「さぁ、次こそは勝つぞ。あこ! 燐子!」
「ふふふ……今回は負けません! 目指せロイヤルストレートフラッシュ……決まった」
Q.さて、今俺たちは何をしているでしょう?
A.ポーカーです。
現在、俺たちは先日送られてきた招待状を頂いたことにより、"MUSIC SUMMER FESTIVAL"────通称『MSF』という簡単に言ってしまえば音楽の夏祭りだ。 そこに俺たちRoseliaは出演するため、会場近くにある海の家に親父のコネで泊まらせて貰うことになり、電車で向かっているところだ。
ちなみにどうやって親父が承諾させたのか、全くもって不明である。それに「宿泊代は……」と聞いたところ、
『もちろん父さんから払っておくよ。いい演奏を聞かせてくれたお礼だ』
などとめちゃくちゃスタイリッシュに言ってくれた。親父のカッコよさに全俺が泣いた。というわけで宿泊代もろもろの心配など必要なしにこうやって電車の中で気楽に、遊んでいるわけだ。
「さぁ、その胸に刻むがいい! 我のスリーカードを……」
「ふっ 甘いなあこ。行くぞ! 迅雷が如く……フルハウスだ! よしっ次こそ勝っ────」
「スペードテーン、ジャック、クイーン、キング、エース、ロイヤルストレートフラッシュです」
ドやっていた俺をあざ笑うかのように手札を見せる燐子。その手札には、スペードの10、J、Q、K、Aが綺麗に並んでいた。そこからは見えないはずの神々しい光まで差していた。
「クソォォォォォォォ! リンコザンッ! オンドゥルルラギッタンディスカー!」
「りんりんに負けるなら悔いはない……」
「ええい……もう一回だ! リサ、お前も参加じゃい!」
すると、今まで静かにしていた友希那が口を開いた。
「兄さん静かにして。周りの迷惑になってるのが分からない……?」
「ひいっ!?」
ついに
「はぁ……紗夜からも何か言って……」
「…………」
「紗夜?」
友希那が紗夜に話しかけているが、全く反応していない。そもそも朝からずっと紗夜は、何か考え事をしているようだ。さらに以前にも似たようなことがあった気がする。その時も練習とは関係の無い話であこや燐子が盛り上がっていても、紗夜 は注意することも無く友希那に呼ばれるまで気づかなかったのだ。
「ん、紗夜? 何か悩み事か」
「……っ! す、すいません。ちょっと考え事をしていただけで────」
「わぁー! 海だーっ!」
紗夜が何かを言い終わる前に、窓の外を見てはしゃぐあこ。俺もつられて窓を見ると、そこには白い砂浜のビーチと広大な海が広がっていた。
「おお すっげぇ、めっちゃ綺麗だ」
「に、兄さんそんなにはしゃいで……みっともないわよ」
「ふーん。とか言いながら友希那も気にしてたりして〜?」
「……っ!? リサ、何を」
「こらぁ〜、あこと秋也さんだけ堪能してずるいぞー! アタシも見たーい」
「ちょっと、最後まで人の話を……」
景色を眺めるのに夢中になっていて、気がついた時にはもう目的地に着いていた。あ、結局、紗夜の話聞けなかったな……。
◇
目的地に着いた俺たち一行は、駅からすぐのところにある広々とした白い砂浜のビーチ。先ほど電車の窓の中から見えた景色と間近で見る景色とは全く違って見えた。俺達は一列になって、目の前に広がる景色に目を奪われていた。 しばらくその場に佇んでいると、遠くから聞きなれた懐かしい声が聞こえた。
「おーい!」
「ん、もしかして……優さん?」
「懐かしいな秋也君! 中学の時以来かな? 大きくなったな〜」
俺の頭に手をのせて懐かしむこの人は、
実は親父の昔のバンドでギターをやっていた人だ。中学の頃、頻繁に親父たちの練習を見に行っていた俺は、よくこの人にギターを触らせてもらったりととてもお世話になった。
