遊戯王IS〈インフィニット・ストラトス〉   作:LAST ALLIANCE

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昨日『ドラグニティ・ドライブ』のリメイクストラクが発売されましたが、私は仕事があったので今日買います(汗)

今回から第3章、学年別クラス対抗デュエルトーナメント編に突入します。
長くなりますが、各クラスのデュエルを丁寧に記していく予定です。

UA10,000突破ありがとうございます! アンケートの受付は締め切ります。
他にも色々と記したい話があるので、随時外伝として投稿していこうと思います。


第3章 RAGING BATTLE(学年別クラス対抗デュエルトーナメント編)
TURN16 トーナメント開始!


(いよいよだ……いよいよ天下に黒田純一の名前を轟かす時が来た。そして歴史にその名を刻む)

 

 IS学園にて初めて行われる『遊戯王OCG』の大会、学年別クラス対抗デュエルトーナメント。大会が開催される当日。その一大イベントを前に、純一は心から楽しみと言わんばかりに笑みを浮かべている。

 デュエルディスクを付けたISを身に纏い、自分自身で構築したデッキと共に戦う新しいISの競技。『デュエル・ストラトス』。その初めてのお披露目が今回の大会となっている。

 今回の大会では1クラスが1つのデッキとなって戦うと言うコンセプトの下、1つのデッキに同名カードは3枚まで投入出来ないと言う縛りがある。その為、同じテーマデッキを使い回す事は不可能となっている。

 大事なのは誰がどのテーマデッキを使うか、順番をどのように振るのか。『遊戯王』の実力だけでなく、クラスの団結力も問われる大会となっている。

 

(この大会はただの大会ではない。これから先、僕が自分の実力で成り上がれるかどうかの大一番となる……全てはこの大会にかかっている。絶対に優勝を掴み取って見せる!)

 

 この日の朝も純一は10km走り、ジムで筋トレ等のトレーニングに励んだ。日々の日課だ。常に自分を磨き上げて鍛え続ける。最高の努力家と言われる由縁だ。

 トレーニングが終わった後、シャワー室で汗を流して着替える。黒い短髪に黒縁眼鏡が特徴な温和な少年。しかし、その目には闘志と野心で漲っている。

 

「やぁやぁジュン君久し振り~!」

 

「お久し振りです束さん」

 

「うん! ジュン君、私が勧めた【Kozmo】デッキはどう?」

 

「凄く使いやすいです。僕が大会に出ていた“魔の9期”に出てたカードのデッキと言う事もありますが……このまま使い込めばより強力になるでしょう」

 

「うんうん♪ 良かった良かった! レイ君とのデュエルをデュエルディスク越しに観てたけど、けっこう使い込んでいるみたいで安心したよ!」

 

 自室に戻った純一の前に現れたのは束。彼女は自分が薦めた【Kozmo】デッキの事を純一に尋ねると、純一は正直に感想を述べた。

 元々純一は9期の初期~10期の中盤にかけて大会に出たり、デッキを作ったりした経験者。【Kozmo】とは大会やフリー対戦で何度も対決した為、動かし方や対策もある程度頭の中に入っている。

 

「それで今日は一体どんな用事で?」

 

「え~とね。依頼していた専用機の調整が終わったから渡しに来たよ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 束が純一に渡したのは腕時計のようなアイテム。純一の専用機の『亜白龍』。IS学園でのデュエルを通じて、改善出来る所がある事に気付いた束によってアップデートされた。

 先ずはデュエルディスク単体としての運用を可能とした事。今まではガ〇ダムみたいな外見となって完全展開しないと、デュエルディスクとしての機能を使う事が出来なかった。それをデュエルディスクだけ部分展開する事で使用出来るようになった。

 

―――僕はデュエルディスクのモニターに選ばれました。それは僕自身に実績があるからだと考えています。なので一人の『遊戯王』プレーヤーとしてISではない、純粋なデュエルディスクで挑みたいです。

 

 この大会に挑む上で、純一は大勢の人々が自分達のデュエルを観戦しに来る事を知っていた。やはり『遊戯王OCG』プレーヤーとして、ISを纏った上にデュエルディスクを装着してデュエルを行うのは心理的抵抗があったのだろう。

