幻想郷文写帳   作:戌眞呂☆

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秋なのに、この姉妹のことをすっかりさっぱりと忘れていました。

秋姉妹ファンの皆様、申し訳ありませんでした。


番外編Ⅲ
紅葉の秋、穣りの秋


 

「あ~…。」

 

 

ああ、どうも。

以下略の葉月欧我です。

 

いやあ、1週間前は本当にひどい目にあったよ。

まさか絵1枚で文さんからボコボコにされるとは…。

でも、なぜか文さんの部屋にその絵が飾られているんですよね。

 

ボコボコにされたのって、照れ隠しと解釈してもよろしいのでしょうか…。

 

 

くきゅるるるる…。

 

 

「あ…。」

 

 

くそ、腹の虫が暴れまわっているぞ…。

 

もう何時間経つのだろうか。

今、俺は妖怪の山の中をさ迷い歩いている。

 

腹も減ってきた…。

 

 

…え?

飛べばいいじゃないかって?

 

残念ながらそれはできないんだよ…。

 

「体力をつけるために山の中を走り回る!」って言っちゃったしな。

だって、『スポーツの秋』じゃん。

 

しかも、文さんに向かって意地を張って。

 

 

だから、なにがなんでも自分の足で帰らないと、なんか色々とあれだからな~。

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 

目の前の一か所だけ、なぜか鮮やかな紅葉が残っている。

秋も終わりに近づいているから、山のほとんどの紅葉は散っちゃって枝があらわになっている。

実際に、俺の周りの木々もそうだ。

寒そうに枝が震えている。

 

それなのに、なぜあそこだけは紅葉が残っているのだろうか。

 

 

「行ってみよう。」

 

 

それに、なんかいい匂いが漂ってくるからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わぁ~。」

 

 

すげぇ。

奥に進むほど、紅葉の鮮やかさが増していく。

まるで、秋の始まりまで時間をさかのぼっていくかのようだ。

 

それに、空中を漂ういい匂いも、今ははっきりと感じ取ることができる。

これは…焼き芋!?

 

 

「あれ?」

 

 

木々の間の開けた場所に、2人の女性の姿が見える。

 

地面に座り、暗い表情でぱちぱちと音を立てる焚火をじっと見つめている女性。

この人はウェーブのかかったボブの金髪で、頭に楓の葉が3枚重なった形の髪飾りをつけている。

そしてもう1人は同じく金髪のボブで、唾の広い赤い帽子をかぶっている。帽子にはリアルなブドウがついている。

これ、食えるのだろうか…。

 

 

この人たちは、確か…。

文さんから聞かされていたんだけど、名前が…。

秋の紅葉を司る八百万の神々のうちの姉妹で…。

 

あっ、秋静葉(あき しずは)さんと秋穣子(あき みのりこ)さんだ!

 

 

 

「こんにちはー。」

 

 

「ああ、欧我君ね。こんにちは。」

 

 

初対面だけど、俺の名前を知っていたんだ。

おそらく、文々。新聞のおかげだろう。

 

っていうか、静葉さんどうしたのだろう…。

 

 

「姉さんね、いつもこうなるのよ。」

 

 

俺の、心配そうに静葉さんを見つめる視線に気づいたのか、穣子さんが教えてくれた。

 

 

「いつも…ですか?」

 

 

「そうよ。秋が終わりに近づくと、いつもこんな感じで沈んじゃってね。」

 

 

「そうですか。…ところで、この紅葉は?」

 

 

「これは姉さんの能力によるものよ。自分の周りを紅葉にして寂しさを紛らわしているんじゃないかな?」

 

 

そういうことか。

だから、この一帯だけ紅葉が残っていたというわけなんだね。

 

っていうか、静葉さん元気出してよ。

 

 

ぐぅるるるぅ~

 

 

「あ…。」

 

 

今までで一番盛大に唸りやがった…。

 

 

「あはははっ!元気だね。ちょうどよかった、焼き芋食べる?」

 

 

「え、いいんですか!?」

 

 

「うん、みんなで食べたほうが美味しいし!」

 

 

やったー!

空腹で、もうだめだと思っていた。

 

穣子さんから焼き芋を受け取る。

熱々で、新聞を広げるとふわぁっとさつま芋の甘い香りが鼻腔をくすぐった。

白い湯気が立ち上る。

 

皮をむき、黄金色に輝く芋にかぶりついた。

 

 

「あひっ!!はふはふ…」

 

 

ものすごく熱いけど、ものすごく甘い!

さつま芋って、こんなにも甘かったんだ!

触感もやわらかくてほくほくで、こんなにも美味しい焼き芋は初めて食べたかも。

 

 

「どうだい?」

 

 

「すごく美味しいです!」

 

 

…静葉さん、食べないのかな。

俺にできることは無いのだろうか…。

 

カメラを構え、静葉さんの隣に座った。

 

 

「静葉さん。」

 

 

俺の呼びかけに、静葉さんは顔を上げてくれた。

 

 

「写真を撮るので、笑顔を見せてくれませんか?」

 

 

「うん…。」

 

 

静葉さんの声に、元気はなかった。

これは重症だな…。

 

 

「元気を出してください。」

 

 

「無理よ、もう秋は終わっちゃうんだし…。」

 

 

そう言うと、再び両膝の間に顔をうずめた。

 

 

「そうですね、もうすぐ秋は終わります。」

 

 

俺の発言に、2人は驚いて俺の顔を見た。

 

 

「時間は過ぎていくもの、季節は変わるもの…。これは当たり前の事なんです。誰であれ、この自然の摂理は変えることができません。でも、静葉さんなら遅らせることはできます。現に、この周りの紅葉は鮮やかに輝いているじゃないですか。どう足掻いても冬はやってきます。大切なのは、未来にやってくる冬に怯えるよりも、今の秋を精一杯楽しむことなんじゃないですか?」

 

 

「っ!」

 

 

静葉さんは、はっとして顔を上げた。

そして、小さく「そうよね。」とつぶやいた。

 

 

「そうだよね。今はまだ秋。秋が終わってもいないのに落ち込んでちゃ秋を司る神らしくないもんね!」

 

 

「姉さん!」

 

 

どうやら、元気を出してくれたようだ。

姉妹仲良く手を取り合い、まぶしい笑顔を見せてくれた。

 

周りの紅葉に負けず、美しく輝いている。

 

 

「はい、こっち向いて!」

 

 

パシャッ!

 

 

カメラのシャッターを切る。

紅葉を背景に、2人の笑顔をきれいに捉えることができた。

 

 

 

 

 

 

現像した写真を2人に渡し、俺はこの場所を後にすることにした。

 

 

「それでは、また来年の秋に会いましょう。」

 

 

「そうね。その時には今年以上の紅葉を見せてあげる。」

 

 

「私もおいしい芋をたくさん実らせるからね。」

 

 

静葉さんには、もう沈んでいる様子は見られない。

元気で、明るい笑顔を見せてくれた。

 

 

「その時を楽しみにしています。それでは!」

 

 

秋姉妹のお2人にお辞儀をすると、空へと飛びあがった。

 

 

 

 

…あ、空飛んじゃった。

 

まあいっか。飛ぶことも運動だ。

 

 

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