笑わない妹と夢見る頂点へ   作:イチゴ侍

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水着な幼馴染と俺

 

 

 

バスに揺られて数十分、その目的地は近くの市民プールだ。ここは、俺と友希那が小さい頃からある規模の大きいプールで、何度か遊びに来たことがある。しかし、友希那はあまり好き好んで行きたがらないので、俺が一緒に行こうと言わない限 り来ようとしない。

今日は、そんな妹と一緒に遊びに行けるんだ、めいいっぱい楽しもうと思う。

 

「うわ〜人いっぱいだね」

「そりゃ、夏休みだからな。家族連れで来る人も多いんだろう」

「暑い……早く着替えに行きましょ」

 

暑さでご機嫌斜め友希那に賛同し、人の群れをかき分けて更衣室に向かう。入口はもちろん男と女で分かれていて、俺達は二手に分かれる。しかしまぁ、なんと言いますか、

 

「……」

 

むさくるしい。現代日本で今に始まったことじゃないが、男だけの室内ってほんとむさくるしいの何のって……。高校野球部の部室しかり、銭湯の男湯しかり、逆に女だけの室内だと魅力的に見える。これが男女差別か……(※使い方が違います) グダグダと言っていても仕方が無いので、隣のロッカーのおっちゃんに気を使いながら早々に着替えて、外に出る。

 

「あのおっちゃん……なかなかいいもの持ってたな……」

「なにぶつくさ言ってんの〜?」

「おーリサ、早かったな……」

 

声をかけられ後ろを振り向けば見返り美人……この場合俺が見返り美人って事になるのか、ってそんな事はどうでも良くて、振り返ればそこには、白い素肌をチラつかせ赤いホルターネックの水着に身を包んだリサが立っていた。

水着の影響でスタイルの良さが全面に押し出されていて、目のやり場にとても困る。

 

「どうしたの秋也さん。急に黙り込んじゃって、もしかして……へん……だったかな?」

 

俺はあらぬ誤解をされぬよう、必死に首を横に振るそりゃもう、飛んでいくんじゃないかってくらい。

変、だなんて感想が無に等しいほど、とても似合っていて、綺麗だ。リサが着ている水着は、確か着る人を選ぶというまるで聖剣みたいな代物で、かなり体型が抜群にいい人じゃないと見映えが悪く……と言っては失礼がありそうだが、それほどの物なのだ。

 

「凄い似合ってるぞ 綺麗でその……いつも以上に可愛い……ぞ」

「えっ……あ、ありがとう……」

「……」

「…………」

 

ああああああ……ありきたりな言葉しか出てこない。頼む……ド○えもん……なんたらこんにゃくをくれ……上手く喋れるようになるんだろ……。

一方、とんでもなく甘々な空間を醸し出すこの2人とは裏腹に、その周辺では、

『くっそ 爆発しろ 』

『羨ま……けしからん』

『あのリア充は絶版だ』

『あの子みたいな小学生現れないかな……』

『あっ!このプール深いッ!ズボボボボボ『今、係員が参ります 落ち着いてください 』助けてッ 流され……ズボボボボボ』

 

一部カオスな空気となっていた。

 

その後、友希那の登場により、俺の目は愛しの妹へ行き、黒色のパレオを纏った友希那に完全ノックアウトさせられ、勢いで流れるプールに飛び込み注意されてしまう事となった。

 

 

 

「それで2人とも、どこから回る〜?」

「友希那はどうする〜?」

「私は……どこでもいいわ」

 

ここはやはり空いてるところから行くべきか……それとも先に混んでるところから攻めるべきか……優柔不断な私を許してくれ。

 

「なんにも宛がないなら、アタシやってみたいのあるんだけど」

「よし!それにしよう」

「え、でも……」

 

俺達は、早速リサのやりたいという────絶叫ウォータースライダーにやって来た。そこは異様に人が少なく、カップルは愚か家族連れもいない。いるのは屈強な肉体を持つマッチョメーンと、チャラチャラした男しかいなかった。

