少ない練習の末、ついにライブ当日本番を迎えた。そして、今Roseliaのメンバーは控室で出番を待っている。
「もうすぐ本番だね! んー、楽しみだなあ〜りんりん、緊張している?」
「うん、少し……。でも、友希那さんのお父さんの曲を演奏できるの とっても楽しみ 」
燐子とあこはいつも通りの調子みたいだ。一方いつもなら二人と一緒にはしゃいでるリサだが、
「……」
「どうした リサなんか様子変だぞ」
「え あれ、ホント?」
「ほんとだリサ姉、もしかして緊張してる?」
「あはは、大丈夫大丈夫!」
「大方、親父の曲やるってことで緊張してるんだろ」
すると、リサは「ギクッ」と漫画ならそう書かれてそうなほど驚いた顔をして、はぁーっと諦めのため息。
「はあ 、秋也さんにはばれちゃうか〜いや、あはは……いつもより本気でやらないとって思ってね」
「そっか。大丈夫、リサなら大丈夫だ」
「ちょ 秋也さん……」
俺は、昔よく緊張していた友希那をなだめるために行っていた〝ハグ〞という行為を同じくリサにし始めた。
「は、はわわ……リサ姉と秋也さんが抱き合ってる 」
「そんな誤解を招く言い方はやめい! 緊張を解いてあげていると言いなさい」
「は、恥ずかしいってば……」
「……(顔赤くしてる……可愛い)」
俺から始めたものの、かなり恥ずかしい……。てか、リサからめちゃくちゃいい匂いが……。
薄茶色の長い髪を撫でると、さらさらと俺の手を滑らせ、友希那のとも劣らない程の心地いい肌触りを感じた。
「そろそろね……って、2人とも何をやっているのよ」
「秋也さん……そ、そろそろ恥ずかしいかな……って」
「あ、わりぃ」
「友希那さん、そのアクセサリーカッコイイ! いつもは付けてないですよね 」
「これは……大切な人からのもらい物よ」
俺たちがイチャイチャ(?)している間に、あこが友希那の付けている見慣れないシルバーのアクセサリーに興味津々の様子だった。
……てか、俺も"アレ"早いとこ渡さないとな。
「友希那、俺からも渡すものがある。まぁ……付けるかどうかはおまかせってことで」
「……? 兄さん……これ、リストバンド?」
そう、いつぞや俺が探し歩いていた物、それはリストバンドを作る際の材料だったりする。俺はみんなと共にステージには立てない、でも思いを連れて行かせることはできる。そういう思いもあって友希那には持っていて欲しかった。
「わぁ〜いいな友希那さん」
「もちろん全員分あるぞ 」
「秋也さんありがとう……ってもしかしてこれ、手作りじゃない 」
「ほんとだ……それに、私の名前……入ってる」
「あっ、あこもだ!」
「刺繍も完璧だとは……あなたには驚かされますね」
あまりの好評で頬が勝手に緩んでくる。そこまで褒められると俺舞い上がっちゃうよ? よし、こうなれば友希那の服を作るという口実でスリーサイズを……、
「兄さん、ありがとう。大切にするわ」
……ごめん妹よ。こんな邪心を抱えたダメ兄貴で……。表も裏もない純粋なお礼に心が浄化されていくようだ。
『Roseliaの皆さん、お願いします!』
「はい。みんな、行くわよ」
「はいはい! 掛け声とかやりませんか?」
「掛け声……ファイトーオー! みたいな感じの」 「うーんもっとかっこいいの。例えば……行進せよ、果ての果て……」
「却下よ」
「ええ……」
もう出番まで時間ないってのに……。ここは一つ俺が完璧な案を!
