────ラ○オ体操第一! テーテレテテテテ〜♪
新しい朝が来た。この俺、湊秋也は極々普通の男子高校生である。普通と言っても、今や有名なバンドのボーカルを担当する妹がいるくらいだ。
そんな俺は、ある日を境にラジ○体操という日本の文化に身を投じることとなる────そう、これは……一人の平凡で有名な妹を持つ男の奇妙な冒険である。
「……兄さん もう終わってるけど」
友希那の声が聞こえた時には、既にたくさん公園内にいた子どもお年寄りはいなくなっており、俺と友希那しか残っていなかった。
「あ、すまん……つい、ぼーっとしてた。戻るか友希那」
「ええ」
こうして俺と友希那の(夏休み限定)日課のラ○オ体操が終わり、家に帰ることにした。
◇
「……」
「…………」
「……に、兄さん?」
「……ぁ、な、なんだ?」
突然声をかけられ、箸で挟んだままだった卵焼きが皿の上に落ちてしまった。どうやらまた、ぼーっとしてたらしい。
また、というのはここ最近、夏フェスが終わりこっちに戻ってきた時から、頻繁にやっているらしい。
「どうしたの兄さん、最近多いわね考え事?」
「うーん、そういう訳じゃないんだよな……って言っても何か理由がある訳でもないしな……」
自分でもどうしてぼーっとしてんのか、その理由は分かってはいないんだけども……妹に心配されてる様じゃ、兄の威厳丸つぶれだ。
「……もしかして」
すると、トーストの角をぱくりと口に加え何度か咀嚼し、飲み込むと口を開いた。
「リサとの事?」
「────ブフォッ 」
やっべ……牛乳吹いちまった。
しかし、友希那の一言で考えていたことが分かった。無意識なのだが、先日、銭湯の外で涼しんでいた時にリサからデート……のような誘いがあった。
────まぁ、その前にリサが、俺の事について友希那と会話してるのを聞いた……ってのもあるがそれは置いておこう。
「で、どうなの?」
「……まぁ、うん。それでだな」
「いいわよ言わなくて、どうせ銭湯で聞き耳立ててたんでしょ?」
ば、バレてるぅ〜! 自分から白状する前に先に言われた。しかし、そんな馬鹿な……何故バレてるんだ これはあれか「お兄ちゃんの事は何でも知ってるのっ!」みたいな謎理論か。
「か、隠してもしょうがないか……ふふふその通────」
「そういうのいいから」
「あ、はい」
お願い……お兄ちゃんにもっと格好をつけさせて……。
「行ってらっしゃい」
「いやいや〜そういう時はさぁ〜「お兄ちゃんは誰にも渡さないんだから 」みたいなセリフを言うものでは……」
「……気持ち悪い」
その時、俺の体は自然と動き、何をすればいいのか手に取るようにわかった。
スッと椅子から立ち上がり、両膝を付いて頭を下げ、両手を地面にぺたりと貼り付ける。
さぁ、日本の伝統文化だ。
「スイマセンしたああああああああッ!」
これぞ、日本の伝統その2。ジャパニーズドゲザ!
俺はこれを友希那に声をかけられるまで続ける。だってそうじゃん、妹に嫌われるのが1番嫌なんだぞ。
「兄さん」
「は、はっ!」
「テレビ付けていつもの」
「了解しまっした 」
俺はすぐさまドゲザを辞め、いつもの日課その2 『今日のにゃんこ』を視聴するためテレビを付け、チャンネルを合わせる。今日は最近人気だという猫が特集されていた。
「か、可愛い……」
「へぇ〜スコティッシュフォールドっていう名前の猫なんだ……長っ」
毛がベージュ色の小柄な猫で、耳がペタンと垂れているかなり可愛い奴だった。友希那は既に食べ終え、すっかり猫に夢中だった。
俺は友希那の邪魔にならぬように皿を台所に持っていく。今日は両親ともに仕事に言ってる為、俺が洗う事になってる。
ちなみに家の台所は、リビングがよく見えるような設計がされていて、それにより、俺は洗い物を済ませながら猫に夢中の友希那を見る事が出来るのだ。
「……はぁー可愛い……にゃ、にゃーん。ふふっ♪」
「…………」
あれ……おかしいな〜水道水が赤いな〜何でだろうな〜。
猫買って貰おうかな……。
────リサとのデートまで、後1日。