「ほら、さっさと帰るじゃんよ」
ゲーセンにいた子供達を寮に帰させようと
渋々とゲーセンから出ていく姿を確認した
黄泉川 愛穂(よみかわ あいほ)はフゥーと息をはく
上条の高校の体育教師。
第73活動支部所属 の「警備員」の一員。
尻まで届く長さのロングヘアを後ろに縛り、
抜群のプロポーションが映える大人の美女であるが、
普段の服装はいつも冴えない緑のジャージ姿
だが、いまは堅苦しい警備員の服を着ており
粗方巡回が終えたことによる開放感を感じ
両手を頭より高く上げ背伸びをする
「早くお風呂に入りたいじゃんよ
そして風呂上がりにビールで……クウゥゥ~!!!!!」
自分がビールを飲んでいる所を想像して
快感に、開放感に浸っている黄泉川
今日も平和に終わったと職場に戻ろうとしたとき
遠くから何か音が聞こえてきた
初めはどこかの工事からの音だと思ったのだが
どういうわけだか、その音が近づいている
金属同士がぶつかり響く音
何かが崩れ倒れるような音
衝撃波が届きそうな爆発音
普通ならいったい何が起きているのかと思うだろう
しかしここは学園都市では、
警備員である黄泉川はこの「音」を知っている
「……全く、残業代ちゃんと払ってもらうじゃんよ」
そう呟いた黄泉川は無線機を使い
近くにいる警備員の仲間に要請を求めた
警備員とはいっても能力者に
真っ向から挑んでも勝つことは難しい
しかし警備員として、大人として、
子供にキチンと躾をしないといけない
とはいえ子供でも能力者であり
こちらは装備品として必要最小限の物
ゴム弾や信号弾しかないのだが、
「そう、そっちから回り込んで…
…何言ってる!!あくまでも発砲は最終手段じゃんよ!!」
黄泉川は会話による解決を目指している
どんな理由があろうがそこにいるのは
傷つけること前提で動くことなんてありえない
「さて、どこの悪ガキが暴れてるのか…」
どんどん近づいてくる音
すでに近くにいた警備員は配置につき
どんな状況でも対応できるようにしてある
さらに近づく音に黄泉川は銃を握る
もちろん、万が一なのだが何かが起きるか分からない
そう、いまその「何かが」その目にとらえた
ビルからビルを見えないロープで
ターザンのように空中飛んで渡ったり
ビルの側面を「走って」いる少女と
その少女の後ろを追いかけているのは
背中に竜巻のようなもので「飛んでいる」少年
少女は周りから金属類を集めてそれを飛ばしたり
黒い粉状なものを刃のようにしてぶつけたり
身体中から発せられる電撃を少年に放っている
少年は受ける攻撃を
特に防御をするような姿勢を見せずにいるが
その身に受けたものをまるで受け流したり
さらにその攻撃を少女に返したりしている
そんな攻防はあっという間に
黄泉川のいるところを通過して
まるで竜巻が過ぎ去ったような爪痕を残した
「……一体なんだったんじゃん…」
呆然とするしかなかった
いままで能力者同士の喧嘩を見てきたが
こんな「災害」のような喧嘩は初めてみた
「な、何なのよアイツは!!!
