夏フェスに向けてこっちに来てから、既に三日経った。その間、俺とRoseliaのメンバーはある時は店の手伝い、空いた時間には練習……っと、そんなこんなで日々を送っていたわけだが、
『合同練習に来ませんか?』
以前、俺が海の家で出会った日菜のプロデューサー、武内さんからの誘いだった。その概要は文字通り、フェスへ出る出演者が集まって練習をするといったものだった。
勿論、断る理由もないのでRoseliaも参加することになった。
そして今、その練習場所と思われる場所に来ている。
「Roseliaの皆さん、そして秋也君、来ていただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそ声をかけていただき感謝します」
それにしても合同練習って、一体どんな人たちがいるのだろうか。武内さんが誘うってことは、パスパレはいるんだよな 俺も出演者をよく見ておかないと。
そんな風に俺が考えてるのを余所に、Roseliaのみんなもあの時の俺のように名刺を渡されていた。
「あなたが日菜の──Pastel*Paletteのプロデューサーでしたか」
「はい、あなたが氷川日菜さんのお姉さんですね」
「氷川紗夜です。一度家にいらっしゃっていたんですよね。すいません、その時は練習に行っていて。日菜は、妹は迷惑をかけていませんか?」
「いえ、日菜さんはとても優秀です。プロデューサーながら助けになったことも多々ありましたから」
紗夜もなんだかんだで日菜ちゃんが心配なんだな 武内さんと紗夜の話を聞いてそう思った。
「立ち話もなんですから中へどうぞ」
「いまどれくらいの出演者が来てるんですか 」
「皆さんが最初ですね」
俺たちは結構早かったようだ。まぁ、それもそうか指定された時間にピッタリ来るグループなんて俺たちくらいなもんか。
中に案内され入ってみると、それなりに広いカフェスペースがあり、そこを通るとその奥にはだだっ広いスタジオがあった。 そして、入った俺たちの耳に届いたのは可愛らしい女の子の歌声だった。
「────♪」
ステージの上から聞こえるその声の主は、両側に束ねたピンクの髪をぴょんぴょんと跳ねさせて、どことなくキラキラしていた。 そして彼女だけではない、周りで楽器を持ち演奏する娘たちも同じくボーカルを引き立たせるだけではない。一人ひとりが個性の違う輝きを放ち、見る人を魅了していた。
俺は、彼女達の演奏が終わるまで、まるで夢の中にいるような気分だった。
その時、初めて聞いたはずなのに一瞬だが、彼女の声がとても懐かしく感じた。
◇
「──ふぅ〜、お疲れさまでした 」
演奏が終わりステージの上からメンバーが続々と降りてきた。
「皆さん、早速Roseliaの皆さんが来て──」
「あぁー! お姉ちゃん! それにあき君だー」
「あ、あき君? ……って、おわっ!」
武内さんが言い終わる前に、水分補給を終えた日菜ちゃんがこちらに向かって走ってきたと思えば、突然俺に突撃してきた。
なんか他人ごとのように言ってるけどな、あまりの勢いに思わずしりもちをついてしまった。
「「ちょ、ちょっと日菜(ちゃん) 」」
紗夜ともう一人、薄い赤みのかった黄色──クリーム色とでも言うのだろうか、とにかくそんな色の髪をした女性が駆け寄ってきた。
しかし、そんな人の髪の色よりも気にしなきゃ行けないものに押し倒されてる。俺に覆いかぶさる日菜ちゃんだ。
「えへへ〜♪ また会えたね。あき君! う〜ん♪」
──犬 いや、子犬? 今の彼女からは、そんな動物的なイメージが脳内に湧き上がってきた。さすがに1、2回会ったばかりの女性に犬ってイメージはどうかと思ったのだが、それ以上にだ。その1、2回しか会ってない男に普通突進します? 挙げ句の果てには、マジで甘える子犬見たいに頬をスリスリしてきましたよ。
「こ、こら 日菜。秋也さんが困ってるでしょ! いい加減離れなさい」
「えぇ〜 あとちょっとだけっ♪」
あぁ〜この子かわいい。今すぐに持ち帰りたい。そんで年中無休でよしよしナデナデ……寝る時には一緒のベッドに寝かせて頭撫でながら眠りにつきてぇ〜…………って違うっ! 何をとち狂った事を考えてんだおれぇ……俺にはもう可愛い可愛いツンデレな黒猫がいるじゃないかっ!
いや、待てよ……? ツンデレな黒猫と甘え上手な子犬……悪くないか。
などともう動物的考えが収まらない中、ようやっと覆いかぶさっていた日菜ちゃんが姉と、クリーム色の髪の女性によって離され連行されていた。
「あの〜大丈夫ですか?」
「あ、ありがとう 」
座り込んでいた俺に誰かが手を差し伸べてくれたようで、俺は相手を見ずにとりあえず感謝を伝える。何故かその時、昔にもこんな事があったような、そんな気がした。
俺は立ち上がりその手を差し伸べてくれた主の顔を確認する。どうやら先ほど、センターで歌って踊っていたボーカルのピンク色ツインテールの娘だった。
──あれ、確かあの時もこんなピンク髪の幼い可愛い子だったっけ。
その時だ、
「えっ……あー君?」
「……っ!」
彼女は口にしたのだ。記憶のあの娘のように、あの娘が俺を呼ぶ時に口にした呼び方を……。