笑わない妹と夢見る頂点へ   作:イチゴ侍

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愛され幼馴染と俺

 

 

 秋也がまだ医務室でリサを見守っている同時期、フェス会場ステージでは、Roseliaの前のバンドが会場を沸かしていた。

 

 

「わぁ〜すっごい熱気だね!」

「フェスもいよいよ大詰めだからよ。ここまで盛り上げと時間を稼いでくれた他の皆さんには感謝しないと」

 

 本来なら、Roseliaの出番はもっと早い時間だったのだが、事情を知ってか、一つひとつのバンドができる限りの時間を稼いでくれたのだ。それにより、日菜の短期間練習はより濃く行うことができた。

 

 

「リサ姉……大丈夫かな」

「あこちゃん、大丈夫だよ……秋也さんだっているし」

「そうよ、あこ。今は音楽に集中して」

「は、はい!」

 

 友希那の喝はあこにも、そして少しの不安が残っていた燐子にも届き、2人の身が引き締まっていた。しかし、そんな喝を 入れる友希那本人もリサの事が頭の隅で気になってしょうがなかったのだ。それでも、そんな思いを押し殺し、メンバーのためにしっかりしようと勇ましく立ち振舞っている。

 

『ありがとうございましたぁ!』

 

 演奏が終わって、より一層会場の熱気は最高潮に達していた。

 

「Roseliaの皆さん、お願いします!」

「はい。みんな……行くわよ!」

『はい!』

 

 希那達がステージに上がると「おおー!」や「きたっ!」などといった、待ちわびた人たちの声が聞こえてくる。しかし、 ファンであろう一人がどこか違うところに気づいたようで、それにより徐々にざわめきが広がって行った。

 

『あれ、なんか違わないか?』

『なんでパスパレのギターの子がいるんだ?』

『ベースのリサちゃんはどうしたんだ?』

 

 等など、観客の思いは様々だった。しかし、センターマイク前に友希那が立つとざわつきは一瞬で消えた。まるで神のお告げを聞く信徒の如く、静寂に包まれ友希那の言葉を今か今かと待ち構えている。

 

 

「みんな、盛り上がっているかしら?」

『イェーイ────!』

「今回……リサが出れなくなってしまったので少し、特別バージョンで行くわよ。それでは聴いてください────"BLACK SHOUT"」

 

 友希那の合図とともに、ステージに設置された全音響機器が作動し、前奏が始まる。

 そして静かなメロディから一転、友希那の"SHOUT(叫び)"によって盛り上がりは最高潮にまで昇る。

 その盛り上がりがいつもと違う事、そして自分達の音もまた変化していることにそれぞれが思う。

 

 

「(か、カッコいい! まるでいつもと音が違って聴こえる )」

 

 あこは相も変わらず、まだ見ぬカッコよさを目の当たりにし、テンションが上がっていた。

 

「(す、すごい……この曲がこんなに変わるなんて……それに、氷川さん……いつもより楽しそう……)」

 

 燐子もまた、曲の変化に驚きつつも、いつもとどこか違う紗夜の変化にも気づいていた。

 

「(まさか、こんなふうに日菜と演奏する日が来るなんて……それにあそこまで話すのも久しぶりだったわ)」

 

 短期間の日菜の練習に付き合った紗夜は、何度も"ここは違う"、"そこはもっとこう"など、長くやって来た紗夜本人でしか分からない場所を教えていた。

 

 

「(私があの子に教えられる事なんてないと思ってた。だっていつもあなたは、私を追いかけてくるどころか、決まって追い越していくから……)」

 

 紗夜が何をしても日菜は、同じ事をしたいと付いてくる。しかし、それは姉妹ならば当たり前の行動だと言えるだろう。大 好きな人なら尚更だ、大好きな人が何をしているのか気になる。大好きな人がそれで何を感じているのか、何を思っているのか……。

 だが、それを紗夜よりも優れていた日菜がする事によって逆効果になってしまった。もちろん日菜に悪意があった訳では無い、それは紗夜も分かっていることだ。日菜を羨ましいと思うこともあっただろう。