あんな反則な能力があっていいわけ!!?」
いま御坂はビルの側面を地面に向かって走っている
後ろからは空を飛んでいる一方通行が
攻撃もせずにただ追いかけている
食蜂がいった通り目的は捕まえることだけのようで
こちらから攻撃したものを防いだり跳ね返すぐらい
初めいきなり攻撃してきたことを除けば
一度も自分から攻撃はしてきていない
しかし攻撃はしないとしても
御坂の進路方向を塞ごうとして
車を爆発させたり廃墟ビルを倒壊させた
やっていることがめちゃくちゃな上
これで捕まるなら一体何をされるやら…
想像しただけでも悪寒が走った御坂は
食蜂がいっていた通り寮まで全速で逃げている
いまこうしてビルを走って落ちているのも
地面ギリギリで磁力の力で浮遊したあと
細く入り組んだ裏路地を走るため
そこを抜けたら人混みの多い大通りに出る
さすがの第一位の一方通行とはいえ
関係ない一般人を巻き込んでまで追いかけないだろう
そしてこの大通りの大半は常磐中学生が歩いている
そう、そこに逃げ込めば同じ制服を着ているため
逃げ切るだろうという算段なのだ
すでにここは学舎の園の近く
例え引き離せなくても
あそこまで逃げ切れば……
目の前に近づく地面に緊張が走る
地面に激突する恐怖はあるが
なにか大切なことを見落としているような…
しかしここまで来たら止められない
ここで止まったら一方通行に捕まる
意を決し地面ギリギリで空中に浮遊し
その磁力で加速をつけ、裏路地を走る
後ろでは何か物凄い音が聞こえてきた
地面に激突した音なのか、それとも…
考えてる暇はない、もう少しで裏路地を抜ける
「…ハァ、もう鬼ごっこは終わりだァ…」
何か聞こえたような気がした
その瞬間に両側にビルに亀裂が入る
「ちょっと待って…まさか……」
まさかこんな人混みが近くにある所で
大胆なことをするとは思っていなかった
しかしよくよく考えたらこの一方通行は
そんな常識、通じるはずもない
やることがめちゃくちゃな奴が
見られて騒がれるぐらい気にもしないということを
「ふざけるんじゃないわよ!!!!」
亀裂から一気に壁が崩壊していく
崩れ落ちる破片などは簡単に御坂を生き埋めにする
鉄筋コンクリートを磁力で浮かせることが出来るが
全て鉄筋が入っているわけではない
電撃を発して破壊すればいいだろうが
恐らくそれさえも間に合わないだろう
だとするなら、もうこれしかない
瓦礫と距離を取るため素早く仰向けになった御坂は
ポケットからコインを取りだし
中指・薬指と親指を折り曲げ、その上にコインを乗せ
「これで…どうよぉぉ!!!!!」
コインを弾き
電撃を纏い放たれたコインは音速を超え
一瞬のうちに瓦礫は吹き飛び消え去った
危機を脱した御坂は
はぁはぁと息を切らし呼吸を整える
しかしそれが策だった。
頭上から鉄筋が降り注ぎ
両手・両足・胴体・首にまるで拘束器具のように
地面に突き刺さり各部分を押さえつけた
だが鉄筋なら簡単に抜けると踏んでいた御坂は
すぐに磁力で拘束を解こうとするが
頭元に足音が聞こえてきた
「動かない方がいいぞ、テメェより早くヤれるからな」
「…私を超電磁砲と分かっていってるの??」
「テメェも俺が第一位だと分かってるのか??」
お互い睨み合う
こんな状況でさえも、いやだからこそ、
隙を見せるわけにはいかない
なにも会話せず睨み合う中、沈黙を破ったのは
「私を捕まえてどうするつもりよ??
いっておくけどアンタに恨まれることを」
「オイ、俺の話を聞けば開放してやる
だから黙ッて聞きやがれ」
「一体何を」
「筋ジストロフィー」
それを聞いた御坂は一気に血の気が引いた
どうしてその単語をここで出してきたのか??
偶然??いや、そんな偶然があるはずがない
だったらどうしてこいつが…
「DNAマップ」
「ど…どうして…知ってるのよアンタ!!!!」
「覚えていたかァ、なら話が早いな
俺としては強引でも連れていこうと思ったが
後でアイツがウルセェだろうし
アイツらも文句ばっかりいうだろうからな
テメェに選択をくれてやる
なにも知りたくないならこのとこは忘れろ
知りたいならさっきの単語を調べ直せ
ただしその先はテメェにとって………
…………チッ、邪魔したな……」
最後に何を言おうとしたのか分からないが
イライラした表情をしながら
裏路地の暗闇へ消えてゆく一方通行
「な、何なのよ…本当に……」
残された御坂は鉄筋を取り外し
去っていた一方通行の方を見つめていた
一体自分の周りで何が起きているのか…
その疑問は意外と早く、望まない形で
真実は心に強く突き刺さることになる