「……」
「……」
気まずい 。今、俺は妹の部屋にいる。しかもだ、妹と2人きりだぞ……ベッドの上に隣り合って座っている状況だ。
距離が近い、少しでも動けば肩が触れ合うほど。こんな時なんて声掛ければいいんだ「俺がいなくて寂しかったかい 」とか? いや、きもすぎだろ。ドン引きされること間違えなしだ。ほんと兄コミュ力なさすぎだろ俺。
結局、何も気が利いた言葉が思いつかない。
「ねぇ、兄さん。私の歌ってどう思う?」
「えっ 」
「お父さんの曲を聴いて思ったの。歌ってみたいって……」
そして友希那は「でも」と付け足してまた話し始めた。
「でも お父さんの歌声から伝わる"音楽への純粋な気持ち"それを歌声にのせられる自信がなくて」
これが妹を躊躇わせた理由か。いまのレベルに見合わないあれは自分に対しての言葉だったんだな。
「別に気にしなくてもいいんじゃないか 」
「え?」
「親父が昔言ってたことがあってな」
◇
それは、まだ親父がバンドをしていた時のことだ。
「おとうさん! おれ、おとうさんみたいなうたをうたえるようになる 」
まだ無邪気だった俺は、当時親父みたいなバンドのボーカリストに憧れていた。
「そうか。でもな秋也、どんなに練習したって人と全く同じく歌えるわけじゃないんだ」
「えっ! おとうさんみたいになれないの?」
「そうじゃないさ、いいか秋也? 人にはそれぞれ歌に込める思いってのがあるんだ。誰かのためを思って歌う人や怒りを込めて歌う人だっている。お父さんは音楽が好きだ。だからその思いが聴いてくれた人に届くように歌っているんだ。そういうのを"思いをのせて歌う"っていうんだけど……」
「……?」
「ははは、秋也には少し難しかったかな? 人には人の音楽に対する思いがある。秋也がお父さんの曲歌うときが来たら、どんな思いを込めたのか教えてくれよな 」
◇
「お父さんが、そんなことを 」
「結局、俺がバンドをすることはなかったけどな」
あーあ、なんか親父に申し訳なくなってきたな。子供のたわごとだと受け流してくれていると願おう、うん。
「とにかくだ、お前はお前の音楽に対する思いをのせて歌えばいいさ」
「兄さん?」
「友希那の音楽に賭ける情熱は俺が一番よくわかってる。その生真面目なほどの"音楽への純粋な気持ち"をただお前の歌声にのせればいい! 違うか?」
「……」
友希那の表情を見るに核心をつけたみたいだ。俺は、こいつほど音楽にここまで賭ける奴を見たことがない。音楽を歌うことをこんなに悩んで、楽しんでる。それはなにより純粋で美しいものだろう。
「友希那、お前はどうしたい?」
どう答えるか、そんなのは分かりきっているが、どうしても本人の口から聞きたい。
「歌いたい。あの曲を、お父さんの残したあの曲にもう一度命を吹き込みたい」
「よし、よく言ったな」
「ん……兄さん、くすぐったい」
俺は無意識に妹の頭を撫でていたようだ。しかし、どうにも手が止まらない。さらさらとした銀色の髪、この手になじむ感じずっと触っていたい。
「に、兄さん……」
「どうした?」
流石にまずかったか? しかし俺の手が俺の手が妹の頭から離れちゃダメだって (※ただのシスコンです) 俺は一旦手を止めると、友希那は手首を掴んできた。
お、落ち着け俺……何ドキドキしてんだよ。動悸が怪しくなってきたぞそうだ、こういう時は素数を数えるんだっけ。あれ……0って入るんだっけ 、そうな事を思っていると友希那が閉じた口を開いた────、
「兄さん……もっと優しく撫でて」
────結婚しよう。
◇
そして翌朝、
「ほら、兄さん。早く練習に行きましょう」
「おう。早くいかないと紗夜に叱られちまうからな」
「その前に髪、はねてる」
「あ、ありがと」
昨日の夜、俺は初めて妹からの相談を受け、解決することができたのか? しかし、昨日まで思いつめていた友希那の表情が心なしか柔らかくなっているのがわかる。
「兄さん 私の顔に何かついてるの?」
「んー、可愛い目と鼻が……「そういうのはいいから」……あ、はい」
「そんなことより、早く行きましょ」
やっぱり俺って……一生妹に尻に敷かれるんじゃない?