キノとユーリとレジーの旅   作:黒アライさん

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保護の国(過去)

夏の草原を、小さな車が走っていた。

 

見渡す限り平らな草原で、草花が楽しそうに風に吹かれて揺れていた。その周りに、木はまばらにしかなかった。空には夕暮れ間近の日が傾き、所々に浮かぶ雲を、鮮やかなオレンジ色に輝かせていた。

 

その車は黄色くて小さくて、あちこちがボロボロで、所々に氷のような結晶で穴が塞がれているところがあった。黒い煙を出す排気管が、土の道の凹凸に合わせて暴れて、今にも脱落しそうになっていた。サイドミラーはひびだらけで、ボンネットの隅っこは錆びて欠けていた。

 

それでも車は、広大な草原を一生懸命走っていた。

 

季節は夏に差し掛かり、気温は高いが湿度がなく、過ごしやすい場所だった。車の運転席に座る男も、左側の助手席に座る女性も、窓から入る心地いい風を受けて、シャツの襟元を揺らしていた。

 

運転席の、背が高くて綺麗で長い銀髪の、中性的な顔を持つ若い青年がハンドルを片手に握りながら、

 

ユーリ「なぁレジー。たまには休まないか?国に入ったら、だが」

 

隣の女性にそういった。レジーと呼ばれた、長く綺麗な黒髪をもつ、ユーリと同じかそれ以上の歳のように見える女性が、ユーリの方をみて尋ね返す。

 

レジー「休む、とは?」

 

ユーリ「とはって返されてもな…文字通り、金を稼ぐ為の仕事をせずに、滞在中にのんびりと英気を養うってことだ。商人から巻き上げた宝石で、食い扶持や消耗品などには曰く困ることはないだろう?」

 

レジーはなにも答えなかったが、特に反対するようなこともなかった。

 

ユーリ「俺も、たまには美味いものを三食たらふく食いたい」

 

ユーリがそういったのと同時に、地平線の先に城壁が見えてきた。

 

車はヘロヘロと城壁に近づいていく。その時、その道の左右に、なにか動いているものが見えた。

 

それをみたユーリは、速度をさらに緩めた。その先で動いていたのは、動物だった。

 

全長で60センチほど。一見するとペンギンのような、歩く鳥と言った風態だが、猿のように二本の腕があった。

 

色は茶色とクリーム色の斑で、身体中に猫のような毛をはやし、犬のようなふさふさの尻尾があり、顔には小熊のようにぱっちりとした目と小さな鼻があった。

 

ユーリ「…あんな動物、生まれて初めて見たぞ。…もっとも、俺が動物を見た数なんてたかが知れてるが」

 

ユーリが言った。レジーも無言のまま、草原に顔を出す動物を見遣った

 

30頭程の動物に見つめられながら、車は城門に吸い込まれていく。

 

 

 

 

 

 

 

2人が入国したのは、広くもなく狭くもない、農業が主産業の、周りに争う国もないのんびりとした国だった。

 

入国が許可されて、2人は早速宝石を売り捌き、なかなか豪華なホテルに投宿した。

 

 

 

ユーリ「…レジー、俺は今風呂に入りたいんだが」

 

レジー「それがどうしました?」

 

ユーリ「…なんでお前も道具をもってついてくるんだ?」

 

レジー「そんなの決まってるでしょう?私も一緒に入るからです」

 

ユーリ「堂々と言うな堂々と」

 

……久々に風呂に入ったり、

 

 

ユーリ「それじゃあ、何処か食事を食いに「ガシッ」…どうした?レジー」

 

レジー「貴方が作りなさい」

 

ユーリ「…いや、何故だ?食いに行った方が早いし、何より美味いだろう?」

 

レジー「お金がかかるでしょう?」

 

ユーリ「…いや、作るにしても金はかかるし、何よりさっき宝石をたんまり売って、俺たちの懐は暖かいはずだろう?そこまで節約する必要も…」

 

レジー「節約とはできるうちにするものです。なくなってからからでは遅いのですよ。いいからつべこべ言わずさっさと作りなさい」

 

ユーリ「…了解」

 

……そこそこの美味い料理も食べ、2人はそれなりに上気分だった。

 

そして夜…

 