 

 

「(私より何でもできる日菜に、慕われるのがすごく嫌だった。私が誇れるものなんか日菜と比べたら何も無い……それが悔しかった)」

 

 紗夜が一方的に話さなくなったのは、ほとんど八つ当たりに近いものだ。本当に嫌いなら"大嫌い"と口にするだろう。 しかし、一度も紗夜は口に出していない。

 

 

「(これはもう、私の心の問題。だから少し、少しずつでも日菜ともっとちゃんと話をして、聞いてあげられるようになりたい。そのために私は……Roseliaの音楽に反する……けど、私情を持ち込む事を許してください。今は、今だけは……! 妹と、日菜と楽しく演奏してみたい! これをきっかけに……)」

 

 姉(妹)ともっと仲良くなりたい。そう思うのはどちらも同じだった。

 

「(おねーちゃん……すっごく楽しそう……あんなにるんっ、としたおねーちゃん、久しぶりに見たかも……。それに、こうやってまた、おねーちゃんと一緒に何かをする事が出来てすっーごく嬉しい )」

 

「(確かに曲の雰囲気も変わって、とても良くなった。荒々しいギターのメロディーの中にも、繊細さが詰め込まれていて、 なおかつ今まで以上に聴いてくれている人が楽しんでくれている……。でもやっぱり……私の隣には……)」

 

 ただ一人を除いて、急遽作られたRoseliaは満足のいくライブを最後まで行った。

 

 

 ◇

 

 

 リサと共に医務室で、Roseliaのステージをテレビで見ていた俺たちは、冷や冷やしながら眺めていた。しかし、そんな緊張も演奏が終わると、抜けていき二人同時に脱力していた。

 

 

「ふぅ……なんとか無事に終わったな」

「そうだね、はぁ……よかった〜。でも意外だったな、秋也さんがヒナをRoseliaのステージに立たせるなんて」

「ん、そりゃ……俺が出れるもんなら代わりに出たかったぜ? 一応、ギターはやってたわけだし……ベースはからっきしだけど」

 

 懐かしいなー。よく小さい頃、俺と親父と友希那とリサの4人で演奏してたっけ……っていっても、親父と友希那は凄かったけど、俺は覚えるので精一杯……リサも急にベースやりたいって言って精一杯頑張ってて、まともに演奏とは言えなかった な。

 

 

「でも実際ね? その……マジレスするとですね、アウェイになるのが嫌でした……」

「そっかそっか……いろいろ考えて……って……へっ?」

 

 俺の言葉が意外だったのか、リサはポカンとした表情でこちらを見ていた。

 

「ご、ごめん……アタシの聞き間違えかな? その、アタシの耳には『怖かった』って聞こえたんだけど……」

「いやだってそうじゃん! 客はみんなRoseliaのメンバーを待ちわびてたのに、急に俺みたいな傍から見れば無関係者の極々普通の一般人がね? 我が物顔でRoseliaの演奏に、しかもギターで出てきたらどう思うよ?」

「あぁー確かに、ネットとかで『Roseliaのライブに謎の男現るwwwwww』とか言われそうだねぇ〜」

「そうそう。だから決して、これを機に日菜ちゃんと紗夜の関係が戻ってくれないかな〜とか、大事なリサの側を他の奴には渡さねぇぞ〜とかそんな気持ちは無いんだからな…………あっ」

 

 あっ.(察し)

 まるで恋愛の神様から『テンプレ乙wwwwww』とでも煽られているんじゃないかと錯覚した。

 ……単なる現実逃避ですはい。しかしまいったな

 、俺とんでもない事口走ったな〜。日菜と紗夜の所は別に良いんだよ。"Roseliaのライブに私情を挟んで申し訳ないな"と謝って話を続けられたんだが、最後の二つ目の奴だよ。

 

 

「…………」

「…………」

 