 理事長とIS委員会の役員に頼み、純一だけデュエルディスクを部分展開してデュエルに挑む事を許可された。これも彼が影響力があり、それだけこの大会をIS委員会が成功させたい証拠なのだろう。

 次に改善した所は操作面。今までだったらカードの発動もボタンを使わないといけなかったり、操作する時にやや不便な所があった。合同授業の時もそのような意見が多発し、純一も意見書を提出していた為、開発に携わった束が関わる事となった。

 しかし、『遊戯王OCG』のゲームを参考資料として使う事で、デュエルディスクでまるでゲームをプレイしているかのような臨場感を感じつつ、初心者でも簡単かつ楽しくデュエルが出来るようになった。

 

「カードの登録やデッキ構築やカード検索、効果処理のQ&A等々、幅広い機能を付けました!」

 

「だいぶ使いやすくなりますね。この後大会が始まります。使うのが今から楽しみです」

 

「私も観戦していくからね! 大会頑張るんだよ~!」

 

「はい!」

 

 束はまるで瞬間移動したかのように姿を消した。相変わらずだなと思って苦笑いを浮かべながら、純一は空腹感を覚えて食堂へと向かっていった。

 食堂に入った純一は焼き魚定食を頼み、ご飯を大盛、味噌汁を豚汁にしてもらってトレイを受け取ると、テーブルに座って一人静かに食事を始めた。

 

「純一君、おはようございます!」

 

「おはようです、純一君!」

 

「純一君、おはよう」

 

「あぁ、おはよう皆」

 

 そこにやって来たのは5組の仲間達。ナタリア、比奈、神楽の3人。彼女達も朝食が盛られたトレイを持っており、純一の近くに座った。

 『遊戯王OCG』の授業を通じて、彼女達とは打ち解け合い、すっかり5組の知恵袋となった純一。彼は微笑みながら挨拶を返す。

 

「いよいよですね~大会! 確か今日の第1試合でしたよね?」

 

「あぁ。1年生の部のトップバッターは5組と6組の対戦だ。チケットは完売して大勢のお客さんが来るだろう。その人達の前でデュエルするんだ。かなりハードになるだろうね」

 

「正直今から緊張しています……何しろIS学園に来て、大勢の人の前で試合するのが初めてなんです」

 

「? 初めて?」

 

「はい……これまで色々な学園行事があって私も力を発揮出来るチャンスがあったのですが、行事が悉く中止になって中々活躍の場がなくて……」

 

「そうか……そう言えばそうだったな……」

 

 今年に入り、学園行事の殆どが“一夏と彼に関わる人々”が原因で起きるトラブルが原因で中止となっている。

 クラス対抗戦は一夏と鈴の試合中にゴーレムIが乱入した事で中止となり、ツーマンセルトーナメントでは第1試合の最中にラウラのISが暴走した事で中止となった。

 臨海学校では2日目に装備試験を行う予定が銀の福音暴走事件が起こって中断となり、キャノンボール・ファストはアクシデントによって中止となり、専用機限定タッグマッチはゴーレムIIIの乱入で中止となった。

 ここまで悉く行事が中止に追い込まれた学園は未だかつてあっただろうか。果たしてIS学園は学園として機能していると言えるのだろうか。純一が一抹の不安を抱くのも無理もないだろう。

 

「はい……大勢の観客の前で試合するのが初めてなので、不安と緊張しかなくて……」

 

「心配しないで。僕もだ。エキシビジョンの時は勝敗関係なく自由にやれてたけど、今回はチームと自分の名誉の為に勝たなければならない。皆よりプレッシャーが大きいよ」

 

「初めて出た大会もそんな感じだったんですか?」

 

「あの時はちょっと違ったな……ドキドキワクワクだったかな? 初めての大会だ~わ~楽しみだな~みたいな感じだったな確か」

 

「そうだったんですね……思えば今年に入って学園行事の殆どが中止になっているんですよ。なので先輩の方々は必死なんです。何しろ就職先や所属先がかかっている大一番なので……いえ、織斑君は別に悪くないんです。でも……学園行事って純一君や織斑君が思っている以上に、私達代表候補生やIS関連企業に就職したい学生には大事なんです。これは私が話すより、進路指導の先生に聞いた方が詳しく分かります」