 

ユーリ「…なにをしている?」

 

レジー「いちいち言わなければ分かりませんか?寝る準備をしているんですよ」

 

ユーリ「そんなのは見てわかる。俺が言ってるのは、なんで俺のベットで寝ようとしているんだということだ」

 

レジー「…ハァ…いいですか?ユーリ」

 

ユーリ「…なんだ」

 

レジー「女性には、色々とあるものなのです」

 

ユーリ「…」

 

レジー「…」

 

ユーリ「…いや、意味がわからん」

 

 

旅人はまあまあいい品質のベットでぐっすり(男はさらに疲労していたが)眠った

 

 

……翌日……

 

2人が遅い朝食を食べていた時だった

 

今日はユーリが流石に自分で作る料理より、どこか食べに行きたいとレジーに頼んだので、レストランに行っていた。そして、そのチラホラと客が見えるレストランに、動物が入ってきたのだ

 

それは国の外で見かけたのと同じ動物だった。ただし色は少し違っており、黒と茶色の斑で、体格も僅かだがこちらの方が立派に見えた。

 

ユーリ「国の中にもいるんだな。…ペットか何かか?」

 

男が聞いて、

 

レジー「さぁ?興味ありません」

 

レジーはお茶を飲みながら、感心なさげに答えた。

 

その動物はユーリの隣に来ると、テーブルのいた所にヒョイと飛び上がってきた。テーブルに土足で着地、そしてユーリが後で食べようと取っておいた、たっぷりとクリームが乗ったシュークリームに目を光らせる

 

ユーリ「ダメだ、やらないぞ」

 

ユーリはそう言いながら追い払おうと右手を外に振った。その時だった。

 

ウエイター「あっ!旅人さん!ダメです!」

 

ウエイターが大声で言ったもので、ユーリはピタリと動きを止めた。レジーも、カップに口をつけたまま視線を上げた。

 

その隙に、

 

「きょきょきょきゅきょ」

 

その動物はそんなことを言うと、器用にユーリのシュークリームをつまみとった。そしてむしゃぶりつくように、クリームを顔中につけながら食べ始めた。

 

ユーリ「あ…」

 

ユーリが呆れている間に、ふがふがと食べまくった。ウエイターが駆け足でやってきたのはその時だった。

 

ウエイター「旅人さん。その動物に手を出しては行けません」

 

ユーリ「…何故だ?良ければ理由を聞かせて欲しい」

 

ウエイター「保護法があるのですよ」

 

ウエイターが2人に丁寧に説明した。

 

この動物は、かつてこの辺の草原にたくさんいたがこの地のこの国に人間が住むようになって、乱獲で激減してしまったらしい。

 

とうとう絶滅の1歩手前まで来て、そこで国は、ある程度の数を国内で保護し、餌を与えて繁殖させたという。

 

この動物を絶滅から守るため、人は一切危害を加えてはならないと法律で定められたのだ。以降どこで何をされても、手を出してはいけなくなったという。

 

そんな説明の間も動物はシュークリームをふがふがと貪り、やがて食べ尽くすと、

 

「きょきゃきゃきゅきゅきゅきゃ?」

 

クリームまみれの口でそんなことを聞いてきた。ユーリとウエイターはなんと言っていいのかわからず、無言だった。

 

動物はレジーの皿を見た。こっちにも、美味しそうな1つシュークリームが残っているではないか。

 

「きょきゅきゃきゅきょー。きゅきゅきょ」

 

動物はそう言うと、その皿へと手を伸ばし、

 

「きゅきゃ?」

 

楽しそうにシュークリームを掴む寸前で、自分を見下ろすレジーとバッチリ目が合った。

 

レジー「…」

 

「きゅきっ…」

 

動物が、目を逸らした。

 

そしてテーブルから飛び降りると、少し離れたテーブルへ掛けて行った。そこへ飛び乗ると、だいぶ残っていたそのお客のパンケーキを食べ始めた。

 

そこに座っていた中年の男性は、大きくため息をつくと、その席から立ち上がった。すっかり諦めたように食事を途中でやめて、出ていった。

 

ウエイター「ご覧の通りです。この国では、この動物に触れることもできません。万が一傷付けてしまったら、旅人さんと言えども懲役5年は喰らいますよ。殺しでもした日には終身刑です。お気をつけを」

