〈道の国〉
ブロロロロ…
エルメス「素晴らしい道だね、キノ」
キノ「…うん」
エルメスの言葉に、キノは力無さげに答える
ユーリ「…道、と言うよりかは、道路だな。こんなに路面が綺麗で、舗装がいつまでもしっかりしていて、なおかつ幅もしっかり広く、カーブも緩やか、左右の景色がいい道路は初めて走った…そして、こんなに長い道も…」
キノ「…ボクもです」
ユーリが感情を感じさせない程の淡々とした言葉に、キノも同じく無感情で答える。いつものキノならユーリのどんな話題(特に女性の話)でも喜んで食いつくのだが、今回ばかりはそんな気力もなかった
つい一昨日のことである。コロシアムの国を抜けた2人と一台は、この長い道の国に、《勝手に》入国した。もちろん、わざとではなく、しょうがなく無断で入国したのである。その理由は単純で、この国には人っ子1人いなかったのである。国はとても巨大で広く、もし国民がいたとしたら何百万人ぐらいの人数は住んでいたであろうことが予想できる。しかし、キノたちが来たときには既に、ヒビの入った建物と、綺麗な道だけが残る国だけになってしまっていた。
簡単に言えば、この国は『滅んでいた』。2人と一台は、その国に入ってから、約2日もの間その国をひたすら彷徨っていた。キノとユーリがうんざりするのも納得である
エルメス「これだけのものを作ったこの国の人達にちょっと乾杯」
ユーリ「…そうだな。だが俺とキノはともかく、お前飲めないだろう?」
エルメス「気持ちの問題だよ。正直、面と向かってその人たちを褒めてあげたい気分」
キノ「ああ…それができると、よかったのにね…」
キノはエルメスの言葉に適当に相槌を打つだけであった
エルメス「なんでだろう?」
エルメスはユーリに何故国が滅んでしまったか聞いたが、帰ってくる答えはわかっていることだけだった
ユーリ「さぁな…一つの国の国民全員が死んだ理由…俺にはわからない。文字通り誰もいないから、誰かに聞くこともできない」
キノ「まぁ、そうですよね…それにしても…」
キノはため息混じりに呟く
キノ「一向に終わりが見えませんね、この道路は。これだけかっ飛ばしてるんですから、いい加減西の城門が見えてきてもいいからだと思うんですが…」
エルメス「今日中に辿り着けないと、ルール違反だね」
ユーリ「だから、こうやって休憩もなしに飛ばしてるんだろう?…何度も何度も、同じ会話をさせるな、エルメス」
エルメス「はいはい」
ユーリがそろそろイライラしてきたのか、少し怒りの入った声でエルメスに告げる。だが、エルメスはそんなことなど知らないかのように、再度キノに呟く
エルメス「素晴らしい道だね、キノ」
キノ「…ああ…」
キノの答えは、淡々としたものだった…
〈悪いことはできない国〉
とある国にて、ユーリとキノ、そしてエルメスは眼鏡をかけていた。キノとユーリは当然顔に、そしてエルメスは…
エルメス「キノ、ユーリ。これ変じゃない?」
キノ・ユーリ「「似合ってる似合ってる」」
エルメス「ホントかな?すんごい邪魔なんだけど」
ヘッドライトにかけられていた。
眼鏡をかけている2人と一台の目の前で内門が開いていき、国の中の様子が見えてくる。
これより少し前の話…
審査官「それでは、説明させていただきます」
その国の審査官が、2人と一台の(喋らないがもう一台)旅人に向けていった。
それなりの量の荷物を積んだエルメスとヤタガラス。茶色いコートを羽織ったキノ。それと黒いロングコートを、前を開けた状態で羽織っているユーリ。そして背広姿の入国審査官は、城壁の中に作られた小部屋にいた。
審査官「今キノさんとユーリさんのお手元にある眼鏡のような機械が、監視装置になります」
審査官が説明した通り、2人の手にはそれぞれ眼鏡があった。一見ごく普通の眼鏡だが、その左右のこめかみの部分に、小指の先ほどの大きさだろうか、小さな機械が装着されていた。