「おや、もしかしてそこにいる娘が……」
「はい、友希那ですよ」
「やっぱりか! いや〜昔よりも一段と可愛くなったじゃないか! 久しぶりだね、友希那ちゃん」 「お久しぶりです」
友希那も友希那で、久しぶりに会えたのが嬉しいらしく少しはにかんでいた。
「それにしても優さん、なんだってこんなところにいるんだ?」
「ん? なぜってそりゃ〜ほら、あそこに海の家があるだろ」
優さんがそう言いながら指さす方向には、確かに大きい海の家があった。 ん、あれって俺達が泊まることになってるっていう……まさか、
「もしかしてだけど……」
親父のコネが通じて、尚且つ海の家。
「その通り。では改めて……Roseliaの皆さん、ようこそ俺の経営する海の家に! あ、ついでに言うと、『MSF』 の実行委員長でもあるね」
俺たちはいっせいに驚愕の声を上げた。
「あれ、そんなに驚く?」
「え……もしかしてアタシ達に届いたあの招待状って」
「あぁ、俺が送らせたよ。いや〜、あいつが随分と娘のバンドを自慢してくるからどんなものなのか見たくてね」
「あこ達のライブを友希那さんのお父さんが……」
あの人ほんと不器用が過ぎるだろ……。
「おーい、店長さん〜!」
俺たちが話していると、遠くからどこか抜けた声でこちらに向かってくる水色のショートヘアの女の子が見えた。
「────っ!」
「 (紗夜姉どうしたんだ? 急に下を向いて……)」
「あ、すまんすまん! 接客の途中だったね」
「そーですよ。店長さんが急に走って行っちゃうから……って、あっ! おねーちゃん! やっと来たんだ〜」
「おねーちゃん?」
ショートの子がおねーちゃんと呼びかける方には、いまだに俯いてる紗夜の姿があった。確かに言われてみれば紗夜にどことなく似ている気がする。
「紗夜 あれがお前の妹で合ってるのか?」
「……え、えぇ、その通りです。実は招待状をもらったあの後、家に帰ってきたときに妹の所属するバンドも出ると聞いて……」
「あぁ、それでか」
朝から紗夜の様子がおかしかった理由が分かった。紗夜の妹との事情はそれなりに知ってはいる。しかし、この子があの天才か……見ただけじゃわかんないな。
「へぇ〜あなたが、おねーちゃんが好きな人か〜」
「えっ?」
「────っ!? ひ、
突然の爆弾発言に黙り込んでた紗夜も顔を真っ赤にして否定の姿勢だ。天才ってこういうもんなのか?
「……な、何か顔についてるか?」
隣で怒鳴り散らしてる紗夜を知らんとばかりに俺の顔を見ながら一周するこの子。とてつもなく視線がくすぐったい。
「ふむふむ よし、きーめた!」
何かぽつりと呟くと、急に俺の腕をがしっと掴むと腕を絡ませてきた。
……って、ふぁ!? な、何故にこの子はお、俺と腕を組んでいらっしゃるのですか! あっ、柔らかいしこの香り……アロマか。しかも凄い安らぐいい匂いだ。多分ラベンダーかな。
別の事を考えて紛らわせていると、
「おねーちゃん、あたしもこの人の事気に入った!」
「え、えぇ……? ど、どうしてだ、俺まだ君と全く話したことないんだが 」
「え?」
え、何……なんでそんな「何言ってるの? この人」みたいな目で俺見られてるの……俺が間違ってるのか、そうなのか?
「だって、おねーちゃんが好きになった人なら私も好きになれるもん! あ、あと! あたしは"君"って名前じゃない、ちゃんと氷川日菜って名前があるもん!」
「お、おおう。じゃ、じゃあ日菜ちゃん」
「うんっ 今、るんっ♪ って来たよ 」
「る、るん……?」
「ルンピカぁ〜!」
「……あこちゃん、それはちょっと違う気がするよ……」
俺と天才妹の出会いはとんでもない出会い方で始まってしまった。