夜…。
俺は布団の中に入り、紫さんから言われた言葉を思い返していた。
俺の感情はプログラムされたことによって生まれた。
しかし、文さんの気持ちは本物だ…。
こんな状態で、俺は本当に文さんを愛し続けることはできるのだろうか…。
「ただいま、欧我。」
その声と共に部屋の障子が開き、文さんが俺の部屋に入ってきた。
今帰ってきたばかりなのか、表情には少し疲労がたまっている。
「文さん…。」
その笑顔を見て、気付いたら涙を流していた。
動画の中でプログラムされているものだと言われたこの感情。
改めて考えてみても、信じることができなかった。
文さんが好きだというこの感情は、本当に作られたものなのだろうか。
じゃあ、今この感じている胸の苦しみは一体何だ!?
「あややや、どうしたのですか?」
俺のそばに腰を下ろし、心配そうに顔を覗き込む。
俺はただ何も言わず、文さんの肩に両手を置くと引き寄せ、抱きしめた。
「あっ。」
「文さん、俺…。」
本当に、この恋という感情が偽物だとしたら、今俺の感じているこの幸せな気持ちは一体何なんだ。
このドキドキは!?大好きという感情は!?
俺は、本当に文さんを心から愛している。
誰が何と言おうと、俺はこの気持ちは本物だと信じている。
「俺は…。文さんのことが大好きです。この世界のだれよりも、一番大好きです。」
まるで自分に言い聞かせるように、ゆっくりと、そしてはっきりと口にする。
背中に回したシャツを握る手に力が入る。
もう、全てを打ち明けよう。
今、俺が感じている感謝、幸せ、そして愛…。
「文さんに初めて会った時、俺はすでに文さんに恋をしていました。笑顔が素敵で、その笑顔に一目惚れをしていました。そして一緒に一つ屋根の下で過ごした生活、俺にとっては、毎日が楽しくて、そして幸せでした。」
今まで一緒に過ごしてきた思い出を、ゆっくりと口にする。
一緒に取材に行った時の楽しさや、一緒に空を飛んだ時の爽快感、そして一緒に過ごした何気ない日常の中で感じた幸せ。
俺の中には、文さんと過ごした幸福な日々が次々と思い浮かんでくる。
それらをゆっくりと言い聞かせるように耳元で言葉にする。
その間、何も言わず俺の話に耳を傾けてくれていた。
「ううっ…。」
「…文さん?」
俺を抱きしめる腕の力が強くなるのを感じる。
肩を小刻みに動かし、声を上げて泣いていた。
止めどなく溢れる文さんの涙。
俺はしっかりと抱き締めたまま頭をやさしくなでる。
「よかった…。」
「え?」
「私…ずっと不安だった。」
文さんは胸の内を語ってくれた。
「私…欧我が好きだという気持ちに、自信が持てなくて…。本当に、好きなのかとか…欧我は、本当に私の事を…好きでいてくれるのか…。不安で…っ…たまらなかった。」
文さん、そんなこと思ってたんだ…。
「ぐすっ…私、本当にこれでよかったのか…分からなかったの。日々の接し方や、取材中での対応とか…。欧我が…本当に幸せになってくれるかどうか…不安で不安でたまらなかった…。」
俺を抱きしめる腕に、さらに力が入る。
肩に顔をうずめ、文さんは泣き続けた。
俺も涙を流しながら、抱きしめる腕に力を込めた。
「でも、欧我は今…私を大好きだと言ってくれた。世界で一番だと言ってくれた…。幸せだと言ってくれた…。それが本当にうれしかった。今まで感じていた不安を取り除いてくれた。本当に…あ」
自分の体から引き離し、唇を使って文さんの言葉を遮った。
「それを言うのはこっちさ。文さん、本当にありがとう。」
「うんっ!」
文さん涙を流しながら、にっと笑顔になる。
俺も、泣きながら笑顔になった。
見つめあい、再び唇を重ね合わせた。
文さんの体に力が入る。
俺は抵抗することなく、その力に身をゆだねる。
唇を重ね合わせたまま、布団の上に押し倒された。
文さんは上体を起こし、俺の上に馬乗りになった。
俺を見つめたまま、自分の胸元に両手を持っていく。
そして、するするとシャツのボタンをはずしていった。
「欧我。私の愛、受け止めてください。」
ボタンをすべてとり、上着を脱ぐ。そして両手を後ろに回し、ホックをはずした。
その様子を見ても、また、これから何をするかが分かっても、なぜか動揺したりうろたえたりはしなかった。
…いや、文さんだから動揺しないのだろう。
文さんだからこそ、全てを受け止めることができる。
「はい、受け止めます。全身全霊で。」
俺の言葉を聞き、文さんはほっとしたような笑みを見せた。
そして俺が着ている服の裾に手をかけ、そっと脱がしてくれた。
しばらく見つめあった後、2人は抱きしめあった。
1つの屋根の下、1つの布団の中。
お互いの愛を感じるように、忘れることのできない一夜を共にしたのだった。
愛を確かめ合った欧我と文。
これからずっと文を愛し続けようと心に決めた欧我でした…。
どうも、作者の戌眞呂★です。
実を言うと、この展開は一度書いてみたかったです。
上手く表現できているのか不安ですが…。
さて、この章で欧我の正体が判明しました。
自分の正体を知りながらも幻想郷を守るために苦悩する欧我。
彼はいったいどんな決断を下すのか、楽しみに待っていてください。
この章で、秋編は終わりを迎えました。
そして季節は最後の一つ、冬へと向かいます。
物語が始まった春…
文との恋に気付いた夏…
自分の正体を知った秋…
起の春、承の夏、転の秋ときて、最後は「結の冬」です。
結、決、欠…。
いろんな「けつ」がありますが、今後の展開を楽しみに待っていてください。
それでは、失礼します。