審査官「レンズのある左がカメラ本体で、右は記憶装置と電源です。そのカメラが、貴方達の見たものを記録します。夜でも大丈夫ですし、無論音も同時に鮮明に。つまり貴方達2人の行動の全てを監視するわけです。しかしそのままですと、プライバシーの侵害になりますので、それをみることができるのは…」
ユーリ「警察、裁判官とかか?」
審査官「その通りです、ユーリさん。自分でも見ることはできません。警察が令状を取得すると、被疑者の記録を見ることができます。よって犯罪行為は確実にバレます」
キノ「なるほど、それで、悪いことはできない国とよばれてるんですね」
キノの言葉に、審査官は力強くうなづいた。無論、彼も同じような眼鏡をかけている。
審査官「そうです。我が国では悪事は絶対にバレることがはっきりしています。その行為は割りに合わないことが誰にでも理解されています」
審査官はそこまで言うと、少し息を整え、長い言葉を喋りだす。
審査官「以前犯罪が多発し殺人が死因のトップだったこともあるこの国では、生半可な対処では事態打開は不可能と考え、英知を結集しこのシステムを作り上げました。以来数十年、治安は劇的に改善されました。突発的、衝動的な犯罪以外ありませんし、それもすぐにバレてしまいます」
キノ「なるほど」
エルメス「ふむふむ」
ユーリ「よく考えたものだ」
旅人達はそれぞれ感想を漏らした。審査官はそれを聞きつつも、説明を続ける。
審査官「このシステムを守るため、一部例外を除き体が動いている時に外すことは法で禁止されています。この眼鏡は、使用者の脳波が、静止状態を指していない状態で皮膚から30秒以上離した場合、警告が発せられ、周囲の人間の眼鏡にもその情報が伝わります。一部例外とは寝ている時や、着替え、化粧、シャワー中などですね。この国のあちこちには充電器を兼ねた眼鏡ホルダーがあって、そこに自分を写すように引っかかることで対応しています。カメラが持ち主の姿で例外活動中であることを認識するのです」
キノ「それは、もの凄い技術ですね」
エルメス「ほんとほんと、凄い凄い」
ユーリ「高い技術力を持った国なんだな、ここは」
審査官「いやぁ、そう言われると嬉しいですね。あはは」
審査官は旅人達の言葉にひとしきり照れたあと、本題に入った。つまりはそういうことだから、3日の滞在中にユーリ達もこの眼鏡を国民と同じように使用する義務が生じることと、その承諾無しに入国許可が出せないことが伝えられた。
もちろん、旅人達は頷き、
ユーリ「了解した。俺達はそれに従おう」
快く承諾した。その言葉に、審査官はホッと安心したように息を吐いた。しかし、そこでキノが尋ねる
キノ「ところで、エルメスと、ヤタガラスはどうしますか?二台にも装着させた方がいいと思います」
審査官「ご自分で動けないモトラドさんには、法的に装着義務はありませんが…」
ユーリ「だが、例えば交通事故などがあった場合、エルメスとヤタガラスにもついていた方が何かと便利なことがあるかもしれないぞ?」
審査官「おお!それはそうですね!貴方達はこのシステムをとてもよく理解してくださってる。わかりました!エルメスさんとヤタガラスさん用のもすぐに用意しましょう!」
審査官はユーリとキノの言葉にいたく感心し、2人にそう言うと入国許可を出したあと、エルメスとヤタガラス専用の眼鏡を渡し、旅人は遠慮なく国に入国した。
眼鏡をかけたキノ達は、その国に三日間滞在した。休憩と観光、売れる物を全て売って買うべき物を買っていく。
この眼鏡のこともあり、治安のとてもよい国だった。なにも問題が起きることもなく、起こすこともなくキノ達は過ごした。
エルメス「いい加減鬱陶しいんだけどなぁ…」
……2人はともかく、エルメスの不満は溜まりに溜まっていたが。
そしてとうとう出国の時間になった。
ユーリ「この眼鏡はどうすればいい?」
西の城門前で、ユーリがそこにいた審査官に尋ねた。
審査官「城壁をくぐって国外に出た時点で、装着の法的義務はなくなります。外にいる番兵にお渡し下さい。もちろんキノさんやユーリさん、エルメスさんも何一つ違法行為はしませんでしたので、記録は全て消されます。プライバシーの侵害は一切致しません」
