笑わない妹と夢見る頂点へ   作:イチゴ侍

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アイドルと俺

 

「あぁ〜疲れたー」

 

 俺は、両手をグーンと空に向かって伸ばし屈伸する。数時間前まで騒がしかったビーチから一転、辺りはすっかり静かになり空高く昇っていた太陽も海の向こう側でゆっくりと沈んでいる。

 

 

「んんー、はぁ〜お疲れ様、秋也さん」

「おう、リサもお疲れ」

 

 俺の隣に立ち、同じく屈伸するリサ。横目でちらりと見る彼女は、長い髪を靡かせ、夕陽に照らされる様はとても色っぽくまさに絶景だった。その光景に目を奪われていると、視線がばれたのか目が合った。

 

 

「ん? どうしたの秋也さん、そんなに見つめちゃって、あっ……まさかまた透けて……」

「いやいや、大丈夫だってどこも透けてない」

 

 焦って体の目が行き届く場所を確認し始めたリサをとりあえず制止する。きっと正直に『表情がとてもエロかったよ』なんて口走ったころには俺の胴体は宙を浮いてるだろう。

 

 

「それにしても良かったのか? 俺はともかくとして、リサまで手伝うことなかったんだぞ」

「ううん、アタシとしては友希那たちと一緒に行くより、こっちの方が役に立ちそうだったからね。しかも途中でヒナも連れてかれちゃったし、人手足りない状況にはぴったしだったと思うよ」

 

 リサの言う通り、とんでもない出会い方をした紗夜の妹────日菜ちゃんは、俺たちと一緒に優さんの手伝いをしていた所、 顔にそぐわないアロハシャツを着た目つきの悪いヤクザみたいな人が入ってきたのだ。

 

 

 ◇

 

 

『すいません、氷川さんがこちらに来ていませんか?』

『ひゃ、ひゃい! えっと氷川さん……というと』

 

 とんでもない人に声をかけられたと思い、思わず声が裏返ってしまったのだ。そして男が言う氷川さんとは案の定、日菜ちゃんだった。

 

 

『あーあ、(たけ)ちゃんにもう見つかっちゃったか〜』

『あなたを探すこちらの身にもなってください 』

 

 そういうと男は、右手を首筋に当て困ったような顔をしていた。というか、この二人の関係がどうにも気になって仕方なかったので、聞いてみることにした。

 

 

『えーっと、お二人はどういった関係で?』

『……これは申し遅れました。私、こういうものです』

 

 すると男は俺に一枚の名刺を渡してきた。この人────名前は武内(たけうち)さんというらしい。そして最も目を引き付けられたのは"アイドルプロデューサー(・・・・・・・・・・・)"という一文だった。

 

『プロデューサーさん、なんですか 』

『はい、今は彼女────氷川さんが所属するアイドルバンドグループ"Pastel*Palette"のプロデュースを担当しています』

『むー、武ちゃんそろそろその『さん』っていうのやめてよ〜』

『それは……検討中、ということで』

 

 そんな2人のやり取りを聞くだけになっていた俺。いや、疑ってたわけじゃないけどさ、こうやって本物のプロデューサーを見せられると本当に、目の前の彼女はアイドルなのだと思い知らされる。

 

 

『……って、あっ、俺の自己紹介まだでしたね。湊秋也といいます。いまは、この家を手伝い中ですが、普段Roseliaというバンドのサポーター的なことやってます』

 

 なんというか……自分で自己紹介しておいてなんだけど、俺って誇れるところなくね? サポーターってなんだよ、公的な役職とは言えないよなぁ。良くてボランティア? 

 プロデューサーって肩書きの後だときついな。集団面接だったら速攻でインパクト負けしてたところだよ。

 

 

『Roseliaというと、今回のフェスに出る今話題のガールズバンドですか 』

『は、はい……そうです』

 

 今話題というワードを聞き、妙に背筋がピンと伸びた。

 

『そうだよ武ちゃん! おねーちゃんもいるんだよ〜』

『そうでしたか……っと、そろそろ行かなければ』

『あ〜あ、もうちょっとお兄さんと話したかったな。ばいばい秋也義兄さん♪』

 

 そういいながら日菜ちゃんと武内さんは、行ってしまった。なんか最後のフレーズ引っかかったな 。

 

 

 ◇

 

 

 とまぁ、バイト中にこんなことがあったのだ。

 

 

「しっかし、そんなプロデューサーさんにもRoseliaの名前が知られてるとは、アタシたちもでっかくなったな〜」

「どうだろうな?」

 

 多分、あの人なら今回出演するグループ全部の情報を調べてそうだけど、今話題って言う辺り本当に世間で話題なんだろう。

 しばらくリサと話していると、聞きなれた声が聞こえた。

 

 

「お、帰ってきたみたいだな。おかえり」

 

 そう声をかけると思った通り、友希那たちだった。

 

「ただいまー 秋也さん、リサ姉 」

「ただいま」

「今戻りました」

「ただいま兄さん」

 

 それぞれ俺たちに向けて言う。実はリサを除いたメンバーは、一足早くフェス会場に行っていて、エントリーや会場内の説明などを聞いてきてもらっていたのだ。

 

 

「大変だったろ?」

「ええ、それはもう……特に宇田川さん関連でしたが」

 

 紗夜がマジのお疲れモードで話すところ相当大変だったんだろう。大方『会場を見て回ろう 』などとあこがはしゃいでて、きっとそれを紗夜が母親のごとく『宇田川さん、何度言ったらわかるんですか。あまり会場内を走り回らないでください、 みっともないですよ 』とかなんとか叱ってたのが想像できる。

 

 

「あこ、ちゃんと紗夜お母さんの言うこと聞くんだぞ 」

「誰が母ですか!」

「はーい。あこはいい子になります 」

「宇田川さんまで……はぁ、もういいです 」

 

 そういい、紗夜は先に家に入って行ってしまった。そしてその数十秒後、入れ違いで優さんが中に入れと催促してきたのだった。

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