「ふっふふ〜ん♪」
海の家に戻ってきた俺たちは晩飯を終えて今、近くの銭湯へと来ていた。
……入浴って言ったら、男湯女湯を間違えて互いの裸を見てしまう〜っていうラッキーハプニングが待ち構えているって聞いたんだけど……、
「あ ゙あ ゙き ゙も ゙ち ゙い ゙い ゙〜」
そんなアニメのような展開はありませんでした。いやー、それにしてもいい湯だな〜。効能も肩こり冷え性その他諸々 疲労回復については迷信じゃなくほんとに回復してるよ。しかし、どうなってやがる……なんで、なんで男湯に俺一人しかいないんだよ!
当然こっちはものすごく静かなわけで、
『りーんりん♪ 背中流すよ〜』
『あこちゃん ありがとう』
やっぱ聞こえちゃうよね〜。今の声は燐子とあこか、話だけ聞いてたら姉妹みたいだな。
『わぁ〜りんりん肌奇麗だね〜』
『あ、あこちゃん……そんなに見られると、恥ずかしい』
ふむふむ 燐子は肌が綺麗だと……はっ! い、いや……これはだな、決して聞き耳を立てていたわけではなくてだなって……誰に言ってんだろう。
それにしても燐子よ。あんまりそんな照れ交じりの抵抗は男の前ではやるんじゃないぞ。相手を逆 に興奮させるだけだからな、お兄さんすっごく心配。
そんなことを思っているとさらに新しい声が聞こえた。
『おや〜 友希那、もしかしてまた大きくなったんじゃないの?』
なに……? 友希那だと。
過剰反応した俺は、すぐさま境目となっている壁に耳を傾ける。
『ちょ、ちょっとリサ! どこ触ってるのよ』
『ほほう これはなかなか、もしかして──さんにいつも──されてるのかな〜?』
ん? 一部がうまく聞き取れなかったぞ。しかもめちゃくちゃ重要なとこな気がする。しかもなんて言った? いつも誰かに触られてるだと? どこの誰だ! 兄さんが認めた奴しか許さんぞ。まぁ、俺が認めるわけがないがな。
『ん……いい加減にしなさい。 ──いさんに触らせることなんてないわよ』
『良いではないか良いではないか〜 しっかしこんな立派なものをお持ちになって、いったい誰を誘惑するのやら』
『今井さん子供じゃないんですから、静かにしてください』
友希那とリサの声に続き、紗夜の声が聞こえた。それにしても本当に紗夜がお母さん化してきてないか
『はーい、それじゃ、静かにしまーす』
『はぁ……最初からそうしてくださ……ひゃっ!』
な、なんだ今の声……もしかして紗夜の声か? だとしたら話の流れ的に、
『い、いま……いさ……ん。や、やめっ』
『あれ、意外と紗夜って敏感? しかし、紗夜のもまた、なかなか〜』
『 っ』
そろそろ俺の興奮が最高潮に達するんだが これ以上は性神的に耐えられない……が、これも男の性なのか、もう少し聞いてたくなる。
そうして、俺はのぼせる寸前まで女の花園に耳を寄せていたのだった。
◇
銭湯から戻ってきた俺たちは、今後の予定を決め、すぐにそれぞれの部屋に戻って就寝した。俺はというと、今までのRoseliaの曲を聴いていた。あいつらの演奏は格段にレベルが上がってきてると思う。それは結成当初から見てきた俺なら分かる。 友希那、紗夜はともかくとして、燐子は前よりも堂々とキーボードを弾くようになり、あこの走りがちだった演奏も、今じゃ周りとの調和性がしっかりとしてきた。そしてリサも少しばかりのブランクがあったというのに今では、感覚を完全に取り戻していて、そればかりかかなり上達している。
『私は……私の信じる音楽を認めさせる。あのフェスで……絶対に 』
あの時の友希那の言葉、今なら実現するんじゃないか、そんな気さえしてくる。それはただ俺の考えが甘いだけなのかもしれない。
でも、願う事ならこのまま、妹が音楽を嫌いにならないで笑顔で音楽と向き合ってくれれば……、
「兄さん……起きてる?」
「ん……どうした」
周りが寝静まった中、猫が一人、部屋に入ってきた。
「ゆ、友希那? どうしたんだ……その格好は」
「……へん?」
「いや、似合ってるが……」
妹が着ているのは確かに黒いパジャマ……なのか 断言出来ない理由は、友希那の頭を覆うフードだ。いくら見ても耳が付いてる。まさに黒猫だった。 友希那は、言葉に詰まっていた俺を見て首を傾げる。やばい……その仕草は可愛すぎる、今すぐにでも腕の中に収めてほっぺすりすりしたり、ナデナデしたり、顎下こちょこちょしたり……小動物感がもう可愛い、天使だ……。
そんな俺の暴走(脳内)を知らぬとばかりに友希那は、ベッドに腰掛ける俺の隣にやって来た。
……あれ この光景どっかで見たような。
「どうしたんだ……眠れないのか?」
「……少し、落ち着かなくて」
「はっはーん、さてはみんなと同じ所で寝るから緊張してるだな〜」
兄さんその気持ちよーく分かるぞ……小学校の宿泊学習とかで初めて友達と寝た時、俺だけ寝付くのが遅かったもんな……それで先生に叩き起されるまで起きなかったっけな……。
「寝れないんだったら俺と一緒に寝るか?」
「…………お願い」
「今ならなんと友希那が眠るまで俺が見守っ……て、て、え? 今なんと」
「……兄さんと一緒に寝たい」
そう言い放った友希那は、すぐさまベッドに横になり俺のスペースを空けていた。
まてまて……落ち着け、ここに来て妹とのイチャラブ寝泊まりイベントだと? 一体このイベントのフラグは何だったんだ。銭湯での盗聴か? 晩飯のカレーか? それとも夏フェス参加か?
ははは……そうだ、これは夢に違いない。 じゃなきゃ俺の妹がこんな……、
「……兄さん 早く……」
こんな『お兄ちゃん……早く私と寝よ ほら♪ はーやーく♪』みたいに誘ってくるはずがない。
……ならば俺がとる方法は一つだ。
「よいしょっ……と、友希那はほんと可愛いよな〜よしよし、いい子いい子」
「に、にいさん……くすぐったい」
「このパジャマどうしたんだ? すっごい可愛いじゃないか」
「こ、これは……リサが、お揃いにしようって……しょうがなく」
「んー、って事はリサは白猫か。それで友希那が黒猫か……」
神様仏様リサ姉様……こんな素晴らしいものを友希那に選んでくれてありがとう。おかげで我が妹の可愛さが100% 引き出されてるよ、もう友希那100%だよ。 それから俺は、その夜、自分のまぶたが閉じるまでひたすら友希那の頭を撫でていたのだった。