審査官がそう言ったあと、ユーリはキノとエルメスをチラリと見た。少し何か考えたあと、ユーリが言った。
ユーリ「もし良ければ、これをそのまま貰えないだろうか。次の国に着いた時、この国にはこんな素晴らしい物があると紹介したい。しかし、話だけではこんな高度な技術は信用されないだろう、実物が必要だ」
審査官「おお!」
審査官は少し驚いたが、そういうことでしたら差し上げましょう、と言った。
審査官「是非我が国の紹介にお使い下さい。ただし、電池はあと2日もすれば切れてしまいますので、機能は残念ながら失われますが…」
ユーリ「構わない。すまないな」
ユーリはそういうと、自分とヤタガラスから眼鏡を外し、自分のバックの中にしまった。キノも、同じようにした。
こうして、キノ達は再び自分達の旅に戻った。
ユーリ「儲かった。こいつはとてもありがたいな」
小さくなっていく城壁を背に、草原を走りながらユーリは変なことを呟いた。
エルメス「ああもう、早く取ってよこれ」
エルメスは相変わらずヘッドライトにつけてある眼鏡を、早く取るようにキノにいった。
キノ「もう少しまってよエルメス。流石に走りながらじゃ危ない」
エルメス「全くもう」
そしてユーリ達は城壁のてっぺんが地平線の下に変えたのを確かめ、それぞれのエンジンを止めて停車する
ユーリはヤタガラスの後輪脇のサイドバックから、弁当箱のような金属の箱を取り出した。必要のない物は自分の服装の小物以外一切持ち歩かないユーリにとっては珍しく、箱の中身はカラだった。そしてユーリは…
エルメス「あー鬱陶しい」
そうぼやくエルメスのライトから眼鏡を取り出した。そして同じようにキノからも眼鏡を受け取ろうとした、が…
ユーリ「…なにしてるんだ?」
キノ「似合いますか?ユーリさん」
キノは外していた眼鏡を再度顔にかけ、ユーリの方を向いてそう聞いた。しかしユーリは面倒くさそうに溜息をついた
ユーリ「…似合ってるよ、だから早く貸せ」
キノ「あっ…」
ユーリはキノの顔から眼鏡を外した。
キノ「…いけず…」
ユーリ「何か言ったか?」
キノ「愛してると言いました」
ユーリ「そいつは光栄だな」
ユーリはそういいながら、次は小さなピンを取り出し、記憶装置の穴に何か細工を施す。何度かつついて数秒おいてまた何度かつつく行為を繰り返した。やがて眼鏡はピピピと音を立てた。あと3つも同じようにした。
ユーリ「…完了。これで機能は停止したし、俺達のデータも消去できた」
ユーリが先ほどのキノの愛の告白をされた時よりも嬉しそうに言って、合計四つの眼鏡を丁寧に布で包み、そして金属の箱にしまった。その箱も、ヤタガラスの後輪脇のサイドバックに再び戻す。
ユーリ「次の国ではこれを高く売って大儲けだ。しかもうまくいって4つも手に入った」
ユーリが珍しく満面の笑みでいそいそと準備をしていた。
エルメス「とんでもない悪人だね、ユーリは」
ユーリ「レジー程じゃない。それに、俺はあいつの背中を見て育ったんだ。そりゃこうなるさ」
ユーリは悪びれもなく、次の国では少し豪華な食事にしよう、新しい肌着も買わなくては、と、夢を膨らませる。
キノ「…僕の言葉には興味ないんですか?」
しかし、キノは何やらご立腹だった。どうやら適当にあしらわれたのが気に入らなかったらしい。キノはユーリを軽く睨みながらジリジリと近づく
ユーリ「…これのおかげで、次は美味い物が食えるんだぞ?そんなに怒るな」
キノ「僕より食事のことの方が大切なんですか?」
ユーリはなだめるが、キノはそれでも機嫌は良くならず、逆にもっと声が低くなっていく
エルメス「あらー、面倒なスイッチ入っちゃったね」
ユーリ「…わかった、悪かったよ、ちょっと待ってろ」
ユーリはそれまで言うと、急に両手をさすりあわせ、その両手の中にフッと息を優しく吐いた。すると…
パキパキッ!パキンッ!
