Roseliaの出演ライブ、今日はその前日だった。今日も今日とてメンバーは新曲の練習を行っていた。俺と友希那 の親父が現役時代に作った曲。それを今、友希那がもう一度歌に命を吹き込もうとしていた。
「リサ、少し遅れてる。もっとテンポを上げて」
「オッケー 」
「あこ、勢いはいいけどもっとみんなの音を聴いて合わせてくれ。一人走りすぎてたぞ」
「す、すいません 」
この曲については友希那ほどじゃないが俺も助言程度なら出すことができる。小さな頃に一度だけ親父と親父のバンドがこの曲を演奏してくれたことがある。今はその時の覚えてる限りの音をこいつらの演奏に照らし合わせて聴いてる。まあ、 俺より友希那の方が専門的な知識は上なんだがな。それでも絶対音感、とまではいかないがそれなりに音感はあるほうだと自分では思っている。
「紗夜と燐子はラストのサビをもっと盛り上げて、今のままだとまだまだ盛り上がりが足りないわ」
「分かりました」
「は はい」
「友希那、最後のラスサビだがもっとテンション上げたほうがいい。そのほうが多分紗夜も燐子も上げられると思うぞ。ラストにはもう上手いも下手もない、どれだけ本気を出し切るかだ」
「ええ、わかったわ。やってみる。 それじゃ、もう一度初めから行くわよ」
そして、あこのドラムから曲が始まり次々と楽器たちの音色が一つの道を作っていく。その上を行くのは友希那。彼女の歌声が揃うことによって初めて、この曲の物語が始まっていく。今まで友希那が命を吹き込んできた曲の数々、それはどれも友希那の情熱をのせて聴いている人の耳に届いてきた。しかし、今回のこの親父の歌からは今まで以上の友希那の音楽に対する熱、それが友希那の姿からひしひしと伝わってくる。しかし、
「兄さん、今の感じどうだった」
「うーん、やっぱりこういうのは実際に見せたほうがわかりやすいかもな。友希那悪いが一旦ステージ降りてくれ」
「わかったわ」
俺はセンターに立つ友希那を降ろし、入れ替わりでステージに立つ。立った感想……意外と見晴らしがいい。小学生の時にやった劇で初めてステージに上がった時の感覚に似ていた。もちろん俺の突然の奇行とも呼べる行為にメンバー全員驚いていた。
「秋也さん どうしたんですか?」
「ついに頭を打ったとか」
「おいリサ、だれもおかしくなんてなってねえよ。ただ少し 親父直伝の技ってやつを見せてやろうとな」
「兄さん、父さんの技って」
「みんなはさっき通り演奏してくれ。俺がこの曲の歌い方を教えてやるよ友希那」
「秋也さんの歌、あこ盛り上がってきました!」
「ちゃんと歌えますの?」
「俺を甘くみんなよ〜!」
再びあこのドラムにより曲が始まる。てか、なんだこれなんて追い風だ。楽器たちが奏でる音色はまるで一陣の風のように俺の背中を押してくる。こんな経験を友希那や親父は体感してたのか……めちゃくちゃ心がたぎるじゃねぇか!
正直羨ましいよ、あの日以来俺達家族は音楽に関わることを辞めた。それでも友希那だけは、関わりを辞めることはなかった。そのおかげだ、俺が今こうしてステージに立てることも歌えることも全て妹のおかげだ。そんな感謝も込めて尚且つ、楽しんで俺は歌う。
「────♪」
「(秋也さん 凄い)」
「(あの時初めて友希那さんのお父さんの歌を聴いた時と同じ感覚 )」
「(湊さんにも引けを取らない歌声……これが、秋也さんの実力……っ)」
「(この感じ、何だか懐かしい……まるで昔に戻れたみたい)」
各々がそれぞれ思う中、その場に静かに涙をこらえる一人の観客がたたずんでいた。
◇
あの後、俺はしっかりと歌い切りとても清々しい気持ちだった。そんな俺の元にやや興奮気味のあこが駆けてきて、凄いのバーゲンセールだった。友希那もなんとなく感じてくれたのか早速俺からマイクを奪い去っていった。その後からは、メン バー全員ぶっ通しで練習に励んでいた。その時間はおおよそ3時間以上、その結果当初よりもっとレベルの高い曲となった。
「そういえばまだ友希那から感想聞いてなかったな」
「なんの話?」
「俺の曲の感想だよ。めちゃくちゃ久しぶりに歌ったんだけど、どうだった?」
スタジオから帰宅した俺はふと思い出し友希那に聞いてみた。
「兄さんの歌……とても良かったわ」
「それだけ?」
あまりにも少ないだろ……お兄さん貪欲だからもっと欲しがるよ? 期待のまなざしを向けたとたん目を逸らされた。泣きそう……。
「……った」
「ん……?」
「かっこよかった 」
「お、おお……」
妹の口から出た感想は意外なものだった。こんなにドストレートな感想をもらえるとは思っていなかったために、気の利いた言葉が出てこなかった。
「そ、それはよかっ 「まるで昔のお父さんみたいで」 へっ……?」
親父……やっぱあんたは凄いよ。妹にとって一番カッコいい人は俺にはならないらしい。くっそー ぜってえ負けないからな……。
「ん……父さんを呼んだか?」
「おおっ……噂をすればなんとやらだ」
リビングで会話していた俺たちの前に、突然噂の本人が現れた。
「お父さん、今いいかしら?」
「どうした、友希那」
「明日、私達のライブがある。それを見に来てほしい、音楽への向き合い方……私なりに出した答えを明日歌にしてみる。だから……それを見てほしい」
「俺からも頼む」
「友希那、秋也。わかった、明日だな。友希那の歌を聴くのも久しぶりだ。楽しみにしているよ」
「ありがとう。それじゃあ、明日待ってるから」
そう言うと、友希那は明日に備えて自室に戻ろうとしていた。
「友希那、待ちなさい。明日、これを身に着けるといい。父さんが昔ライブの時に着けていたものだ」
「あ、それ……」
それは、何度も見たことがあるシルバーのアクセサリーだった。親父がいつも大切にしていたのを覚えてる。
「やっぱりこれだけは捨てられなくてな。友希那には、お守りだと思って持っていてほしい。きっと最高の演奏ができるはずだ」
「お父さん……ありがとう」
そして友希那は今度こそ本当に自室に戻っていった。俺も戻ろう……そう思ったとき、
「秋也、ちょっといいか……」
「ん?」
「友希那が俺の曲を聴いてたんだが……」
「えっ? な、なぜだろうな〜。おかしいなー」
「ごまかさなくていいよ。友希那が俺の曲を歌ってくれるのか、楽しみだな。大事に持っていてくれてありがとうな」
ばれてたのか……もともとあれは俺が内緒で持っていたものだ。それを友希那がいない間に部屋で聴いてたんだが、いつだったか焦って物置に置いたままになっていたらしい。その結果、友希那の手に渡ったというわけだ。
「べ、別に 、あの曲は一番好きだったし、永遠に日の目を見ないのはかわいそうだと思ったから。だから、あいつが"歌いたい"って言った時すっげえ嬉しかった。こいつがついに日を浴びてくれるんだって。 ……ごめん、なんか熱く語っちまった。 ごめん親父」
「いや、いいよ。秋也の気持ちが聞けてとても嬉しかった。ほら、明日のために早く寝てしまおうか」
「そうだな、久々に親父と話せて嬉しかった。おやすみ」
少し本当に少しだが、俺たち家族は一歩また歩みだせた。そんな気がした。