妖怪の山、文の家を目指してまっすぐ空を飛んで行く。
彼の心には文への愛をはじめとした一切の感情が無く、ただ、影鬼の計画を成し遂げるための道具へと化していた。影鬼の命令にのみ従い、どんな命令も忠実にこなす兵士、それがオーガだ。
文の家が見えてきた。高度を落とし、家の前に着地した。
外から聞こえた音に気づき、文が玄関の扉を開けて外に出てきた。
そして玄関の前に立つ欧我の姿を見た途端ほっとした笑みを浮かべた。
「お帰りなさい、欧我。」
しかし、うつろな目で黙ったままの欧我を見て顔から笑みが消えた。
「どうしたのですか?」
何も言わず、右手を文に向けた。すると手の平の周りに不気味な黒い光を放つ光弾が形作られる。放たれた弾幕は着弾とともに爆発を起こす。
目の前にいる人物は、文が知る以前の欧我ではなかった。
「ぐっ!?」
ひるんだすきを突き、オーガは文の首を掴んで力を込めた。持ち上げられ、宙に浮く文の身体。首を絞められる苦痛に顔をゆがめ、両手でオーガの右腕を握りしめ、両脚を激しくばたつかせる。
腕を振りほどこうと必死にもがくが、オーガの腕はそれを上回る力で締め付けてくる。
「お…うが…。どう…し…て…」
何とか声を絞り出すが、その悲痛な声は欧我には届かない。
「文さん!!」
玄関で響いた爆発音で眠りから目を覚ました小傘が玄関に姿を現した。
そして、目の前で繰り広げられている惨状を見て言葉を失った。
「欧我!どうしたのよ!!」
オーガに詰め寄るが、オーガは黙ったまま左手を小傘に向け弾幕を放つ。
「きゃああああ!!!」
弾幕を食らった小傘は後方に吹き飛ばされ、柱に身体を打ち付けて気を失った。
オーガは親指で首筋にあるツボを探し出し、そこに強烈な力を加えた。
「く…かぁ…」
文の身体から力が抜ける。
両手が腕を離れ、四肢が力なく垂れ下がった。
文の頬を一粒の雫が流れ落ちる。
オーガはその雫に目もくれず、意識を失った文を肩に担ぐと空へと飛びあがった。
「待ちなさい!!」
空へと飛びあがったオーガの行く手を一人の妖怪が塞いだ。
文の家で起こった一部始終を能力の千里眼で見ていた白狼天狗、犬走椛だ。
目に涙をたたえながらもオーガを睨み、剣の切っ先を向けた。
「文さんを…返しなさい!!」
「ここは…?」
ここに来るのは3回目だ。
真っ暗な闇の中、俺は不思議な空間に漂っている。
俺は一体どうなったのか。
影鬼と対面し、右手を向けられた途端激痛に襲われて…。
それで、一体…。
「教えてやろうか?」
突然響いた声に驚いて顔を上げる。
「お、お前は!?」
目の前にいた人物は、俺の予想を超えていた。
目の前には…俺がいる。
真っ黒でうつろな瞳を除けば、体格から仕草、声に至るまで俺と瓜二つだ。
でも、しゃべり方は俺と全く違う。
「俺はお前さー。言っただろ?俺をオーガと呼んでくれって。」
俺がお前…?
こんがらがってきた。
「お、説明してほしいっていう顔をしてるな。どのみちお前は消滅するし、全てを教えてやろう。」
「消滅するって!?」
「正確には、俺に消されるんだけどねー。影鬼様がお前に右手をかざしただろ?その時にお前は洗脳されたのさ。…いや、記憶をすべて取り戻して、本物のオーガになったと言った方が正しいね。つまり、今までの欧我は消えてなくなったのさ。お分かり?」
なんだって!?
そんなことが…。
…じゃあ、なんで俺はここにいるんだ?
そして、オーガと向き合っているのは?
「消えてなくなると言っても、完全に存在そのものを消すためには、この精神世界で欧我のコアとなるお前を消さないといけないんだよね。」
コア…?
「それってつまり、お前を倒せば洗脳は解けるということか。」
「そうだよー。でも、それは100%不可能だけどね。」
「やってみないと分からないだろ。」
目を閉じて意識を集中させ、フランちゃんの能力をイメージする。
よし、この精神世界でも能力は使える。
一気に、禁忌「フォーオブアカインド」で攻めよう!
そして目を開けた。
「おやぁ、今分身しようとしたね。」
「なに!?」
なぜそれが分かった!?
「知りたい?なぜ俺が分かったか知りたい?」
不敵な笑みを浮かべると、オーガは自分の左目を指さした。
…まさか!?
「だって、左目が赤くなっているんだもん。」
そんな!!
投影させる能力によって瞳の色が変わるのはこのためだったのか!?
「そう!俺はあらかじめこのように戦うことになるって予測していたんだ。だから、簡単に勝てるように、何をしようとしているのか瞳の色で分かるようにプログラムしたのさ。」
「でも、目の色だけじゃわからないんじゃないか?」
「ふっふっふ…言っただろ?俺はお前だって。お前がすごしてきた記憶はすべて引き継いでいるさ。もちろん、文との恋についてもね。お前、文がどうなるか知りたい?」
「文が!?」
「そう。せっかくだから教えちゃおうかな。エレメントを5つ集めればすべてを破壊できる破壊光線が放てることは知っているだろ?でも、お前のミスで『風』を手に入れることができなくなってしまった。でも、その辺の対策も立ててるもんね。」
「対策…だと?」
頬を嫌な汗が流れ落ちる。
「文の命を奪い、影鬼様の魔力を使って身体から能力そのものを取り出して移植するのさ。」
「命を…奪うだって!?」
そんなこと…。
「絶対にさせてたまるか!!」
俺は愛するものを護るために戦うと決意した。
だから、俺は絶対この戦いに勝つ!!
大好きな文の命は…決して奪わせない!!
「おーやる気だね。でも…。」
そう言うとオーガの姿が消えた。
「がぁっ!?」
その直後、背中に強烈なキックが叩き込まれる。
「その可能性は限りなく0に近いね。俺はお前さ。つまり、使える能力も一緒。」
そしてオーガは不気味な笑い声をあげる。
「さあ、どちらが本物か比べよう!」