「すいません! 少し遅れました」
「大丈夫ですよ。皆さんも少し遅れるようですから」
集合場所のテントに急いできた俺達。しかしやはり人混みの影響か、連絡が来てから動いても動けるわけもなく、皆それぞれ足止めを食らっているらしい。
一番乗りの紗夜がそう教えてくれた。
ちなみに一緒に来たリサには燐子とあこを連れてきてもらうように捜しに行ってもらっている。
「ところで紗夜、その手に持ってるのは……」
「これですか? よく分からないポテトで日菜と半分にしたのにまだこれだけ大きくて……少々困っていたところです」
そのポテトを見た瞬間、俺は瞬時に息子を隠すように前かがみになった。多分これは本能的なやつだと思う。
「兄さんどうしたの?」
「い、いや……なんでもないぞ ちょっと歩き回りすぎたかな……あはは」
「ごめんなさい。私が連れ回したせいで」
「お前が気に病むことないだろ。連れ回したのは俺の方だ。これは自業自得ってやつだから心配すんな」
友希那に変な気を使わせちまったな。
しかしあの紗夜が持ってるポテト、どう見たって……息子の中間部分じゃね あれの先っぽ絶対モザイクかかるヤツだよ。そこを加えてた紗夜…………うっ。
「やっぱり兄さん体調悪いんじゃ……」
「だ、大丈夫だ! うん 」
言えねぇ……変な妄想して息子がレベルアップしてるなんて……もう未知数だよ。Xだよ。
「ちょっと外の空気吸ってくるな」
「わかったわ。行ってらっしゃい」
「おう」
しかし今日はとんでもない日になったな。祭り会場で待ってるはずが、Roseliaファンの男達に追いかけ回されたり。くたくたになって入口に戻ってみれば友希那とリサが待っててくれたり。妹としての友希那の表情もたくさん見れたし。リサとも一応デートはできたし、俺としては満足極まりない一日でもあったわけだ。
「星が綺麗ですね」
「それを言うなら月が綺麗だろ」
「知っています。そのままの意味ですよ」
「はは、こりゃ失敬……うん、確かに綺麗だ」
「どこを見て言ってるんですか……」
「もちろん紗夜を見て……」
「今井さんに言いつけますよ」
俺はとっさに口を両手で抑える。
リサに言いつけるってのは、俺にとってどんな脅しよりも怖いからな。 そんな俺を見て紗夜はフッと笑みを浮かべる。
「……よし、俺の役目は終わったな」
「えっ……」
「本番前にメンバー全員を笑顔にする。それが俺のモットーだ。てか今決めた」
「今のは偶然でしたけどね」
「うっ……今度はちゃんと考えて笑わせてやるさ!」
「ふふっ、期待しています」
昔の紗夜だったら"期待している"なんて使わなかったんだろうな。"そんな無駄な"とか"時間が勿体ない"って言われてたよな絶対。 たくさんの出来事を通して紗夜は成長していた。技術も心も上手く強くなっている。これもRoseliaという場所があったおかげなのだろう。
「先に中へ戻ってますね」
その点、俺はどうだろうか。なにか変われたんだろうか。何が出来るのだろうか。考えれば考えるほどわけがわからなくなってくる。
「だぁー こういうのやっぱ性にあわないな」
俺はこれまで通り友希那とリサのそばにいてやる、それでいいじゃないか。
「……うだうだ考えるのもうやめた 」
◇
「遅れてごめんなさい!」
「……ご、ごめんなさい!」
「よし、全員揃ったな。リサ、二人を探してきてくれてありがとな」
「ちょっと時間かかっちゃったけどね〜」
あこ、燐子を引き連れてリサが戻ってきた。多少の遅れがあったが、難なく始められそうだ。
「会長さん遅れて申し訳ない」
「いやいや、問題ないよ! 多少の遅れはこの混み具合で分かっていたからね」
寛大な人で良かった。でもこれからは、どんな事があれ遅れないようにしなきゃな。時間厳守は大切だ。
「さっそく演奏に入ってもらいたいんだが、大丈夫そうかな 」
「私は行けます」
「同じく」
「遅れた分挽回します!」
「アタシも!」
「……大丈夫です」
「よーし、お前ら……円陣組むぞ 」
いつも恒例の円陣だ。夏フェス以来初だが、みんなすぐに丸くなってくれた。
