スキマから4人が外に出て、この空間に残されたのは俺と紫さんだけとなった。
「それで、どうするの?」
「俺ですか?無事能力も真似できたから、すぐにでも…。」
「そうじゃないのよ。」
応えている途中で、紫さんが遮った。
そうじゃないって、いったいどういう意味なんだ?
「あなた、文との関係はどうするの?」
「文さんと…ですか?」
もし戦いが始まれば、俺は幻想郷の各地を転戦することになる。
そうすれば、文さんの家に帰ってこられないかもしれない。
最悪の場合、俺が戦いで死ぬことだって考えられる。
「そう。大好きな人のもとを離れ、戦いに向かうことはできるの?」
大好きな人のもとを離れる…。
正直に言うと、自分の中ではその覚悟はできなかった。
大好きな人とずっと一緒にいたい。
幸せな日常を過ごしたい。
かわいい笑顔をずっと見ていたい。
でも…。
「覚悟ができないのは仕方ないわ。あれほどの熱い夜を過ごした仲だからね。」
「ええ!?紫さん…見てたの?」
「青春って素晴らしいわね。あんな2人初めて見たわ。まさかあの文があそこまでみだ…」
「ストーップ!!あの、紫さん。一回死んでみませんか?」
まさかの覗き魔かよこいつ!!
何なんだよこの恥ずかしさと怒りが混ざったような不思議な感情は…。
…はぁ、それよりも。
怒りでプルプルと震える拳を下ろした。
「そうですよね。大好きな文さんと離れるのはものすごくつらいです。」
でも…。
「でも、もしこの幻想郷が無くなれば俺は文さんと一緒に笑いあうことはできません。それに、戦いが終わればもう一度文さんと一緒に過ごせます。だから、俺は…。」
「それもそうね。うん、分かったわ。」
紫さんは頷くと笑顔になった。
後は、この事を文さんに話さないと。
「さあ、天子に伝えに行く前に、一緒に文のもとに向かいましょう。」
「はい。」
真似したての紫さんの能力を自分に投影させる。
文さんをイメージして右手をかざすと、その手の平のすぐ下に紫さんのと同じ裂け目が広がった。
よし、成功だ。
紫さんの顔を見て頷くと、その裂け目に飛び込んだ。
「文さん。」
文さんはいつの間にか自分の家に帰っていた。
自分の部屋で机に向かい、メモ帳と照らし合わせながら新聞の原稿をキーボードで打ち込んでいた。
その後ろに着地する。
その後に現れた紫さんの姿を見て、文さんは驚いて飛び上がった。
「あやややや!?これは大スクープです!こんな真冬にスキマ妖怪を見ることができるなんて!いつもは冬眠しているはずの貴女がなぜここに!?インタビューしてもいいですか?」
え?冬眠…?
熊かなんかなのか?
「悪いけど、今年はのんびりと冬眠ができそうにないのよ。それよりも、欧我から貴女に重要な話があるのよ。」
「欧我から…私に?」
「うん。実はね…。」
そして、俺は文さんにすべてを話した。
4つの能力を手に入れたこと。
影鬼の準備が整い次第この地に攻め込んでくること。
手始めに手下を送り込んでくること。
その手下を倒すには俺の持つ能力が必要なこと…。
流石伝統の幻想ブン屋というか…、文さんはそれらをすべて手帳にまとめていった。
「それで、俺は決めたんだ。」
「何をですか?」
「この家を…出ていく。」
「えっ?」
ペンの動きが止まった。
「俺はしばらくの間、手下との戦いに打ち込めるように、この家を出ていくことにしたんだ。だから…文さんとは」
「ちょっと待って。ちょっと待ってください。ここを出ていくって。私たちと一緒に過ごしたくないと言いたいのですか!?」
「そうじゃない!俺は文さんたちを危険に巻き込みたくないんだ。だから。」
手帳を取り落し、文さんは俺の両肩にしがみついた。
「私たちなら大丈夫です。戦えます。だから、出ていこうとは…。」
「そうじゃないんだ!」
その両手を振り払った。
「手下は不思議な力で守られている。そいつらには弾幕は通用しないんだ。文さんが強いのは知っている。だからと言って勝てるとは限らないんだよ!」
「そんなこと…そんなことなんて分からないじゃない。」
口元に両手をあて、はらはらと涙を流す。
文さんの前に移動し、しゃがみこむ。
そして、うつむいて泣き続ける文さんの頭にやさしく手を置いた。
「大好きな人を危険から守りたい。そのために戦うんだ。だから…。」
がばっ!
