妖魔本によって引き起こされた騒動も無事終結し、鈴奈庵には平穏が訪れた。
俺達は小鈴ちゃんの母親が淹れてくれたお茶を飲みながら、鈴奈庵に陳列されている本を手に取って読書を続けている。
ほぼ忘れかけているだろうが、今回の目的は妹紅さんの自分だけの1冊を探すこと。
小鈴ちゃんが用意してくれた本を手に取り、ぱらぱらとページをめくっていく妹紅さん。
その表情があまりにも真剣だったため、インタビューをすることができないので俺も文さんも邪魔をしない程度にはしゃぎながら自分好みの本を探している。
今妹紅さんが読んでいる本は、第二次大戦中に特攻で亡くなった祖父の真実を探るため孫である主人公とその姉が調査をするお話だ。
何よりも命を大切にしたため、「臆病者」と呼ばれた祖父の愛と生きざまには感動して涙を流したのを覚えている。
もう一度読んでみたいなぁ…。
「あっ…」
本棚を物色していると、一冊の本が目に留まった。
表紙には、頭に角が生えた黄金色に輝く甲冑が描かれている。
「懐かしい…。」
これも、俺が小さい頃よく読んでいた本だ。
影の王国に奪われた、ベルトを飾る7つの宝石を探し出すため、少年が元衛兵の青年と森で出会った少女とともに7つの秘境をめぐる冒険物語。
感情表現や物語の中で出てくる謎解き、そして敵との戦いや仲間との友情。
どれをとっても素晴らしかった。
俺もこの物語にあこがれて、自分でつまらない冒険ものの物語を書いていたのはいい黒歴史だった。
この本棚を探してみると、なんと第一部全8巻を見つけることができた。
もっと探せば、第二部の全3巻や第三部の全4巻も見つかるかもしれない。
この際、この8冊を買っちゃおうかな。
「ん?」
本に夢中で気づかなかったが、なぜか小鈴ちゃんが俺のことをじっと見つめてくる。
どうしたのだろうか。
「っ!」
にっと笑いかけてみたら、小鈴ちゃんは顔を赤くして目をそらしてしまった。
目をそらした後、何故かもじもじとしていたが、俺の方を向いて笑顔を見せてくれた。
その可愛い笑顔を見て、俺も笑顔で笑い返す。
(でも、どうしたのかな?まだショックから立ち直れていないとか?それとも、ただ単に体調がすぐれないとか。…でも、今までを見てそのような様子は見られなかったし。う~ん…。)
第一部の8冊を抱え、小鈴ちゃんの隣に座った。
小鈴ちゃんは何故かびくっとしたけど、どうしたのだろう。
…聞いてみるか。
「どうしたの?」
「いえ、別に…。」
どうしたのだろう、目を合わせてくれない。
「どこか具合でも悪いの?」
「そうですね…。ちょっと…病気にかかっちゃいました。」
(病気!?いつの間に?)
「だったら無理はしないでください。」
そして優しく頭をなでる。
小鈴ちゃんはその手を振り払おうとはしなかったが、さっきよりも頭が熱かった。
熱でもあるのだろうか。
「欧我ー、来てください!」
「はーい!」
鈴奈庵の奥から文さんの声が聞こえた。
あそこは、妹紅さんがいたところだな。
カメラを構え、文さんの方へ向かった。
~小鈴視点~
さっきから一体どうしちゃったのでしょうか…。
欧我さんの顔を見ると、なぜかドキドキして胸がキュッと苦しくなる。
今まで、このような感情を抱いたことはありませんでした。
お母さんが淹れてくれた大好きなお茶の味でさえも、今は感じることができない。
それほど、何故か欧我さんのことで心が一杯で今にもあふれそう。
さっき、私を慰めるために抱きしめられた時、あまりにも怖かったから思わず泣き出してしまいましたが、泣きながらも幸せを感じていたなんて…。
あまりにも嬉しくて、恥ずかしくて、心地よかった。
欧我さんは今、近くの本棚で本を眺めている。
その時の真剣な表情や、時折見せるふっと笑った表情にドキッとする。
そして本を探し出し、8冊の本を抱える。
達成感を含んだその時の表情は、ものすごく輝いて見えた。
「ん?」
欧我さんが本から顔を上げ、私の方を見た。
「っ!」
目線があった途端、私は恥ずかしくて目をそらしてしまった。
(どうしたのよ!なんで目をそらしちゃうの?私も笑顔で…!)
欧我さんの方に向け、精一杯の笑顔で笑いかけた。
私の顔を見て、欧我さんも笑顔になってくれる。
(この感情、この気持ち、そして今の私。今になってやっとこの感情の正体が分かった。私、欧我さんの事を好きになっちゃった…。欧我さんには、好きな人はいるのかな?)
欧我さんは本を抱え、私の方に近づいてくる。
そして、私の隣に座った。
憧れの人が、私の隣にいる。
胸のドキドキが一層激しくなる。
「どうしたの?」
「いえ、別に…。」
ドキドキして、胸が苦しくて、私はそう答えることしかできなかった。
これが…恋というものなのでしょうか。
「どこか具合でも悪いの?」
具合…。
うん、もしかしたら病気になったのかもしれない。
好きな人のそばにいると、胸が苦しくなり、心臓の鼓動も早くなる。
顔が赤くなり、目を合わせることができない。
本で見たことがあるけど、まさか自分が発症するとは思わなかった。
「そうですね…。ちょっと…病気にかかっちゃいました。」
そう…『恋の病』に。
「だったら無理はしないでください。」
そう言って欧我さんは私の頭をなでてくれた。
その優しさに、私は甘えたい。
もっと、欧我さんに甘えたい。
「欧我ー!来てください!」
「はーい!」
文さんの声が聞こえた。
その声のした方に向かって欧我さんは走り出す。
「欧我さん…。」
(なんで、気付いてくれないのでしょうか?)