「では、改めて自己紹介しましょうか」
彩ちゃんの暴走と話の整理が付いたところで、まだ俺たちが自己紹介もしていない事を思い出した彼女────確かメンバーの人から
「
丁寧な口調で話す彼女、流石役者という感じだった。気品溢れるその立ち振る舞いは、汗を流し練習後だというのに一切乱れることはなく、そんな思いを微塵も感じさせないほど、魅力的に見えた。
「それじゃ、次はジブンが……改めまして、
千聖ちゃんとはうって変わって、ボーイッシュな子だった。彼女の瞳は、まるで水晶のような全てを見透かしているかのように思えるほど、綺麗だ。ちなみに上から読んでものくだりで『おおっ!』と思わず声を漏らすところだった。
「私は、
「ブシドー……押忍って。ところでイヴちゃんってもしかしてハーフだったりする?」
「はい!お父さんは日本人でお母さんはフィンランドなんです 」
銀髪がよく似合っていると思ったわけだ。日本人じゃこんなに似合う人なかなかいないからな。何となく面白い子なんだな〜っていうのは分かった。
「はいは〜い! 次はあたしやるねぇ、氷川日菜です! パスパレ、ギター担当でーす♪ よろしくお願いしま〜す」
「日菜……あなた、アイドルバンドとはいえ一応アイドルなのでしょ? 少しはきちんと自己紹介くらいしなさい」
「はーい」
言わずもがな、この適当な挨拶かましたのが紗夜の妹、実際にはほぼ同時に生まれたから双子 と言うべきなのだろうが 紗夜の話によると、5秒早く紗夜が生まれたらしい。姉の紗夜とは性格も真逆で予測不能な女の子と言った感じだ。
「私が最後だね。まんまるお山に彩を♪ ボーカル担当です! パスパレに入る前は事務所の研究生として、アイドルの勉強をしてました。まだまだアイドルとして未熟ですが、よろしくお願いします!」
新人アイドルっぽさが若干抜けきってない彩ちゃん。でもアイドルに憧れて 研究生として事務所に入るくらいだ、きっとその手の仕事は一生懸命こなしているんだろう。 パスパレの自己紹介が終わり、その頃には他の合同練習参加バンドが続々と集まっていた。
「武内さん、全バンド集まりましたかね?」
「ん この声は……」
全員が集まったかという質問に対してゆっくり頷く武内さん。その先にいたのは、優さんだった。いつもの営業中に着ている仕事服とは違い、白ワイシャツにネクタイといったよくあるサラリーマン風の服装で立っていた。
「ええ、私がMUSIC SUMMER FESTIVAL通称『MSF』の実行委員長を努めさせていただいてる
ステージの上に立ち堂々と話す優さん。普段、海の家で営業やってる人とは思えないほどしっかりとしていた。確か親父とバンドやってた時もよく、MC苦手な親父に変わって盛り上げてたっけ。 俺が昔の事を思い出していると、早速バンドのリーダーが呼び出され本番の確認をするとの事だ。Roseliaは友希那なのだが、そういう事はほとんど俺が任されてるので俺が行くことになった。こういう時ってだいたい周りが演奏者かボーカルの子だから俺ってめちゃくちゃアウェーなんだよね……。
そして話が進むうちに分かったのだが、パスパレはどうやらオープニングとして呼ばれていたらしい。アイドルバンドだからこういうフェスにも出せるんだろうな。
後は、演奏順番決めでクジ運が皆無な俺が引き当てたのは、最後だった。ま、その事は俺を向かわせたみんなの責任……という事にしておこう。
短い打ち合わせを終えて戻ってくると、早速1組目のバンドが演奏を始めて、他はそれを聴く感じだ。俺たちRoseliaも静かに他のバンドの技術を糧にするため、集中していた。
◇
合同練習が終わり、外に出てみれば日が既に落ちかかっていた。夕日が眩しく、辺り一面真っ赤になっている。
俺たちは、 どんなに時間が過ぎても決して変わることのない、暖かな潮風に吹かれながら帰路についていた。
「で、合同練習を終えてどうだった?」
「そうね。私たちもまだまだ、と思ったわ」
「ええ、湊さんの言う通りね。今回のフェス『MSF』に出るバンドはどこも私たちより遥かに演奏技術が高かったわ」
確かにRoseliaはとても凄い演奏をするバンドだ。しかし、それは"どんなバンドよりも"というわけじゃない。 今回演奏する場所は規模が大きい故に、出てくるバンドは日本のあらゆる所から出演オファーが届いたバンドだらけだ。そんな中に"今の"Roseliaが出ても他と同等、もしくはそれ以下の凄さになってしまう。