いきなり文さんに抱きつかれた。
「出ていかないでよ。私は離れたくない。私は欧我と一緒にいたいのよ!」
文さん…。
「戦いで欧我が死んだら?この世からいなくなったら私はどうすればいいの?欧我のいない世界なんか嫌だ!」
「大丈夫だ、俺は死なない!大好きな人を残して死ぬことなんてできない。」
「もし死んだら!?そんなの分からないじゃない!」
「死なないよ!たとえ死んだとしても、幽霊になってでも必ず会いに行く!約束する。」
「嫌だ!嫌だよ…。」
「文さん…。」
文さんは俺にしがみつき、体を震わせ、大声で泣き続けた。
俺はただ文さんをしっかりと抱きしめる。
俺だって悲しいわけではない。
文さんとは別れたくはない。
…でも、この危機を招いてしまったのは俺だ。
だから、俺は戦わなければならない。
「文さん。」
「小傘ちゃん?」
襖を開け、文さんの部屋に小傘ちゃんが入ってきた。
今まで泣いていたのか、目には涙がたまっている。
小傘ちゃんは文さんの隣に座ると、そっと頭をなでた。
「行かせてあげようよ。」
「小傘…さん?」
「私は今までの事をずっと聞いていたの。だから、戦えるのが欧我だけということも知っている。大丈夫よ、欧我は絶対に約束を守る。欧我を信じてあげようよ。」
「ううっ…で、でも…。」
「文さん。」
名前を呼び、文さんの顔を上げさせる。
両手を頬に当て、親指で目から流れ続ける涙をぬぐった。
そして、文さんに笑いかける。
「別れると言っても、文さんの事が嫌いになったわけじゃないよ。戦いが終われば、また文さんのもとに帰ってくる。今でも俺は文さんの事が大好きだよ。この世界の誰よりも。」
「そうよ、だから信じてあげて。私たちは家族なんだからね。」
「欧我…。小傘さん…。」
家族…。
この言葉が聞けて、本当にうれしかった。
血は繋がってはいないけど、この2人と家族のような関係を築けたのがものすごくうれしかった。
「ありがとう、小傘ちゃん。」
「もー、なんで欧我も泣いちゃうの!?私だって我慢していたのに…。うわーん!」
3人で抱き合い、泣き続けた。
「愛って素晴らしいわね。感動しちゃった。」
「ええ、少々見苦しいものを見せてしまいましたが…。」
目からあふれ出した涙をぬぐった。
あの後ずっと蚊帳の外にされた紫さんとともに、一旦部屋を抜け出して外の空気を吸いに出ていた。
小傘ちゃんが一緒に説得してくれたおかげで、文さんもようやく頷いてくれた。
「それにしても、よかったの?本当のことを教えなくて。」
「ああ、その事ですか。」
手下と戦えるのは、5つのエレメントを操ることができる人たちだけ。
つまり、風を操る能力を持つ文さんも戦うことができる。
しかも幻想郷で最強クラスの強さを持っている。
だから、戦っても負けることはないだろう。
…でも。
「いいんです。大好きな人を戦いに巻き込みたくない。それに、どちらにしても文さんならいつかは気づきますよ。」
「そうね。」
「じゃあ、俺は文さんの元に戻ります。もう一晩だけ、大好きな人と過ごさせてください。」
そう言って、家の中へと入っていった。