「…え?」
その一言を聞き、脳天を殴られたようなショックが全身を貫いた。
俺の、文さんへの恋は…
この好きだという気持ちは…
事前に作られたものだったというのか!?
その後もオーガが何かを話しているが、今の俺の耳には届かない。
メモをする気力もない。
俺はただ、文さんへの恋が初めから決められていた偽物だという衝撃の事実に愕然としていた。
『文は今回の戦いでは非常に重要なカギを握っているらしい。影鬼様がそう呟いているのを聞いた。どうしてなのか理由はわからないが、とにかく文とは非常に親密な関係を築かなければならないだろう。一番手っ取り早い方法は何か…。そう考えた時に真っ先に思い浮かんだのが、文と恋愛関係を築くこと。お前の性格も、文が好きになるように設定したものだ。』
いつの間にか、俺は両手を床について嗚咽の声を漏らしていた。
せきを切ったようにあふれる涙。
今まで過ごしてきた時間。
感じていた幸せな気持ち。
好きという感情。
さらに、今の自分の性格さえも作られたものだという衝撃の事実に、俺はただ泣き叫ぶことしかできなかった。
いつの間にか、動画は終わっていた。
動画の中で次々と語られた、俺の真実。
それらは、到底信じることのできない物だった。
俺が影鬼の部下?
能力をコピーするために来た?
愛が偽物?
ばかばかしい!
そんなことあるわけないじゃないか!!
…でも、動画の内容を完全に否定することなんてできなかった。
俺は全ての記憶を失って、この地にやってきた。
能力を使って、様々な能力をコピーした。
そう考えたら、動画の内容とつじつまが合う。
「よし…。」
この動画、紫さんに見せよう。
そしてどうすればいいのかを相談しよう。
パソコンを閉じると、博麗神社に向かって飛び出した。
「霊夢さーん!!」
「何よ欧我、また来たの?」
霊夢さんは縁側に座ってお茶を飲んでいた。
衣玖さんと天子さんもいる。
その3人の前に着陸した。
「あの、紫さんはいませんか?相談したいことがあって。」
未だに動画を見たことで動揺していたが、それを悟られまいと笑顔で、いつもの調子で言った。
「紫?さぁね。あいつは神出鬼没だから。」
「そうですか…。」
でも、新聞についていたメモでは『私に用があったら博麗神社に来なさい』って書いてあったのに。
本当にいないの?
「あら、さっそく会いに来てくれたの?」
「うわっ!?」
いつの間にか、紫さんが俺の背後にいた。
まったく、驚かさないでくれよ。
危うくパソコンを落とすところだった。
「あら、驚かせちゃったかしら?…それで、私に何か用事でも?」
「はい。あの…二人だけで話がしたいのですが。」
俺がそう言うと、突然紫さんは顔を赤く染める。
「まさか、私に告白を?いやーん…」
ドカッ!!
紫さんの頭に、紅白の球体がぶつかった。
後ろを振り返ると、霊夢さんがすごい形相で立っていた。
怖すぎる…。
「分かったわよ。じゃあこの中に入りなさい。」
紫さんが手をかざすと、何も無い空間に突如裂け目が出現した。
裂け目の中には無数の目玉があり、かなり不気味だ。
…この中に?
意を決して、俺はその裂け目に足を踏み入れた。
裂け目の中は、とても不思議な空間だ。
外は息が白くなるほど寒いのに、気温は一定に保たれているのかかなり快適だ。
独特な浮遊感があり、能力を使わなくても浮くことができる。
やっぱり、たくさんの目玉から見られているのは落ち着かないが。
「それで、私に何か用事があってきたんでしょ?それに、その様子だと自分の正体について知っちゃったとか。」
「えっ!」
何故それを、知っている?
まだ何も言っていないのに。
「だって、顔に書いてあるわよ。それに、おそらく霊夢もそれに気づいているわよ。」
「そうですか…。では、もう隠す必要もないですね。」
そう言うと、せきを切ったように涙が溢れだす。
霊夢さんたちの前で我慢していた感情が、溢れだしたのだ。
紫さんは俺のそばに立って、そっと優しく背中をさすってくれた。
不思議と落ち着くことができた。
涙をぬぐい、パソコンを開いて動画を再生した。
「ふぅん、そう言うことね。」
一通り動画を見た後、紫さんはぼそりとつぶやいた。
俺はただ、何も言わずに紫さんの顔色をうかがう。
「分かったわ。また何かあったら相談しにおいでね。」
「えっ!?」
紫さんの言動は、俺のイメージしていたものとは違っていた。
「どうしたの?」
「だって…。危機を防ぐために俺を殺したりしないんですか?俺は悪の手下なんですよ!」
これは、もうすでに覚悟してきたことだ。
未然に脅威となる存在を消すことによって、これから訪れるであろう危機を防ぐことができる。
そう覚悟していたのに…。
「私がそんなことするわけないじゃない。貴方はすでにこの幻想郷にとって必要な人物となっているわ。そして、文にとってもね。」
「でも、この気持ちはプログラムされたものだって…。」
「そう、プログラムされたもの。でも、今あなたが抱いている感情は間違いなく本物よ。それに、文もあなたを好きでいてくれる。文のこの気持ちはプログラムされたものだと言いたいの?」
紫さんの言葉を聞いて、俺ははっとした。
俺のこの気持ちは作られたものだ。
でも、文さんの場合は違う。
文さんは本当に俺の事を好きになってくれた。ずっと一緒にいてくれた。その気持ちは、正真正銘の本物だ。
「それに、もし今あなたの命を奪えば、私は本気を出した文に殺されちゃうわ。とにかく、貴方は精一杯文を愛しなさい。それが異変を解決に導く切り札でしょ?」
「紫さん…。」
「このパソコンは私が預かっておくわ。あなたはもう帰りなさい。きっと文も帰ってくるわ。」
そして手をかざし、裂け目を作り出した。
その裂け目は、文さんの家の前につながっていた。
「わかりました、ありがとうございます。」
俺は紫さんにお礼を言うと、その裂け目に飛び込んだ。
「さて…。」
その裂け目を消し、私は一息つく。
私たちもそろそろ動き出すとしましょうか。
久しぶりにあの人たちを集めましょう。
「ふふ、今年は冬眠している暇はなさそうね。」