キノとユーリとレジーの旅   作:黒アライさん

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犯人のいる国(前半)

秋と冬の間の季節だった

 

平坦な台地を覆う森の木々は、葉を全て落としている。空中を灰色の枝だけが走り、まるで骨が飾ってあるようだった。

 

地面は隙間なく、朽ち始めた落ち葉で覆われていた。かつては鮮やかだったモザイクが、くすんで見えていた。

 

空は鈍く曇って、灰色のまだら模様だった。朝の太陽が東の空の低いところにあるはずだが、全くわからなかった。

 

そんな寒い森の中に、2台のモトラドと、1台の車が止まっていた。

 

森の中で、2つのモトラドはセンタースタンドで立っていた。後輪両脇には黒い箱が装着されていて、1台のモトラドにはその上のキャリアに、鞄が1つ縛り付けられている。鞄の上には、丸められた寝袋とテントも見える。

 

1台の車の屋根には、大量の銃火器が詰まった縦に長いバッグが括り付けられており、そのボンネットの上には妙齢の女性が寄りかかって座っていた

 

2台のモトラドと1台の車から僅かに離れた木の幹に、まな板のような鉄板が縛りつけられていた。黒くて、表面が何度も叩かれて波打った鉄板だった。

 

風がなく、ほとんど音がしなかった森の中に、発泡音が轟いた。

 

1発。

 

間が空いて1発。

 

同じく1発、そして繋がるようにそこから三連発。

 

その度に調子を合わせるように、鉄板から猛烈な金属音が鳴った。

 

最後の音が重く長く響いた後、

 

「はい、全部命中です」

 

若い、10代ぐらいのゴーグルと耳垂れのついた帽子を被っており、茶色のジャケットを羽織っている子が、淡々と告げた

 

やがて湿った落ち葉をふみしめる音が聞こえてきた。音はゆっくりと大きくなり、木々の向こうから人間が1人現れた。

 

この人間もまた若い人間だった。20代の初めほど。黒いジャケットを着て、その上からロングコートを羽織っている。

 

長く雪のような銀髪を一纏めに括りつけてあり、シンプルな軍帽を被って、髪を纏めるのに使っている鈴付きの長いリボンが、チリンチリンと心地よい音を鳴らしている

 

右手には、大口径の、少し大きめの自動装填式のハンド・パースエイダーを持っていた。歩きながら、手早く細長い弾倉を取替えた。

 

モトラドが言う。

 

「あれだけ離れていてこの命中精度とは、流石だね。でももういいんじゃない?そろそろ行こうよ、ユーリ」

 

ユーリと呼ばれた人間は、右腿のホルスターにパースエイダーを戻しながら、

 

ユーリ「いや、もう少ししておくさ、エルメス」

 

エルメス「昨日もたっぷりやったじゃん。木を穴だらけにしてさ。ねぇ?キノ」

 

キノ「昨日はナイフ。今日はパースエイダーだよ。それに、僕も師匠もやったんだから、だいたい想像はついてたでしょ?」

 

キノと呼ばれた人間は、的にされていた鉄板を木から外して、今度はその紐で枝の一つに吊り下げた

 

それを見たユーリは羽織っていたロングコートを脱いでまとめると、ユーリがヤタガラスと呼ぶモトラドのシートの上に載せた

 

ユーリは腰を太いベルトで締めていて、そこには茶色のポーチがいくつかつけられている。腰の後ろでは、右手に持っているパースエイダーと同じ、自動装填式のハンド・パースエイダーがホルスターに収まっていた。

 

レジー「では、合図をしましょう」

 

レジーといった、車のボンネットの上でよりかかっていた女性はユーリと同じ、大口径の自動装填式ハンド・パースエイダーを整備しながらそう言った

 

人の胸ほどの高さに吊るされた鉄板と、ユーリはわずか3m程の距離で退治した。その右手は、ユーリが『バンシィ』と呼ぶ右腿の自動装填式パースエイダーのすぐ側へ。

 

静かな時間が過ぎて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レジー「今!」

 

短い言葉を言い始めた瞬間にユーリは動いて、言い終える前に『バンシィ』を抜いて、同時に親指でハンマーを上げ、そして腰の位置で撃っていた。

 

発泡音と、鉛の弾が鉄板を叩く金属音が、ほとんど同時に響いた。

 

