第1話 鴉天狗との出会い
うーん・・・
頭がくらくらする。
今、一体自分がどこにいるのか、どんな状況におかれているのか、全く見当がつかない。
わかること…
それは、今自分は生きているということだけだ。
目の前の景色がかすんで見える。
うっそうと茂る木々の隙間からまぶしい光が差し込んでくる。
自分は木々に囲まれた大地、おそらく森の中に横たわっている。
くそっ!起きろ…!
両手に力を集中させ、体を持ち上げる。
そうだ。肘を伸ばし、膝を立て…いいぞ。いける!
自分に言い聞かせ、何とか立ち上がろうとする。
しかし、次の瞬間大地が真横に傾いた。
…いや、自分が倒れただけか。
もう、視界がぼやけてきた。頭も痛い…。
目を閉じる瞬間、目の前に赤い下駄を履いた人物が空から降りてきた。
身体を何度も揺すられているが、もうそれに応えるだけの気力は残されていない。
次の瞬間、世界は暗転した。
チュンチュン...
鳥の声が聞こえる。
もう、朝なのか…?
ゆっくりと目を開ける。
真っ先に目に飛び込んできたのは、明らかに人工的に作られた天井だった。
さっきまで森にいたのに…。
頭がはっきりするにつれて、今自分が置かれている状況がだんだんと分かってきた。
ここは、明らかに家の中だ。
そして、畳の上に敷かれた布団に包まれている。
石鹸のような、甘い香りが掛け布団から漂ってくる。
家の中、どこかの部屋からカタカタというキーボードを打ち込む音が聞こえてくる。
誰かいるのだろうか。
首を右に向けると、開け放たれた建具の向こうからまぶしい日差しが降り注いできた。
ちょっと、日の光を浴びよう。すっきりするかもしれない。
上体を起こし、縁側の方へと足を進める。
縁側の下には、どこかで見たことあるような赤い下駄と、その隣にスニーカーが一足。これが俺の靴なのかな?
その靴を履いて外に飛び出した。
「おや、もう起きたのですか?」
外で大きく伸びをしていると、後ろから声が聞こえた。
振り返ると、縁側に立ち、こちらを見つめている女性と目が合った。
その女性は黒いショートヘアーで白色のシャツに胸元に結われた黒いリボン、そして黒いスカートを身に着けている。
スカートには秋を感じさせるオレンジのラインが入り、アクセントになっている。
しかし、いまひとつ分からないのが、左右に3つずつ白い球体が垂れ下がった赤く小さな帽子…。
なんなんだ?この帽子は…。
「気分は、もうよくなりましたか?」
「はい、お陰様で。」
その女性は優しく、温かい笑顔を浮かべている。
「私は射命丸文(しゃめいまる あや)といいます。あなたは?」
「俺?俺は…」
その女性、文さんの笑顔につられて笑顔になっていた自分の顔が、突然、驚きと恐怖の波に襲われた。