キノ「…ふう」
大型の男の降伏を許したキノは、その男がコロシアムの管理者のような人物に回収…というよりかは手錠をつけられ連行されるの見届けた。そして一旦自分の控室に戻った。1時間後にはまた対戦相手が現れるらしい。キノはそれに備えて自分のカノンとリゼルをくまなくチェックしていた
キノ「…リゼル、綺麗だなぁ…流石ユーリさんだ……終わったら、褒めてくれるかな…」
しかし当の本人は試合に対する緊張など全くなく、尊敬と深い恋情を向ける男で脳内を埋め尽くしていた。
キノ「…一応、認められてる…んだよね?だっていつも好きだって言ってるけど拒絶されたことなんて一度もないし、ユーリさんも愛してくれてるに違いない。うん」
キノはぶつぶつと呟きながらリゼルをいじくり回す。しかし、その眼はどことなく深い闇を抱えてるように黒く澱んでいた。
ガチャ…
エルメス「だといいけどねぇ」
ユーリ「…」
その控室の入り口から、ユーリとエルメスがそう言いながら入ってきた。エルメスの人事のような声色とは裏腹に、ユーリは相変わらずの無表情だった。
キノ「あ、ユーリさん」
エルメス「僕もいるよ」
キノ「見てくれましたか?ユーリさん」
エルメス「ねえっt「どうでしたか?僕、うまく戦えてましたか?」…もうキノの相棒やめよっかな…」
ユーリ「…」
キノの怒涛の質問に、ユーリは控室のベッドに腰掛けながら淡々と言った
ユーリ「あんなあっけない試合で、それが判断できる訳ないだろ?あの程度で満足していちゃ、これから先、命がいくつあっても足りない」
ユーリの言葉に、キノはさっきとはうって変わってしょんぼりしながら返事をした。
キノ「…はい」
キノも少しだけでいいから自分の師匠に褒められたかったのだろうが、ユーリの言葉は正論で、何一つ言い返すことはできなかった
ユーリ「…だが…」
キノ「…?」
ユーリ「…まぁ、初弾で終わらせたのと、無闇に殺さなかった点については、よかったんじゃないか?」
キノ「!…えへへ…ありがとうございます、ユーリさん」
ユーリはしょんぼりと落ち込むキノを見て、多少なりとも罪悪感があったのだろう、なんとか褒めようとしてそれっぽいことを言っただけだったが、キノにとってはそれでも嬉しかったらしく、恥ずかしそうにはにかみながらそう言った
エルメス「にやけるのはいいけどさ、次の試合って結構早く始まるんでしょ?対策はしてるの?」
キノ「知らない相手に対策も何もないでしょ?僕はただ、コレに弾をこめて引き金を引くだけさ」
キノはそういいながら腰につけているカノンを指差す。
ユーリ「…そう単純にいく相手ならいいんだがな…」
ユーリは溜息混じりにそう呟きながらベッドから腰を上げる
ユーリ「俺は一足先に観客席に行く。キノ、気を付けろよ」
ギュッ
キノ「もう行っちゃうんですか?」
キノはそういいながら物寂しげにユーリの袖を掴み、そう尋ねた。
ユーリ「悪いが、俺たちも急いできたもんでな。俺のヤタガラス置いてきてるんだよ。早く行かないと盗られる」
エルメス「僕もそうだけど、ヤタガラス大きいから地味に重いんだよね」
ユーリはそんなキノの様子にも慣れた物だと言わんばかりに事情を説明した。理由を聞いたキノはそれならば仕方ないと思い、仕方なく、本当に仕方なく袖を離した。しかし、そのかわりにユーリに一つお願いごとをした
キノ「…ユーリさん、ユーリさん」
ユーリ「なんだ?」
キノ「僕が優勝したら、ご褒美下さい」
ユーリ「…褒美?」
エルメス「ロクでもないもの頼みそうだなあ…」
キノの言葉に、ユーリは顔をしかめながら少し考えた。
ユーリ「…何がいいんだ?」
キノ「キスして下さい」
ユーリ「エルメスとでもしてろ」
ガシッ!
キノ「そう言わずに」
ユーリは間髪入れずに断るが、キノも負けじとユーリの腕を掴む。
ユーリ「…ッ…お前のその細っちい腕のどこにこんな力があるんだッ…百歩譲って褒美をやるのはいいが、物限定にしてくれ」
ユーリは仕方なく褒美をやることは認めたが、少し制限がついた。しかし、キノには制限など全くもって関係なかった
キノ「ならユーリさんを下さい」
ユーリ「キノ、お前話聞いてたか?物限定にしろって言っただろうが…!」
キノ「ユーリさんと言う「物」を下さい」
ユーリ「俺は物じゃない!」
バッ!