エルメス「うん。全然遅くないよ」

 

エルメスが言って、ユーリは『バンシィ』をホルスターに戻す。

 

そして再びほぼ同時に起こる、合図と、発泡と、金属音。

 

目の前を素早く撃ち倒す練習を、ユーリは繰り返した。

 

最後の1回は連射し、2発をほとんど同じ場所に撃ち込んだ。

 

音はほとんど繋がっていて、1発だけに聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習後、

 

ユーリ「すぐに終わる、もう少し待ってくれ」

 

そう言ったユーリは『バンシィ』の弾込めを始める。

 

弾倉に四十四口径の弾丸を詰め、それを弾倉3つ分、21発をなれた手つきで、しかし慎重に装填して、1つの弾倉を『バンシィ』に戻した。予備の弾倉は、ポーチへと収める。

 

エルメス「もうすぐ国に着くのに。何も今朝実弾練習しなくていいのに」

 

エルメスが言うと、

 

キノ「だからだよ。人に襲われる可能性は、実は国の外より中の方が高いって、師匠はよく言ってた」

 

レジー「おや、よく覚えていますね、偉いですよキノ」

 

エルメス「ふーん…でもそれは、国には人が多いからじゃない?さらに言うと、それはお師匠様だからじゃな

 

 

ドスッ!

 

 

エルメス「……え」

 

エルメスが言葉を言いきる前に、エルメスの前輪のすぐ横にナイフが飛んできた

 

レジー「おっと、すいません。ナイフを素早く取り出す練習をしていたら手が滑ってしまいました」

 

キノ「……」

 

エルメス「……」

 

地面に刺さったナイフを取りながらにこやかに言うレジーを見ると、2人は何も言えなかった

 

そうこうしていると、全ての装填を終えたユーリは、鉄板を取り外した。

 

鉄板にへばりついた弾と、当たってから葉の上に落ちていた弾を、溶かして固めて再利用するために回収する

 

そして鉄板をレジーに渡し、受け取ったレジーは『エレノア』(レジーの愛車)の中にある箱にしまった

 

キノは何も落としていないか、何も残していないか、しっかりと確認した。

 

3人はそれぞれ、自分の大切な装備や持ち物が、いつもの位置にあるか、見て触って確認する。再び同じ場所に戻ってこられる保証などないので、荷物は念入りにチェックする

 

そして3人とも腰の後ろにある一丁のパースエイダー、ユーリは『リゼル』、キノは『森の人』、レジーは『レイ』と呼ぶパースエイダーを抜き、装填を確認、安全装置をかけてそれぞれホルスターに戻した

 

最後にキノとユーリはコートを羽織り、キノは前をボタンで止め、余った部分は腿にまきつけて止めた。

 

そしてそれぞれの相棒に乗り込み、エンジンをかける。寒々しい森の中に、騒々しいエンジン音が流れていく。

 

暖機をしてから、旅人達は森の中を走り出す。柔らかい土の上を少し進むと、1本の太い道に出た

 

土がむき出しの、幅の太い、どこまでもまっすぐな道だった。普段から往来が多いのか、土はしっかりと固まっていた。

 

それぞれスピードを加速させ、西側の地平線に向かって、灰色の森の中を走る。

 

速度を上げ、快適に走りながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エルメス「お師匠様やユーリはキノに本当によく教えてくれたけど、キノが1人で戦うやり方だけだよね?」

 

走行中に、下からエルメスがキノだけに聞こえるように言った

 

キノ「そりゃそうさ、仲間と組んで戦う方法とは、まるっきり違うんだよ」

 

キノが当然そうに答えてどういうふうに?とエルメスが聞いた

 

キノ「1人で戦う場合は、相手が1人でも複数でも、チームで戦う人のように気にしなくていいことがある」

 

エルメス「ふむふむ、それは?」

 

キノ「パースエイダーの向き。仲間で一斉に戦う場合は、仲間を撃ってしまう危険と常に隣り合わせなんだ」

 

エルメス「あぁ、なるほど」

 

エルメス「だから軍隊とかでは、普段であっても移動中であっても、とにかくまず仲間に狙いを向けないように徹底的に訓練されて、それが出来ない人ははじき出されたそうだよ。一緒に戦わせてもらえない」

