それにしても人が多い。 町内の人だけでなく、少し離れた場所からも人が来ている。そのため1年で一番この周辺が賑わうのがこの夏祭りの特徴でもある。
来客に合わせ屋台も多種多様で、定番のわたあめ、かき氷や焼き鳥などといったものから、世間ではあまり見ることがなくなった金魚すくいだったり、町内会の人達が遊び心満載で作ったと思われる歪な形をした食べ物。"味は保証しない"とい う注意書きがなんとも客の興味を引き立たせている。
波に抗うように人混みをかき分け、俺たちは目的の娯楽類の屋台が並ぶ通りに着いた。 やはり人はそこまで集まってはいなかった。きっとまだ食べ物に足止めを食らっているのだろ。今は小さな子どもを連れた親子で賑わっていて、一喜一憂する子どもがなんとも微笑ましい。
「友希那にもあんな時があったよな……金魚すくいで1匹取れた〜なんて逐一報告してたっけな」
「あー懐かしいっ〜」
「昔の話よ……」
「照れちゃって〜可愛いなおい」
などと茶化すと決まって友希那は、そっぽをむいて口を開いてくれなくなる。
そんな友希那が可愛くてつい頭を撫で……ようと思ったけど両手が塞がっているためぐっと堪えた。
「ほ、ほら時間も限られてるのだから早く行きましょ……」
「おい……って、そんな引っ張らなくても俺は逃げないぞ」
「ちょ! 二人とも!?」
引っ張られる中、友希那の横顔が見えた。それはとても綺麗な笑顔で、友希那は心の底から何かを楽しめるようになっていた。
Roseliaが結成される前では決して見ることがなかった年相応の表情。今ではそれが少しずつ露になっている。
友希那が音楽に力を入れる時間まで残り少ない。1秒でも長く妹の歌姫としてではない、湊 友希那という一人の女の子としての笑顔を見ていたいとさえ思ってしまった。
◇
「少し買いすぎたわね」
「どの口が少しと言うか……てかなんでここの祭りはどこを見ても必ず猫模様のなにかがあるんだよ 」
祭りのエスコートをしていたはずが、今やただの荷物持ちに降格した俺。猫型のわたあめに、猫型のたこ焼き、猫型クッキー、etc……。
この中に猫型ロボット入れてもバレないんじゃないかってくらい俺の腕の中は、猫で溢れていた。
「これ、全部食べる気か?」
「無理ね。兄さんとリサに手伝ってもらうわ」
「ま、だろうと思ったよ。……お、このたこ焼き美味っ! 耳の部分サックサクしてる」
どうやって作ったかは不明のたこ焼きを一つ放り込んで味わう。
隣ではリサが猫型クッキーと睨み合ってる。
あ、食べた。
「おっ! この猫型クッキー美味しい……どんな材料使ってるんだろ」
「えーと、リサ先生? 意識が料理人のそれになってますけど」
「いやいや、秋也さんも食べてみてよ!」
俺はリサからその猫型クッキーを口に放り込まれる。これが世に聞く噂の"あーん"なるものか……てか美味いな。
「どう? どう?」
「普通に美味い。けどやっぱ食べ慣れたリサのクッキーだよなぁー」
「そ、そう……かな? えへへ、嬉しいな……」
お世辞とか抜きの本心だ。それで喜んでもらえたのなら彼氏冥利に尽きるというものだ。
あっと、忘れてた。友希那にたこ焼き一つ上げよう。
「ほれ、あーん」
「じ、自分で食べるわ」
「いいからいいから、人の好意は素直に受け取るもんだぞ。はい」
「……っ、わかったわよ」
猫型のたこ焼きを一つ箸で運ぶ。友希那の口の中に放り込まれたのを確認し箸を引いた瞬間、友希那は突然口を抑えながら悶え始めた。
「────っ! あちっ!? あ……あっふい」
「だ、だいじょぶか!」
「…………っ」
「まずは水!」
「はい! お水」
リサからペットボトルを受け取り、友希那に渡すと、すべて飲み干す勢いで水を含み始めた。
友希那が重度の猫舌だという事をすっかり忘れていた。逆に俺は猫舌ではないため、そこまで熱くはないと自分基準で計ってしまったのだ。
「……兄さん」
落ち着いたのだろう友希那は、俺にギリギリ聞こえるくらいの声量で呼んだ。
「ちゃんと……ふぅー……ってして」
辺りが騒がしく、一部分がうまく聞こえなかった。
「ん? ごめん「ちゃんと」の後もう一回言ってくれ」
「だ、だから……ちゃんと……」
「ちゃんと?」
「うっ……ちゃんと…………冷ましてから食べさせて」
「お、おう。すまんついうっかり……な。今度はしっかりと食べさせるよ」
てっきり「大嫌い」とか言われるのを覚悟してたのだが、そこまで怒っていないのかもしれない。
「こーら、兄妹だけでイチャつくなぁー!」
「……ごめんなさいね。お姉さん」
「────っ、そ……そういうこと言うんだから友希那はぁ……!」
この空間にお兄さんいらない子?
「そういえば、前にもあったっけこういう事」
「そうだったかしら……」
「えっと確かあの時は友希那もアタシも小学生の時だったかな。アタシがアッツアツの肉まんをパクパク食べてたら、食べたそうに見てて少しあげたらそれすぐに口に入れちゃってさ」
「……思い出したわ。それ具がたくさんある熱いとこだったのよね」
「そうそう、そん時は水も持って無くて舌を火傷しちゃったんだよね。泣きじゃくる友希那を家まで連れていくの大変だったよ」
「え、俺知らない……」
「兄さんその時友達の家に遊びに行くって言ってたからいなかったわよ」
湊友希那のことなら何でも知ってる……そう思っていたが、まさか知らないエピソードがあったなんて! これじゃあシーン収集率100%にならないじゃないか!
……でも、俺が知らないところでも友希那は友希那なんだな。
昔からそばにいた俺にはわかる。友希那は元はすごい甘えん坊で、今のように強いやつじゃなかった。でも友希那は俺に見えないところで一人頑張ってたんだろう、親父の歌を糧にして。 親父は小さな友希那の力を引き出した。なら俺は、今の友希那に何が出来るだろう。支えるだけなら俺より適任の四人がいる。
この先、俺がもっと友希那にしてあげられることは何だろうか。俺はずっとその事を考え続けている。 その時、ポケットに閉まっていた携帯に通知が入った。
『そろそろお時間なのでRoseliaの皆さん集合お願いします!』
「残念ながら夏祭り周りは一旦おしまいだな」
「もう少し……と言いたいけどそうもいかないか」
「行きましょ」
「あ、おい! たこ焼きとか諸々どうするんだ?」
「……終わったら食べるわ」
それつまり自然に冷ますってことですね。 冷ましてあげられなかったことに落胆するが、今はそんなことを考えている暇はない。今から大事なあいつらのステージがあるんだ、切り替えていこう。 兄として、妹に何をしてあげられるだろう。それがわかった時、初めて妹と夢見る頂点を目指せるのだと思う。
もうすぐで"今の"俺はRoseliaに必要なくなる。そんな気を感じながら俺は二人の手を握り歩いた。