笑わない妹と夢見る頂点へ   作:イチゴ侍

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真っ赤な幼馴染と俺

 

 話を終えた後、俺達はそれぞれ優さんに寝泊りの部屋に案内されていた。

 

「さて、男の部屋はここだ。ちょっとばかり狭いが我慢してくれ」

「いえいえ、こちらこそ部屋を分けてくれてありがとうございます」

「いいってことよ、まぁ女5人の中に一人男ってのも酷なもんだしな」

 

 そういうと優さんは、ニヤリと頬を緩めると、肩を組んできた。

 

「それともあれか? 逆にそっちのほうが良かったか〜 」

「や、やめてくださいよ、そんなこと思ってませんからね 」

「ははっ、いや〜やっぱ秋也君は弄りがあるな」

「からかわないでくださいよ……」

 

 この人は相変わらずだ。昔からお世話にはなっているけど、よくこうやってからかわれる事が多々あった。

 

 

「そんなに拗ねることないだろうに」

「拗ねてなんて……はぁ、もういいです」

 

 半ば呆れ気味にそういい、俺は改めて部屋を見渡す。木造建築のため先程から俺の嗅覚を木の匂いが支配していた。少し窓を開ければ、そこからは潮の香りと視野いっぱいに広がる真っ青な海、じりじりと砂浜を焼くように照り付ける日差し。そ んな夏真っ盛りの中で吹き抜ける控えめな風は、俺の少し伸びた前髪を撫でた。

 

「あれ、これって」

 

 今まで気付かなかったのだが、部屋の隅っこに立てかけてあるギターケースが見えた。

 

「あぁ、俺のだよ。あれ以来もう何年も触ってないな」

「弾かないんですか?」

「俺にとってあのバンドこそが俺がギターを弾く意味でもあったんだ」

 

 どこか懐かしむように語る優さんは少し間をあけて「だから」と繋げて話し出した。

 

「俺はもう弾くことがないだろうな」

「未練とか今でもないんですか?」

「まぁ、ないって言ったら嘘になるかな。だからさ、こうやって夏フェスを通じて次世代のスターって奴の演奏を聴いて満足してるわけだ」

 

 本当にそれでいいのか。そう言葉にしようとしたが、ギリギリのところで踏みとどまった。他人が人の決めた生き方にとやかく言う資格はない。そんなよく聞くフレーズが頭をよぎった。

 

「……長く話し込んじゃったな。そろそろ戻るよ」

「あ、なんかすいません。仕事中でしたよね」

「いいってことよ。なんてったって今から頼りになるバイトが入るからな!」

 

 ん……? 今からバイトが入るのか。随分と遅い出勤だな。これだからゆとりは……あぁ、働きたくないでござる。

 名も顔も知らぬそのバイト君を哀れんでいると、優さんは一着のエプロンを手渡してきた。

 

 

「 えっと、あの、優さん……これは」

「それじゃ、よろしくな! バイト君」

「……oh」

 

 名もなきバイト君、悪いなどうやらエプロンは俺を選んだようだ。

 

 

 ◇

 

 

 暑い。

 

「すいませ〜ん、冷やし中華一つ」

「はいはーい……少々お待ちください」

 

 暑い。

 

「あのー、かき氷まだですか〜?」

「すいません、もう少々お待ちください」

 

 暑い。

 

「はいあーん♡」

「あーん。うん、とってもおいしいよ。あ、そこの店員、コーラ一つお願いね〜」

「あっ、私はラムネねぇ〜」

「はいはーい……」

 

 俺、湊秋也は現在海の家でアルバイト中だ。なぜかって? どうやらうちの親父が宿泊代と称して俺をアルバイトとして差し出していたようだ。

 一瞬でも「親父かっけぇ!」とか思った俺の気持ち返して 。 そして今、俺────店員をパシリか何かと勘違いしてるこのくそカップル。ただでさえ暑さでイラついてんのにこんな、某スカッとな日本に出てくるような客が来てイラつきが溜まりにたまってきた。

 

 

「返事はいいからさっさと持ってきて欲しいもんだよ〜」

「「ねぇ〜?」」

 

 

 ────ブチッ 。

 

 

「いい加減にしろよこのくそカップルさまぁ────」

「はいはーい! お待たせしましたお客様〜! こちらコーラでーす」

 

 爆発しかけた俺を抑えるかのようなタイミングで、白のTシャツを着たリサが注文の品を持ってきた。しかし、流石接客慣れしてることはあるな。

 

 そして俺は気づいてしまった。先程からリサに集まる視線を、その先を────そう、透けているのだ、リサのブラが。

 

「すまんリサ、ありがとう」

「それはいいんだけど どうしたの秋也さん。そんな近くに寄ってきて」

「お、お前な……気づいてないのか? よーく自分の服装確認しろ」

「服装ってただのTシャツだけど……」

 

 すると、リサはTシャツの裾を下に引っ張ってどこも変じゃない事を見せるようにしてきた。しかし、それは逆効果になり状況を悪化させ、うっすらと見えていたリサの下着はあらわになり、ほど良く育った二つの膨らみは自己主張をさらに激しくしていた。

 さらには、心なしかそこら辺から「おおっ!」だの「眼福、眼福」だの野太い野郎の声が聞こえてくる始末。ちなみにだが、色は赤だった……って誰に言ってんだろ。

 

 

「とにかくだ、一旦店裏行くぞ」

「どうして……って、ちょ、ちょっと秋也さん」

「すんません優さ……じゃなかった。店長、ちょっと休憩もらいます」

「ん? おう了解っ」

 

 優さんもとい店長に了解を得て、リサの腕を引っ張り店裏まで連れてきた。そして、透けていることを伝えると、顔を真っ赤にしてものすごい速さで着替えに行ってしまった。相当、見られたのが恥ずかしかったんだな……。

 

 

「……」

 

 一人取り残されてしまった。

 

 ずっとその場にいるわけにもいかないので、俺はそのまま持ち場に戻る事にした。





評価バー赤になってて驚きました……。
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