 

エルメス「その点1人は楽だねえ…今は3人だけど」

 

キノ「僕達の場合は人数が増えても問題ないと思うよ。お師匠様は言わずもがな、ユーリさんも僕達に銃口を向けるとか、そんなヘマは絶対にしない。もちろん、僕もしない自信がある。それに、2人は常人とはかけはなれた射撃技術、判断力、行動力、そして誰にも負けない武力があるからね」

 

エルメス(…そういや射撃の才能だけならキノはこの中で誰よりもあるって、お師匠様言ってたなぁ…)

 

キノ「もちろん、それを抜きにしても1人の方が楽なのは変わらない。とりあえず混戦状態でも発砲に躊躇しなくていいというのは思ったよりありがたい。流石に撃ったら跳ね返ってくるような場所に撃っちゃダメだけど。ただ、それも弾の種類に大きく左右される。ボクが使っているような弾は、貫通力が低いから助かる」

 

エルメス「柔らかい鉛弾だもんね」

 

キノ「うん。師匠もその辺をよく分かって、ある程度の不利を覚悟で古いリヴォルバーを愛用していたんだと思うよ。今はもう自動装填式の、しかもユーリさんが改修してる、威力の高い銃になってるけど…あぁ、それと火薬と弾の入手のしやすさもあっただろうね。『カノン』は色々な弾が撃てて便利だよ。非致死性のゴム弾とか、鳥用の散弾とか。どうしても弾がない時は、バレルに細い釘を詰めて撃つこともできる。まぁライフリングが痛むからやりたくはないけどね」

 

キノ「こういうことはユーリさんや今の師匠が持つパースエイダーには出来ない、このカノンだからこそできる芸当だ。本当に助かるよ」

 

エルメス「なるほどなるほど」

 

キノ「師匠は荒事依頼を積極的…かどうかは知らないけど、結構引き受けていたから、時と状況に応じて様々なパースエイダーを使い分けていたそうだよ。そういえば、ユーリさんと師匠が、雪の森の中で羆を退治することになった話はしたっけ?」

 

エルメス「お、それはまだ。聞かせて聞かせて」

 

キノ「わかった。まずは師匠が、トラックを手に入れるところからね」

 

そして始まる物騒な話をにこやかに続けながら、走り続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーリ(…羆を退治した話、か…随分と懐かしいな…)

 

レジー(とか思ってるんでしょうね…まぁ、確かに懐かしいですけれども…)

 

 

 

 

 

 

 

 

昼がすぎた頃、旅人達は城壁の前にいた。

 

コンクリートでできた、ダムのような立派な城壁が、右に左にどこまでも続く。堂々たる城壁に囲まれた、かなり広い国だった

 

出てきた番兵に、ユーリが3日間の入国を申請した。

 

そして番兵に、城門脇にある詰所に導かれた。そこで、入国審査官も務める警官に様々な質問を受けて

 

警官「入国は認めます。ただし、この国の治安を守るために、法律を知ってもらわなければなりません。しばらくお時間をいただきます」

 

そう言われると、この国の刑法を延々時されていった

 

その中には、スポーツや自己防衛のため、一般人のパースエイダーの所持は許可を取れば可能。ただし持ち歩く時は外側から見えないようにする義務があるという法律があった

 

エルメス「キノはパースエイダーが入るほどのポーチとか持ってないから、とっさの時に使いにくいじゃん。この国、治安はいいの?」

 

エルメスが尋ねると、説明していた細身で40歳程の警官が、眼鏡の位置を治しながら答える。

 

警官「正直に言おう……あまり良くない」

 

エルメス「ありゃりゃ」

 

ユーリ・キノ・レジー「……」

 

警官「特に街の治安が悪い。国の中央に、経済機能を集中させた大きな町があるのだが、麻薬や売春、殺人事件など、この国の凶悪犯罪の吹き溜まりになっている。警察も政府も頑張ってはいるのだが、なにぶん国が大きく人口も多い。警官がいつもあなたを守ってくれるとは思わないように」

 

警官なのにそんなことを言った警官に、

 

ユーリ「別に構わない。そんな国、世の中には吐いて捨てるほどある」

 

ユーリは答えた。

 

警官「そうか…何かあった時は、命を落とす覚悟をしてもらいたい」

 