 

ユーリ「そうかい…なんともまぁ…」

 

ユーリは呆れ果てた。そして、シュークリームを食われてしまったので、もうひとつ追加しようとしたが、

 

ウエイター「もう品切れなんです。申し訳ありません」

 

ウエイターは頭を下げてから去っていった。

 

ユーリは、自分の分のシュークリームを食べているレジーに、尋ねた。

 

ユーリ「…なぁレジ「嫌です」…即答することはないんじゃないか?」

 

レジー「私は既に食べています。口移しでもいいのならあげますが」

 

ユーリ「…いやいい。俺はまだ死にたくな「ゴスッ!」…ッ… 」

 

レジーは何故か不機嫌になり、ユーリの発言中にテーブルの下から足でユーリの脛を蹴りあげた。

 

 

 

さてそれから、2人は散歩がてらに国を見て回ったが、

 

ユーリ「どうにも、えらい狼藉者らしいな」

 

ユーリが漏らした感想通り、あちこちで例の動物が、傍若無人な、文字通り人間など近くに居ないかのような振る舞いをしていた。

 

数頭の群で道路を横切り、車や馬車を止める。器用に壁を昇って洗濯物をぶちまけてしまう。店の前の果物を食べ荒らす。吹いたばかりのテーブルに足跡を付ける。ところ構わず糞尿を撒き散らす。農作物を荒らしまくり、じゃあ食べるかというとそうでもなく投げて遊んでいる。

 

その数は決して多くはなかったが、別に希少というほど少ないというわけでもなく、ちらほらと目にする。

 

国の者によると、最近は繁殖が上手くいったのか、急激にその数を増やしているとの事だった。

 

歩いている2人のところにも数頭がたかってきたが、

 

レジー「何か用ですか?」

 

そう言ったレジーと目が合うと、去っていった。その動物達は道路の反対側を歩いていた女の子に目をつけた。女の子の鞄をひったくると、車道に放り投げた。その上を、トラックが通過した。

 

女の子「酷い……やっと買ってもらったのに……」

 

ぺしゃんこになった鞄を見て女の子はさめざめと泣き出し、

 

「きゅきゃきゃ!きゅきょ!」

 

「きゅっきょきゅ!」

 

「きゃきゅきょきゃ!」

 

「きゅきょきゃ!」

 

動物達は楽しそうに笑った

 

ユーリ「ちゃんと相手を見ているんだな。無駄に知能が高そうだ」

 

ユーリははしゃぐ動物達を見ながらそう言った

 

 

 

 

その日の夕方の事だった

 

2人がロビーのホテルでくつろいでいると、オーナーである初老の男性が挨拶にやってきた。滅多に来ない旅人を歓迎し、お茶を出してくれた。

 

明日出国すると言った2人に、この国はいい所だからまた来てくださいと、オーナーは言った。

 

レジーは、かつて会った旅人がこのホテルに泊まったことを話した。随分前で、こんな立派な建物ではなかったと話すと、オーナーは、ロビーのとても高いところに飾ってある写真を紹介した。

 

それは古びた白黒の写真で、小さな建物の前で、若い夫婦が笑顔を見せていた。オーナーが、自分の両親だと説明した。

 

何十年も前、両親がこの地に小さな旅館を始め、それが今はこんな立派なホテルになったことをどこか誇らしげに語った。

 

オーナー「もうあの写真しか残っていません。当ホテルの宝ですよ」

 

レジー「それは大切なものですね」

 

レジーが言うと、

 

オーナー「ええ、だからあの高さに飾っているんです。本当はよく見えるように暖炉の上がいいのですが…まあこの国はいろいろと大変ですので…」

 

オーナーは複雑そうな表情でそう言った

 

 

 

 

 

翌朝。

 

レジーとユーリが食事を撮っている時に、その事件は起きた。

 

「あーっ!!やめろっ!やめてくれ!!」

 

ロビーから男の絶叫が聞こえた

 

ユーリが眉をひそめ、また、多くのお客が心配そうにロビーに向かった

 

レジー「オーナーさんですね」

 