ユーリの両手の中に、丁度ユーリの手になじむようなおおきさの氷の塊ができた。そして、ユーリはそれを両手で握り潰した。
キノ「…??」
キノも、突然後ろを振り向いて何をやっているのだろうと気になり出した。そして答えはすぐにわかった
ユーリ「…できた」
エルメス「ん?…おわ!凄い!」
ユーリは握り潰したその両手を開くと、その中にはチェーンで繋がれた一つの小さな花があった。ユーリは自分の生まれ持った特殊な能力で、氷のネックレスを作ったのだ。
ユーリ「ほら」
キノ「わっ」
ユーリは適当にそれをキノに投げた。
ユーリ「先の闘技場の国で、褒美の話をしたが、結局何もやれていなかったからな。今回のこともあわせて、それで勘弁してくれ」
ユーリは氷の粒のついた両手をパンパンと払うと、再びヤタガラスにまたがる。
キノ「…凄い、綺麗…」
ユーリ「氷のネックレスなんざどこにもない、すぐに溶けるからな。だが俺の氷ならそれはない。文字通り世界に一つだけのものだ。身に付けるには冷たすぎて難しいだろうがな」
キノ「…いえ、ありがとうございます」
キノは先程の不機嫌さは何処かに吹き飛び、逆に嬉しそうに微笑み、それを早速首に下げた。
キノ「うひゃっ!…冷た!」
エルメス「当たり前でしょ?氷なんだから。つけすぎると凍傷になっちゃうよ?」
キノ「…仕方ないな、じゃあ布越しに手首に巻いておこう」
エルメス「しまうっていう選択肢はないの?」
キノ「ないよ。せっかくユーリさんが、僕だけのために作ってくれたんだもの。身に付けておかないと失礼だよ」
キノはやけに僕だけのというところを強調したが、ユーリはどうでも良さそうに、ヤタガラスのエンジンをつける
ユーリ「ほらいくぞ。はやくしないと野宿する日が増えるぞ」
エルメス「らしいよ?ほら」
キノ「わかってる。…行きましょうか」
キノは手首に下げたその氷のネックレスを愛おしそうに見つめると、エルメスのエンジンをつけ、ユーリとともに自分達の旅に戻った。
後日談
キノ「…そういえばユーリさん」
ユーリ「ん?」
キノ「ユーリさんのヤタガラスって、何で喋らないんですか?」
ユーリ「さあな、どうでもいいだろう?そんなこと」
キノ「エルメスは喋るのになぁ…」
エルメス「モトラドにも色々とあるんだよ」
キノ「…そうなの?」
エルメス「そうなの」
…はい!如何でしたか?なのだ!キノの旅を一回全部持っているものは読み直したから、今回は原作に忠実に作ってみたのだ!しかしながら、いつまでネタが持つか分からないのだ…まぁ頑張るのだ!次も見ていって下さいなのだ!