 

 一夏は整った容姿に加え、無自覚に女性をときめかせる言動をする事から、学園の内外を問わず、数多くの女子に好意を寄せられている。

 純一もそう考えていたが、全員が全員好意を寄せるとは限らない。IS学園の中には一夏に反感を持つ者がいたり、嫌っている者もいたりする。

 一夏本人は気にしていないだろうが、純一はそうではない。一夏が原因で起きたトラブルがどのような事に繋がっているのかが気になって仕方が無かった。

 

「……すみません。大事な大会前なのにちょっと暗い話をして」

 

「大丈夫だよ。ただ嫌な予感がするんだ。この大会が、いや……この学園行事もまた中止になるんじゃないかって」

 

「どうしてそう思うんですか?」

 

「僕の予感は悪い時に限って当たる。そういう物だからさ」

 

「その予感が外れる事を願います」

 

 この時純一は予測していなかった。まさか自分の予感が的中してしまう事になるとは。どうして悪い時に限って自分の直感は冴え渡ってしまうのか。後で頭に抱える事になるとはこの時思ってもみなかった。

 後にIS学園に更なるイメージダウンを招き、純一の顔に泥を塗る事になる学年別クラス対抗デュエルトーナメント。その始まりは何気ない普通の物だった。

 

ーーーーー

 

 学年別クラス対抗デュエルトーナメントがこの日から開催されると言う事もあり、改めてその説明を兼ねて全校集会が体育館で行われた。

 全校生徒は学年別クラス対抗デュエルトーナメントのルールが記された紙を渡され、それを観ながら説明を聞き、改めてこの大会への闘志を燃やす。

 

 

 

①大会の日程について

 

・本大会は1回戦1日、準決勝1日、決勝1日の合計3日間行われる。

・デュエルの形式はシングル。新マスタールールを適用。トーナメント方式で行われる。

 

②大会のルールについて

 

・大会で使用できるカードは平均価格が1000円以下の物とする。

・1クラスで1チームとみなす為、同名カードは1クラスにつき3枚までとする(制限・準制限カードも同様の物とする)

・3本勝負で先に2本取ったクラスの勝利とする。

・先攻・後攻は1試合目ではデュエルディスクに搭載しているじゃんけん対戦機能で行うが、2試合目以降は前の試合で負けた側のクラスが先攻・後攻を決める。

・対戦クラスはあらかじめ誰が何番目に出るかを申請する事。変更は受け付けられない。

・優勝クラスには『カードターミナル』から物凄く素敵なプレゼントを頂ける。

 

③注意事項

・カードの効果処理等分からない事があれば、ジャッジに質問して良い。

・以下のような行為は不正行為である。もし以下に該当するような行為を行った場合、デュエルディスクが反応するようになっている。不正行為を行った選手は強制失格となると共に強制敗北となる。不正行為の内容次第では大会の中止も考え得る為、絶対にやらないように。

 

・デッキの一番上のカードを操作する事。

……デュエルが始まる時やサーチ効果を持つカードを使った時や、デッキの中を見た時は必ずシャッフルをしないといけない。この時に意図的に自分の手札に来て欲しいカードをデッキトップに移動させる行為。

・デッキ以外の場所、鞄やプレイマット等からカードを手札に加える事

……相手プレイヤーがサーチ効果を持つカードを使った時等、自分から目を離した隙にあらかじめ用意しておいたカードを手札に加える行為。

・カードの効果を使わずに墓地やデッキからカードを手札に加える事

……墓地のカードやデッキの中を確認する時、相手に分からないように欲しいカードを手札に加える行為。墓地のカードはお互いに情報を公開しているが、枚数が増えてくると自分だけでなく、相手のカードも全て覚えるのは大変となる。

・カードの効果やルール上出来ないことをする事

……わざとなのか、それとも本当に分からないのかは状況とプレーヤーに左右される為、1回目は通告処分、2回目は警告処分と見なす。3回目は失格処分と見なす為、カードの効果は一通り頭に入れる事。

 

 

 

