笑わない妹と夢見る頂点へ   作:イチゴ侍

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夢追う妹と俺

 

 ────彼は売り物にならないからさ。

 

 

 ────どうせ彼の娘だ。たかが知れてるだろうさ、オーディションに来た時には徹底的に貶めてあげるよ

 

 

 ……嘘だ。

 親父が、友希那が、目指した頂点がこんなにも汚れているなんて。

 

 でもこれを聞いて誰が信じる? 

 音楽界の誰もが夢見る最高の祭典。そんな場所を汚すなと叩かれるに決まっている。

 

 ならどうする。

 

 他のバンドは無理でもRoseliaは、友希那なら救ってやれるはずだ。あの男は確かに言った────"親父のようになりたくなかったら、来ることはオススメしない"って、その伝言を伝えればいいじゃないか。それじゃ、友希那の夢は……友希那がずっと信じて進んできた道を俺が閉ざすのか? 

 "応援する"とたくさんの誓いを胸に言ったあれは嘘か? 一緒に頂点を、その先を見よう。そう言って約束したはずだ。それを俺が破るのか? 自分自身に問いただす中、必ず脳裏に過ぎるのはある日の親父の悔しそうな表情だった。 あんな表情をさせたくて応援すると言ったんじゃない。夢見たその先があの表情なら、俺はそんな友希那を見たくない。 だから夢を諦めさせよう。

 

 でも……それじゃ……

 

「…………さん」

「……ぃさん」

「兄さん」

「……んぁ、あれ……どうしたんだ友希那、それにみんなも」

 

 ふと気づくと、Roseliaのみんなが目の前に立っていた。いつ座ったかも覚えていないパイプ椅子は、もう随分と腰に馴染んでいる。

 

 

「どうしたって……私たち今ライブが終わって戻ってきたのよ」

「ステージ…………そうだった」

「大丈夫?」

「あ、秋也さん起きた? 良かった! はい、これ」

 

 頭がぼーっとする中、リサからペットボトルを受け取る。 酷く喉が乾いていて、受け取ったペットボトルの中身の水を休む暇なく喉に通した。

「俺、寝てたのか……」

「ええ」

「いつもなら観客席から見てるのに珍しいねーって話してたよ」

 

 確かにリサの言う通りだ。ステージに送り出したあとは、決まってRoseliaの姿がどう映っているのか、観客としての視点で見ている。だから俺がずっとステージ裏にいるのは珍しいのだ。

 

「それで紗夜ってば、眠ってる秋也さん見てビックリしててさ〜」

「あ、あれは誰でも驚くに決まっています 」

「ついには救急車呼ぼうとして間違って消防……」

「今井さんッ!」

 

 紗夜って意外とポンコツだったりするのか なんでもできそうに見えて結構お菓子とか料理作るのに定規とか使いそう。

 

 

「あはは……そりゃ心配かけちゃったな」

「ほんとですよ あこだって紗夜さんほどじゃないけど慌てちゃいましたよ」

「宇田川さん」

「うっ……」

 

 紗夜に無言の圧力をかけられるあこだった。

 

「燐子も心配させちゃったよな。ごめん」 「い、いえ……私は、その……すぐに寝息が聞こえたので、眠っているとわかりました」

「燐子と友希那がすぐ気づいてくれたおかげだね〜紗夜 」

「まだ言うのはこの口ですかっ!」

「い、いひゃい……」

 

 結成当初とはまるで変わったリサの紗夜への対応。前は遠慮がちだったのが今では、立派にいじり倒していた。

 しかし、なんで眠っていたのか自分自身さっぱり覚えていない。深く、長く何か考え事をしていたのはうっすらと思い出せ るのだが、何か……友希那に伝えようとしていた気がする。

 

 

「ところで兄さん。起きてから聞こうと思っていたのだけれど、その手に持ってる紙……いったいなんなの 」

「ん……これか? これは……っ────!」

 

