「先行ってて……って言われたが、いつまで待ってればいいんだ」
現在時刻18時頃、神社のお祭りが始まる30分前だ。そんな中、俺はみんなを待つため神社に続く階段の前で一人佇んでいた。 結局、昨日の練習は早めに終わりRoselia総出で浴衣選びという名のショッピングをした。しかし、そこでどんな浴衣を買ったのか俺は見ていない。
一緒に言ったんじゃないのかって? サプライズだってさ!
つまり友希那のを選ぼうと張り切っていた俺の気持ちは行き場をなくし、若干落ち込んでいる。だがリサが一緒にいたのだ、きっと友希那にピッタリの浴衣を選んでくれたはず。
「うーん」
それにしても遅い。浴衣を着るのに時間がかかると家を追い出されたのが17時頃、そしてここに着いてからもう1時間は経っているのだが、階段を登っていくのは若いカップルや小さい子供たちだけ、一向にメンバーの姿が見えないのだ。
まぁ、待ち合わせ時間をちゃんと決めなかった俺も悪いんだがな。一応町内会長さんがイベントが始まる前には顔合わせを済ましたいそうで、その時間までには集まろうとか曖昧な約束をしてしまったのが仇になってしまった。
「俺だけでも顔合わせに行ってこようかな、いやでも誰か来たら困るよな……うーん」
1人で葛藤を広げていると、何やら遠くで人が殺到しているのが見えた。誰か有名人でも来てるのか と思い、俺も一目見ようと少し持ち場を離れ人の群れに接近すると、2人の女性が見えた。
「女性の芸能人…………だめだ、最近の流行りとかあんま分かんねぇな」
「────ちょ、はいはいすいません 通してくださーい!」
「ん? どこかで聞いた覚えがあるぞこの声」
囲まれる芸能人(?)の1人が必死に呼びかけるが未だに人の群れは散乱することなく包囲していた。一方もう1人は身長が低いのかチラッと銀髪が見える程度でどうなっているのか分からなかった。
────うん? 銀髪で低身長……いや、まさかな。うちの妹と同じパーツをお持ちの芸能人がいるなんて、第一妹がこんなに囲まれるほど有名にはなってない────、
「あぁだめだー……って"友希那"大丈夫? 今にも倒れそうだけど」
「だ、大丈夫よ……熱気ならライブで慣れてるから。それよりもなんなのこの人だかりは……」
「うーん。アタシ達まだそこまで有名にはなってないと思うんだけどな……こんなハリウッド女優みたいな扱い初めてだよ」
…………あ、オトモダチだ。
「おーい! 2人ともー」
「この声……」
「兄さんね」
「あっー! ダーリン、おまたせっ!」
『ギロッ』
ヒィッ!? なになに! なんか一斉に群れがこっち向いたんだけど! あのーみなさん目から伝わる感情がただ漏れなんだが……。
いや、理由は分かるぞ。リサの奴が放った「ダーリン」って爆弾だろ。確かに俺は紛うことなきリサのダーリンですが!?