「今日はちゃんとしたライブじゃない。でもいつでも本気、完璧な演奏を披露する。それがRoseliaのモットーだ」
「そんなのいつ決まったのよ……」
「今だ!」
「……さっきも聞いた気がするわ」
友希那はジト目向けてくるし、紗夜は頭抱え始めるし、俺がいったい何したっていうんだ。みんなの気合いを高めてやって るというのに……。
「いいですね! なんかカッコいい」
「アタシも気に入った!」
「え……えぇ」
「とにかくだ、いつも通りのお前達で行ってこい そして観客をRoseliaの虜にしてこい」
「……言われなくても」
「もちろんです」
よし、みんなのエンジンが入ったな。友希那と紗夜の目の変わりようを見れば一目瞭然だった。ほかの3人も同じようだ。
「Roselia!」
『fighting〜!』
掛け声とともに5人はステージに飛び出していった。俺もステージ近くに行って見守ろう、そう思った時だった。
「彼女達がRoseliaか」
突然後ろから声が聞こえ俺は振り返る。そこには、シワ一つないスーツを来た高身長の男が立っていた。
「そうですが、あなたは?」
「おっと、これは失礼。私、
「ど、どうも……」
渡された名刺、そこには目を疑うことが書かれていた。
「"FUTURE WORLD FES"実行委員……!」
「その様子だとFWFについては、やはりご存知でしたか」
「その……なんでそんな人がこんな所に」
「今話題のバンドグループ"Roselia"。一体どんな演奏、そしてメンバーなのか見たくなりましてね」
そう思っていたところに、この夏祭りへRoseliaが出演するという情報が流れ来たらしい。 親父の歌を認めなかったFWF。その実行委員。八つ当たりとわかっていても殴ってしまいそうになる手を必死に抑える。
もしかしたら友希那が、Roseliaが、あのステージに立てる切符を手に入れられるかもしれないんだ。そのチャンスを俺なんかが潰していいわけがない。
「で、どうですか? Roseliaは」
「うん、大体はよくわかった。実のところ、今日はこれを渡しに来たのさ」
そういって神童さんは、1枚の紙切れを見せてきた。それはまさしく、FWFのステージに立つための切符。オーディションへの招待状だった。
「そこで彼女達の歌、技術を図らせてもらうよ」
「今日は聴いていかないんですね」
「ああ、楽しみはその時にとっておくとするよ。それを彼女達に渡しておいてくれ」
「わかりました……」
「そうそう、特に彼女。ボーカルの湊さんにはしっかりと言っておいてほしいんだが」
そう言い俺の近くまで寄ってくると、小声で次の言葉を口にしだした。
「────お父さんのようになりたくなかったら、来る事はオススメしないよ……ってね」
「…………ッ!」
「それじゃ、私はこの辺で。伝言はしっかりと伝えたからね」
「────待てッ!」
抑えろ、ここでキレたって意味がない。なるべく情報を吐かせるんだ。
「あんた、親父のこと……知ってるのか 」
「親父……! そうか、君はもしかして彼の息子かな」
「ああ、それと友希那の兄だ」
「なるほど、では君の質問に応えよう。確かに私は君のお父さんを知ってるよ。何故なら彼のバンドのオーディションを受け持ったのが私だからね」
「……あんたがッ!」
────お父さんの歌、思いっきり否定されちゃったよ。って、まだ秋也には言葉の意味が難しいか。
────俺はもう音楽をやめる。
────悔しかったな……。
「なんで、なんで親父はダメだったんですか……」
「だって────彼は売り物にならないからさ」
「……は?」
なんて言った……こいつ。
「花がないんだよ、歌が上手いだけの汗くさいバンドなんて売れやしない。腐るほどいるんだよね……そういう古い臭いバンド」
「…………」
「どうせ彼の娘だ。たかが知れてるだろうさ、オーディションに来た時には徹底的に貶めてあげるよ」
そうしてあいつは高笑いを上げ去っていった。そんな奴の後ろ姿を俺は、ただ呆然と眺めるだけだった。