 そうだ、思い出した。 確か俺の記憶の最後に映ってるのは、あいつの後ろ姿だ。手に持っていた一枚の紙切れが全てを教えてくれる。 あの後、あいつが放った言葉が信じられず一人、椅子に座り情報を整理していた。 そしてたくさん物事を考えていたせいか、はたまた、疲れのせいか眠ってしまったらしい。

 

 

「さっき、FWFの実行委員の人が来てたよ……」

「……っ!」

「FWFって、あの音楽の祭典って言われてる」

「FUTURE WORLD FES……」

「えと、そんな人が……ここに?」

 

 燐子の疑問も当然だった。そんな凄い人……実際は凄くもなんでもない奴だったが、来るのは当然不思議に思うのも分かる。

 

 

「Roseliaを見に来たんだと、最近何かと話題になり始めたしさ」

「確かに、夏フェスやってからよくRoseliaの名前とか聞くようになったね」

「それで、兄さん。私たちはどうだったの 」

 

 ────たかが知れてるだろうさ。

 

「それはここで見せてもらうってさ」

 

 俺は手に持っていた紙切れを皆に見せた。オーディションへの招待状という名のあいつが仕掛けた罠。そんな事を知るはずもないみんなは、それぞれ歓喜したり、困惑したりしていた。 ただ…………一人を除いて。

 

 

「こ、これってつまり……アタシ達があの舞台に立てるチャンスが来たってこと 」

「……ふっふっふ、ついにわらわに相応しい暗黒の…………えと、うぅ……今から緊張してきた……」

「だ、大丈夫……! あこちゃん」

「腕がなりますね。……もっと練習を積み重ねないと……」

 

 あの事を言うべきなのか、俺は未だに心の中で葛藤を続けていた。 でも、みんなのやる気が節々と伝わってくる。とても壊していい雰囲気じゃなくなっていた。

 

 

「みんな、今日のライブの余韻に浸るのもいいが、Roseliaが目指すものの一つにやっと近づけるチャンスだ。オー ディションの日は3週間後。今よりもっと頑張るぞ 」

『おーっ!』

「…………」

 

 ────友希那……? 

 

 

「Roseliaのみなさん! 今日はありがとうございました。おかげでいい夏祭りになりましたよ。この後の花火も楽しんでいってください 」

「わぁーっ! 花火だ〜! 場所取りしに行かなくちゃ、りんりん行こっ!」

「えっ……あ、あこちゃん待って……」

 

 会長さんの話を聞くと颯爽と走っていくあこ、そして連れ去られていく燐子。

 

「しょうがない。あの二人だけじゃ心配だし、アタシも一緒に行ってくるね」

「本当は俺が行った方がいいんだろうけど、リサ頼んだ」

「了解ー」

 

 そう言いリサも二人を追って歩き出した……が、すぐさまこちらを振り向くと、

 

「ど、どしたリサ?」

「────友希那のことよろしくね!」

 

 耳元でそう囁くとさっさと行ってしまった。リサもリサで友希那の様子に気づいていたらしい。今度埋め合わせしないとな……。

 

 

「私も日菜に呼ばれたので行きますね」

「ああ、日菜ちゃんによろしく言っておいてくれ」

「わかりました。それでは」

 

 テントに残ったのは、結局俺と友希那だけだった。

 二人残ったテントは、とても物静かで先程までの騒がしさが嘘のように思えた。空気もどことなく二人で歩いていた時とは、打って変わって気まずさというか、居心地があまりいいとは感じられなかった。

 

 

「俺たちも花火見に行くか 」

「……静かなところがいいわ」

 

 ここで言う静かなところというのは、静かに花火が見える穴場のような場所という意味だろう。

 

「いい心当たりがある。そこに行こう」

「……ええ」

 

 

 ◇

 

 

 俺たちがさっきまでいたステージからは、だいぶ離れた所にある高台に来ていた。 ここは木で生い茂っていて、下からは確認することができないため、見つけられる人など滅多にいないような場所なのだ。 花火を打ち上げる河川敷も見えるため、絶好のスポットと言えよう。

 しかし……

 

 