その言葉には、レジーが答えた

 

レジー「それは相手に言ってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユーリ「…やっと、終わったか」

 

エルメス「長かったねぇ」

 

刑法の説明がようやく終了して、旅人達が城門をくぐりぬけた時には、昼も半分が過ぎていた。

 

3人が愛用しているパースエイダーは、それぞれホルスターごと取り外されていた。そして鞄の中に。

 

キノ「ちょっと足が疲れました…ユーリさん、おぶってください」

 

ユーリ「お前をおぶったら、誰がエルメスを運ぶんだ?またいつぞやの国の時みたいに、俺がエルメスとヤタガラスをそれぞれ片手で押していけと言うのか?」

 

キノ「エレノアに括りつければ「やだよ!車に括り付けられるなんて、モトラドの恥だよ!」…エルメス」

 

レジー「軟弱なことを言っていないで、さっさと行きますよ」

 

ユーリ「…だそうだ。ほら行くぞ」

 

キノ「ちぇっ…はーい」

 

収穫を終えた農地が広々と広がる中を、旅人達は進んだ。目指すのは、ホテルがある国の中央。

 

土を押し固めた道を走りながら、国の中の風景を見ながら、旅人達は、ここがどんな国なのか確かめていく。

 

まず、電柱と街灯があるので、電気はある。アンテナが立っている家があるので、テレビ放送もある。

 

トラクターや自動車は存在するが、他の国に比べてやや古いタイプだった。しかし、燃料が手に入ることはわかった。

 

円型の国の外側はほとんど農地で、走るにつれて住宅が増えた。やがて見えてきた国の中央には、10から20階程の建物が乱立している。

 

通りを歩く住人は、ユーリ達に視線をむけてくるが、商人や旅人がそれほど珍しくないのか、走って追いかけてくるよあな人はいなかった。

 

ユーリ達は、ごちゃごちゃとした中心部に入った。

 

石造りのビルが並んで、道は石畳とコンクリートが半々。道が狭いので、ビルに威圧感があった。

 

かなりの距離を走って、ユーリ達は、ようやく案内されたホテルへとたどり着いた。

 

繁華街のど真ん中にある建物で、宿泊客も多い。

 

明日がこの国の休日なこともあって、まだ夕方だと言うのに、酔っ払った何十人もの男達がフロントロビーで騒いでいた。

 

案内されたのは、ホテルで1番小さな部屋だった。しかし1階で裏口に近く、エレノアは流石に無理だが、エルメスとヤタガラスなら入るのを許可されたので、キノは有難く押し入れる。

 

キノ「?ユーリさんはヤタガラス入れないんです?」

 

ユーリ「よく考えろ。こんな小さな部屋に3人だぞ?モトラドが2台も入るわけないだろうが。入ったとして1台だけが限度だ」

 

キノ「あ…そうでしたね。うっかり忘れてました」

 

レジー「ヤタガラスはエレノアのすぐ横に置いておけばいいでしょう。今は夕食のことを考えましょう」

 

ユーリ「そうだな、もう外も薄暗い。パパっと済ませて早く寝よう」

 

ユーリの言った通り、外はもう薄暗く、雲の灰色が濃くなっていた

 

エルメス「食べてすぐ寝ると太るよ?」

 

エルメスが茶化したが、

 

レジー「物は試しです。たまには、太ってみるのも良いでしょう」

 

エルメス「それ、今太ってる人が聞いたら直ぐに怒るよ?」

 

キノ「じゃあこっそりと、ね?さっと食べて戻るから、ちょっと留守番よろしく」

 

エルメス「わかった。シャワーでも浴びて待ってる」

 

ユーリ「その後錆びないといいがな」

 

力の抜けた会話の後、ユーリ達はホテルのレストランに行くために、エルメスを残して部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数十秒で戻ってきた

 

エルメス「ちょっと。いくらなんでも早すぎるよ3人共。ちゃんと噛んだ?ちゃんと飲み込んだ?」

 

ユーリ「そうじゃないエルメス。部屋を出て直ぐに、こっちに向かってきた従業員に会って言われたから戻ってきたんだ」

 

エルメス「おや、なんて?」

 

キノ「僕達はホテルのレストランで食べられないってさ」

 

エルメス「なんで?」

 

