少々の一波乱があったが、すぐさま対処し俺と友希那は予定通りに外出する事ができた。
そして今、いつもの行きつけである猫カフェに来ていた。カフェならばたくさん店舗があるが、猫カフェとなると、ここら辺ではここだけなのだ。それ故に友希那の行きつけとなっている。
店内に入るとまずコーヒーの渋い香りが嗅覚を刺激する。猫カフェと言ってもすぐに猫のお出迎えは無く、普通の席と猫がくつろいでいる広場の席で仕切りが貼ってある。まず入店した客は、注文を行い先に支払いを済ます仕組みだ。そして注文の品を受け取り、どちらの席に座るかを決める。 今日はまだ夏休み中ということもあり、客はなかなかに入っていた。俺たちも注文をすぐに済ませ、俺はアイスティーを友希那は猫の顔が描かれたカフェモカを注文した。
品を受け取った友希那は、いち早く猫達の元へ向かう。俺も遅れながら友希那に付いていく。 仕切りの先に出ると、先ほどの普通スペースとは打って変わって、堅苦しさを微塵も感じない空間だった。周りにはぬいぐるみや、猫が好むような遊具、そして定番の猫じゃらしまである。辺りを見渡し、変わってないことを確認した俺の足元にす ぐさま1匹の猫が寄り添ってくる。
「久しぶりだな〜元気してたか? お前」
「ニャーン♪」
「そかそか、そんなに会いたかったのか〜! ほ〜らよしよし」
その場にしゃがみ、猫の頭を撫で、次に首元をくすぐる。この寄り添う猫は、俺が初めてここに入った時に最初に目が合った猫で、それから来る度に足元にくっついて来る可愛いヤツだ。
椅子に座って撫で続けてやるためにもさっさと進みたいのだが、目の前を進む友希那が一向に動こうとしなかった。
「おーい、友希那? どした」
「ニャ?」
「な、何でもないわ」
嘘だ。あからさまに声が震えている。これはいつもの事で、必ず友希那はこのように様子がおかしくなる。いや、"猫に見とれてる"と言ったほうが正しいだろう。
テレビなどで目に止まっても平常心でいるのだが(実際はどうかは分からない)実物を目の当たりにすると、例え野良猫でも頬を緩ませて見とれている。
「さ。は、早く座りましょ」
「お、おおう一旦落ち着け?」
「…………大丈夫よ」
今の間は一体。多分自分では平常心を取り戻したように思っているのだろうが、おぼつかない足取りで見てるこっちがハラハラする。安心させようとこちらを振り向くが、トパーズのような瞳は、ゆらゆらと揺れていて余計不安が大きくなった。
そして席に座るまでに俺の体力は大量に吸われていた。たった数センチの距離だが、その数センチで友希那がカフェモカを落としかけたり「にゃーんちゃん〜」と友希那の思考が停止したり、俺は数メートルほど歩いた気分だった。席に座るのにこんなにもスタミナがいるのかと、久しぶりの感覚を取り戻した。あんまり取り戻したくなかった気もするが。
しかし、座ってしまえばもうこちらのもの、後は時の流れるまま、猫と戯れているだけでいいのだ。
「ふぅ……疲れた」
「ンニャーオ!」
まるで"お疲れ様"と語りかけるように鳴くこやつ。長い付き合いのため、俺が何もせずとも膝元に乗ってくる。 労いの言葉のお返しと頭から胴体にかけてブラッシングの要領で撫でてやると、仰向けになって膝でくつろぎ始めた。
「ほほう、俺に腹を見せるとはどうなっても知らんぞ〜わしわしレベルMAX!」
「ゴロゴロ♪」
「ここか〜? ここが良いのか〜?」
両手を最大限使い、腹を撫で回してやる。テーブルの上に置いたアイスティーの水滴が4滴落ちるくらいには続けていた。
動物と触れ合う時間はとても落ち着ける。人間相手では行動1回1回に気をつけなければならなく、さらに疲労が増してしまう。しかしこうやってくつろぐ動物相手なら何も気にせず撫でているだけでも癒しとなる。
ふと、動物園に行ってる姉妹の事が頭をよぎった。確か紗夜は犬が好きだったはず。紗夜、友希那の2人で犬猫戦争が起きなきゃいいがな。
さて、一旦膝元の猫から意識を離し、もう"1人"の横に座る猫の様子を見てみようか。
「……あなた可愛いわね」
「ウニャ〜」
「ふふっ、にゃーん」
なんだ、天国か。この天国を汚すものは排除する。例え猫であってもな。
「ニャ!?」
