当時見てくれてた読者様とかいるかな……。
笑わない妹と俺
『兄さん、私は……私の信じる音楽を認めさせる。あのフェスで……絶対に……』
あいつはそう宣言した。俺とあいつの憧れだったバンドに……父に代わって……。
俺は「応援している」と、まるで他人事のように放った。しかしあいつは「ありがとう」と微笑むだけで、後は何も言ってこなかった。こいつはきっと、 とんでもない奴になるに違いない。俺はそう思わざるおえなかった。
一度あいつの声を、歌を聴いた。心が震えた。繊細でどこか力強く、思いの丈を具現化したようなその歌声を一心に浴びて分かった。 こいつは本気だと、他にもこいつと同じ"場所"を夢見る物がいても、こいつが"場所"だけで留まることは無い。もっとさらに先を見据えている。こいつなら必ずあの時の言葉を本当にしてくれるだろうと思った。
でも、それ以来あいつ────妹は、笑わなくなってしまった。
◇ ◇ ◇
「ん……あれ、朝か 」
「兄さん、早く起きないと遅刻する」
わざわざ寝起きの俺を起こしに来てくれたのは、俺の妹、名前は
「悪い……昨日は遅くまで曲を考えててな」
「私たちのためっていうのは凄く嬉しいけれど、それで兄さんの体調が悪くなったら申し訳ない」
「大丈夫だって その分授業中寝てるし」
「それは……大丈夫と言うの?」
うん、なかなかに痛いところを突いてくるな……流石は優等生。兄ちゃんは出来のいい妹を持って幸せだよ。
「と、とりあえず 早く用意しなきゃだな。友希那は朝食べたのか 」
「まだ。兄さんと一緒に食べるって決めてるから」
「うっ、なんちゅうどストレートなデレだ……」
「デ、デレ……?」
「いや、こっちの話だ。それより先にリビング行っててくれ」
友希那が部屋から出ていくと、俺は重たい体を動かしてベッドから降りる。
パジャマを脱ぎ捨てて、ハンガーに吊るされた制服を手に取る。
「はぁ……何度目覚めても笑ってくれないか……」
俺の妹は、ある日を堺に人前で笑う事が無くなった。それは家族にも同様で、俺の前でも全く笑ってくれない。 前に一度笑わせようと、くすぐってやったのだが……、
『兄さん、邪魔だからやめて』
と冷ややかな目で注意されたのを覚えている。
「ネクタイ曲がってないな……完璧 」
さぁ、今日も一日妹を笑わせるために頑張りましょうか!
◇
と、言ったのもつかの間……、
「……」
「おお、今日の卵焼き美味しいな」
「そうね」
「このサラダもみずみずしくて美味い 」
「ええ、そうね」
ごめん、とんでもなく気まずい。
あれ……妹との会話ってこんなに難しいものなんですか? こういう時ってさ、もっとこう……「兄さん、今日も朝食は美味しいですね 」とか「あ、兄さん。ご飯粒が付いてますよ。ほんと、兄さんは私がいないとダメ ですね ふふっ♪」みたいなさーあるもんじゃないの?
「 兄さん、食べないの?」
だめだ……友希那がそんな事を言ってくれる未来が見えない。
しっかし、友希那は食べるところも可愛いな……大雑把に食べるでもなくちょっとずつ食べるところとか、なんとなく小動物感って言うの? それがなんとも……ああ可愛い(※シスコン)
「いやー今日も友希那は可愛いって思ってな〜」
「っ……そ、そう……」
おや、今少し動揺しませんでしたかね?
「そ、それより兄さん。テレビつけて欲しいのだけど……」
「ん、はいはい.っと」
テレビを点けると『早起きテレビ』という朝のニュース番組がやっていた。毎朝平日にある一定の時間になると、友希那はテレビを点けたがる。 その時間には、『今日のにゃんこ』というコーナーが始まっているのだ。そう……何を隠そう、友希那は無類の猫好きなのだ!
「猫、可愛いな」
「ええ、そうね。特にこのマンチカンは耳が垂れてるところが可愛い.」
よし、楽しく話せたな! ……じゃなくて、驚いたな……まさか友希那がここまで猫に詳しいとは.いや、まぁ確かにしょっちゅう捨て猫とかの世話をこっそりしてるの知ってるけど、ここまでとは.
「ほんと猫好きなんだな友希那は」
「確かに猫は好き、でもそれよりももっと音楽が一番好き」
「知ってるよ、お前が誰よりも好きなのをな。だから俺はお前の側で支えながら応援する事を決めたんだ」
「その代わりに私は、兄さんに私の目指す目標の景色を見せる……そうでしょ 」
「その通り」
そして笑顔を見せてくれ……とまでは言えなかった。でも、きっとどこかで信じてるんだ。あいつが満足する物が出来た時、その時こそ昔見たあの笑顔を見る事が出来るって.
「今日も放課後ライブハウス行くんだろ 」
「ええ、今日はメンバー個々の技術の向上を目的として練習をしようと思ってる」
「分かった。次のライブまで一週間か……」
長いようで短い期間に不安を抱えながらも食器を片付けていく。友希那も同様に食べ終わり、戸締りをしっかりとしてカバンを持ち、玄関を飛び出す。
「よし、それじゃ行くか」
「ええ」
そして俺たち兄妹は、学校への道を並んで歩いた。
こんなんだったっけ……?