キノ「…ぁ」
ユーリが珍しく叫び、無理やりキノを振り払うと、キノがうっすらと涙目になる
ユーリ「…今更そんな目で見られても困る…もっとこう、可愛らしい物とかあるじゃないか…女の子だろう?」
キノ「失礼ですね、ちゃんと女の子です。それに、僕は僕なりには女らしい物を頼んだつもりですが」
ユーリ「俺のどこが女らしい物なんだよ」
キノ「女性が男性を求めるのは自然でしょう?」
ユーリ「お前そういう規模の話をしていたのか…?」
ユーリがめんどくさそうに相手をしていると、放送がなる
『聞こえているか?出番だぜ、早く来な』
ピタッ…
キノ「…」
ユーリ「…呼ばれているぞ?」
その放送の言葉に、キノの体がピタリと止まる。数秒後、溜息をつきながらユーリから離れる
キノ「…ここまで、ですか…全く…」
ユーリ(…助かった…)
キノ「…空気を読まない放送だな…」
ユーリ(俺にとってはナイスタイミングで来てくれたがな…)
キノの小さな呟きに、ユーリは心の中でそう言った。キノはそんなユーリの心の中などいざ知らず、一足先に部屋を出ようとする
ユーリ「…キノ」
キノ「?なんですか?」
ユーリ「褒美だが、こっちで考えておこう」
キノはそれを聴くと、一瞬目を見開き、驚いた。そして恐る恐る聞いてくる
キノ「…キス、してくれるんです?」
ユーリ「する訳ないだろ、物だよ物」
キノ「ですよね」
ユーリの言葉に、キノはちょっとしょんぼりしてしまったが、すぐにいつも通りになった。
キノ「…じゃあ、期待させてもらいます」
ユーリ「あぁ」
キノはそういうと、控室から出て行った。そこに残ったのはユーリとエルメスだけになる。
エルメス「…物をあげるのはいいけどさ、お金、あるの?」
ユーリ「…ないな。もともとこの国で少し稼ぐつもりだったから金は携帯食を買う分しかない」
エルメス「どうすんの?いまさらあげないなんて言ったら流石にキノ怒っちゃうよ?」
1人と一機しかいない静かな控室の中で、エルメスがユーリに聞く。
ユーリ「…ま、なんとかするさ」
エルメス「ふーん」
エルメス「…死なない事を祈ってるよ」
ユーリ「今のどこに俺の死を危惧するものがあったんだよ…」
ユーリはそう言いながらエルメスを押して元の観客席に戻る…
ーーコロシアムーー
ガコォン!
キノ「…」
キノは闘技場の片方の大きな扉から入場してきた。対してもう片方の扉も開き、随分と奇妙な男があらわれた。
奇妙な男「…ほぉ?こんな小さな子供が、一回戦を勝ち進んだと言うのか…」
その男は、全身に黒光りする刃の付いた小さな鱗のような物を胴体と腕部に無数に取り付けてあり、歩くたびにチャリチャリと金属音を鳴らしていた
奇妙な男「だが!所詮マグレで勝っただけの子供に、この俺が負けることはなぁい!それを今に思い知らせてやろう!」
キノ「そうですか」
奇妙な男の変なテンションにも惑わされず、キノは無表情に返事をする。その眼は、すでに男のありとあらゆる部分に注目していた。どう攻撃してくる?何を使う?相手はどんな戦い方をする?自分はどういう風に攻めるべきか?キノはそれを脳内の中で冷静に分析し、慎重に自分は最初の一歩をどう踏み出すべきかを考慮していた
エルメス「なんか、全身キラキラしてるね」
ユーリ「あぁ、夕日も相まって眩しいな。おかげで目が痛くなりそうだ」
エルメス「…そこなんだ」
ユーリのちょっと違う疑問に、エルメスは呆れたように言った。
奇妙な男「さあいくぞ!でりゃあっ!」
ビュビュッ!!
