藍さんの後について、長い長い階段を上っていく。
それよりも、この階段はいったいどれほどの距離があるのだろうか。
藍さんや文さんは妖怪だから体力があり、これくらい大した事ないだろうが、俺は人間だ。
今は大丈夫でも、後半は疲れ果ててしまうだろう。
だったら飛べばいいじゃないかとも思ったが、前を歩く2人が飛べるにもかかわらず自分たちの足で階段を上っていく。
それを見ていると、俺だけが楽をしようというのは正直気が引けた。
あれから上り続けること5分。
前を歩く3人との距離がだんだん開いてきた。
だって、3人はものすごく速いんだもん。追いつくのさえ必死だよ。
橙
「あれ?もう疲れたの?」
だんだんと距離が開いていく俺を見かねて、橙ちゃんが立ち止っていてくれた。
何だろう、うれしいような悔しいような不思議な感じだ…。
欧我
「だって俺人間だぞ。疲れやすいんだよ。」
文
「でしたら飛んで行ってもいいですよ。私たちに気を遣わなくても大丈夫です。」
欧我
「…え?」
まさか、気付かれていた?
でも、文さんの方から言ってくれて助かった。
じゃあお言葉に甘えて。
目をつむって文さんのイメージを自分に投影させる。
空中を縦横無尽に飛ぶためには、自分の能力を発動して文さんの能力を真似する必要があるからだ。
能力を発動していないときは、何もできない普通の人間だ。
欧我
「ついた!」
ようやくあの長い階段を上りきった。
もしあのまま自分の足で上り続けていたら、いったいどれくらいの時間がかかったのだろうか。
藍
「さあ、こちらへ。紫様は白玉楼の中庭にいます。」
藍さんの案内で、白玉楼の門をくぐる。
すると、そこには俺たちの到着を待っていたかのように誰かが立っていた。
銀色の髪をボブカットにし、黒いリボンをつけている。
青緑色のベストとスカートを着用し、背中に二振りの剣を装備している。
あれは…妖夢ちゃんだ!
妖夢
「ようこそ白玉楼へ。お待ちしておりました。」
妖夢ちゃんは俺達に向かって深々とお辞儀をした。
…え?待っていたって?
文
「こんにちは。今日は…」
妖夢
「ええ、取材ですよね?幽々子様は紫様と一緒に中庭にいらっしゃいます。」
そう言うと後ろを向いて中庭の方に歩き出した。
俺達は黙って後に続く。
…あれ?
でも、文さんは確か突撃取材とか言っていたな。
突撃ということは白玉楼に事前にアポイントメントをとっていないことだ。
それなのに、妖夢ちゃんは俺達を待っていた。
まるで、前から俺たちが来ることを知っていたかのように。
それに、橙ちゃんが攻撃してきたのも、俺たちが来ることを知っていたと考えれば説明がつく。
欧我
「文さん、なんか俺たちが来ることを…」
文
「そうね。多分紫さんの仕業よ。」
文さんも不思議に思っていたらしい。
半端ねぇな、紫さん。
いや、流石というか…でも、紫さんにしてみれば朝飯前なんだろうな。
そう考えながら歩いていると、中庭が見えてきた。
何度見ても、この中にはの素晴らしさには目を見張る。
枯山水の庭に松が植えられ、小さいながらも池が見える。その池には赤い橋が架かり、池の上まで飛び出した釣殿まで造られていた。
にしても、毎日この広大な庭を清掃、管理、維持している妖夢ちゃんの庭師としての腕前はものすごいな。
その中庭に面した縁側に2人の女性が座っていた。
桜のような淡いピンク色の髪で、青い服に身を包んだ女性が西行寺幽々子さん。今回のターゲットだ。
とすると…。
もう一人の女性が八雲紫さん?
金髪のロングにリボンを巻かれた帽子。
それよりも驚いたのは、紫さんの見た目だ。
老婆というよりも、若い少女と言った方が適当だ。
幽々子
「ようこそ白玉楼へ。ゆっくりしていってちょうだい。」
紫
「あら、あなたが欧我君ね。こうやって顔を合わせるのは初めてよね。私が八雲紫よ。」
そう紫さんから挨拶をされたが、俺はすぐに挨拶を帰すことができなかった。
俺が抱いていた紫さんのイメージと掛け反れていたからだ。
紫
「あら、どうしたの?」
欧我
「あ、いえ、別に。こちらこそ初めまして。葉月欧我です。」
いけねぇ。
なんかこの人の前でおばさんって言うのは危険すぎる。
言わなくてよかった。
幽々子
「妖夢、お茶を出してあげて。ついでにお茶菓子も。」
妖夢
「わかりました。」
そう言うと妖夢ちゃんは屋敷の中へ姿を消した。
おそらく台所へ向かったのだろう。
幽々子
「さあ、私たちはお茶が来るのを待ちましょう。」
幽々子さんの隣に文さんが座り、紫さんも含めて今回の取材の内容と方法を話し合っている間、俺は枯山水の庭を写真に収めていた。
外の世界にいた時は決して見ることのできなかったものが、幻想郷に来たことで見ることができた。
こういうのを見ていると、やっぱり幻想郷に来てよかったなと思うことができる。
橙
「ねーねー、何を撮っているの?」
欧我
「この庭を撮っているんだよ。そうだ、橙ちゃんも撮ってあげようか?」
橙
「うん!撮って撮って!」
なんだろう。
あの時喉元をくすぐったからなのか、橙ちゃんに懐かれたような気がする。
まあいいや。
橙ちゃんにカメラを向けると、満面の笑みを見せてくれた。
その後、まさに猫のようなポーズや子供っぽいポーズ、大人びたポーズなどをとってくれた。
俺も楽しくなり、つい何枚も撮ってしまった。
欧我
「…あれ?藍さん?」
いつの間にか隣に藍さんの姿があった。
気のせいかな?藍さんが橙ちゃんに恍惚な眼差しを向けていたように見えたけど。
藍
「あ、いやなんでも。」
そう言うと、少しためらった後俺に向かってこういった。
藍
「その…写真。私にくれないだろうか。」
…え?
橙ちゃんの写真を?
…これは商売の予感!!
欧我
「わかりました。ですが、俺は写真屋です。代金はいただきますよ。」
藍
「むぅ…分かった。いくらでも払う。」
藍さんは一瞬ためらったが、やっぱり欲には敵わないようだ。
欧我
「では橙ちゃん。この写真の値段を決めてください。」
橙
「え?私が!?」
欧我
「そうです。自分の写真を他人に買ってもらう場合、被写体になった本人が値段を決めることができます。(たった今思いついたルールだけどねw)」
橙
「う~ん・・・」
橙ちゃんはしばらく考えたのち、顔を上げて言った。
橙
「藍様に買ってもらうのなら0円で!」
欧我
「0円!?」
藍
「ちぇえええん!?」
なんてこった…。
俺の収入は0円かよ。
まあでも、主従関係を超えたお互いを愛しあう愛情は素晴らしい。
カメラのレンズを向けて、抱き合う2人の姿を写真に収めた。