見事シスコンの称号を勝ち取り、ついでに賞金まで頂いた俺。その後は、機嫌を損ねた妹をなだめたり、女子2人のキャッキャウフフをデュフフフと眺めたり、何かと楽しむことができた。
そして遊び疲れた俺たちは、流れるプールでぷかぷか〜してた。
「結構遊んだな。一生分遊んだ気がするわ」
「それは言い過ぎだよ〜」
「いや、もう力が出ない……友希那さーん新しい顔ください」
「何言ってるの」
ふえぇ……なんか友希那が冷たいよぉ〜プールの水より冷たいよぉ……。まぁ、その理由はわかってたりする。流石にあの主張は辞めておくべきだったな。でも、辞めたらきっと「リサ、お前が大好きだあああああああ」とか叫んでたんだよなー。 どっちに転がったって終わってたな、はぁ……。
「あ、ごめん。2人とも、ちょっとお花摘みに行ってくるね」
「便所か」
「せっかく綺麗に収めようとしたのにー」
「すまん。これでもKYなんだ」
「そこ堂々と言うとこじゃないと思うけどな〜じゃあ行ってくるね」
リサもプールから出て、今俺と友希那だけになった。友希那はイルカさんに乗ったままくつろいでいる。俺が支えてないと落ちるっていうのに、警戒心の欠片も持ち合わせてない。
「ねぇ、兄さん」
「……な、なんだ」
驚いた。てっきりぐっすりしてると思ってたんだが、狸寝入りって奴……いや、寝たフリはしてないから違うか。友希那は、イルカさんにしがみつく姿勢から、背筋を伸ばす。俺も支えながら友希那の視界に入るよう横に並ぶ。
「兄さんは、いつリサに想いを伝えるのかしら」
「────ッ!? そ、それはその……もっといい雰囲気になった時に」
「そういうのをチキンって言うのでしょ?」
誰だ。友希那にチキンって言葉教えたやつ、お兄さんはな、友希那にはいつまでもピュアでいて欲しいんだよ。いや待てよ、妹に「このチキン、だから兄貴はいつまでたっても童貞なんだよ」とか罵倒されるのもまた……おっと、新しいシスコン の扉を開くとこだった。
「兄さんにいい雰囲気なんて似合わない。いつもみたいに勢いに任せてなんでもかんでも言えばいいのよ。さっきだって叫ぼうとしてたでしょ」
「おっしゃる通りです……」
「それなのに……わ、私の事が好きとか……愛してる……とか」
「ホントの事だし」
「……っ」
おや、若干声と体が震えてますよ。一応補足しておくと、この子は歌う時に"愛"とか"好き"ってワードを散々言えるのに、それ以外で言うとこんな風に照れちゃうのだ。うん、可愛い。
「とにかく勢いに任せてでも伝えて、今の2人に挟まれる私の身にもなってほしいわよ」
「ご、ごめんなさい」
「ほんとチキンね。兄さんは」
「…………」
「……な、何してるの?」
戻ってきたリサが見たのは、イルカさんの上に君臨する女帝と、その下の水面で水死体の如く顔を沈める俺の姿だったとか。
「リサ戻ってきてたの。兄さんは放っておいていいわ。ところで兄さん」
「は、はい! 女王様」
「じょ、女王……? 喉が乾いたから何か飲み物買ってきて欲しいの」
「了解しましたあ! リサ、このイルカさん代わりに支えておいてくれ 」
俺は颯爽とプールから上がり、分け目も振らずに自販機まで走った。友希那が気を使って考える時間をくれたと知りながら。
◇
秋也さんが行ってからしばらく経っただろうか、未だに帰ってきてない。少し心配だな……。
「秋也さん遅いな」
「今の時間ならきっと自販機混んでるわよ」
「もしかして友希那知ってて秋也さんに行かせたとか?」
「ええそうよ」
アタシは改めて、湊家兄妹の上下関係を知ってしまった。やっぱり秋也さん、友希那の尻に敷かれてるんだな。
「ねぇ、リサ 」
「ん〜 どうしたの」
「リサは兄さんに想いを伝えないの?」
「────ッ ゆ、ゆきなぁ!?」
「……2人とも同じ反応するのね」
もう〜何言い出すのさこの子はぁ! 確かに今日のお出かけで、ちょっとの進展、あわよくば告白しようとか思ってたよ。 でもいざとなると、どうしても勇気が出なくなっちゃう。
「や、やっぱりその……雰囲気とか大事じゃん?」
「チキンね」
誰さ! アタシのピュアピュアな友希那にチキンなんて教えたのは! もしかしてアタシが来た時、秋也さんがああなってたのって……もしかしてこれが原因?