「ん、お前は大丈夫だからな。てか俺の心を読めるのか?」
「ニャ!」
"当たり前じゃないか"と戦友の様な返事(鳴き声)を返すこやつ。只者じゃないとは思ってたが、まさか言葉が分かるとは思わなかった。
「肉球……ぷにぷに〜♪」
「見たまえ、お主……あれが天使だ」
「ニャオ……」
俺を真似て合掌するこやつ。芸を仕込んだら相当凄いやつになるんじゃないか。言葉も通じて、人間(俺)と感性を共にし、 真似も得意。猫のやべーやつはこやつだったようだ。
しばらくの間、友希那の目に止まった猫は肉球をぷにぷにされ、相手の猫も友希那の様な可愛い子に触られて満更でもない様子だった。そんな姿を写真に収めたり、猫のやべーやつを撫で回しながらアイスティーで喉を潤したりとかなり堪能して いた。
「そうだ。友希那、猫とツーショット撮ってやるよ」
「ほ、ほんと?」
「嘘を言ってどうする……。ほら並んで並んで」
「それじゃ、この子で」
しかしその時、
友希那がツーショットの相手を選び、顔と水平の所まで持ち上げると、抱き上げられていた猫の手が上がり────、
────ペタッ。
「うっ……」
────友希那の頭に添えられていた。
猫に頭を撫でられる
「ニャ!」
「────安心しろ。急所は外れてる……ぐっ!」
可愛さの塊を喰らい、吐血寸前まで来ていた。猫やつ(猫のやべーやつ略称)がハンカチを捧げてるように見えるが、これは幻覚か。三途の川ギリギリで正気に戻り、再び携帯を友希那に向ける。
「……見た?」
「可愛かったぞ!」
「わ、忘れて」
余程さっきの事が恥ずかしかったのだろうか、珍しく顔赤くして必死な友希那だった。あれは芸人とかが笑いを取るために犬にやられるヤツと同じだと思う。友希那にしてみれば恥ずかしかったんだろう。
「どーしようかな」
「…………」
少しからかってやるとジト目で無言の抗議を受けた。もちろん可愛かったのでパシャり。
「分かった分かった、忘れるよ。だからそんな膨れないの」
「膨れてなんていないわよ……」
「なら改めて撮るぞ〜はいにゃーん」
「にゃ、にゃー……ん」
「ニャ!」
◇
「休憩入りま〜す」
朝からシフトを入れ、レジ打ちすること数時間。ようやくアタシにも休み時間が来て、今はランチタイム〜♪
「あれ、秋也さんからだ」
たくさんのメッセージ通知が秋也さんから来てる。多分友希那の可愛い写真だろうと確信しながら秋也さんとのトーク画面を開く。 そこには、猫カフェで撮ったと思われる写真がたくさん載せられていた。友希那が猫と目が合って目をトロンとさせている姿や、肉球ぷにぷにできてご満足な所、他にも猫とのツーショットがある。
「うわぁ〜この友希那すっごい可愛いじゃ〜ん♪ この頭に手乗せられてる友希那とかやばい〜!」
その写真全てがなんと高画質。今時の携帯は機能とか進歩してるけど、こういう動物との一瞬の瞬間ってなかなか綺麗に 取れるもんじゃないよね。それを完璧な角度で綺麗に移せるって、秋也さん流石だな〜。
『とっても可愛い友希那をご馳走様でした♪ これからのバイトも張り切っちゃうよ〜 』
慣れたメッセージ打ちを終わらせ、すぐに送信する。するとすぐに返事が返ってきた。きっと今も写真撮ってたのかな
『それは何より! バイト頑張れ』
手短なメッセージだったけど、それほど真剣なんだなって思った。こんなに楽しそうにしてる友希那、滅多に見れないからね。
義妹相手とはいえ、ちょっと妬いちゃうな……。
『今度2人で来ようか』
まるでアタシの気持ちを読んだかのようなタイミングで、秋也さんから追加のメッセージが来た。
「なんで分かっちゃうのさぁ……もうっ」
不意だったからパニクって変なメッセージ送っちゃった。
今すぐ会いたい気持ちと、兄妹水入らずで過ごさせたいっていう気持ちが混ざりに混ざった結果、
「"今すぐ楽しんで会い"……って、なんじゃこりゃ……」
「あれ……リサさんから何やらラブコメの波動が……むむむ、なにかあったんですか?」
「あはは……えーと、ないしょ?」
────送信取り消し機能をください(切実)
◇
「あぁ〜楽しかった!」
「ええ」
結局、頼んだ飲み物が無くなった後もずっと友希那は猫と戯れ、俺はその姿を撮る。そんなことを続けていたらもう外は夕焼け色に染まっていた。
