『自分を変えたい……』
1人の少女は、自分の意思で一歩新しい世界に飛び出そうとした。
彼女は人1倍気弱な性格で、人と話す事もままならない他、自分だけで外に出るなんてことも出来ないほどだった。 しかし彼女は、ピアノコンクールでたくさんの賞を取るほど、昔からピアノの才能があった。否、才能と呼ぶのではなく極める力 ががあると言った方が正しいだろうか。一つ何かを決めればそれを極めるために努力する。 その奏でる音色は、聴いた者全てを虜にする程に……。
そんなある日のこと、ひょんな事からライブハウスに足を運んだ彼女。そこで待ち受けていたのは、まさに衝撃だった。
たった1人、ステージに降り立つ歌姫と呼ばれる存在。
歌姫はそう遅くない期間でバンドを作り上げた。
──あの人と、あの人が作るバンドと共に演奏がしたい……。
たったそれだけの思い。されどその思いは彼女にとって大きな一歩だった。
彼女は、必死の思いで実力を見せつけ、
◇ ◇ ◇
練習が終わった後、妙に足取りが悪くなっていたRoseliaのキーボード担当、
どうやら朝から少し体調が
他のメンバーも心配していたが、行きつけのファミレスで今後の方針やらの作戦会議をいち早く終わらせると俺は、すぐさま燐子を家に送るために今、おんぶして歩いてる。
「……秋也さん、すいません」
「ん いいってことよ。体調悪い子を一人で帰らせるわけにはいかないしな」
「そ、そうですか。私……重くないですか……?」
「むしろ軽くてびっくりしたよ」
これはお世辞でもなく、強がりでもない本心だ。実の所、女の子をおんぶした事自体が(友希那を除いて)初めてで、かなり覚悟していたのだが、軽々と背負う事ができていて心底驚いている。
……おんぶしてるから嫌でも押し付けられてるんだが、べ、別に役得ぅ〜とか思ってないからな!
「ほ、本当ですか……」
「あ……あぁ、ほんとほんと。ちゃんと飯食べてるのか心配になるくらいだよ」
「……最近、抜きがちだった……かも」
「原因はそれかぁ」
「で、でも……最近流行りの食べても太らない……っていうのを朝ご飯に……」
「あれはただ食べた気になって腹に何も入っていかないやつだぞ。そんなの朝に取ってたら栄養も何も取れないじゃないか」
元にそれで体調不良で会社を早退するものや、かなりの怪我を負う人が増え続け、ネット上でも「早く販売停止させろ」だの「謝罪しろ」だの会社も多大な損害と訴えが絶え間なく起きている。
その事を燐子に教えると、
「そ、そんな事になっているんですか……」と、初めて知ったご様子だ。うちの大事なメンバーをこんな目に遭わせたんだ。俺も抗議してやろうかな……なんて思ったり。
「それにしても燐子の事だからそこら辺知ってると思ってたんだけどな」
「あ、あの……最近、ネットゲームの情報だけしか見てなくて他の事には目を通していなかったんです……ごめんなさい」
「なるほど、またネトゲーに夢中になってた訳だ。あれだろ? もうそろそろ始まるっていうイベント実装についてか」
「はい、明日からなんです」
「明日だぁっ!?」
なんということか……実を言うと、俺も燐子の言うネトゲーをプレイしておりRoseliaが完成する前までは、廃人のようにやり込んでいたりしたのだ。それが最近では、曲作りや練習などでなかなかやれずにいて、イベント情報なども少しチラッと見るほどには離れていた。
「それで明日、実装に伴って……駅近くのショッピングモールで、イベントがあって……あこちゃんと約束してたんですけど……」
「その調子じゃ無理だろうな」
「ですよ……ね」
前を向いているため背負う燐子の表情をよく見ることは出来ないが、酷く落ち込んでいるのが伝わってくる。
「ならさ、俺が代わりにあこと行ってこようか?」
「え、いいんですか……」
「おう、まぁあこがなんて言うか分からんが、ビデオ通話で繋げば燐子が家にいてもイベントとか見れるだろ? どうだ 」
「……っはい! 良いですね。流石、私のあ、相棒ですね……あっ……ご、ごめんなさい……あっちでの事なのに」