「……」

「…………」

 

 そんな花火を楽しめる雰囲気ではなかった。 友希那にあの招待状を見せたあたりから何か言おうとしているのを察しているため、俺も無言で話し始めるのを待っているのだが、如何せん。一向に話し始める気配がない。

 

 

「なぁ、友希那。お前が目指すものってなんだ」

「兄さん……?」

「答えてくれ」

「私が目指すのは……頂点、そしてさらにその先よ」

「…………そっか」

 

 ────友希那がずっと信じて進んできた道を俺が閉ざすのか。

 

「今から今日来た実行委員が言ってた事を話す。その後でもう一回、同じ質問お前にする」

「分かったわ」

 

 ────でもこれを聞いて誰が信じる? 音楽界の誰もが夢見る最高の祭典。そんな場所を汚すなと叩かれるに決まっている。

 

「実行委員、そいつは神童っていって親父のバンドをオーディションで審査した男だった」

「お父さんの……」

「あいつは"親父のバンドが売り物にならない"それで不採用にした挙句、音楽人生を辞めさせるよう促したらしい」

「……」

「音楽のレベルが高いだけじゃダメなんてのは俺でもわかる。今の時代、トークやビジュアルといったものも必要なんだって」

 

 悔しかった。俺が憧れた親父を酷く馬鹿にされたんだ、悔しくないわけがない。

 

「それにあいつはお前を、Roseliaを審査するらしい。そして問答無用で落とすそうだ」

「……そう」

「俺は、お前に親父のようになってほしくない……もうあんな顔は見たくないんだ」

「…………」

「"応援する"なんて言っておいて、今は"邪魔"しているんだから。酷い兄だよな」

 

 嫌われても仕方ない。そう意気込んで止めようとしているんだ。

 

「そしてあいつからの伝言だ。────お父さんのようになりたくなかったら、来ることはオススメしない。だとさ」

「…………そう」

「……それじゃ酷い兄から、もう一度質問するぞ」

 

 塞がれた頂点への道。黙って諦めるのか、それとも……。

 

「お前が目指すものってなんだ?」

「決まってるわ」

 

 ────分かりきってたよ。

 

「私が目指すのは……」

 

 ────お前の決意が、

 

「頂点、そしてさらにその先よ」

 

 ────決して揺るがないって。

 

「そう……か」

「ええ、どんなに無理だと言われようと、どんなに他人から自分の音楽を否定されようとも、私は私の音楽を信じる」

 

 親父、友希那はあんたよりも俺よりもとっても強い子になってたよ。

 ────あんな表情をさせたくて応援すると言ったんじゃない。夢見たその先があの表情なら、俺はそんな友希那を見たくない。

 

 だから夢を諦めさせよう。

 

 でも……それじゃ……。

 

 お兄ちゃん失格じゃないか。

 

 妹の夢を壊す。そんなことをする兄貴がどこにいるってんだ。妹が自分で決めた道だ、それを見届けるのが兄貴ってものだろう。

 そんな大事なことを俺は、忘れていたらしい。

 

 

「そう……だよな。そうだな、お前はそういうやつだよな。俺が止めたってお前は俺を押し退けてでも進むんだろう」

「当たり前よ」

「そっか……いやーもう少しであいつの言いなりになるとこだった」

「遅いお目覚めね」

「ちょっとした休みボケだよ」

 

 憧れだった親父を馬鹿にされて悔しかった。でも悔しいと思うだけで終わったんじゃそれは、ただの弱虫だ。

 

「何もしようとしないまま、そこで諦めたらきっと後悔する。それが嫌だから私は足掻くのよ」

 

 俺はそんな弱虫で終わる男じゃない。あがいて足掻き続けてやる。なんせ俺には、

 

「トーク? ビジュアル? そんなもの、なんだって完璧にしてやるわ。文句のつけようがない最高の演奏と共にね」

 

 歌の天才で、芯が強くて、可愛くて、自慢の妹がいるんだから。

 

 

「あ、花火……」

「綺麗だな」

「ええ」

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