すると人の群れは各々、武器を取り出し戦闘態勢に入っていた。
「俺のこの手が真っ赤に燃えるッ!」
よし、まずはそのメリケンサックをしまおうか。てかそんなの祭りに持ってくんじゃねぇよ 何に使うつもりだよ! それでりんご飴でもかち割る気か。
「少年……お前を切除する」
「お互い初対面ですよね……なんで俺ナイフを向けられてんのよ! それも何に使う気だよ……」
────そうそう、割り箸に刺さったチョコバナナって最後らへん食べずらいよね……あ、ナイフ使おう! みたいな考えで持ってきたんだよね? 決してそれで人を斬ろうなんて理由じゃないんだよね。
「これはメスだ」
「いや……メスは手術にしか使わないはずだ! あなたが持っているのはれっきとしたナイフ!」
「それ以上言うなー!」
そんなに触れられたくないんだ……。てかそんなやり取りをしてる間にジリジリと距離が狭まっている。
その頃、2人はと言うと、囲いが俺に向いている隙に脱出したらしい。これが狙いかリサめ! ダーリンを囮にするとは……。
しかしまぁ、リサと友希那を救う事になったからいいか。よし、これで一件落着…………とは行かないようだ。
「俺は何も知らねぇ! 信じてくれよ!」
『覚悟ッ!』
────男がピンチに陥った時、体の奥底に眠る真の力が目覚め…………、
「────逃げるッ!」
『────待てーッ!』
ないんですよね。俺は人の群れと反対の方向に全速力で逃げる。途中、両手を合わせ"ごめんね"と口を動かすリサと、心配そうに見つめる友希那が見え頬が緩んだ。が、すぐさま脇目もふらず走り続ける。
俺の逃走劇の幕が切って落とされたのだった。
◇
「あちゃ……行っちゃった」
「リサがあんなこと言うからよ」
「いや、ほら……"ちっ、彼氏持ちかよ"みたいなセリフ吐いて去っていく〜みたいなのあるじゃんか!」
「別に私たちナンパされてた訳じゃないのよ……」
えへへ、と苦笑するリサ。そんなリサを見て友希那はため息をこぼす。先程までの騒動で集まっていた人も既に捌けていて、元に戻ったという表現が合うだろう。
「しかし、まさかアタシ達の名があんなに広まってたなんてね〜」
友希那とリサがここに来るまでの道のりでのことだ。浴衣に着替え2人が先に行かせた秋也の元に向かう時、数人の女子高生に声をかけられたのだ。
『あ、あの! もしかしてRoseliaの湊友希那さんと今井リサさんですか?』
『え、あの……』
『うんっ、そうだよ〜。もしかしてアタシ達の事知ってるの?』
『はいっ! あの私、この間の夏フェス行きました!』
その子を筆頭に私も私も、とそこにいた女子高生はみなRoseliaが参加したフェスに行き見たとの事だ。
『私、リサさんのファンで最初姿が見えなかった時凄い落ち込んじゃいました。でもでも最後のアンコールでリサさんが出てきて私、ボロ泣きしちゃって……』
『あの時はごめんね。アタシったら体調崩しちゃって寝込んでたんだ。でも嬉しいな〜そんなに思ってくれるファンがいたなんて、ありがとう!』
『きょ、きょきょ恐縮です!』
リサが笑顔で応えると、女子高生の子は慌てながら頭を下げるまでしていた。リサも慌てて頭を上げるように言ってもな かなか上げてくれないでいた所で、Roseliaがここにいると人から人へ伝わったのか次々とやって来た。その人たちもまたRoseliaのファンで、自分たちの住む近くにここまで好きだと言ってくれる人たちがいるのかと、2人は顔を見合わせ驚いていた。
結果、人に囲まれた状態で秋也と合流する流れになったのだった。
「夏フェスの効果はあったってわけだねー」
「そうだね〜……しっかし、友希那はいつまで膨れてるのかなー?」
秋也が逃げてからというものの、友希那は自分では装っていると思っているのだろうがあからさまに不機嫌だった。あからさまと言ってもずっと一緒にいるリサだからこそ気づくものだったりする。
「ふ、膨れてなんてないわよ……」
「へー、どうかな〜?」
「な……なによ」
「アタシはてっきり秋也さんに浴衣を褒めてもらえなくて不機嫌なのかと……」
「…………」
完全に友希那が沈黙した。そして顔を背ける始末、リサは「わっかりやすいな〜」と微笑みこれ以上はもっと不機嫌になってしまうので変に問い詰めるのは止めた。
「そ、そういうリサはどうなのよ」
「えっ、アタシ? アタシは……まぁ、自業自得な所もあったし、仕方ないかなーって事で自撮りを……ね?」
「兄さん、それちゃんと見れてるのかしら……」
「あ……」
今も逃げ続けているであろう秋也に、同情する2人だった。