レジー「どうやら、さっきの酔っ払い客が別の客を読んで大宴会を始めたらしいです。席と食材が足りなくなりそうなんだとか」

 

エルメス「つまり、もっと痩せろってことだね。お休み」

 

ユーリ「いいや、遠慮なく太れってよ。詫びにと、近くにあるレストランを紹介された。同じオーナーの店で、連絡しておくから、俺達はそこでなんでも食べられるんだと」

 

エルメス「なあんだ」

 

キノ「というわけで、食べるために出かけるけど、エルメスはどうする?」

 

エルメス「歩いて行ける距離?」

 

ユーリ「行けなくはないが少し遠いな」

 

エルメス「しょうがないなぁ。夜の散歩は危険だから、ついていってあげる」

 

レジー「おや、それは心強いことで」

 

3人はそれぞれジャケットを着て、その上にコートを羽織ると、エルメスを連れて、あとヤタガラスにレジーがユーリの後ろに乗るようにして出た。

 

レジー「安全運転で頼みますよ」

 

ユーリ「善処するさ」

 

 

 

 

 

 

キノ「…ずるい」

 

エルメス「ほーら、よそ見しないで前を向く。地面と熱烈なキスをしたいなら別だけど」

 

キノ「それは嫌だな。僕の初めてはユーリさんにあげるって決めてるから」

 

エルメス「それ絶対キス以外のことも含めてるよね?」

 

キノ「さぁ、どうだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が暮れた街中は、賑やかな場所とそうでないところが、ハッキリと分かれていた。

 

大通りや歓楽街などでは、数は多くないが街灯が灯り、車も人も往来が多い。

 

しかし裏通りや路地に入ると、ほとんど真っ暗だった。目を凝らすと、売春婦や麻薬の売人と思しき人影が動いていた。

 

ユーリ達はなるべく大通りを走って、目指すレストランへ到着した。店の人の好意で、エルメス、ヤタガラス共にテーブル脇まで入れさせてもらった。

 

店主「外に置いておいたら、イタズラしたり、部品を盗む輩がいるからね。この辺は酷いもんだよ」

 

店の人がそう言って、夜の治安が悪いことを嘆いた

 

キノは茹で野菜のサラダと唐揚げ。ユーリはチーズたっぷりのカルボナーラ。レジーはミネストローネと1つのパンを頼んだ。

 

出てきた料理をそれぞれ食べて、

 

キノ「…うん、美味しい唐揚げだ」

 

ユーリ「確かに、なかなか味の深い料理だな」

 

レジー「えぇ、ひとまずは安心して食べられます」

 

各々がそれぞれの反応を示すと、店の人は不思議そうな顔をして、

 

店主「カラアゲ?カラアゲつてなんだい?」

 

ユーリ「鶏肉をこの味付けで揚げたものを唐揚げと言うんだ」

 

店主「へーっ、初めて知ったよ!他の国にもあるんだねぇ。うちの先代が考えついて、この国に流行らせた味付けなんだけど、世界に一つだと思っていたよ。残念」

 

どこか楽しそうに、店の人が言った

 

レジー「出す料理は同じでも、出せる味は人それぞれですよ」

 

レジーがナプキンで口を拭きながらそういうと、店の人は嬉しそうに言った

 

店主「それもそうだね!世界で1番の唐揚げを出せるように頑張るよ!」

 

その後も3人は残すことなく食べきった

 

キノはデザートにフルーツを食べて、さらにお茶を飲んで、だいぶのんびりしてからそのレストランを後にする。

 

まだ夜は始まったばかりだが、大通りでは酔客のらんちき騒ぎが起こっていた。

 

道路に飛び出した酔っ払い達と、邪魔だと警笛を鳴らして怒り狂うドライバーとの間で、険悪な雰囲気になっていた。

 

エルメス「酔っ払いは全員酔っ払いの国に行けばいいのに!」

 

全然進まない車の列にエルメスが愚痴って、

 

ユーリ「…仕方がない、別の道から行こう。これ以上時間をかけると後ろの姫がお怒りのあまり周りに死体が積み重なることになる」

 

ギリっ…

 

ユーリ「んぐっ…」

 

レジー「失礼な、パースエイダーもないのにするわけが無いでしょう?」

 

レジーは後ろからユーリの首を軽く絞め上げた。

 

エルメス(…それってパースエイダーがあれば血祭りにしてたってこと…?)