レジーがそう言って、口を吹いて立ち上がった。ユーリも、レジーの後を急いでおった。

 

そこでみたのは、

 

オーナー「やめろーっ!!」

 

絶叫するオーナーと、

 

「きゃきゅ!」 「きゃきゃきゅ!」 「きゃきゅーきょきゅきゃ!」

 

楽しそうに何かを踏んづけている3頭の動物達だった。

 

「きゅきゃ!」 「きゅきゅきょ!」 「きゅっきゅきゅきゅ!」

 

動物達が楽しそうに会話しながら踏んづけているのは、高いところに飾ってあるはずの、オーナーのご両親の写真だった。

 

動物達は額を足で踏み割って、さらに写真を踏んづけ、しまいにはそこに涎や糞を垂れて汚していった。

 

オーナー「……」

 

オーナーはその場にへたりこんで、大切な写真をぐちゃぐちゃにされていくのをただ見つめていた。

 

ユーリ「何故だ?写真はあいつらの届かない高いところに置いていたはずだ」

 

ユーリが首を傾げて、飾ってあった壁を見た。すると、そこには長い棒が3本立てかけてあった。

 

ロビーにいた従業員の女性が、あの棒を持って動物達がやってきて、立てかけると器用に登り、写真をたたき落としたと教えてくれた。

 

ユーリ「…なるほど。本当に、無駄に知能の高い奴らだ」

 

「きゃっきゅきゃー! 「きゅきょきゅー!」 「きゃ!」

 

嬉しそうに写真をぐしゃぐしゃにする動物達と、

 

オーナー「あぁ…」

 

その前で滂沱するしかないオーナーを、まわりのお客が、なにもできずにただ見ていた。

 

「きゃきゃ?」

 

動物の1頭が、汚い足で、とことことそんなお客達に近付いては、お客が後ずさりする。歯ぎしりをして悔しさをむきだしにするお客達だが、手は出さなかった。

 

ユーリ「…まるでこの国の王だな」

 

ユーリはレジーにだけ聞こえるように、呟いた。

 

やがてその動物は、とことことレジーの前にきた。ただし必要以上には近づかずに、

 

「きゃっきゃきゅ!」

 

そう言って何度か飛び跳ねて、それから仲間のいる写真の上へと戻って、

 

「きゃきゅー!」 「きゃきゅ!」 「きゃーきゅきゃ!」

 

もはやグズグズで原型を留めていない写真を、さらに足でちぎった。まるで踊っているようだった。

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

 

バガァァン!!

 

物凄い轟音がロビーを揺らした。

 

そこにいる人間が、1人を除いて飛び上がらんばかりに驚いて、そこにいた動物も、1頭を除いて飛び上がらんばかりに驚いた。

 

1人の人間は、腰で煙立つリボルバーを構えているレジーだった。

 

1頭の動物はその弾丸を胸に受けて数メートルぶっ飛ばされて仰向けに倒れ、血を吹き出しながらピクリとも動かない。それは先程レジーを散々愚弄した動物だった。

 

ユーリ「…やるときはやってくれるレジーは、やっぱり好きだな」

 

ユーリはそう言いながら、左手で、普通のものと比べると一回り大型の自動式ハンド・パースエイダーを抜いた。

 

「きゃきゅ?」

 

そのまま静かに動物達の眉間の間に狙いを定め、

 

 

 

バァァンッ!!

 

先程と同じくらいの発砲音を轟かせ、1頭の頭が丸々消し飛んだ。

 

呆気にとられているお客の前で、そして残りの1頭の前で、

 

レジー「すみません、パースエイダーが暴発しました」

 

レジーはそれだけ言った。ユーリも、しっかりとホルスターにしまいながら、

 

ユーリ「悪い、俺のもだ。まぁ誰にも当たらなくて良かったよ」

 

「た、旅人さん達……。とんでもないことを……!」

 

お客の誰かがようやくそれだけ言うと、レジーは、

 

レジー「さて、なにがでしょう?」

 

「何がって……。貴方、保護動物を殺してしまったんだぞ……。重罪だ……」

 

レジー「動物?」

 

レジーはそう言いながら、死んだ2頭と呆然と突っ立っている1頭を見ながら、

 

レジー「どこに動物がいるんですか?」

 

