小傘ちゃん、大丈夫だろうか。
相手はあの萃香さんだ。
幻想郷最強クラスの妖怪だから、勝てるかどうか心配で…。
あの時に別れなければよかったかな。
さて、俺の方はというと…。
危機的状況だ。
勇儀さんはおもむろに握り拳を作ると、側にあった壁にいとも容易く風穴を開けてしまった。
そんな光景を見せられたら、誰だって恐怖くらい覚えるだろう。
これが…鬼の怪力。
いやいや、こんなのが相手だなんて…。
ってか、どうしよう、これ…。
ここは狭い路地。
そして行き止まり。
目の前では、勇儀さんが俺を見下ろしていた。
この状況、まさに袋の鼠だ…
いや、窮鼠猫を噛むということわざもある。
ここで反撃に出れば…
勇儀
「おう…」
欧我
「ひゃい!?」
思わず変な声を出してしまった。
勇儀さんの両腕が迫ってくる。
恐怖にあらがうことができず、目をつむってしまった。
ぎゅっ!
欧我
「!!?」
…え?
な、なにこれ!?
どういう状況!?
両腕が迫ってきたから、胸蔵を掴まれるかと思ったのに、なんで勇儀さんに抱きしめられているんだ!?
なんで!?
あまりの予想外の出来事に混乱していると、勇儀さんが一言…
勇儀
「なんだ、ちっとも涼しくないじゃないか…。」
欧我
「へ?…あ。」
今間近で見て気づいたが、勇儀さんは汗をかいている。
もしかして…。
欧我
「えぇ!?羨ましかっただけなのですか!?」
勇儀の発言を聞き、驚きを隠せなかった。
勇儀
「そうなんだよ。今日はいつにも増して暑かったからな、さすがの私ももうだめだと思っていたところなんだ。」
欧我
「そこに現れたのが俺たち…?」
勇儀
「そう!それに文たちの涼しいという言葉が聞こえ、中心にはお前がいた。つまり、お前に抱き着けば涼しくなれるんじゃないかって思ったのさ。」
欧我
「だから、勇儀さんたちに勝たないと通さないと言ってここまで連れてきたのですか?」
俺の問いに、勇儀さんは苦笑いを浮かべる。
勇儀
「いや、それは萃香の言った事さ。私は足止めをするつもりなんてなかった。ただ、私は涼みたいだけさ。な?頼む。」
何だ、そっか…。
拍子抜けしちゃったけど、勇儀さんと戦わなくてよかった。
1対1で戦ったら、俺は何秒持つか分からなかったし、そもそも勝ち筋がイメージできなかった。
それだけ、勇儀さんに秘められた力は相当のものだということか。
欧我
「わかりました。じゃあ、冷気を出すので好きなだけ涼んでください。」
勇儀
「本当にすまないな。じゃあ、遠慮なく。」
そう言うと、勇儀さんは再び俺に抱き着いた。
チルノちゃんの能力を投影させて身体から冷気を放出する。
勇儀
「はぁ、涼しい…。もっと冷たくできないか?」
欧我
「あ、はい。」
その状態で、しばらく勇儀さんは目をつむったまま涼んでいた。
そして、目をつむったまま言った。
勇儀
「そう言えば、萃香から聞いたよ。お前、文のことが好きなんだってな。」
欧我
「え?あ、はい。」
勇儀
「あいつはちょっとひねくれたところがあるが、根はやさしい奴だ。大切にしてやってくれよ。」
欧我
「わかりました。…ってか、なんか自分の子供みたいに言いますね。」
勇儀
「まあ、私にとっては子供みたいなものさ。さて、そろそろ戻ろうか。」
そう言うと勇儀さんは俺を開放して立ち上がる。
そして、ひょいっと肩に担がれた。
欧我
「わわっ、下ろして!恥ずかしい!」
勇儀
「気にするな。あ、冷気は止めるんじゃないぞ。」
勇儀さんはお構いなしで歩き出した。
・・・はぁ、もういいや。
豪快というかなんというか…。
欧我
「あ、そう言えば勝負の結果を決めていませんでしたね。」
勇儀
「ん~、今は戦う気分じゃないし。じゃんけんでいいか?」
欧我
「じ、じゃんけんですか!?」
勝者:星熊勇儀