猫カフェを出た俺たちは、商店街を通っていた。今はもう外ではしゃぐ子供たちも家に帰ったのだろう騒ぎ声はしない。 その代わり奥さん方の声がたくさん聞こえてくる。近くのスーパーでセールでもやっていたのだろうか、その両手に大きな袋をぶら下げて歩いていた。
「うーん、やはりあの猫賢い奴だな」
「兄さんがずっと膝元に置いてた子かしら?」
「そうそう、あいつ俺の言葉分かったり心読んだり、普通のとは違ったな」
友希那の言う通り、俺はずっと猫やつを時には抱き、時には撫で、多分あいつしか触ってなかった気がする。
「ほんとにそんな猫なの?」
「そこまで信用性ないか……まぁ、自分がおかしい事言ってるのは分かってる。でもなあいつ「わぁーすごーい!」って鳴いたんだぞ」
「嘘ね」
くっ、お兄さんの信頼度が徐々に減っていってる気がするよ。
たわいの無い話を友希那と交わし合い歩いていると、よくお客さんが多く来る牛肉屋とパン屋が集合した商店街の一角に差し掛かった。ここは四方八方から食欲をそそる香りを漂わせるため、通称────
そんな事を考えていると、店に貼ってある紙に目が移った。そこには近々行われるという夏祭りの開催日時か書かれていて、俺は颯爽と思いついたことを口にした。
「そうだ。友希那、一緒に祭り行かないか?」
「この祭りの事?」
「そうそう あ、でもまぁ……友希那が人混み苦手なの知ってるし、無理強いはしないけどさ」
"無理強いはしない"とは言ったものの、実際はすごく行きたい。夏が終われば友希那とゆっくりできる機会がきっと無くなる。Roseliaはすぐに、友希那が目指す頂点への階段を登り始めると思う。そう近いうちに……。そうなれば俺はRoseliaを全力でサポートする。すると必然と兄妹水入らずな時間が取れなくなってしまう。
だから今のうちに、 たくさんの友希那を見たい。それが俺の思いだった。
「……」
「やっぱり嫌……か? ごめんな変なこと聞いて。さ、早く帰るか」
「────ま、待ってっ!」
珍しい友希那の大声での静止だった。俺は歩き出した足を止め、友希那の方に振り返る。
「……ゆ、浴衣……新しいの買わなくちゃ行けないから……付き合って」
「────っ! ああ、もちろん。そうだ、みんなで行こうか Roseliaのみんなでさ」
「ええ、楽しそうね」
まだまだ俺たち兄妹の夏は終わりそうにないようだ。
◇
「────というわけでRoselia総出で夏祭りに行くことになった」
晩飯も食べ終え、自室にこもった俺はすぐさまリサと通話を始めた。
『おーいいね♪ みんなでお祭りかぁー絶対楽しいよ!』
「賛成みたいで良かったよ。日にちとか大丈夫か?」
『うんうん! バッチリ空いてるよ……というか』
「なんだ?」
『実はアタシも祭りあること聞いてて、もしかしたら秋也さんと行けるかなーなんて思って事前に空けてたんだ……あっはは』
俺はスマホを片手にベッドの上で悶えた。
「あ、ありがと……?」
『ど、どういたしまして……?』
「くっ」
『ぷっ』
『あははははは〜!』
お互いのやり取りがおかしくて、タイミング同じく笑ってしまった。
『そういえば写真見たよー! 可愛かった〜』
「そうだろそうだろ? 今日の友希那は本っ当に可愛かったなー」
『ふふっ、確かに。あのツーショットなんて特にヤバかった!』
「それ! 我ながらベストショットだったよ。他にもな────」
『────もーう、友希那ばっかりーアタシじゃなかったら別れ話だよ?』
しまった。どうにも幼馴染の仲だった時の感覚が抜けない……。
「すまん!」
『ああいいのいいの! 秋也さんはそのままでいいよ!』
「そ、そうか?」
『うん! アタシはそういう秋也さんが好きだから……ただ、ちょっとはアタシの事も構って欲しいなーなんて』
「それはもちろん!」
『ふふっ、言質取ったー! そんな秋也さんにご褒美あげるからね!』
そう言い残し、リサとの通話は切れた。
それから、少しして一枚の写真が送られてきた。それは朝に見たリサの画像フォルダに入っていた自撮り写真だった。
「……リサって紫とか似合うんだな」
下着のみの格好で顔をほんのり赤く染めたリサがポーズをとって写っていた。
────ご褒美だ……。