(不正行為をここまで詳しく記し、処分も決めているとはな……流石に『カードターミナル』側も考えているな。女性権利団体の介入を防ぐ為もあるだろうけど……確かに大会での不正行為問題は根深い。世界大会優勝者もやらかした事もあった。こればかりは人としてのモラルの問題になるからな……)

 

 スポーツやゲームの世界では不正行為は絶対にしてはいけない事として挙げられる。何故なら不正行為はルールを意図的に破り、その上で行われている行為なのだから。

 『遊戯王OCG』における不正行為が発生する理由は、相手プレイヤーにバレないようにルールを破る事で、自分の有利な状況に運ばせる事でデュエルに勝利する事を目指す為。要は目先の勝利の為と言う事となる。

 不正行為が判明した場合、審判によって勝敗が決定するのだが、小さな大会ではジャッジの判断基準に任される事が多い。つまり、明確な判断基準と言う物が存在しにくいと言う事になる。ここでは『カードターミナル』のスタッフが審判についているが、このような場合はあまり見受けられない。

 一部の不正行為は“間違えただけ”と言われればジャッジキルにならない事が多く、相手が誰がどう見ても故意的に行っていたとしても、そのままデュエルが続行されてしまう事が多い。このジャッジの判断にもグレーゾーンと言える事項が多い為、相手が不正をしていたにも関わらず、そのまま押し通されてしまうというケースも中にはある。

 

(にしてもデュエルディスクに不正防止機能が付いていて良かった……過去の大会で起きた不正行為を全て調べ上げ、その傾向と対策をまとめた上でデュエルディスクに反映させたって、相当な努力があったに違いない。本当に頭が下がる思いだよ。だからこの大会で優勝してみせる! デュエルディスクのモニターとして……一人の『遊戯王』プレーヤーとして!)

 

 デュエルディスクには不正防止機能が数多く搭載している。デッキの一番上のカードを操作する不正行為の対策として、自分がサーチ効果でカードに触れないようにする方法を考える事が一番である。その発想を得たのは『遊戯王OCG』のゲームである。

 まるでゲームをプレイしているみたいにサーチしたいカードを画面から選ぶと、デュエルディスクがそのカードを自動的にデッキトップに持ってきてくれる。プレーヤーが選んだカードを手札に加えた後、オートシャッフルしてくれる親切機能も付いている。

 他にもデッキレシピを登録した上でデッキの差込口にデッキを入れると、もし万が一デッキの中身が異なっていたり、違う場所からカードを手札に加えたりしても、エラー表示が出て不正行為を行った事が一発で分かるようになっている。

 他にもカードの効果を使用せず、墓地やデッキからカードを加えようとするとエラー表示が出たり、フィールドのカードの影響上、またはルール上出来ないことをしようとしても、デュエルディスクの仕様で出来ない等、不正防止には細心の注意を払っている。

 

(まぁ不正行為の一番の対策はそもそも自分がやらない事と、相手の行動をよく見る事に限る訳だけど……景品の物凄く素敵なプレゼントとは一体……?)

 

 純一が気になるのは優勝クラスへの景品。『カードターミナル』が用意した物凄く素敵なプレゼント。1クラス30人近くいる為、あまり豪華な賞品は期待出来ない。最新パック1ボックスやプレイマットが妥当なラインだろう。

 11期に入ってからアニメ放映が『ラッシュデュエル』に移行した為、既存テーマのリメイクや強化が顕著となった。その中で《禁じられた一滴》や《三戦の才》等の相変わらずのパワーカードも出ているが。

 

ーーーーー

 

 全校集会が終わった後、各教室では朝礼が行われている。5組の教室は何処かそわそわしたような感じとなっている。

 担任のナターシャは何処かわくわくしていた。何しろ彼女が担任となって初めて行われる学園行事なのだから。

 

「皆、いよいよ今日から学年別クラス対抗デュエルトーナメントが始まるわ。純一君がこのクラスに来て1ヶ月、私も含めて色んな事を彼から学んで教わった。この大会はその成果を発揮する時。純一君がてっぺんを取らせると言うなら、私達皆で彼をてっぺんに押し上げましょう!」

 

『はい!』

 

「純一君からも一言お願い」

 