至極あっさりと、そんな質問をした。

 

ざわっ。

 

お客達はどよめいた。レジーは淡々とした口調で、

 

レジー「どこに、動物がいるんですか?」

 

もう一度言った

 

オーナー「ああ、確かに…」

 

オーナーがゆっくりと立ち上がった。

 

「きゅ?」

 

オーナー「お集まりの皆さん……動物なんでどこにもいないじゃないですか」

 

「きゅききょ……」

 

立ち上がって涙を拭ったオーナーは、自分の脇にあった頑丈そうなイスを持ち上げると、

 

オーナー「死ねーっ!!」

 

「きゅ」

 

小さな悲鳴と、なにか骨が沢山折れる嫌な音がした。

 

 

 

 

 

 

それからしばらく、元に戻せない程ぐちゃぐちゃになった写真の前で泣き続けるオーナーと、

 

ユーリ「さて、どうしたものかな」

 

肩をすくめるユーリと、黙ったままのレジーを周りの人間が眺めていた。

 

どうする?とか、警察?とかの声も聞こえるが、誰も率先して動こうとはしなかった。

 

ロビーが葬式場のように静まり返った時、

 

「きゃきゅ?」

 

バタンとドアが開かれ、沢山の、ざっと見ても1ダース以上の動物がロビーに入ってきた。そして仲間の死体を見ると、

 

「きゃきゅ!」 「きゃきゅー!」 「きょきゅ!」 「きゃーきゅきゅきゅ!」 「きゃきゅ!」

 

口々にそんな言葉を叫びながら、人間にむかって突っ込んできた。

 

ずどん。ぱごん。ぱきゅん。ばばばん。

 

レジーとユーリは、精密機械のように、パースエイダーを撃ちまくった。

 

レジーが弾倉を変えている間はユーリが援護、ユーリが弾倉を変えている間はレジーが援護。

 

そうしてロビー中に炸裂音が轟き渡り、誰も彼もが耳鳴りを起こしている中で、動いている動物は一頭もいなくなった。

 

皆が呆然とするなか、

 

ユーリ「…どこに動物がいるんだ?どこにも見当たらないが…」

 

ユーリはそう言った。

 

「そ、そうだ!」

 

国の誰かが言った。あとはスイッチが入ったように、

 

「そうだそうだ!動物なんか、この国にはいないんだ!」

 

「居ないものは守れない!」

 

全員が雄叫びをあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その国は、かつてないほど騒がしい1日を迎えることになった。

 

国中で、

 

「動物を見たか?」

 

「いいや、見えない」

 

そんな挨拶が交わされて、ホテルから生まれた波がどんどん電波していった。

 

住人は手に棒や農具をもって、

 

「きゃきゅー!ぎゃきゅ…」

 

見かけた動物を片っ端から殴り殺しいった。

 

最初のうちは警察も何とかしようとしていたが、国民全員がそれをしているので、目の前にいる全員を逮捕するか、それとも見て見ぬふりをするかの選択を強いられ、

 

「動物は…いないよな?巡査」

 

「ええ…いませんね。警部」

 

そんな会話をしていた。

 

「きゅきゅきゃー!」

 

一日中、国中で、怒号と悲鳴が飛び交った。

 

レジーとユーリも、何もいない場所への暴発を繰り返し、弾丸が足りなくなると無料で分けてもらった。

 

 

 

 

 

そして夕方

 

オーナーのこれ以上ないお礼の言葉を見送りに、黄色くて小さい車は、城門へと走っていった。

 

城門では、番兵にいつでもまたいらしてくださいなどと言われて感謝された。車は開かれた門をくぐっていく

 

その時だった。

 

「きゃきゅー!」

 

茂みに潜んでいた1頭の動物が、車の屋根に飛び乗った。

 

番兵「あ、あの野郎!…見えてないけど!」

 

番兵がそう言いながら手にした剣を屋根の上で素振りしようと思ったが、

 

レジー「出国してしまったので、いいでしょう」

 

レジーはそう言って番兵を止めた。その時車は、城壁を超えて外に出ていた。

 

番兵「まぁ国の外でしたら…お気をつけて」

 

番兵はそう言って城門の警備に戻っていった。

 

