てなわけで、始まります。
幸せな日々の終わり
翌日…。
「はぁ~…。」
暇だ。
今日も一向に手下が現れる気配がない。
昨日はあの後、夜遅くまで星を眺めながら3人でずっと語り合っていた。
そのせいか、今はものすごく眠い。
腰から下を炬燵に入れ、首にかかっているネックレスをつまんで持ち上げた。
文と小傘がくれたプレゼント。飾りを揺らすと、「チリーン」というかわいい音色が響く。
これは、俺の宝物だ。
そういえば、親密な関係になったから呼び捨てで呼んでほしいって言われたな。
今までずっと文と小傘を「さん」、「ちゃん」付けで呼んでいたから、いきなり変えるとなんか違和感がある。さっきも文を「文さーん!」って呼んで注意されたからな。
しばらく意識しないとまたさん付けで呼んじゃうな…。
「うらめしやー!!」
「わあっ!?あ、小傘ち…小傘か。どうしたの?」
あぶねぇ、またちゃん付けで呼びそうになった。
にしても、いきなり驚かさないでくれよ。
はぁ、笑顔が可愛い…。
「やったー!驚いてくれた!!」
「もー。」
「おや、楽しそうですね。」
そんな2人のもとに、文がお茶を運んできた。
上体を起こし、熱々のお茶が入った湯呑を受け取る。
「ありがとう。…でも珍しいね、文がお茶を持ってくるなんて。」
「だって、妻らしいことをしてみようかなと思って。」
「ぶっ!!」
思わず吹き出してしまった。
お茶を口に含んでいなくてよかった。
…ってか、妻!?
「妻って…。」
「ええ、プロポーズをされた。指輪ももらった。それはつまり私たちは夫婦になったということでしょ。」
「え、あ、そうだけど…でもまだ式も挙げてないし、俺は指輪もらってないし…。」
「それでしたら、はいこれ。」
そう言って文は懐から小さな箱を取り出した。
まさかこれって…。
箱を開けると、俺のイメージ通りそこには指輪が輝いていた。
いつの間にこんなものを!?
文は指輪を取り上げると、俺の左手に指輪をはめた。
「これで、式は挙げてないけど私たちは夫婦ね。」
「文…。うん、分かった。」
まだ実感は湧かないけど、徐々に慣れていこう。
「いいね!じゃあ私は2人の子供になる!」
「小傘!?」
3人で笑いながら、幸せなひと時を過ごす。
湯呑を持ち上げ、口元まで運ぶ。
その時…
ぞくっ!!!
とてつもない魔力を感じた。
今までと比べ物にならないほど強力で、それでいて邪悪な闇に満ち溢れている。
体中から嫌な汗が吹き出し、寒くもないのに身体がぶるぶると震えだした。
まさか…これって…
「欧我!どうしたの!?」
「いや…何でもない。」
慌てて平静を装ったが、発した声が震えていた。
今の俺の様子を見れば何かが起こったことは明白だ。
それに、文は幻想郷一のブン屋だ。おそらく、何をやっても隠し通せそうにない。
心配させたくなかったが、嘘は言わないでおこう。
「実は、強い魔力を感じた。」
「本当に!?じゃあ、影鬼の手下が…。」
「うん。ちょっと行ってくる。」
そう言って立ち上がった。
帽子を深くかぶり、頭にゴーグルをはめる。
「待って、私も戦うわ。」
「大丈夫、簡単に片づけて帰ってくるから待っていて。」
紫さんの能力を投影させてスキマを作り出し、飛び込んだ。
スキマを潜り抜け、地面に着地した。
スキマの中で感じた、強烈な威圧と殺気。
これは、間違いない。
ついに…あいつが現れた。
「久しいのぉ、オーガ。」
「いや、俺は初めてだよ。影鬼。」
俺の目線の先には、不気味なオーラを放つ影鬼の姿があった。
無造作に伸ばした真っ黒な髪で、頭には悪魔のような角が2本生えた王冠をかぶり、いかにも魔女と言わんばかりの黒服に身を包んでいた。見た目の年齢は16歳くらいだが、顔にはしわ、目元にはくまがありそのような雰囲気を感じさせない。
そして、髪の間からこちらを睨む目には生気が宿っていなかった。
こいつが…影鬼か。
無意識の内にがくがくと震える脚、頬を伝う汗、身体を襲う威圧…。
影鬼にじっと睨まれているだけで、ものすごく強い恐怖に襲われる。
いや、俺はこいつを倒す。
こいつを倒して、この幻想郷を護る!
深呼吸をして心を落ち着かせ、写真を取り出して構えた。
その様子を見て、影鬼は不思議そうに俺を見つめた。
「おかしいのぉ、まだ記憶を取り戻しておらぬのか。」
記憶を…?
そういえば、未だに記憶を取り戻してはいない。
これは俺の推測だけど、仲間たちに囲まれて幸せな日々を過ごしたいと願う俺の気持ちが記憶の開放を封じ込めているのだと思う。
そうじゃなかったら、今頃記憶を取り戻しているだろう。
「それに、わらわの手下どもと協力するどころか次々と倒しおって。」
影鬼の目が怒りに燃える。
「今一度、わらわの下部となれ、オーガ!!」
俺に向かって右手をかざすと、次の瞬間激しい頭痛に襲われた。
「ぐあああああ!!!!!」
頭を貫く激痛に耐えられず、膝を突きのた打ち回った。
頭の中、記憶を閉じ込める金庫。
ガードを突き破り、真っ黒な鍵が次々と鍵穴に差し込まれる。
一斉に回され、俺は全ての記憶を取り戻した。
俺の正体、ここに来た目的、そしてこれから始まる影鬼の計画…。
「止めろおおおお!!!」
大声で叫ぶが、この激痛は止まなかった。
それどころか頭を襲う痛みは強さを増し、体中を襲った。
身体の中に真っ黒なものが流れ込んできた。
俺の心は、その真っ黒なものに浸食されていく…。
激痛が止んだ時、欧我は一切の感情を捨て去っていた。
淡いエメラルド色に輝く瞳は輝きを失い、うつろな目は真っ黒になっていた。
影鬼に洗脳され、今までの優しい欧我はこの世から姿を消した。
いるのは、影鬼の忠実な下部であるオーガだけだ。
「さあ、射命丸文を連れ去って来い!」
「はい。」
オーガは大地を蹴って上空に飛び上がった。
今ここに、幻想郷中を巻き込む異変の幕が切って落とされた。
幻想郷に侵略を開始した影鬼。
洗脳された欧我、そして文の運命はいかに。
ついに始まった最終章「影鬼異変」お楽しみに。