キノ「!」
奇妙な男は身体に付いている鋭い鱗のようなものをとると、キノに投げつける。
キノ「…この程度」
キノは軽く身体を捻らせ、いとも簡単に避ける。
キノ(…本当にこれだけ?たったこれしか攻撃の方法がないのかな…)
キノは内心ちょっとがっかりしながらもリゼルのグリップを握る。が、突如として奇妙な男が叫ぶ。
奇妙な男「かかったなアホがぁ!俺の武器は、投げつけた後も急旋回し、投げた持ち主の方へ必ず戻ってくるのだ!」
キノ「!」
キノが後ろを振り向くと、男の言う通りに鱗は急旋回し、今度はキノの後ろ側から飛んでくる
奇妙な男「そして!もう一度この鱗を投げると、前と後ろからの挟み撃ちという訳だ!貴様に逃げ場などない!」
ビュビュッ!
キノ「…そうですか」
キノはそれだけいうと、意外な行動に出た。
サッ…
キノは何をするでもなく、ただ頭を低くしてその場でしゃがんだ
キノ(貴方の元へ必ず戻るのなら、地面へ姿勢を低くすればあたらないだろうに…)
キノの思惑通り、後ろから迫っていた鱗はキノの頭上を通り抜け、正面から来ていた鱗にぶつかり、地面へ落ちた
奇妙な男「な!?何ィ!?」
奇妙な男は驚きのあまり、後退りした。キノはおもむろに立ち上がり、容赦なくリゼルを抜き、奇妙な男の頭に銃口を向ける
キノ「こんな当たり前のことに驚かないで欲しいものですが…まぁとりあえず…」
キノ「降参、してください」
カチャリ…
キノは銃口を向けたまま静かにそう告げた。しかし、奇妙な男は断固としてそれを受け入れなかった
奇妙な男「こ、降参だと!?ふざけるな!俺がこんな子供に負けるものか!たかが一回マグレで避けたぐらいで、調子に乗るな!」
奇妙な男は怒涛の勢いでまくしたてるが、キノは冷静に奇妙な男に告げる
キノ「そうですか。まぁ貴方がどう思おうと知りませんが、貴方がその武器を投げるよりも早く、僕は引き金を引くことができます。仮に貴方が、僕が引き金を引くより早く投げつけることができたとしても、僕の銃弾が貴方の頭に到達することの方が圧倒的に速い。ここまで言えば、分かりますよね?」
キノは男にわかりやすいように、一字一句丁寧に今の置かれている状況を説明した。だが、男は自分のプライドが許さないのか、降参する事を一向に認めようとはしなかった
奇妙な男「うるさい!確かにそうかも知れんが、お前の言うことは、俺の頭に銃弾が当たって初めて通用するのだ!だが、お前の放った銃弾が、必ずしも俺に当たる決まったわけではない!故に俺はまだ負けていn「バァンッ!!」…へ?」
奇妙な男が叫び続けていると、一つの銃弾が自分の顔面のすぐ真横を通り、当たっていない筈なのに頬に一筋の傷を残していた
キノ「仏の顔も3度までって言葉、知ってますか?」
カチャリ…
キノはそれだけいうと、リゼルのハンマーを起こし、冷酷に銃口を向け続ける
キノ「最後です、降参してください…それと、誤解しないで欲しいのですが…」
キノ「これは忠告ではなく、警告であるという事を覚えておいてください」
キノは感情を感じさせない程の冷たい無表情で男にそう告げた
エルメス「あーあ、相手、以下承知だね」
ユーリ「意気消沈な。…まぁ、言葉の通じない奴にはあれが一番手っ取り早い」
エルメス「ユーリの場合、外さずに身体のどっかに当てるもんね。そう考えると、わざと外したキノは優しいんだなぁ」
ユーリ「俺が非道みたいに言うな。パースエイダーを撃つのに、優しさも何もないだろ…」
ユーリはエルメスの言葉に呆れていた。エルメスはそんなユーリを茶化すように話す。
エルメス「仏の顔が三度なら、キノの誘いを何度も断るユーリの顔は、一体いくつなんだろうね?」
ユーリ「少なくともお前よりかは器は広いつもりだ」
エルメスの挑発には乗らず、ユーリは冷静に返した。この後、エルメスはキノにこの話をしたら、キノもエルメスよりユーリの方が断然器は広いと言われ、本当に相棒をやめようか迷ったとか…それはまた、別の話…
…はい!如何でしたか?なのだ!もう一度キノの旅全巻読みたいのだが、お金がないのだ…十万円寄付も、つかってしまったから困ったのだ(´;ω;`)