 ちょ、どーすんだよ! めちゃくちゃ気まずくなってきたじゃんか。しかもそこ! リサ姉様! 何でいつもみたいな余裕のお姉さんキャラ出さないの!? なんでそうっ顔赤くしてるんですかねぇ……熱でもあるのか? おでこ合わせて『熱でもある? もしかして具合悪くなった 』見たいな良くある鈍感系主人公の真似事、俺には無理だぁ……おしまいだぁ……。思いだせぇ……こういう時こそ、長年培った女の子とのコミュニケーションをな…………って俺の努力値、全部妹とのコ ミュニケーションに注ぎ込んでたわ、テヘッ♪ ああああああどうしよおおお────、

 

 

「あ、あのさ……秋也さん……!」

「……な、なんだ?」

「その……ね す、すご────」

 

『あーきくーんっ!』

 

 リサが何かを伝える前に廊下に響く無邪気な声。すぐに日菜ちゃんだと分かった。声が聞こえた頃には、この……医務室に流れる甘ったるい、甘酸っぱい空気は消え去っていた。

 

「あき君! 見た!? 見た!?」

「な、なにがあった?」

「もうっ! とにかくドカーン! なんだよ!」

「いや……全く分からんのだが」

「多分……凄い事が起こった……と言いたいのでしょうね」

 

 日菜ちゃんの擬音ばかりに困惑していると、助け舟の如くドアを開けて入ってきた紗夜。まるで日菜ちゃん専門の翻訳機だ。

 

 

「全く……相変わらず言ってる事が一々分かりづらいのよ、日菜は」

「ごめんなさぁーい……でもでも、ほんっとに凄いんだよ!」

「それで、その凄いことって何なんだ?」

「まだ見ていなかったんですか最終アンケートの結果、一番票が多く入ったのが────」 「Roseliaよ。それも観客の約半分以上がね」

 

 またまた今度は、紗夜の話を引き継ぐようにドアを開けて、友希那が入ってきた。その話に思わず立ち上がる所だった……袖の端をちょこんとリサが握ってなければ。

 

 

「って……ことはつまり……」

「Roseliaがもう一度、アンコールとして出られるってことよ」

 

『リサ姉〜っ!』

 

 するとまたま……t(ry 今度はあこが少し泣きかけた様子で医務室に入ってきた。続けて燐子もゆっくりと入ってきた。勢いよくベッドに飛び込んできたあこをリサは、しっかりと受け止める。

 

 

「よか……良がっだよぉ……っ」

「よしよし、アタシはこの通り大丈夫だってば……ああ、せっかく可愛い顔が台無しだよ」

「……っ、だって……だって……」

「それにさ、あこが秋也さんを呼んで来てくれたんでしょ? ありがとね!」

 

 その後もずっとあこは、リサに抱きつき離れなかった。微笑ましい姿に思わずほっこりしてしまった。しかし、すぐに気持ちは切り替える。

 

「リサ、アンコール演奏だけど……」

「バッチリ!」

「演奏する曲は決まってるか? 友希那」

「ええ。私は先に行ってるわね」

 

 そう言うと颯爽と一人外に出ていった。その時、チラッと見えた友希那の表情は、とても嬉しそうにしていた。どうも兄妹だと分かっちゃうんだよな……あいつ、さっき演奏してる時物足りなそうな顔してた。ほんとリサ愛されてるよな……Roseliaに。

 

 

 ◇

 

 

「それじゃみんな……準備はいい 」

「ワクワクするね! りんりん」

「……うん、すごく……今が楽しい」

「今井さん体の調子は大丈夫ですか?」

「もちだよ! いや〜まさか紗夜が心配してくれる日が来るなんて……リサちゃん感動だよ〜」

「ち、違います ただ、演奏中に倒れられては困ると思って……」

「あなた達……」

 

 ほんとこいつらは……いつでも平常心だよな。でも、これはこれで結成当初のピリピリした感じよりマシか。今回の夏フェスでより一層Roseliaの団結力が深まったのなら良かったな……。

 

「それじゃ……行くわよ! Roselia!」

『fightingー!』





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