しかし、冬らしいことはせず、ほとんどが戦いになる予定です。
「結の冬」、最後までお楽しみください。
親密な関係
「はぁ…。」
吐き出された息は真っ白になった。
冷たい風が吹き、体を縮こまらせる。
俺の正体を知ってから1か月が経過した。
この1か月、俺はできる限りほかの人と交流する時間を作った。
他の妖怪と協力すること。これが、影鬼との戦いを勝利に導くためのカギだと知ってから、俺はとにかくみんなと交流し、より親密な関係を築こうと行動を起こしてきた。
この行動の効果が出たのかは分からない。
本当に、妖怪のみんなは俺の事を好きになってくれたのだろうか…。
それにしても…寒い。
俺は今、滝の真上にある岩に腰を下ろし、雪に包まれて白く輝く幻想郷を見下ろしている。
この滝は「九天の滝」と言うらしく、豪快に川の水が流れ落ちている。
何か考え事があるとき、一人でじっとしたいとき、俺はよくここにやってくる。
ここに座って、ここから見える景色を眺めていると、なぜか心が落ち着くからだ。
「えいっ。」ぴとっ
「ひゃああ!?」
突然俺の頬に冷たいものが押し当てられ、驚いて飛び上がった。
後ろを振り向くと、そこには満面の笑みを浮かべている小傘ちゃんの姿があった。
「やったー!欧我が驚いてくれたー!!」
そう言ってうれしそうに飛び跳ねる小傘ちゃん。
ふふっ、相変わらずだな。
こうなったら…。
「ひゃん!?」
お返しだ。
手袋を忘れてしまい、丁度俺の手も冷え切っていたから、冷たいだろう。
小傘ちゃんの頬に両手を押し当てた。
慌てて俺の両手を振り払った。
「もー。私を驚かせないでよー!」
「えへへ、たまには驚かないとだめだよ。」
「むぅー。」
小傘ちゃんはむっと頬を膨らませると、その場にしゃがんで両腕を動かした。
しばらく動かした後、立ち上がってにっと笑顔になる。
その手には複数の雪玉が。
まさか…。
「えいっ!」
「うわっ!?」
その一つを掴み、俺に向かって投げ飛ばした。
攻撃は何とか避けることができたが、避けたすきを突かれて投げられた雪玉は避けることができず、顔面に命中してしまった。
なんだろう、この小傘ちゃんの笑顔。
そして大量の雪玉…。
よし、付き合ってやる。
「ほら、当ててみろー!」
文さんのスピードを自分に投影させ、小傘ちゃんの周りを高速で飛び回った。
「あー!天狗のスピードは禁止!」
小傘ちゃんとの雪合戦を終え、岩に腰を下ろして風景を眺める。
あれから投げられた雪玉をかわし続け、気が付けば1時間が経過していた。
そして涙目の小傘ちゃん…。
ちょっとやりすぎたかな。
小傘ちゃんは俺の膝の上に座り、一緒に風景を眺めていた。
体を密着させると小傘ちゃんの温もりが感じられ、髪の甘い香りが鼻孔をくすぐった。
「どう、すっきりした?」
「…え?」
「欧我って、ずっと影鬼の事について悩んでいるんでしょ?」
「え、あ、うん…。」
俺が影鬼の部下であることは、文さんと小傘ちゃんにはすでに明かしていた。
この世界を滅ぼすためにやってくる魔法使いであること。
5つの能力の内の4つを手に入れたら幻想郷に攻め込んでくること。
俺はその能力を集めるためにここに来たこと…。
嫌われるのを覚悟で、2人にはすべてを話した。
…でも、2人は追い出すどころかそんな俺を受け止めてくれた。
大切な家族だと言ってくれた。大好きだと言ってくれた。
あの日ほど、うれし泣きした夜はなかった。
「そうだよ。俺はこれからどうしていけばいいのか、どう接していけばいいのか、それをずっと考えている。」
「ふーん。」
俺の言葉を聞き、小傘ちゃんは膝から降りて立ち上がる。
そして向き合い、俺の手を取って言った。
「いつも通りにすればいいよ。私知っているんだからね。命蓮寺のみんなが言っていたの。欧我はとてもいい子だって。親しみやすいって。ううん、命蓮寺だけじゃない。私が会う人すべてが欧我の事を好きだって言ってた。欧我の助手になった私を羨ましいって言ってた。」
そこまで言うと、小傘ちゃんはにっと笑顔になった。
「大丈夫、欧我はしっかりと親密な関係を築いているわ。だから絶対に影鬼を倒すことができる。そして…」
小傘ちゃんは顔を近づけ、そっと俺のほっぺにキスをした。
「そして、これはお守りよ。」
「小傘ちゃん…。」
小傘ちゃんの言ってくれた言葉は、俺の心に渦巻く不安を消し去ってくれた。
俺は、みんなと親しい関係を築くことができたんだ…。
好きでいてくれたんだ…。
本当に、よかった…。
これまで幻想郷で過ごしてきた数か月が報われたような気がして、ほっとした。
「小傘ちゃん…。」
「何?」
立ち上がると、小傘ちゃんを抱きしめた。
「ありがとう。」
「うん。」
小傘ちゃんも、俺の背中に手を伸ばしてしっかりと抱きしめてくれた。
2人はしばらくの間、滝の上で抱きしめあっていた。
さあ家に帰ろうかとした時、小傘ちゃんが何かを見つけた。
指をさす方を見ると、湖のそばで雪が渦を巻いていた。
あれは一体何だ…?
「あっ!?」
その渦の中で、真っ赤に燃える炎が上がる。
しかし、その炎は渦にかき消された。
あの炎って、もしかして…。
「行ってみよう!」
「うん!」
滝の上から飛び降り、その渦を目指した。