 

「な、なぁ……なんでこんなに人少ないんだ!」

「多分ここの噂が原因かな〜」

「噂?」

「ここを滑りきった人は、その後意識を失う……とか。身体に不調が起こるとか」

「は?」

 

俺の聞き間違えかな……後者は別にいい(いいのか )それよりも、意識を失うって聞こえたんだけど、そんなのがあったなんて俺知らないぞ。昔はなかったはず……。

 

 

「友希那 こんなのあったっけ?」

「何度か来てたけど知らなかったわ」

「なんか最近作られた〜とはネットで書いてたけど、2人は知らなかったんだ」

「あぁ〜、なんか一時期工事してたっけ。確かここ前までは、子供用の遊びスペースだったはず」

 

いつだったか、ここで遊んでいた子供が次々と怪我した〜とかそんな物騒な話があった。まさか取り壊されてまた危ない物が出来るとか……無限ループって怖ぇな。

 

「で?まさかリサはやりたい……とか 」

「うーん、挑戦!」

「無謀な……わかった。俺も腹を括ろう」

「それじゃ楽しんできて兄さん、リサ」

 

どうやら妹は一緒に来てくれないらしい。薄情者 め……猫カフェに連れてってやらんぞ!

気づけば俺は、リサに手を引かれ死の階段を1段、また1段と登っていき順番待ちのマッチョメーンの後ろに2人で並んだ。

 

「お、兄ちゃん。このスライダーに挑戦するのか?」

「え、えぇ……まぁ」

「もし、そこのお嬢ちゃんに"カッコいいとこ見せよ"なんて思ってるなら辞めといた方がいいぜ」

 

何故、と口にする前にマッチョメーンは、今スライダーに挑戦するチャラ男に目線を向けた。多分"見てろよ"という意味だろう。

 

「ダーリンちょーカッコいい!」

「へっ、何が危険だ。こんなの余裕だぜ、オレはこの滑りをお前に捧げるぜ……」

 

────何言ってんだこいつ。

 

これは決して口には出さず心の中に留めておこう。ここのスライダーは、他のスライダーとは打って変わって、全方位透明なのだ。つまりはどこを向いても外が丸見え、良く言えば空中を滑られる。悪く言えば支えのないジェットコースター。そ して道中に設定された凹凸、段差になってる部分から勢い余ってジャンプすれば、体を打ち付け痛いじゃすまない……かもしれない。

そう思えるほど、水による加速が尋常じゃないのだ。このスライダーは。

 

「それではどうぞ〜」

「行くぜ!」

「きゃーカッコいいダーリン♪」

 

係員の方の合図でチャラ男は、馬鹿みたいに勢いをつけて滑っていった。最初の方は「へ、へっ!ら、楽勝だぜ!」と余裕な感じだったのが、少しすれば、

『ギャアアアア〜タスケテッッッッ!!ママァァァァァ!!イタイヨォォォォォ』

「…………」

「…………」

「ウワッ、だっさ」

 

聞こえるのはチャラ男の悲鳴混じりの絶叫と、その彼女?の失望の声と、愛情が崩壊する音だった。

 

「な?言ったろ、このスライダーは生半可な気持ちで挑んでいいもんじゃないんだ」

 

先ほどのチャラ男の犠牲によって、少しばかり呆気に取られていた俺に声をかけるマッチョメーン。この言い草からしてきっと、ここの常連だと確信した。

 

「あの、ならあなたは何故ここに……」

「ふっ……理由なんか忘れちまったな。強いて言うなら────もっと上を目指すためだ」

 

カッコいい……。それが第1に俺が感じた思いだった。しかし、ここが市民プールじゃなかったらもっとカッコよかったけど......。

 

 

「そんじゃ、俺は先に行くぜ。じゃあな」

 

「マッチョメーンッッッ!」

 

そう言い残し、マッチョメーンは、昏らき底に向かって行った。

俺はただ、その後ろ姿を呆気に取られたまま見ていた。


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