ユーリ「レジー?」

 

ユーリが、屋根に軽く飛び乗り、

 

「きゅきゅきゅう…」

 

恐らくは怯えている動物に目をやった。

 

レジーはしばらく走るようにユーリに言い、言われた通りに小さな車は草原を走った。そしてしばらくしてとまった。

 

レジーは車から降りると、屋根にいる動物に向かって話しかける。

 

レジー「もう降りなさい」

 

「きゅっきゃきゅー!」

 

レジー「連れては行けません」

 

「きゅきゅきゅ?」

 

レジー「ダメです」

 

レジーが睨みつけると、動物は渋々と車の屋根から降りた。

 

「きゅきゅう…」

 

レジー「貴方達は、少し勘違いをしていたようですね」

 

「きゅ?」

 

レジー「守られているということは、力があるということではないのですよ。あの国で本当に力があったのは、あの国の人達です。貴方達ではありません」

 

「きゅう…」

 

レジー「さあ、好きな所へ行きなさい」

 

レジーは草原へと指指した。動物はそちらを見る。

 

するとそこには沢山の動物がいた。色と大きさが少し違うだけの、大小合わせて20頭程動物の群れが、草原から顔を出してこっちを見ていた。

 

「きゅっきゅきゅ…」

 

レジー「さようなら」

 

レジーはそう言うと車に乗り込み、車を出すようにユーリに言った。

 

ユーリ「じゃあな」

 

ユーリはそう言ってへなへなと車を発進させた。

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして草原の道を走りながら

 

ユーリ「レジーはやはり優しいな。俺ならすぐに殺してた」

 

レジー「いいえ、いいえ」

 

レジーが否定の言葉を2回も使ったので、ユーリは首を傾げた。

 

ユーリ「…何故2回言った?」

 

左側の席に座るレジーを見ると、レジーは美しく微笑んでいた。

 

レジー「私は少なくとも貴方以外に優しくしたことはありませんし、これからもすることは無いでしょう。あの動物も、すぐに殺す必要もありませんよ」

 

ユーリ(…俺に優しくしたことなんてないだろ…)

 

レジー「何か言いました?」

 

ユーリ「何故殺す必要がないのかなと」

 

レジー「…じきに分かりますよ」

 

 

 

 

 

黄色い車が夕日の中に去った後、

 

「きゅっきゅきゅー!」

 

取り残された1頭の動物は、そう言いながら群れを見た。

 

「ごががごかっ」 「ごががががご」 「ごごごごがが」 「ごがっがごがが!」

 

群れの1団が威圧的な勢いでそう言い返すと、その一頭は、

 

「きょゆ……」

 

少し体を引いた。

 

やがて群れの中にいたボスらしい一頭が、その1頭に話しかける。

 

「きょきゅきょ?」

 

「きょきゅっ!きょきゅきょっきょきゅ!」

 

「きょっ。きょきゅきょきゅきょ」

 

ボスはそう言うと群れへと振り向き、

 

「ごがごごがご」

 

そう短く強い調子でそう言った。群れの1団が身を引きしめた。

 

それからボスは、

 

「きょきゅきょ」

 

その1頭に優しげに話しかける。手を振ってその1頭を招き寄せた。

 

「きゅ!きゅう!」

 

その1頭は嬉しそうにそう言うと、テクテクと群れに近付く。群れは広がってその1頭を迎え入れた。

 

 

 

 

 

 

そして、

 

「ごがごー!」

 

ボスがそう叫んだ瞬間に、皆で一斉に、その1頭を殴り始めた。

 

「きゃーきゅー!きゃーきゅーきゃきゅー!」

 

悲鳴を上げても、お構いなしに殴り続けた

 

 

 

 

 

やがて、草原は静かになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レジー「そういえばユーリ」

 

ユーリ「ん?」

 

レジー「ホテルのロビーのことでしたか…やる時はやる私が好きだと、言いましたよね」

 

ユーリ「あぁ、確かに言ったな」

 

レジー「どういう意味です?」

 

ユーリ「…そのままの意味だが?」

 

レジー「…そうですか」

 

ユーリ「気に入らないのなら撤回するが」

 

レジー「いえ、結構です」

 

ユーリ「そうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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