そんな…。
自分の名前が、出てこない!?
俺は思わず頭を押さえてしゃがみこんだ。
自分の持てる全ての記憶を漁っても、自分自身に関する情報が全く見つからない。
俺の名前は!?どこから来た!?そんなの…ワカラナイ。
「あやややや!?どうしたのですか!?」
その後文さんに自分のことに関する記憶が全く無いことを話した。
俺の話を、文さんは真剣な面持ちで黙って聞いていた。
「そう、いわゆる記憶喪失というやつですか。そうですね…ちょっとこっちに来てくれますか?」
「あ、はい。」
文さんに言われるがまま、家の中へと上がる。
そして連れてこられたのは、大きな姿見の前。
なるほど、自分の姿を見れば思い出すことができるのかもしれないということか。
姿見の前に立ち、自分の姿を確認する。
濃い銀色の髪に、淡いエメラルドの瞳。身長は、文さんの顎のあたりまで。
「これをつけたらどうかしら?」
そう言って差し出したのは、青い大きな帽子と縁が茶色のゴーグルだ。
その帽子とゴーグルを受け取り、帽子をかぶってその上からゴーグルをつけた。
でも…
「ごめんなさい、思い出せません。」
自分の姿を見ても、記憶を取り戻すことはできなかった。
しかも、記憶を失う前の姿が分からない以上、この姿は本当の自分じゃないという可能性だって考えられる。
「そうですか。では、これならどうですか?あなたのすぐそばに落ちていました。」
そう言って、部屋の片隅を指さす。
そこには、黒い肩掛け鞄が置かれていた。
その鞄に近づいて、中身を取り出してみた。
カメラ、写真を印刷する小型のプリンター、アルバムが2冊…。
「意外と高価なものが入っているんですね…。」
でも、やっぱり記憶を取り戻すことはできない。
例えるなら、自分に関する記憶が巨大な金庫に閉じ込められているといった感じだろうか。
自分自身の姿も、自分の持ち物も、その金庫を開ける鍵にはならなかった。
カメラを持っているということは、俺は以前カメラマンだったのか?
アルバムの中を確認してみたが、写真は一枚も貼られていなかった。
「もしかすると、あなたは外の世界から来たのかもしれませんねぇ。」
「外の…世界?」
その後、文さんからこの世界“幻想郷”について教わった。
ここ、幻想郷はとある東の国の山の中にあるという世界。
幻想郷の周りは八雲紫という妖怪賢者が立案・実行した『幻と実体の境界』、そして代々の博麗の巫女が管理している『博麗大結界』によって外の世界と遮断されている。
この世界には数多くの妖怪が住んでおり、ここでは独自の文明を発展させている。
妖怪の中には人を食べてしまうものがおり、昔は妖怪退治専門の人間がいたそうだ。
ん?
と、いうことは…。
「文さんも妖怪なのですか?」
「ええ。私は鴉天狗です。」
!?
まさか…
「俺を、食べたりしない?」
文
「食べませんよ。だから安心してください。」
よかったぁ!
文さんがやさしい人で本当に良かった…。
もしあの時ほかの妖怪に見つかったら、今頃皿の上並べられていたのかもしれない。
いや、妖怪が皿を使うという確証はないけどさ。