一通り幻想郷についての説明を受けた後、文さんは何かを思い出したような表情を浮かべる。
「そういえば、あなたの名前を聞いていませんでしたね。」
俺の、名前?
名前は…。
「あ、記憶を失っているから名前なんか…」
「俺、おうが。」
「あやや?」
「俺の名前は、はづきおうが。」
そう言って、俺は文さんにアルバムを差し出す。
そのアルバムの裏には、マジックで『葉月欧我』と書かれていた。
自分の持ち物に書かれていたのだから、これが自分の名前だろうな。
「欧我さん、ですか。かっこいい名前ですね。」
「ええ、ありがとうございます。」
文さんの笑顔に散られて、俺も笑顔になる。
可愛い笑顔だなぁ、全く…。
「そうだっ!」
「ふぇっ!?」
「あなたのことを、記事にさせてください!」
そう言って、目をキラキラと輝かせる。
「記事?あなた、新聞記者なんですか?」
「はい!新聞で記事にすれば、何かしらの情報が手に入るかもしれません。」
(ちょうどネタが無くて困っていたところ。かなりの大ニュースいただきっ!)
その後、なぜか嬉しそうな文さんに質問攻めにされたり、写真を撮られまくったりされ、気が付けばもう12時を過ぎていた。
その話し合いの中で、自分のことを写真屋として記事に載せることに決まった。
写真を撮って、その人に買ってもらう。また、写真撮影の依頼も受け付けることにした。
値段は、写真1枚200円。依頼に関しては1回2000円。
キャッチコピーは『今という素敵な瞬間、200円でいかがですか?』に決定した。
こうして、自分の記事が載った新聞が完成した。
この新聞を号外として幻想郷のみんなに配るらしい。
「それでは行ってきます!留守番をお願いしますね。」
文さんはそう言うと赤い下駄を履いて空へと飛び出した。
パシャッ!
飛び立つ瞬間を狙って思わずカメラのシャッターを切る。
しかし、現像された写真を見てみると文さんの姿は小さく映っていた。
文さん、速すぎるでしょ。
でも、これが幻想郷で撮った初めての写真。
なんか、嬉しいな。
…俺も文さんみたいに飛べるのかな?
試しにその場で飛び上がってみた。
しかし、文さんのようにはできなかった。空も飛べない。
ダメか…。
俺は再び写真に目を落とす。
これが、鴉天狗の能力なのか?
ごほっ!?かはっ!!
はっと我に返る。
いったい何が起こったんだ!?
口の中に違和感を覚える。
口元に手を持っていくと、指が紙のようなものに触れた。
それを取り出してみると、なんとついさっき撮った文さんの写真の一部だった。
まさか、無意識のうちに食べてしまったというのか!?
慌てて台所に向かい、コップに水を注いで口に含み、吐き出した。
しかし、写真の残骸はほとんど出てこなかった。
もう飲み込んでしまったのだろうか。
部屋に戻り、縁側に腰掛ける。
「はぁ、何やっているんだよ。」
なぜ、写真を食べてしまったのだろう。
しかも無意識のうちに…。
この行為は、俺の知らない記憶から導き出された行為なのか?
記憶を失う前の俺は、いつも写真を食べていたのか?
記憶を失った今では、全く理解できなかった。
まあいいや。
文さんが帰ってくるまで、留守を預からないと。
でも、もう一度だけ。
靴を履いて、外に出る。
俺もあんな風に飛びたい。
文さんの素早さを頭に浮かべ、イメージし、自分と重ね合わせる。
「いくぞっ!」
両足に力を込め、大地を蹴る。
次の瞬間、俺は青空のど真ん中にいた。
欧我
「えっ!?俺、空を飛んでいる!?」
まぎれもなく、欧我は空に浮かんでいた。
足に力を込め、大気を蹴る。
ものすごいスピードで空を飛び、空中を漂い、上昇も下降も思いのまま…。
俺に、こんな能力が秘められていたとは…。
でも、写真を食べ…いや、取り込んだだけで文さんのような高速飛行が可能になるなんて。
今の俺にはまったく理解できない。
まあ、これが俺の能力だということにしよう。
まだ断定できたわけではないが、名づけるなら
『相手の能力を撮った写真を取り込むことで、それを真似ることができる程度の能力』!!
…長いか?まあいい。
欧我
「あっ!留守番!!」
文さんから留守を預かっていたことをすっかり忘れていた!
急いで戻らないと!!