 

キノ「エルメス、ホテルへの戻り方は分かる?」

 

エルメス「…」

 

キノ「…エルメス?」

 

エルメス「え?あ、あぁうん。分かるよ。じゃあ、あの先の角を左に入って」

 

ユーリ「どれだ?いくつか路地があるが」

 

エルメス「酔っ払ってひっくり返ってる、禿げたおっちゃんがいるところ」

 

ユーリ「了解っと」

 

キノとユーリは言われた通りに、エルメスとヤタガラスを走らせる。

 

車の脇を少しすり抜けて進み、ぐでんぐでんになって寒空の下で石畳の歩道に寝ている、見事に禿げた中年男性の脇を、踏まないように注意しながら通り抜けた。

 

角を曲がると、急に暗くなった。

 

車1台分あるかないか程の幅のその路地を、ライト出てらしながら2台のモトラドが走っていく。

 

少し進んで、

 

エルメス「次の角、白い猫がゴミ箱から残飯漁っている角を右」

 

キノ「了解」

 

キノ達は猫を驚かせながら曲がって、また同じように細い路地を進む。

 

エルメス「次に来る時の為に道を覚えてね、皆。寝ている禿げ酔っ払いを左で、食事中の白い猫を右ね」

 

エルメスが真面目な口調で言って

 

キノ「覚えた」

 

キノも真顔で返した

 

ユーリ(……いや、普通はわからんだろ…)

 

レジー(覚え方も人それぞれですよ、ユーリ)

 

ユーリ(…そう言われちゃ、何も言えないな)

 

キノの後ろを走るユーリ達も、小声でそう言い合っていた

 

 

 

 

 

 

そして、

 

 

 

 

 

 

エルメス「最後、左に曲がってそこの細い路地を抜けたら、ホテルに面した中央の大通りに出る」

 

キノ「了解。流石だね、エルメス」

 

キノ達が、エルメスの指示通りに、ほとんど真っ暗の路地に入る。

 

その直後だった。

 

エルメスのライトが、路面にごろんと横たわる人間の姿を捉えた

 

キノ「…!おっと」

 

ユーリ「ん?」

 

キノとユーリが急ブレーキをかけて、踏み潰さないようにその手前で止まった。

 

止まるのと同時に、その倒れている人間が、ライトに照らされるその姿が、真っ赤だということがわかった。

 

人間は、恐らく若い女性。

 

狭い路地で、通せんぼするように横たわっている。

 

露出の多い派手な衣装で手足がでているが、その服も手足も、そして仰向けの顔も、鮮血に染められて真っ赤だった。

 

そしてその顔には、両目の位置に、2本の小型ナイフが柄まで深々と刺さっていた。からだはピクリとも動かない。

 

レジー「…!ユーリっ!」

 

ユーリ「分かってる!」

 

ユーリとレジーは突然両足を路面に着けたままアクセルを大きめに開けつつクラッチを急にポンッと繋いで、後輪の力でヤタガラスの前輪を持ち上げた。

 

一瞬だけ持ち上がったヤタガラスのライトが、その路地の奥を照らす。

 

そこには男がたっていた。

 

黒づくめの服を着て、こっちを見ていた。

 

歳の頃にして、20代後半が30代前半。茶色く短い髪に、整った顔立ち。背も高い。かなりの美男子と言っても良かった。

 

そして、笑っていた。

 

白い歯を見せて、ニヤリと笑っていた。

 

その頬に、彼のでは無い赤い液体がべっとりとついていた。

 

ヤタガラスの前輪が落ちて、光の線が男から死体へと戻った。

 

今度はキノが同じように前輪を上げてみたが……

 

レジー「逃げられましたね」

 

男の姿はどこにもなかった。

 

ユーリが真面目な口調で言う。

 

ユーリ「惨殺死体があって、犯人が笑っている路地を左、ね……嫌でも覚えてしまった」

 

 

 

 

 




追記


森の中、3人はそれぞれ違う相棒に乗りながら旅をしているわけなのだが、どうやって会話をしているのかといことなのだが、それぞれ胸元に専用のマイクがつけられており、それで会話しているってことにしておいて欲しいのだ
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