でも、逆にそれを早いうちに認識できたのは好機と思ってもいいかもしれない。
「今のお前達はまだまだ上を目指せる。だって、お前らより上手く、カッコよく演奏するバンドがあるんだからな。他に出来てRoseliaが出来ないことなんかないだろ てか、他が出来ない事をRoseliaがやれて当然なくらい、まだ上がお前達には待ってるんだから」
「……あこ、もっともーっと カッコよくドラムを叩きたい!」
「おう あこ、その意気だぞ!」
「アタシもみんなの足引っ張らないように頑張らないと……」
柄にもなく仕切っちゃったが、いい具合に効いたようだ。
「わ、私も……みんなが安心して、背中を預けられるよう……演奏……頑張ります」
「燐子その考え方はどうも人が聞いたら『背中は私が守る。お前は前だけ見ていろ』みたいな心強いセリフにしか聞こえないんだが……」
「ちょっとだけ……意識……しました」
「わぁ! りんりんカッコいい! いいな〜あこもそういうセリフ……むむむ」
燐子は少々微笑みながら首を傾げ『悪戯バレちゃった、テヘっ♪』みたいな仕草だった。正直いってな、可愛いなぁ〜ちくしょ……真っ赤なドレス着せて俺の花嫁にしてぇよ
「…………日菜」
「どうした紗夜。間近で日菜の演奏を見て何か感じたか?」
燐子とあこが楽しく話し始めたの皮切りに、少し俯いていた紗夜に話しかける。何となく、パスパレの演奏を効いた辺りか ら何かを考えている様子が見えていた。
「はい、悔しいですがやはりあの子は上手いです。今の私よりも……」
「なら努力だ」
「え?」
「才能で勝てないなら努力で勝つしか方法はないだろ。どんなバトル漫画でも努力が天才を上回るなんて話は沢山あるんだぜ」
「現実と創作物を一緒にしないでください……」
くっ……なら何か、妹が実は本当の妹じゃなくて義妹だったから結婚できるなんて、そんな事ないかな〜とか思ってた俺はバカってか? 何度も夢見たさ……。
「ったく……せっかく元気づけてやろうと思って言ったのに」
「まぁ、でも。今回だけ、秋也さんの言葉を信じてみましょうか……」
「……へっ?」
「あなたのその信じるのも馬鹿らしい根拠でも、何だかそうなりそうな気がするので、ほんの少しだけですよ? ほんの頭の片隅にでも置いておきます」
そう言いそっぽを向かれてしまった。てか、今でも必死に努力してる紗夜に軽はずみに"努力しろ"なんて言っちゃったけど、大丈夫かな……。腹痛いって言ってる人にマク○ナ○ドのビック○ック食えって言ってるようなもんだよな。
「……どうしたの兄さん」
「あ、友希那ぁ〜」
「い、いきなりなに……」
あぁ……兄さんを心配して寄ってきてくれたのか、もうほんと可愛いな〜。とりあえず友希那の頭をナデナデ……歩きながらだから抱きしめて撫でるのは無理だが、片手でやるくらいなら充分できる。
最近なんだが、友希那の撫でさせてくれる時間が増えた気がする。前はもって10秒だったが、今じゃ30秒まで増えた。
「……ナデナデ」
「……」
「……ナデナデ」
「……」
……おかしい。何故かわからないが、もうかれこれ30秒以上経ってるのに、離れようとしない。
「友希那〜、秋也さんに頭撫でられてそんなに気持ちいい?」
「……(コクリ)」
「あ、え、えぇ……どうしよ。友希那がアタシのイジリにこんな反応返してきたの初めてなんだけど」
ほんとにどうなってるんだ。いつもなら『兄さん、早く止めて』って言うのに……なんでこんなに無抵抗なの? 襲われたいの? お兄ちゃん襲っちゃうよ? あまりにも不気味に思えてきたので、俺は名残惜しいが一度手を頭から離してみる。すると、チラッと俺の方を見て、
「兄さん……もうおしまいかしら?」
首を傾げまるで『もうやめちゃうの……?』とでも言いたげにこちらを見つめていた。俺は脳内で『もっとやって……お兄ちゃん』と変換して、海の家に着くまで頭を撫でまくったのだった。
後日、何故あんなに甘えてくれたのか聞いたところによると、
「兄さんの結婚の相手は、私が認めた人だけにして。それ以外は……いいから」
と、それだけ言われ肝心な所はきちんと教えてくれなかった。しかし、一つ分かるのはこれからも妹へのスキンシップは止めなくていいということだった。