「雰囲気とか気にしないで伝えた方が、兄さんには丁度いい」
丁度いいって……。でも友希那の言う通りなのかな、雰囲気とか気にするなんてアタシらしくないって事だよね。潔く「好きだー!」って伝えた方が楽……かも。あの時、叫んでた人みたいに。
「2人に挟まれる私の身にもなってほしいわよ」 「あはは……ごめんね。アタシこんな見た目だけど、恋……とかそういうの初めてだから……さ、どうすればいいのか分かんなくて」
「そう、リサ。兄さんをお願い」
その時、初めて兄を取ることを許された気がした。なんだか、今日の友希那お姉さんみたいかも。これじゃあ秋也さんが弟で友希那が姉だ。
「そろそろ兄さんが戻ってくる頃かしら私は離れた所にいるから」
「う、うん。何から何までありがとう友希那」
「こ、これぐらい普通よ……」
いつも手助けしてるつもりが、今回ばっかりは友希那におんぶに抱っこだな〜。もし、友希那が同じ事で悩んでたら次はアタシが手助けしてあげよう。でも、そうなったら秋也さんが「妹は渡さァん 」って怒鳴ってそうだな〜。
「うぃーす、どもー秋也でーす 飲み物買ってきたぞ〜」 秋也さんが帰ってきた。アタシも覚悟決めよう。悔いだけは残さないように.
◇
「…………」
沈黙。2人の間には一言も言葉が交わされていない。心做しか、プールの流れも痺れを切らしたかのように早くなっている。
つい数分前まで場を繋いでくれた友希那も、二人の時間を作ろうと秋也に買いに行かせた飲み物を持って、レジャーシートを敷いた所に戻っている。
────まず何を話せばいいんだ。やっぱもう本題に入るべきか……。
秋也も既に痺れを切らす寸前だった。
────な、なんで秋也さんなんにも喋らないんだろ……も、もしかしてアタシと2人っきりは嫌、だったかな……。
一方、リサは告白の事よりも今の秋也の状態に困惑していた。
「────今日は楽しかったな」
最初に口を開いたのは秋也だった。
「そ、そうだね。うん、凄い楽しかった」
続いてリサが答える。しかし、いくら話題を考えても同じことの繰り返しになると、2人は思っていた。そんな2人が、ふと思いついたことは同じだった。
(────もう一層の事告白しよう! きっと何とかなるさ!)
「俺はリサが好きだ! 付き合ってください!」
「アタシは秋也さんが好き! だから付き合ってください!」
「え……?」
「ん……?」
「こちらこそお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いします!」
「えっ……?」
「んっ……?」
見事なハモリを見せた2人を眺めていた友希那はというと、
「あ、あの2人、何やってるの……?」
────雰囲気なんて気にする必要無い。
そう助言した本人が一番困惑する事になったとさ。
◇
外もすっかり夕日に染まっている。俺たちは、とことん遊び、夏を満喫した。遊び疲れたせいか、バスの揺れが心地よく眠ってしまいそうになる。
「いや〜楽しかったな」
「そうだね〜ふふっ、友希那も楽しんでくれたかな〜?」
「楽しかっただろうさ」
俺、友希那、リサの順番に座っている。その間の友希那はすっかり眠ってしまっていた。今俺の肩に頭を乗せてぐっすりだ。
「また3人で来たいな」
友希那の膝元で俺とリサは手を握り合う。恋人繋ぎ……ってやつだな。
「そうだな、でも次は……」
「うん」
「2人で来よう」
「2人で来たいね」
俺とリサは考える事が一緒らしい。それはあの世界一キュンとしない告白で分かった。でも俺らにはドラマのような感動したりキュンとする告白は似合わないらしい。まさに友希那の言った通りだった。
「あーあ、アタシも恋愛小説みたいな告白されてみたかったな〜」
「そればっかりは無理」
「だよねぇ〜でもいいよ。秋也さんと付き合えればそれで!」
満面の笑みでそう言われると罪悪感がとんでもなく襲ってくる。でも、そう思ってくれていることに幸福感もやってくる。
「プロポーズする時はもっと頑張るからな!」
「おっ、言ったねぇ〜ちゃんと言質取ったからね。期待してるよ♪」
「ま、任せとけ……」
新しく愛する人が増えた。愛しの妹そして、これから先ずっと愛していこうと決めた幼馴染。俺はこの2人の為ならなんでもする。
こいつらが夢見るものの為ならなんでも……。