「分かりました。皆さん、僕がこのクラスに来て1ヶ月が経ちました。『遊戯王』の授業やISとデュエルディスクを用いた実習を通じて、僕は可能な限り皆さんに自分の経験や知識を伝えてきました。正直に言います。今の1年5組に勝てるクラスはいません。それは僕がいるからではありません。皆さんが一生懸命努力している成果だと確信しています。今日から始まる大会で、その確信を自信に変えていきましょう!」

 

『はい!』

 

「あ、それでね純一君……実はIS委員会の人からの頼みで、第1試合に1番手として出て欲しいって」

 

「えっ!? 僕1回戦は出るつもり無かったんですけど!?」

 

 数時間後に始まる大会。数時間後に始まる試合に向けて気持ちを高め合っている時、突然IS委員会からの頼みで試合に出る事になった純一。彼は驚きながらも戸惑っている。

 実は1年6組と対戦する1回戦はナタリア・比奈・神楽の3人で出る事に決めていたのだが、ここに来てまさかの順番決め直しとなった。

 

「この大会は『デュエル・ストラトス』のお披露目もそうだけど、ISとIS学園のイメージアップも兼ねているの。それで広告塔である純一君に1年生の部最初の試合に出て貰おうって言うつもりみたいで……」

 

「分かりました。要は広告塔らしい仕事をしろって事ですね? ったく自分達でイメージダウンさせておきながら困った時に人に頼みやがって……」

 

「まぁまぁそう言わずに……6組の人には話を通してあるから……」

 

「そういう問題じゃなくて……ハァ、了解です。頼まれたからにはきちんと仕事を受けます。でも次はもっと早めに連絡するように伝えて下さいね?」

 

「ごめんね……後でIS委員会の人には私からきつく言っておくから」

 

 IS委員会としては、この学年別クラス対抗デュエルトーナメントは必ず成功させたい所だった。何故ならイメージダウンしたISとIS学園のイメージアップを狙っていて、その為に影響力のある純一を最大限に利用しようと考えている。

 その手始めに1年生の部の最初の対戦となる5組と6組の試合で、純一を5組の1番手として出場させ、『デュエル・ストラトス』のアピールに繋げようと言う魂胆だった。

 

「ではこの後1時間目の授業は出場メンバーはデッキの調整を、残りの皆はレポートの準備に取り掛かって下さい」

 

 さて同じ頃。談話室に各学年の専用機持ちが集合していた。集めたのは織斑千冬。彼女の表情は真剣その物だった。まるで何かに追われているように。何かを突き付けられているかのように思える。

 集まったのは1年生で7人、2年生で2人、3年生で1人。純一以外の全ての専用機持ちがその場に集まっている。

 

「今日から学年別クラス対抗デュエルトーナメントが始まるが、皆には行動や振る舞いには気を付けろと言いたい。文化祭でIS部隊による襲撃事件が起きた事で、IS学園のイメージダウンに繋がってしまった。今回の大会はIS学園のイメージアップも狙っている。なので今までの学園行事同様、IS関連の企業や各国要人だけでなく、一般人も客として来る。お前達、専用機持ちの振る舞い一つだけで彼らの印象は変わる。細心の注意を払うように」

 

「千冬姉……じゃなかった、すみません。織斑先生。それだけを伝えに俺達を集めたのですか?」

 

「いや、ここからが本題だ。実はIS委員会の提案で試験的ではあるが、専用機持ちに“特殊スキル”の使用を許可された。“特殊スキル”は1回のデュエルにつき3回まで使用可能だ。魔法カード扱いとなり、 単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が発動出来る機体の搭乗者は、 単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)に即したカード効果となる。例えば、一夏の場合は……」

 

『ッ!?』

 

 ウィンドウに映し出された一夏の“特殊スキル”。魔法カード扱いの 単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)は、誰もが驚くほどに強い内容だった。

 

 

《零落白夜》

通常魔法

《零落白夜》は1ターンに1枚しか発動できない。

(1):このカードの発動は無効化されない。

(2):このカードの発動成功時には、このカード以外の魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。

(3):相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの攻撃力をターン終了時まで0にする。

 

 