「お、燐子から相棒って言ってもらえたの久々かもな」
「そ、それは……秋也さんも最近忙しそうで、一緒にゲームする時間も……減ってましたし」
燐子が俺を相棒と言ってくれる理由、それはまぁ俺がまだネトゲ廃人のようになっていた頃の話だ。そのゲームでは、それぞれが好きな
そしてとあるイベントでの事、半ば無理やりと言った感じで見ず知らずだった俺と燐子は、背中を合わせ戦ったのだ。
そんなこんなでいつしかお互いをパートナーとし、二人で攻略していたのだ。その途中で同じネトゲプレイヤーの
「でも懐かしいよな。まさかずっと遠くにいると思ってた相棒がまさかすぐ近くにいて、しかも今じゃこうしておんぶしてる訳だし」
「私は……まさか男の人だったなんて……って、」
「あー、初めて会った時めちゃくちゃ怖がられたのを今でも覚えてるよ。まぁ、俺が女性アバターでやってるからしょうがないか」
これまで燐子が変なのに騙されなかったことだけが幸いだな。
「ご、ごめんなさい……」
「いいって、でもそんな燐子が今じゃ"おんぶ"されてるわけだからな〜」
わざとらしく一部分だけを強調して口に出すと、首に辺りにおでこをピタッとくっつけられた感触がした。
「うぅ……恥ずかしい……」
「ははは、病人は黙って安静にしてなさいってか……あ、あのー燐子さん? ちょ、くっつきすぎですって」
燐子の抱きつく力が少し強まり、密着度がかなり高まっている。そのせいで背中全体で燐子の体温を感じられるほどになり、一部がとても柔らかい感触でいっぱいになっている。
「あ、秋也さんが……変な事言うから……」
「ほんっとにすいません」
あぁ……これは俺への天罰だな。いや、これはこれで天国か、てか友希那と同……いや、それ以上かこんなに発育がいいとお兄さん心配だよ……。
「……で、でも。嬉しかったです。秋也さん、私が倒れかけた時、すぐに駆け寄ってくれましたから」
「そりゃな、燐子は俺たちの大事な仲間だしな。俺にとっては相棒か……なんてな、ははっ」
「……私にとっては……秋也さんは……相棒で……」
「ん」
一呼吸置いたあと燐子が一言、
「────────」
道路を通る車のエンジン音で大きくは聞こえなかったが、耳元で囁かれた俺には聞こえた。とても弱々しくも根は力強い、 そんな燐子の言葉に一瞬、ドキッと心が動いた気がする。
「……ふっ、それじゃ家まで全速力だ 」
「お、おー…… ふふっ……♪」
俺は面に出さぬよう、無我夢中で燐子の家まで走った。その時、何故だか向かい風が心地よかった気がした……。
◇
その頃、ファミレスにて
「ん、友希那? なんか落ち着かない感じだけど……どうした 」
リサがドリンクを飲んでいると、その目線にキョロキョロと視線を動かす普段とは違った友希那が見えた。
「何でもないわ。何故だが一瞬、兄さんの事が頭に浮かんだのだけれど」
「はっはーん。さては友希那、燐子と二人っきりの秋也さんの事心配だったりして 」
「違うわ……ちゃんと燐子が家に着けたのが気になるだけよ」
「あ、それなら今、りんりんから連絡きましたよ 『秋也さんのおかげでちゃんと帰ってこれたよ』らしいです 」
先程まで席を外していたあこが、携帯を片手に戻ってくる。その伝言にメンバーは一安心する。
「ふぅー。一時はどうなるかと思ったよ。アタシ達も気をつけないとね」
「そうですね。ライブももう近いですし、ちゃんと健康は維持していないといけませんね」
「紗夜の言う通りだわ。私たちRoseliaには止まっている暇なんてない。これからさらに忙しくなるわよ」
「おっけー。アタシもみんなに負けてられないな〜 」
「あこも……もっとカッコイイ演奏をするために頑張ります 」
「それじゃ、今日は解散しましょ」
それぞれの決意が固まり、友希那の一言によってこの日のRoseliaでの練習は本当の意味で終わった。
この後、先に家に帰ってた友希那が帰ってきた秋也に質問攻めしたのはまた別の話。