「じゃあ、これで行くわよ」
「え、え?」
俺が考えている間に5人が円になって円陣を組む状態になっていた。俺は急いで友希那とリサの間に入った。
「ほらっ 秋也さん早く」
「お、おう 」
「さぁ、行くわよ……」
「"伝説"を作りに! Roselia!」
『fighting〜!』
遂にRoseliaのステージの幕が上がった。
◇
「────二曲続けてお届けしました。聴いていただきありがとうございます」
友希那の拙いMCだが、既に観客の熱気は最高潮まで達していた。ちなみに俺は今、親父が来たらわかるように入口付近で聴いていた。
(それにしても友希那の奴……今まで以上に歌が上手くなってる)
「悪い、遅れたな」
「ギリギリセーフだったよ。あと1曲だけ…………お、もうそろだな」
「次で、最後の曲になります。次の曲は、私が一番尊敬するミュージシャンの曲をカバーしたものです。それでは聴いてください────『LOUDER』」
彼女達が奏でる音色は、今まで以上に精度が上がっていて、熱気に包まれた会場全体をさらにヒートアップさせ、思わず後ずさりしそうになる。
隣で聴いている親父はというと、ただ静かに歌を聴いていた。その口元は少しばかり笑っていた。
「秋也、これを友希那に渡しておいてくれ」
「ん? わかった……って自分で出せば────あれ、もう行ったのか……ったく」
『聴いていただき、ありがとうございました』
◇
「すっごくすっっっごーく、楽しかったね! お客さんも、最高に盛り上がってたよ 」
「ね、ホント最高だったし、気持ちよかった! あんな一体感、今までで一番だったよね 」
ライブか終わり、既に会場内にはお客さんはいなくて、いるのは私達、Roseliaのメンバーと清掃のスタッフの方だけだった。
「…………」
リサ達が盛り上がる中、1人その場に手のひらを見て突っ立っている紗夜がいた。
「紗夜、どうしたの そんなに自分の手をまじまじと見ちゃって」
「いえ、何だか、不思議なくらい今日の演奏は私の体に馴染むものだったから……」
「そうね。私も気持ちよく歌うことができたわ」
こんなにも清々しく歌えたのはいつぶりだっただろう。自分でも頬が緩んでいるのが分かる。 余韻が少しばかり残るものの、迷惑がかからないように私達は着替えを済ませるべく控え室に向かった。
「よっ、友希那お疲れ様」
「兄さん。お父さんは……」
「あぁ、ちゃんと聴いてたぞ。そしてこれが伝言だ」
兄さんがお父さんの伝言だと渡してくれたのは、お父さんのであろう曲のスコアだった。そこには『いいライブだった』と走り書きで書いていた。
「兄さん……これは」
「ほんと驚きだよな。全部捨ててると思ってたのにさ、現にここにこうやって親父の曲があるんだから……つまり、そういう事だろう 」
「ええ」
言葉にしなくてもわかる。きっとお父さんは、自分の曲を託そうとしているんだと、私は……いえ、私達は試されてるんだそう思った。
「友希那、何見てるの? んん? これって……」
「お父さんからよ」
「よかったね、友希那」
「今日はありがとう。ほんの少しかもしれないけど、以前より前を向いて歌を歌えていたように思う」
「えっ 前から前を向いて歌っていましたよね……?」
「今のは比喩表現よ。気持ちが前を向けていた、ということでしょう」
紗夜があこに説明している様を眺めていると、頭の上に兄さんの手が乗せられた。
「兄さん……」
「どうだ、友希那。今日のライブ楽しかったか?」
兄さんがいつも私に求めてくる質問。完成度を問うわけでも無くただ一つ、"楽しかった"かどうかだけを問いてくる。 でも、私の中で確かに存在する気持ち────それは、
「とても楽しかったわ」
その時、柄にもなく私は笑っていた気がする。兄さんが号泣していたけれど、何故だったのかしら。
「私はもっともっと先へ進んでいきたい。だから、この先も私についてきてほしい」
「もちろんですっ!」
「当然、そのつもりよ」
「はい」
「おでぇもづいでぇ「アタシも、もち友希那についてくよ〜 ! よーし、パーッと打ち上げにでも行きますか!」……がぶぅぜるぅなぁ!」
「それじゃいつものファミレスにレッツg「早速行きましょ」友希那〜! 被せないでよぉ……ってこれじゃあ秋也さんと一緒だ。あはは♪」
私の目指す場所へまだまだ遠いけれど、少しだけ音楽への向き合い方が変わった気がする。
お父さん。少しはお父さんに近づけたかしら?
昔のことを思い出しながら書いてました笑
お気に入り等々くれるともれなく友希那(妹)の添い寝コース付きますよ!