「こ、これ……普通に強くないか!? ターン1制限付いているが発動を邪魔されず、耐性持ちのモンスターの攻撃力も0に出来るんだぞ!?」

 

「確かに強い為、“特殊スキル”の発動条件はライフポイントが4000以下になった時となった。それを差し引いても強いが……この提案は『カードターミナル』側も了承して頂いた。だから気にする必要はない」

 

(この1ヶ月間、俺は皆と一緒に『遊戯王』の勉強をしたり、デュエルする中で自分の弱さに向き合いながら、強くなろうと足掻き続けた。俺の一歩先を行く純一を超えられるように。今の俺じゃどう足掻いても純一には勝てない。でも俺の専用機、『白式』と力を合わせれば俺だって……)

 

 IS委員会の思惑として、今回の大会はデュエルディスクを装着したISでデュエルするだけではなく、操縦者等のISに関わる人材を育成しているIS学園ならではの工夫を凝らす事となった。

 一夏が自身の特殊スキル、《零落白夜》の効果テキストを読みながら純一とのデュエルの思いを馳せているその横で、純一とは長年付き合いがあり、彼の性格を知っている鈴は千冬に不安交じりの質問をぶつけた。

 

「織斑先生。純一と『カードターミナル』はこの“特殊スキル”の存在を知っているのですか? 仮に知っていたとして、使用は許可しているのですか?」

 

「あぁ。IS委員会の方から純一と『カードターミナル』に話をして、許可を頂いたそうだ。純一は許可したそうだが、“『遊戯王』の世界にISの事を持ち込む事は出来ない”と言って、本人の使用は断ったらしい」

 

「そうですか……」

 

 千冬が純一から許可を貰っていると言った為、鈴は引き下がるしか無かった。彼女は純一の性格から考えて、この特殊スキルの導入に強く反発する事を予想していた。

 この時専用機持ちの誰かが純一に確認すれば良かった。結果論でしかないが、大会で起きるとある出来事の発生を抑える事が出来たのだから。

 1時間目の授業。各クラスの試合出場メンバーはデッキ構築を行い、それ以外の生徒は観戦レポートの下準備に入っている。この観戦レポートは観戦したデュエルの感想や印象に残ったカード等を各自自由に記載する事となっている。

 

「やっぱり《幽鬼うさぎ》は使用不可能か……1000円オーバーだからな」

 

「となると手札誘発は《エフェクト・ヴェーラー》だけが使えますね……」

 

「いやもう1枚使えるよ? それがこれ、《古聖戴サウラヴィス》」

 

 

《古聖戴サウラヴィス》

儀式・効果モンスター

レベル7/光属性/ドラゴン族

ATK/2600 DEF/2800

《精霊の祝福》により降臨。

(1):自分フィールドのモンスターを対象とする魔法・罠・モンスターの効果を相手が発動した時、このカードを手札から捨てて発動できる。その発動を無効にする。

(2):相手がモンスターを特殊召喚する際に、フィールドのこのカードを持ち主の手札に戻して発動できる。その特殊召喚を無効にし、そのモンスターを除外する。

 

 

「儀式モンスターなのに手札誘発効果を持っているんですね……」

 

「あぁ。《ヴェーラー》はナタリアさんが使って良いけど、その代わりにこの《サウラヴィス》は僕が使う」

 

「どんな効果なんですか?」

 

「対象に取るカードの効果を無効に出来る。カウンター罠には打てないけど、《ヴェーラー》と違って発動出来る場面も多いし、対象も広くなったから一長一短だね」

 

「分かりました。《ヴェーラー》は私が使って、《サウラヴィス》は純一君が使うと言う事で」

 

 ナタリアと相談し合う純一。彼らの議題は“手札誘発効果を持つモンスターをどうするか”と言う事だった。純一から見れば、手札誘発効果を持つモンスターの投入は当たり前となっている。これも大会出場経験者だからか。

 話し合いの結果、《エフェクト・ヴェーラー》をナタリアが、《古聖戴サウラヴィス》を純一が使う事となった。

 

ーーーーー

 

