「ここは…。」
まただ。
またこの場所にやってきてしまった。
何も無い、真っ暗な空間。
独特な浮遊感を持つ、摩訶不思議な空間。
自分だけははっきりと見えるのに、それ以外が全く見えない。
この場所は…一体。
「欧我…。」
「っ!?」
またあの声が聞こえる。
どこから呼んでいるかは分からないが、力強く威厳に満ちた女性の声。
その声は落ち着いていて、自信に満ち溢れていた。
この声の主はいったい誰なんだ…。
まさか…!?
「影鬼か!?」
「おやおや、主に向かって呼び捨てとは。欧我も成長したのう。」
俺の発言に反応し、その声はこう答えた。
ということは、この声は影鬼で間違い無い。
すると、何も無い空間に突如として一人の人物が姿を現した。
170㎝はあろうかという身長で、全身を黒いローブで覆い隠していた。
顔が隠れているので、影鬼の表情を見ることができない。
でも…。
頬を、一筋の汗が流れ落ちる。
この人物が醸し出す威厳や威圧感は尋常じゃない。
本能的にというか、俺はこの人に逆らうことができない。
「も、申し訳ありません。まだ完全に記憶が戻ってはいないので。」
ものすごい恐怖に襲われながらも、何とか声を出した。
声が震えている。
その人物は、小さく「そうか…。」とつぶやいた。
「まあ、しばらくすれば記憶を取り戻すであろう。」
「はい。」
記憶を…取り戻すだって?
もしかして、4つ目の能力を手に入れた時にすべての記憶が解放されるようにプログラムしていたとか?
「それよりもじゃ、欧我。こうしてお主と会いまみえることができたということは、すでにエレメントを4つ手に入れたということじゃな。」
「え…エレメント、ですか?それって…。」
「ふむ、記憶が戻っていないというのは本当のことのようじゃ。よかろう、説明してやる。エレメントというのはこの世を構成する5つの元素のことを言う。それらがすべて集まれば、わらわの目標である最高の“兵器”が完成する。」
「へ…兵器だって!?」
「そうじゃ。最初からリミッターを解除しておいた5つの能力じゃよ。お主、今までにどの能力を集めた?」
リミッターが解除された能力。
それらはエレメントと呼ばれ、5つ集まれば最高の兵器が完成する。
それってあの能力の事だよな。
「水、雷、大地…そして炎です。」
「なるほど、やはりあと1つか。しかもお主に最も適合した能力が残っているとは…。」
俺に、最も適合した能力?
それって一体…。
「あの…影鬼様。その能力、エレメントとは一体?」
「それはな…。」
ごくりとつばを飲み込む。
「『風』だ。」
「か…風ですか!?」
風を操る能力を持った妖怪っていったい誰なんだ?
それがいったい誰なのか、今の俺には全く分からなかった。
風…。
「欧我よ、お主に命令を下す。」
「は、はい!」
「わらわはこれから準備を行い、整い次第この地に攻め込んでくる。それまでに風のエレメントを手に入れよ。まず手始めに手下どもを送らせる。そいつらと協力するのじゃ。」
て、手下を送り込む!?
まさか、もう侵略は始まってしまうって言うのか!?
そんな、こちらの戦う準備ができないではないか。
…もう少し情報を引き出そう。
「その手下とは一体どんな人なんですか?」
「ん?なぜそれをわらわに聞く?記憶が戻れば知ることができるはずであろう。」
「はい…。ですが、いつ記憶が戻るか分かりません。その記憶が戻る前に、事前に情報を知りたいのです。」
「ふむ…そうか。」
そして、影鬼は俺にその手下の情報を教えてくれた。
その手下は影鬼の魔力で作り出した妖怪で、弾幕による攻撃は一切効果が無いこと。
次々と幻想郷の各地に送られること。
その手下たちと繋がっているので、送られた場所は俺にしか分からないこと。
でも、肝心の倒し方は教えてはくれなかった。
「あの、その手下を倒すにはどうすればいいのですか?」
「倒す…じゃと?どうしてお主が知る必要がある。」
「幻想郷には、様々な能力を持つ妖怪がいます。もしかしたら、その手下たちを倒すことができる能力を持った妖怪もいるはずです。事前に倒し方を知れば、真っ先にその危険性を持つ妖怪を倒すことができます。」
これは賭けだった。
もし知ることができれば、その方法を用いて俺が手下どもを倒す。
そうすれば、幻想郷に訪れる恐怖も少なくなるだろう。
「先ほど言ったように、弾幕などという生半可な攻撃は一切通用しない。倒すためにはエレメントの力が必要じゃ。火、風、雷、大地、水の5つの能力を持つ妖怪。こやつらを仕留めよ。」
「はい、わかりました。」
俺の返事に頷くと、影鬼はその場から姿を消した。
「はぁ…。」
のしかかっていた恐怖から解放され、ほっと一息を突いた。
それにしても、上手く影鬼から情報を引き出せた。
ブン屋の助手をやっていて本当に良かったよ。
さて。
手下を倒すことができるのは5つのエレメントだけ。
水を操るにとりさん。
雷を落とせる屠自古さん。
大地を操れる天子さん。
炎を出せる妹紅さん。
そして、風を操る誰か…。
そして、俺。
絶対に、この地を滅ぼさせたりはしない!
「っ!?」
一瞬、頭が割れるような痛みが走った。
俺の脳内で、ある変化が起こったからだ。
記憶を閉じ込める金庫に鍵が挿入され、記憶の一つが解放された。
その記憶は、またしてもひとつの文字列だった。
これは、最後の動画のパスワードに違いない。
早く紫さんのところに向かわないと。
「う~ん…。」
「あっ、欧我!大丈夫!?」
ゆっくりと目を開ける。
目の前には、心配そうな文さんの姿があった。
「心配したんだからね。小傘さんから欧我が倒れたって聞いて、急いで駆け付けたんだから。」
「文さん…。ありがとうございます。」
本当に、俺は文さんに心配かけてばっかりだな。
これからはもっと気を付けないと。
「もしかして…4つ目の能力を真似てしまったのですか?」
文さんの問いかけに、俺はただ頷くことしかできなかった。
申し訳ない気持ちでいっぱいになり、目を合わせることができない。
能力…。
そう言えば、文さんとは能力について一度も話したことが無かったな。
それよりも風を操る妖怪っていったい誰が…。
「文さん、風を操る能力を持っている人って誰ですか?」
「風…ですか?」
文さんは不思議そうな表情を浮かべ、首をかしげた。
「それは…。」
そして、文さんは驚くべき事実を口にした。
「私ですよ。」