今日のライブ練習では、結局セットリストの最後が決まることはなかった。そして今、スタジオを後にしたあこと燐子は、 話しながら帰路についていた。
「友希那さんがさっき聞かせてくれた曲、カッコよかったなぁ〜! でも……」
「今の私達には見合わない曲だって言ってたね」
友希那が放った言葉、他人が聞けば燐子の言葉通りRoselia全体でのレベルに見合わないという意味になるだろう。 しかし、
「うーん。でも、頑張って練習すればできるようになるんじゃないかな。あこ、あの曲に見合う演奏ができるように頑張りたい 」
「うん……わたしも、同じ気持ち」
なにも練習しても絶対できないというわけでもない。なにが友希那を躊躇わせたのか本当の理由は当の2人にはわからないだろう。
そんな2人の目線に見覚えのある3人が見えた。
「あれ あそこにいるの、友希那さんとリサ姉に秋也さんだよね? りんりん、もう一度友希那さんにお願いしてみようよ 」
「あ、あこちゃん……!」
「友希那さーん! リサ姉! 秋也さーん!」
あこは、燐子の静止も聞かずに一人先に走り去っていってしまい、燐子も続いて向かうのだった。
◇
同じくスタジオから帰るところだった友希那、リサ、そして俺は少しばかりの寄り道をしているところだった。
「友希那さーん! リサ姉! 秋也さーん!」
「ん? この声って……」
俺達が話しているところに息を切らしてやって来たのは、先ほど分かれたばかりのあこだった。
「はあっ、はあっ……追いついた! あ、あのっ……! さっき友希那さんが聴かせてくれた曲 あこ、演奏したいですっ 」
「えっ?」
「やっぱりな」
最初からこうなることは分かっていた。親父とか関係なしに俺があんな曲聴かされたらきっと、あこと同じことしてただろうな。それに加えあこは無類のカッコいい物好きだぞ? そんなこいつが諦められるわけないだろう。
「あの曲、すっごくカッコイイって思ったんですっ ライブで演奏したら絶対すっごく盛り上がります 」
「あの曲は……」
「はあ、はあ……あこちゃん、早い」
「りんりんっ! りんりんもあの曲、演奏したいよね?」
「おいおい、まずは燐子休ませてあげろって。だいじょぶか? これ飲んどけ」
きっと突然あこが走って行って頑張って追いついたのだろう。とりあえず俺は、買ったばかりの飲み物を燐子に手渡してあげる。
「で、でも……これは」
「いいって、気にせずもらってくれ」
断じて女の子に自分の飲みかけを渡しているわけじゃないからな! ちゃんとまだ飲んでない新品だからな。
そして、水分補給を済ませ一息ついたところで、先ほどのあこからの同意に答える。
「わたしもあの曲、演奏したいです どなたの曲なのかわからないですけど……きっと……きっと、友希那さんの歌声にあう、素敵な曲だと思いました!」
「私の、歌声に……」
「わたし、友希那さんの歌声が好きです。繊細で、力強くて、時には音楽を求めすぎるあまりに、まるで恋い焦がれているかのような焦燥感を感じる。そんな歌声をしています。先ほどの曲を聴いたとき、友希那さんの歌声を初めて聞いた時のような感覚に陥りました」
「……」
「だからその……友希那さんにあの歌を歌って欲しいそう思います……!」
今までこんなに自分の思いをさらけ出した燐子を見たことがなかった、それゆえに無言になってしまった。曲にしても友希那にしても、ここまで家族を褒められると照れるな……自分のことじゃないんだけどな。
「あの曲を演奏する技術が足りないなら、あこもりんりんももっともっと頑張りますっ! だから……」
2人の気持ちは確かに届いたはず。それに対して友希那は、
「 私の歌声は、そんなに純粋なものではないわ」
「えっ……」
「お前 それは」
「私は……今の私には、あの曲を歌う資格はない 。2人の熱意は伝わったわ、ありがとう。でも 曲の件に関しては少し考えさせて 」
そう言い捨てて友希那はあこからの「待ってます 」という言葉を聞く前に一人行ってしまった。
「悪いリサ、友希那のこと追いかけてくれ。俺は少し寄るところがある」
「わかった! 友希那の事は任せて」
なんとなく妹が考えてることは分かった。こういう時こそ兄の出番なんだろうが、今の俺にはやるべきことがあった。それが妹のためになるのかわからないけど 、
「秋也さん よかったんですか? 友希那さんを追いかけなくて 」
「全くだよな〜ほんとダメな兄貴だな」
「でも……秋也さんならきっと何とかするって気がします!」
気がするって……不確定だな。ま、実績があるのかと聞かれれば無い……。しかし正解かどうかなんてあとにしよう。まずは、
「
既につまずいてる俺だった。