 1時間目の授業と言う名前のデッキ調整が終わった後、純一達試合出場メンバーは第2アリーナのピットに移動していた。1年生の部は第2アリーナで試合を行われる。

 ピット内に備え付けられているモニター。そこには満杯となったアリーナの観客席が写し出されている。生徒の保護者や企業の営業担当、各国の首脳等の来賓客が大半だが、中には、『私立鳳凰学院』の面々もいる。

 

「凄い数の観客ですね……」

 

「それだけこのイベントが注目されているって証拠だ」

 

「黒田純一さん。まもなく入場時間となります。移動をお願いします」

 

「分かりました。では行ってきます」

 

 モニターを観ているナタリアは息を呑む一方、純一はデュエルディスクを展開して操作の再確認をしていた。

 一通りの操作が終わった時、この大会の為に雇われたスタッフが彼らの所にやって来て、純一に移動を促してきた。

 

「行ってらっしゃい!」

 

「勝利を信じているです!」

 

「落ち着いてプレーするのよ? 焦らないで!」

 

「相手は初心者でも油断しちゃ駄目よ!」

 

「悔いのないように!」

 

「はい! 勝利をこの手に!」

 

 ナタリア・比奈・神楽・ナターシャ・俊介の激励の言葉を受け、純一はスタッフの案内を受けながら第2アリーナへと向かっていった。

 純一の服装は下はIS学園の制服だが、上は『デュエル・ストラトス』の公式Tシャツを着て、その上に黒くて薄いジャケットを着ている。完全にラフな服装だ。

 

ーーーーー

 

 学年別クラス対抗デュエルトーナメント初日。超満員の観客で賑わう中、1年生の部の第1試合が始まる時間となった。1年5組と1年6組の対戦。

 公認大会優勝経験者であり、デュエルディスクのモニターの黒田純一擁する1年5組と、先日までエヴァ・ヨハンソンの悪行で苦しんでいたものの、今ではすっかり雰囲気が良くなった1年6組。下馬評では1年5組が圧倒的に有利だ。

 

「時間になりましたのでこれより1年5組と6組の試合を始めます。審判は私、小林健次郎が務めさせて頂きます。皆さんどうぞよろしくお願いします」

 

『ワアアアァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!』

 

 1年5組と6組の試合のジャッジを務めるのは小林健次郎。『カードターミナル』が派遣したスタッフで1年2組等の講師を務めている。

 『カードターミナル』入社以前は『遊戯王OCG』の強豪プレーヤーであり、全国大会でベスト4に入った程の実力者だった。その経歴を認められて入社した。

 『カードターミナル』入社後は動画出演を行い、ガチデッキからファンデッキまで色々なカードを使ったり、ルール解説を行う等、常にプレーヤーや視聴者に寄り添ったデュエルを心掛けているとの事。

 

「これより選手の入場を行います。先ずは1年5組の1番手! この『デュエル・ストラトス』の大目玉! “世界で2番目の男性IS操縦者”であり、『遊戯王』の公認大会優勝経験者! 黒田純一選手の入場です!」

 

『ウオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 最初に入場してきたのは黒田純一。左腕にデュエルディスクを付け、観客達の声援に応えていく。入場時には一礼してから入る等、礼儀正しさも好印象を与えた。

 本来なら準決勝からの登場を予定していたが、この大会の直前で起きた事件によるイメージダウンの影響を抑える為、IS委員会の依頼で急遽試合に出る事となった。

 最初は事前連絡が無かった事で不満を抱いていたが、観客の声援を受けたらその不満も和らいでいった。後は試合に勝てるかどうかの問題だ。

 

「続いては1年6組の1番手! クラスのまとめ役でしっかり者! 目指すは大金星! 徳川蘭選手の入場です!」

 

『ウオオオォォォォォォーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 続けて入場してきたのは徳川蘭。黒髪のショートヘアが特徴な少女で、訓練機の『打鉄』を身に纏い、左手にデュエルディスクを付けての登場となった。

 その表情は緊張している事もあってぎこちない。無理も無いだろう。1年生の部の第1試合でトップバッター。対戦相手は大会優勝経験者。しかも大勢の観客の前でデュエルするのが初めて。これで緊張しない方が逆に凄いと言える。

 

「あ、あれ? 対戦相手純一君になったんだ……やっぱり話は本当だったんだ……」

 

