっかけにコミュニケーションを取りたいと、親しくなりたい想いは伝わるけど生憎とそんな余裕はないわけで……。

 極力平和的な手段で終わるはず。気にするなと云われたので、この件については触れないようにしよう。

 

『このまま楽しく雑談を続けたいけど、現実はそれを許してくれないのよねー。やっぱりそっちに行ってもいい?』

 

「丁重にお断りする。貴様が来たら一部の人間が煩くなって収拾がつかなくなる」

 

 嫌そうに顔を顰めるのは、楯無さんが僕をだしにして揶揄うのが目に見えているからだろう。指導する人材として腕は間違いなさそうなんだけどね。

 口を尖らせている楯無さんは放置するとして、そろそろ食堂へと向かわないといけない時間。

 カウセリングといっても、ただいつものように雑談してただけだね……。

 

『——君がどの選択を選んでも、私は君の居場所で在り続けるから』

 

 お開きとなっていた雰囲気で、楯無さんは最後にどんな時でも味方だと真剣の眼差しで僕を見ていた。

 何者なのか全てを明かしていなくても、それを承知の上でこの人はまた言ってくれる。

 数日間部屋に引き篭もっていたあの日から、何度も大丈夫なのだと笑いかけてくれながら。

 

「……楯無さん。ありがとうございます」

 

 答えはまだ見当たらないけど、彼女にはせめて素直にお礼を言わなくちゃ。

 それを聞いた楯無さんは満面な笑顔を浮かべて、またねっと手を振りながら通話を終えた。

 

「……私だって居場所になるんだからな。居なくなる、なんてことは絶対に嫌だぞ」

 

「……もし居なくなったら?」

 

「地の果てだろうと探し出す」

 

 迷うこともない即答が返ってきて面を食らうけど、ラウラなら間違いなく実行に移す信憑性高いよね。

 自己紹介の時に、一夏まで近づいて頰を叩いたりと行動力に溢れてるし。

 身支度を整えようかとすると、隣に座っていたラウラは僕の肩に頭を乗せる。

 

「貴方はこれまで沢山頑張ってきたのに、どうしてこんなにも苦しまないといけないんだろうな……」

 

「……それだけの罪と業を重ねてきたから」

 

「勝手に押し付けられ望まれただけじゃないか。ここに来るまで、いっぱい失って傷ついたんだ……兄さんから、もう、奪わないでくれ……」

 

 みんなと距離を置くと聞いた時から、感情に蓋をしてずっと堪えていたんだね。

 声を押し殺しながら静かに涙を流すラウラの頭を優しく撫でた。

 彼女が泣き止むまで、ラウラには幸せになってほしいと、僕とは違う人生を歩んでほしいと願いながら。

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