自分を取り戻すカギ
暑い夏が終わりを告げ、だんだんと肌寒くなってきた。
豊かな緑色をしていた木々の葉も、今は燃えるように鮮やかなオレンジ色になった。
太陽の光を受けて鮮やかに光る紅葉、そして地面に落ちた葉っぱのオレンジが彩る光景は、まさに幻想的だ。
季節は秋を迎えた。
秋と言えば・食欲の秋・読書の秋・スポーツの秋などが連想される。
皆さんは、どれが一番好きなのだろうか。
この幻想的な風景の中で美味しいものを食べたらどれだけ美味しく感じられるのだろう。
…しかし、今の俺にはのんびりと秋を楽しむ余裕なんてなかった。
俺は今妖怪の山の中を走り回り、ある場所を探している。
その場所に、俺の記憶に関する重要なヒントが隠されているのだから。
文さんの家を飛び出してからもう2時間以上経過している。
しかし、今は休んでいる暇なんてない。
さかのぼること2時間前…
秋の陽気につられ、縁側でのんびりと昼寝をしていると不思議な夢を見た。
妖怪の山のある場所。
木々が生い茂る中に、3つの大きな岩が正三角形を彩るように配置されている。
すると、その正三角形の中心に俺が姿を現した。
そしてその場でしゃがんで手をガサゴソと動かし、手に持った黒いものを地面に埋める。
埋め終わった後、その場を飛び去った。
その直後に目が覚めた。
俺の知らない場所。
俺の知らない行動。
俺の知らない物体。
これが一体何を意味するのだろうか。
まさか、これは記憶を失う前の俺からのメッセージなのではないだろうか!?
だとしたら、一刻も早くこの物体を見つけ出さなければ!!
あれから妖怪の山中を走り回ったが、やはり山は広すぎる。
ただ闇雲に走り回っていては体力の無駄になるだけだ。
その場所を探す手がかりは、木々の間の円形の広場と正三角形に並んだ大きな岩。
欧我
「はぁ…。」
一体どこにあるんだよ~!!
「あれ?欧我さんじゃないですか!」
地面に腰を下ろし、項垂れていると誰かの声が聞こえた。
顔を上げると、目の前には犬耳を生やした少女が立っていた。
欧我
「椛さん!お久しぶりです!」
この子は犬走椛さん。
この山の警備を担当する白狼天狗だ。
椛
「お久しぶりです。それよりもどうしましたか?こんなところで座り込んで。」
欧我
「実は…。」
俺は椛さんに、今まで山の中を走り回っていること、そして不思議な夢を見たこと、その場所の特徴を詳しく話した。
この山をパトロールしている椛さんならきっとこの場所を知っているのかもしれない。
椛
「円形の広場に正三角形に並んだ岩ですか…。」
椛さんは顎に手を当てて記憶の中を探っている。
しばらくすると「あっ!」という声を漏らした。
まさか、見つかったの!?
椛
「おそらくあそこじゃないかな?」
欧我
「本当に!?案内してください!!」
椛
「わかりました。こちらです!」
欧我
「あ!」
椛さんの後を追ってたどり着いた場所は、夢で見た場所と完全に一致していた。
鮮やかな紅葉に囲まれた円形の広場に、その中心で正三角形を形作る3つの岩。
ここだ!間違いない!!
椛
「あ、欧我さん!?」
全速力で、岩の中心に向かう。
ここに、何かが埋まっている!
今地面を掘る道具は何も持っていない。
でも、そんなのは関係なかった。
落ち葉の中に両手を突っ込むと、下の土と一緒にかき分けた。
不思議そうに眺める椛さんを尻目に、ただ黙々と掘り続ける。
カツン!
欧我
「!?」
手が、何か固いものとぶつかった。
慎重に、それを地面から掘り出した。
その物体は黒い頑丈な布で包まれ、ほどけないようにひもで縛られていた。
中に包まれているものは何だろう。
学校で使う教科書のような大きさで、それよりも分厚い。
慎重にひもをほどいて行く。
だんだんと速くなる鼓動。
欧我
「えっ!?」
布の中から現れたもの。
それは全く予想外のものだった。
欧我
「ノートパソコン!?」
なぜこんなものが!?
俺はこんなものをどこから持ってきたの!?
椛
「これは…一体何ですか?」
欧我
「これはノートパソコンと言って、外の世界でよく使われる機械です。これは本当に便利なもので…」
椛さんに説明をしながら、パソコンのふたを開ける。
良かった、画面にひびは入っていないようだ。
そして、震える手でパソコンのスイッチを入れる。
数秒後、画面に明かりが灯った。
画面に現れる「起動中」の文字。
椛
「わぁ、すごいですね!」
欧我
「でしょ?これは…」
不意に、動きを止める。
俺の中で、新たな変化が起こったからだ。
記憶を閉じ込める金庫。
その3つ目の鍵穴に、3本目のカギが挿入された。
その結果解放された記憶は、たった1つの単語だった。
この単語が意味するものとは一体?
パソコンの画面には、パスワードを記入する欄が出てきた。
まさか!?
震える指でその単語をキーボードで打ち込んでいく。
全て打ち込んだ後、間違いがないか2回確認してENTERキーを押した。
欧我
「あ!!」
画面が切り替わり「ようこそ」の文字が映し出された。
つまり、この単語はパスワードで合っていたんだ!!
欧我
「あれ?」
しかし、再び俺の腕が止まった。
椛
「どうしました?」
欧我
「だって…。」
デスクトップには、2つの映像ファイル以外何も無かったからだ。
インターネットへつなぐマークも、ごみ箱もない。
スタートボタンをクリックしても、現れるのはシャットダウンのマークだけなのだ。
こんなの初めて見た。
ためしに、映像ファイルのうちの1つをダブルクリックしてみた。
欧我
「え?」
そこに現れたのは、パスワードを記入する欄だった。
映像を見るのにもパスワードがいるの!?
先ほどの単語を打ち込んでみても、パスワードが違っていて映像を再生することができない。
もう一つのファイルでも同じだった。
このパスワードを知らない今、この映像ファイルを見ることができない。
ま、これは家に持ち帰って大事に保管しておこう。
もしかしたらそのパスワードを取り戻す日が来るのかもしれないからね。
パソコンの電源を落とし、脇に抱えて立ち上がった。
椛
「もういいのですか?」
欧我
「ええ。これが何かを知るためには、まだ時間がかかりますから。」
椛さんとともに、広場を後にする。
この映像ファイルによって、俺の信じてきたものががらがらと崩れ落ちるとも知らずに…。
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どうも、戌眞呂☆です。
この話から、第二部が始まりました。
山の中でパソコンを見つけた欧我。
この映像ファイルが欧我にどんな変化を及ぼすのか、楽しみに待っていてください。
さて、ここから第Ⅱ部を書いていくに当たり、一つ変更点があります。
今まで1ページ1500文字以内だったのですが、
第二部からは1ページに付き2000文字を超えるようにしていきます。
ま、話数が尋常じゃない量にならないために変更しました。
これからも、よろしくお願いします。
次の物語は、パソコンのことを後回しにした欧我は、文さんとともに取材に行きます。
一体どこへ取材に行くのか、楽しみに待っていてください。
それでは、次をお楽しみに!
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