「そうなんだよ……IS委員会がさ、ISとIS学園のイメージアップを兼ねて開催したこの大会で、広告塔の僕を使って大儲けしようとしているらしくて……」

 

「……確か文化祭で起きた事件でIS学園はイメージガタ落ちしているってネットの提示版に書いてあって……」

 

「その通り。だからIS委員会は必死なんだ。そのガタ落ちしたイメージを上げようとこの大会を開催し、一儲けしようと。まぁ僕らには関係のない話かもしれないけどね……」

 

「うぅん。私達一般生徒は代表候補生だったり、純一君のような人と関わる事があまり無いから、こういう話を聞けるのって新鮮に感じるんだ」

 

 蘭は6組の3番手の亜依と共にクラスをまとめ上げており、バトミントン部に所属している。勉強に部活に一生懸命な生徒で、本人の可愛さもあって教師からの信頼も厚い。

 『遊戯王OCG』ではこの大会に出場が決定してから講師の長尾大樹の個人指導を受けたり、純一からデッキ構築を教わったりと一生懸命に楽しんでいる。

 

「お~い、お二人さん。そろそろ始めようか?」

 

「あぁ、すみません。蘭さんが緊張していたので、緊張を解していました。ほら、大勢の人達の前でデュエルするんです。しかも学園行事が色々な事情で今年は悉く中止になっていますし、中々人前に出る機会に恵まれなくて……」

 

「あ、そうなんだね。それは失礼。経験者として良い心掛けだよ。でも時間も押しているし、蘭さんの表情も良い感じになってきたから始めよう」

 

「はい! ではよろしくお願いします!」

 

「こちらこそ! お手柔らかにお願いします!」

 

 お互いにデュエルディスクを展開する純一と蘭。最初に行うのは先攻・後攻を決めるじゃんけん。デュエルディスクに搭載されているじゃんけん機能を使った結果、純一が“グー”を出し、蘭が“チョキ”を出した。

 じゃんけんに勝利したのは純一。彼は迷う事なく先攻を選んで蘭が後攻となった。お互いにデュエルディスクのデッキ挿入口にメインデッキ・EXデッキを入れると、オートシャッフルされていく。

 オートシャッフルが完了すると、お互いにデッキトップから5枚のカードを引いた。己の手札を持った事を確認すると、健次郎がデュエル開始の宣言を行う。

 

「デュエル開始の宣言をするよ? せ~の!」

 

『デュエル!』

 

 打ち合わせもせず、選手と審判と観客が一つになってデュエル開始の宣言を行った。これには純一と蘭はお互いに苦笑いを浮かべるしか無かった。

 ついに始まった学年別クラス対抗デュエルトーナメント。1年生の部の開幕は純一と蘭の試合だった。観客の誰もがこれから始まるデュエルに期待を含まらせながら、アリーナの中央で対峙する2人のデュエリストに視線を送る。

 




ここまで呼んで下さり、大変ありがとうございます。
今回も後書きとして裏話・裏設定を書いていこうと思います。

・学園行事が中止になっている件について

 冷静に考えればこれってかなりの異常事態ですよね。昨今は某新型ウィルスの影響で中止せざるを得ませんが……行事が中止になった余波による影響はいずれ記します。

・まさかの出場

 純一君が1回戦から出る事になったのは、初戦の1番手は彼が相応しい事とISとIS学園のイメージアップを狙ったからです。

・“特殊スキル”

 けっこう強いな~と我ながら思うカード効果にしましたが、まぁ妥当と言えば妥当でしょうか。

・手札誘発

 IS環境で軒並み禁止になっているので、相手に妨害されずに展開する事が簡単になりました。現実はそう甘くはありませんが。


次回予告

ついに始まった学年別クラス対抗デュエルトーナメント。
初戦の純一と蘭のデュエルは大勢の観客で満員御礼!
大宇宙の大いなる力、【Kozmo】を使う純一と、大空を制する神鳥、【シムルグ】を使う蘭の攻防は一進一退に。
この戦いを制するのはどっちだ!?

TURN17 超光速の奇襲!!【Kozmo】VS【シムルグ】


次回をお楽しみに! LAST ALLIANCEでした!

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