う~ん…。
ここは、どこでしょうか。
視界がかすみ、前がよく見えない。
私は、一体どうなってしまったのでしょうか。
痛む頭を働かせ、これまでに起こった出来事を思い出す。
「っ!?」
そうだ、思い出した!
私、欧我の手によって意識を奪われた。
そして、ここはどこなの?
視界がはっきりしていくにつれ、今自分が置かれている状況を理解できた。
私は今欧我の肩に担がれている。そしてここはどこかの研究室だ。にとりさんのラボとは比べ物にならないほど広大で、巨大な機械がいくつも並べられている。
「きゃっ!」
欧我の肩から落とされ、床に尻餅をつく。
お尻がヒリヒリと痛む。
「ようこそ、オーガの研究所へ。」
「誰!?」
不意に聞こえた女性の声。
この声は、今まで聞いたことが無かった。
声のした方に視線を向けると、そこには信じられない者が立っていた。
顔は普通の女性だが、足の先が鉤爪状になっていて、両腕の代わりに大きな翼が生えている。
こんな妖怪は初めて見ました。
「ふふ、私は影鬼様の使い魔。そーねー、まあハルと呼んでくださいな。」
「ハル…?それよりもここはどこです?」
「ここはオーガの研究室。ここにあなたを連れてきたのは、あなたから能力を取り出すためよ。」
「能力を取り出す?どうやって?」
「それはね…。」
そう言って春は不気味な笑みを浮かべる。
あまりの恐怖に、私の頬を汗が流れ落ちる。
そして、思いもよらない一言を口にした。
「あなたの命を奪うのよ。」
「え!?」
顔から血の気が引いて行く。
私の命を…奪う!?
「影鬼様の魔力であなたの命と一緒に能力を取り出し、オーガに移植するの。喜びなさい、あなたの最愛の人で止めを刺してあげる。」
そう言うとクスクスと笑い声をあげる。
後ろを振り返ると、剣を手にした欧我が私を見下ろしていた。
欧我の目には、明らかに殺意が浮かんでいた。
思わず後ずさって欧我との距離をとる。
その時、右手に何かが触れた。
拾い上げてみると、それは欧我にプレゼントした鈴がついたネックレスだった。
「欧我…。」
脳裏に、欧我と過ごした幸せな日々が浮かんでは消えていく。
欧我も、きっとこの洗脳と戦っている。私も、負けるわけにはいかない!
「欧我!目を覚まして!!」
「無駄よ。何度叫んだって無駄。」
ハルからそう言われようが、私は何度も必死に叫んだ。
絶対に、欧我に届く!そう信じて、何度も何度も。
「欧我!欧…がぁっ!!」
お腹に欧我の足が叩き込まれる。
強烈なキックを食らい、はるか後方まで吹き飛ばされた。
チリリン!!
私の手から離れたネックレスは、床に落ちて心地よい音色を立てる。
キックを食らった激痛に顔をゆがませ、痛みに耐える。
目を開けると、剣を振りかぶった欧我が目の前に立っていた。
そんな…欧我…。
せきを切ったように溢れ出す涙。
「欧我ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
そして、剣は振り下ろされた。
「はぁ…はぁ…。」
指に、力が入らない。
俺はもう、立ち上がることすらできなかった。
リミッターをすべて解除したオーガの攻撃の威力はけた違いで、俺のイメージ通り俺の能力では全く歯が立たない。
もうすぐ10分が経過する…。このままでは、俺は死んでしまう…。
「どうした、もう終わりか?じゃあ、すぐに楽にしてあげるよ。」
そう言ってオーガは両手を頭上に掲げ、巨大な火球を作り出す。
もう、視界がぼやけてその様子を見ることもできない。
俺は…オーガに勝てなかった。
文さん、ごめんなさい。今まで、ありがとう…。
頬を一筋の涙が流れ落ちる。
最期くらいは笑顔でいようと、最後の力を振り絞って笑顔になった。
チリリン!!
不意に聞こえた音に、はっとして目を開けた。
この音は、もしかして!
「欧我!」
それと同時に、俺の名前を呼ぶ文の声が聞こえた。
…いや、文だけじゃない。俺が出会ったみんなが、親友が俺の名前を呼ぶ声が聞こえる。
そうだ、俺には大切な仲間がいる。
その仲間を護るために戦うと誓った。こんなところで、倒れるわけにはいかないじゃないか。
「えーい、忌々しい!喰らえ!」
そう言ってオーガはこちらに向かって巨大な火球を放つ。
灼熱の頬は目前まで迫ってきた。
ドーーーン!!!
火球がぶつかった音が響く。
しかし、なぜか体に痛みや熱は感じない。
恐る恐る目を開けると、目の前の光景にわが目を疑った。
俺を火球から守ったもの…。
それは、文の笑顔を写した写真だった。
…いや、文だけじゃない。
俺がこれまで撮った、幻想郷に住むみんなの笑顔の写真。これらが、俺を護るかのようにドーム状に覆っていた。
その写真は全て、きらきらと輝いている。
「みんな…。」
そっか、こういうことか。
オーガが動画内で言っていた。
『お前が妖怪と親しい関係を築いたというのなら、それを証明する何かを集める必要がある。それが何かは全く分からないが…。きっと何かの役に立つだろう。』って。
何かの役に立つって、こういうことだったのか。
笑顔の写真に取り囲まれていると、なぜか力が湧いてきた。指も動く。
両手両足に力を込め、ゆっくりと立ち上がった。
「そんな!?どうして立てる!あれだけ痛めつけたというのに!」
「ふっ、お前には分からないだろう。俺には困っているときに支えてくれる大切な友達がいる。いつも気にかけ、心配してくれる助手がいる。そして、いつもそばに寄り添ってくれる大好きな人がいる。その人たちを護るためなら、俺は何度だって立ち上がれるのさ!」
袖で涙をぬぐい、きっとオーガを睨む。
すると、俺の言葉に呼応するかのように写真の輝きが一層まぶしくなった。
輝きを増した写真は俺の体に次々と取り込まれていった。
身体を流れる温もり、優しさ、愛、そして幸せ。それらをパワーに変え、一気に放出した。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
身体からまばゆい光を放ち、闇を次々と打ち消していった。
俺の心を侵食していた真っ黒な闇は、まばゆい光によって浄化されていく。
振り下ろされた剣が目前まで迫る。
最期の時を覚悟し、目を閉じた。
…あれ?
まったく痛みを感じない。
心臓も動いているということは、私は生きている。
目を開けると、剣は私の首のすぐ真上で静止していた。
「文。」
私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
上を見上げると、そこには淡いエメラルド色の瞳で私を見下ろす、大好きな人の優しい笑顔があった。
「欧我!」
「文、ただいま。」